いぬの生活   作:アスラン

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少し過去話ぽいのを


九話:出会いって・・・

私があの人、柴田賢人さんに出会ったのは一年ちょっと前になるだろうか

まだRoseliaとも出会わず、一人兎に角何かに逃げるように、何かに縋る様にギターをしていた頃だ

 

日菜の天才を否定していた癖に自分も自分の縋っているもの(ギター)には妥協を許していなかった時期

 

そう、バンドを転々としていた時期だった

 

納得されての離脱もあれば

相手に不満しか残さない、自信(安い自尊心)を全て踏み躙っての決別もあった

あまりの事に辛辣を通り過ぎた侮蔑以外の言葉しか残さなかった事も・・・

 

今考えると、他人を思いやる余裕がなかったというより

私も自分の才能ゆえに他人がわからなかったのだと思う

 

だから自分の認識外の事には考えが及んでいなかった

 

「それでは失礼いたします」

「うん、頑張ってね。応援してるからね」

今日もまた一つのバンドを辞めることになった

いえ語弊がある、お試し期間だったのだから辞めたことにはならないし

向こうも私の事を知っていてのお誘いだったのだから

今考えると、いい人だった

あの頃の私みたいな人間の事を考えてくれていたのだから

 

・・・そう考えるとあの頃から人との出会いはいいものがあったのかもしれない

 

ライブハウス兼スタジオを出て家路を進んでいると

嫌な感じのする軽のワンボックスが併走していたかと思うと走り去っていった

何だったのだろう?

少し不審に思いつつも先を進むと

先ほどの軽自動車が脇に停められ

印象としては最悪な感じのする男の人達が三人たむろしていた

こちらを確認するような視線

嫌な予感がした

回れ右をして走り出した

 

「な、逃げたぞ!!」

「なんでわかったんだあの女!」

馬鹿ですか、ドラマや小説の向う見ずなヒロインや馬鹿なヤラレ役じゃあるまいし・・・

後ろを振り向いている余裕はない

大事なギターを背負って安全な場所・・・スタジオに戻るしかない

耳をすませると

「なっ!」

思わず声を出してしまった

一人だけ追って来て・・・車で追いかけてきた!?

慣れているのか冷静なのか全員で追ってこなかったなんて意外に慣れているとかとんでもない状況だ

 

スタジオまで逃げ切れる確率が一気に下がったのは確かだ

しかし諦めることなく走った・・・

 

 

-キィッ

車が追い越して止まる

ギターをケースごと鈍器にするのは躊躇われるけど仕方ない

ハードケースなら殺傷力も得られたのでしょうね・・・

 

ため息をつきつつ

なるべく底を垂直にぶつけるようにしようとギターを下ろす

「なにやる気満々なんだよこの女?」

「話に聞いたとおりクソ生意気な感じだな」

・・・話に聞いた?

なる程、だれかの差金ね

先日抜けたバンドに頭の悪いチャラチャラした男うけしか考えていないボーカルがいたのが頭をよぎった

・・・泣くくらい詰ったからその仕返しね

 

「・・・とに頭の悪い」

思わず言葉にしてしまった

自覚があるのか

「本当に生意気だな、歳上に対する態度から教えてやろうか?」

なんて言っている

そういえばあのボーカル()も似たような事を言っていた気がする

似た者同士仲がよろしいことで、私の関係ないところで仲良くしててくれればいいのに・・・

近づいてきたらどこを崩そうか・・・なるべくギターに負担をというより

 

正直、こんな人達に私の大事なギターにさえ触れさせたくもない

かといって素手でやり合うのは無理なのが分からないほど愚かではな・・・い?

 

「あのー、車邪魔なんですけどぉ?退けてもらえませんかぁ?」

場違いなのだけど、真っ当な言葉がかかる

でも・・・

「あぁっぷぎゃっ」

普通は空気を読んで立ち入らないし、立ち入るのはよほどの正義感の人か

優越感に浸りたい歪んだヒーロー願望者だとおもったら

 

面倒くさそうに威嚇しようとした車側の男が手のひらの手首の付け根の堅い部分で顎を張り手のように打ち上げられていた・・・

「・・・え?」

男の人が変な声を上げるのとその場にいた全員が状態を一瞬認識しなおすかのように固まった

「こっちだよ」

倒れた男の人の方から先ほどの場違いな声がかけられる

直感的にその声に従い走り出す

「スタジオに向かって」

黒づくめの同い年くらいの少年だった

小柄で彼が一撃で倒したとは思えなかったというのが第一印象だった

 

「ありがとうございます」

脇を通り抜けスタジオに向か・・・えるはずもなく

スマホを取り出し警察に連絡をしようとしたら・・・

道に放置された軽自動車のクラクションが鳴り出した

「え?・・・」

少年がすぐさま乗り込んでクラクションを鳴らしていた・・・

倒れた男の人以外の二人が私を追うより、それを止めようと車のドアを開けようとしているけど

「なんなの?この状態は?」

エンジンがかかったままで鍵はついていた

車に乗り込んでロック(集中ドアロック)されては外から開けることは不可能

なのに躍起にドアを開けようとしている

そして、私が呼ぶはずだった警察がもう到着していた

 

連絡済だった・・・

全て計算づくとか

状況的にはもう少し緊迫してもいいはずなのに

何とも人を小馬鹿にしたような気分になる

日菜が頭をよぎり、気分が悪くなった

 

 

 

「結局巻き込んじゃったね、ごめんね」

なんて警察署の取調室の前の廊下で謝られた

話によると本当は三人とものして逃げるつもりだったらしい

 

私が逃げていれば最小最短の時間で面倒は回避できたと

・・・遠まわしに文句を言われたわけではなかった

なぜなら

「まぁ根本から解決するなら仕方ないよね。本当はスタジオでお話しようと思っていたけど・・・」

話は大きくなったけど問題を根本から解決するのと、再発防止だと思えばいいか、と言っている

 

しかし・・・そもそも

「あの、あなたは何者ですか?」

私はこの少年を知らない

「通りすがりの偽善者です」

「ふざけないでください!」

 

「柴田さんはたまたま聞いた会話で私を助けにきたと言うんですか?」

「はい、そうです」

私の剣幕に大人しくなった少年改め、青年柴田さんが神妙に答える、廊下に設置された長椅子に正座しかねない感じだった

まだ馬鹿にされている気分がしたけど

どこの世界にそんな人の話だけで助けに来ようなんて思う人がいるのか?

 

「ならどうしてあのスタジオに?」

あのスタジオではあまり男性を見かけないから、その場に居たら目立つはず

「幼馴染に迎えを頼まれました。受付で待っていたら・・・」

あの馬鹿(ボーカル)が下品に大声で襲撃指示を出していたのを聞いたと・・・

「失礼ですけど私と面識ありましたか?」

まさか私のストーカー?

「いえ、無いです。その、信じてもらえないでしょうが、僕偽善者で・・・」

「不可解すぎます」

どこの世界に自分を偽善者と言って善行を行う偽善者がいるのか?

「ならその偽善をしてあなたは何を得るのですか?」

「自己満足というか・・・」

「信じられません」

そんな偽善者はありえない

「そう言われても・・・」

信用はできない

 

「シバケンいたいた、氷川さんも一緒だったんだ」

聞き覚えのある声、本日抜けさせてもらったバンドのリーダーさん?

「その呼び方やめてよ、柴犬(しばいぬ)に申し訳ないよ」

なによそれは?

「氷川さんの事で相談する前に片付けてくれるとは相変わらずの斜め上の空気の読めなさだよね」

幼馴染ってもしかして・・・

「あ、氷川さん。これ私の幼馴染で柴田ケントって・・・」

賢人(まさと)なのでは?」

本人じゃなく私が訂正してしまった

「そうだったっけ?」

 

リーダーさんと柴田さんは地元が一緒で幼馴染の特権でいろいろさせていたらしい

今回は私を逆恨みした・・・私の言い方もきつかったのは少しは認めますが、逆恨みです

あの大して上手くもセンスの欠片もなく、胸ばっか大きくて脳みそが…失礼、とにかくあのボーカルが人を使って襲わせようとしているのを知り、柴田さんに相談という名の体で何とかさせようとして、その相談の為にスタジオに迎えにこさせたら、勝手にもう解決してしまったと・・・

それも犯罪じみた事を平気でしていた人達を・・・

「余罪たっぷりだから実刑もあるんじゃないかな?」

そういえばこの人、私が件のバンドを抜けてから、声をかけてくれていた

「あなたも、この人(柴田さん)も人が良すぎます」

そう言うと

「残念ながら私は氷川さんをメンバーにして演奏の質をあげようという目論見付きだったからね」

と言い

「こいつは本当に偽善者なだけだから気にしなくていいよ」

なんて言いながら柴田さんの身元引受人として帰っていった

柴田さんは少し怯えた顔をしつつ帰っていったのは何?

私に怯えてるのですか?

 

…納得いきませんね

 

その後、私は母に迎えに来てもらい、日菜に心配されたが平静を装ってあまり相手をせず部屋に篭った

 

部屋に一人になってから急に怖くなった

 

犯罪者に何かされていたのかもしれないという実感が今頃になって来た

正確には迎えに来た母と日菜の動揺する様を見て実感してしまった

あの巫山戯た男(柴田さん)のお陰で実感が無かったのかと思い至る

 

「お礼にいかないといけないわね」

何故かあの偽善者を名乗る男の事を考えたら少し落ち着けた

あの小柄な男に安心とかまだどこか動揺しているに違いない




賢人は強いのではなく
体がどう動くか知った上で効果的に結果を出そうとするだけで
難しいと思ったら保険もかけるタイプです

過去話少しだけしたいと思います。
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