盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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VSブルズアイ

「で、デク君!」

 麗日さんが叫ぶ。

 だが、メリッサさん謹製のスーツはブルズアイの投擲を肉を裂く程度に留めてくれていた。

「その格好、オールマイトリスペクトか? ムカつくなあ」

 トムラと呼ばれていた男が、僕に向かって突っ込んでくる。

 それを、青山君のレーザーと芦戸さんの酸がけん制する。

 その隙に、口田君が相澤先生を抱きかかえ、逃げ出した。

「どいてろ、トムラ・シガラキ、報酬分位は働いてやる。お前は黒霧の方を」

 ブルズアイは高く飛び上がると、トランプをさっきと同じようにばら撒いた。

 瞬間、弾丸のように放たれたそれは1-Aのメンバーに突き刺さる。

 概ね轟君の氷結と切島君の硬化で防いだようだが、何人かの腕や胸にカードが刺さっている。

「いてえええええ!!」

「ぐあ、うぐ!」

「いやあああ!!」

 皆の叫び声に、僕の頭が瞬時に沸騰する。

「やめろてめえ!!」

 僕は叫び、ブルズアイに殴りかかる。

 ワンフォーオール、70%。

 だが、ブルズアイは平然と僕の拳を受け止める。

「すげえパワーだ。お前I・アイランドで会ったよな。あの時はよくも俺の投擲を防いでくれた。そのおかげで俺はこんな東洋くんだりまで来てこき使われてる!」

「どいてろデク!」

 かっちゃんが爆破で吹き飛ばそうとするが、ブルズアイは簡単にかわしてみせ、逆にかっちゃんを殴りつける。

 

(やはり増強系! どんな個性だ!?)

 

「緑谷を離せ!」

 轟君が叫ぶと、遠距離から凍らせようとする。

「おっと」

 ブルズアイは僕を離して飛び上がると、今度は轟君にドロップキックする。

 轟君もまた、壁に叩きつけられる。

 僕もまた、高速で近づいてきた奴に顎を殴りつけられダウンした。

 グラグラと脳が揺れる。

 たまらず膝をついた。

「嘘だろ! うちの3トップだぞ!?」

「怯むな、数で潰せ!」

「見ろ! USJの他のフロアからヴィランがこっちに来てる!」

「……あっちは俺にまかせろ」

「上鳴! どうすんだ!?」

「俺の放電なら雑魚ちらしに最適だ、ここじゃ皆を巻き込むから放電できねえ」

「俺も行こう。流石に一人じゃ無茶だ!」

 そう言って、上鳴君と瀬呂君があちらに向かって行った。

「あのブルズアイとやらは俺に任せてもらおう」

「常闇!」

「行くぞ! うおおおお!!」

 常闇君のダークシャドウが、ブルズアイを叩きのめそうとする。

 さらに尾白君と切島君がそれに続く。

 

 だが。

 

 ブルズアイは弾丸のような速さで接敵すると、まず常闇君を殴りたおした。そして切島君の足首を掴むと、尾白君に叩きつけた。

 障子君と砂藤君がタックルするが、二人の膂力をもってしてもびくともしない。二人は投げ飛ばされる。

 耳郎さんと蛙吹さんが、遠距離攻撃をしようとするが、ブルズアイのトランプの方が早かった。

「うおおおおおおお!!!!! オイラだってええええええ!!」

 峰田君がもぎもぎをやたらめったら投げつけるが、ブルズアイはトランプで全て撃ち落とした。

 そのまま何枚かが峰田君に突き刺さる。

 峰田君は叫び声を上げ、倒れた。

「もう止めろおおおおお!!」

 僕は立ち上がり、ブルズアイに殴りかかる。今度は、ガントレットを装備し、100%で。

 だが、ブルズアイはカウンターの要領で僕の腹を殴る。

「すごいパワーだが、当たらなければ意味がない」

 僕は血反吐を吐いて、倒れこんだ。

「どんな気分だ。お前があの女を助けなければ、邪魔しなければ、俺がここに来ることはなかった! 装置をおとなしく俺に渡してればなあ! お友達が傷ついてるのは、お前のせいだ!」

 ブルズアイはしゃべりながら何度も何度も僕の腹を蹴る。

 何度も何度も。

 遠くで上鳴君の放電音と、怒号が聞こえる。

「その恰好つけたバンダナ! 外しな!」

 僕のバンダナを、ブルズアイが外した。すると、僕の素顔が露わになる。

 

「デク君、それ」

 麗日さんの息を呑む声が聞こえる。

 僕の顔は、おそらくだが、皆に見えているのだろう。

 白く濁った眼、夥しい傷跡が。

 もう一生治ることのない、僕の傷。

「ははは、醜い面だなあ、ええ? おい」

「調子こいてんじゃねえ! くそヴィランが!」

 かっちゃんが、大爆発を起こそうとする。だが、ブルズアイが僕を盾にして、動きが止まる。

「かっちゃん、かまわず、やって……」

「んなことできるかボケが!! 死ね!」

「爆豪さん! お退きください!」

 八百万さんが、テーザー銃を撃つ。ブルズアイは躱すと、トランプを投げつけるが、氷の壁で防がれる。

「その氷、右側でしか出せないんだろう?」

 ブルズアイはかっちゃんに手裏剣を投げながら言う。

 かっちゃんは手裏剣を胸部に喰らい、倒れた。

 ブルズアイはボクシングのフットワークで追撃すると、轟君の左側を回り、攻撃していく。

 そのうちに、轟君の体に霜が降りてくる。

「ほれ、終了」

 轟君の顎にブローが突き刺さり、ノックダウンする。

「轟さん! ああ!!」

「うっとうしい女だ。……しかししぶてえ、誰も死んでねえとは」

 そう言いながら、ブルズアイはナイフを取り出す。

「そろそろ一人位殺しとくか」

 そう言って、八百万さんにナイフが振り下ろされそうになると、途端に炎が吹き荒れる。

 轟君だ。

「くそ、そいつを、離せ!」

 轟君の決死の攻撃を、ブルズアイは嘲笑うように対処する。

「おおこわ」

 奴は八百万さんを盾にした。

 炎の勢いが弱まり、さらにブルズアイはナイフを投擲する。

 轟君はそれを氷で防ぐが、一撃で粉々に砕かれる。その時、僕は唐突にひらめく。

「……エンドルフィンか」

 八百万さんが僕に尋ねる。

「? 何を緑谷さん?」

「そいつが、行動するとき、攻撃をかわす時など、心臓が収縮して極端に集中するときに、身体機能が上昇している。だからエンドルフィンか、ドーパミンが出ているときに、身体能力が上がる個性だと、思う」

「へえ、正解だよ。盲目のガキ、エンドルフィンで正解だ」

 

 ブルズアイ 個性「エンドルフィン」

 エンドルフィンが分泌されるほど身体能力が強化される個性。

 つまり、集中すればするほど強くなる!

 

「だからよ、冥土のみやげは十分渡しただろ? さっさと、死ね」

「死なせはしないわ」

 その途端、全裸の葉隠さんが、後ろから羽交い締めにして、首を絞める。

「今だお茶子ちゃん!」

 葉隠さんが麗日さんに叫ぶと、麗日さんは裂帛の気合いで飛びかかる。

「うあああああああああああ!!」

「麗日さん!」

「なめるなああああ!!」

「きゃあ!!」

 ブルズアイは葉隠さんを力任せに引き剥がすと、思いっきり叩きつけた。

 そのまま麗日さんの腹を思いっきり殴りつける。

「やめろ! てめえ!!」

 かっちゃんが追撃するが、ブルズアイの裏拳であえなく吹き飛ばされる。

 さらにブルズアイはトランプを構える。

「皆! 首を守って!」

 僕が叫ぶと、ブルズアイのトランプが投げられた。僕の腕にザクとトランプが刺さった。

 皆のうめき声が響く中、ブルズアイは麗日さんに近づく。

 麗日さんの膝を踏みつけ、折る。

 麗日さんの悲鳴が、施設内にこだまする。

「舐めんじゃねえ!」

かっちゃんが爆速で近づき、右の大振りをするが簡単に避けられる。

「おお、まだ立つか! お前も増強系か?」

「違えよボケ! 俺の前で! もう誰にも何も失わせねえ! 自分にそう誓ったんだよ!」

 かっちゃん……。

「なら何故弱い?」

 だが、ブルズアイはアッパーを鳩尾に撃ち込み、かっちゃんは動かなくなった。

「さて、嬢ちゃん、解除しろ」

「……絶対! せえへん!」

 麗日さんの心臓が跳ねるが、震える声で叫ぶ。

「ほう、頑張るね」

 さらにぐりぐりと折れた足を踏みつける。

 麗日さんの悲鳴に、誰もが立とうとするが、立つことができない。

「じゃあ、死ね!」

 そう言ってブルズアイが腕を振り上げた瞬間、僕の中でプツリと音がする。

 

「ワンフォーオールフルカウル……100%!」

 

 衝撃音が辺りに響き、ブルズアイがこちらを見る。

 その途端、レーダーセンスがさらに聞こえるようになった。

 ブルズアイのパンチが、手に取るように分かった。

 僕はその右手を掴むと、思いっきり握りつぶした。

「GAAAAAAAA!!」

「痛いか?」

 僕は尋ねる。

 

「今からアンタを、液体になるまで、殴る」

 

 僕の拳が深々と刺さった。

 ボディブロー。テンプル。リバー。ジョーと拳を入れていく。そのたびにきしむ拳を無視し、振りぬく。

 ブルズアイもまた、殴り合う。

 僕の体に攻撃が五発当たる間に、一発がブルズアイにめり込む。

 それでもダメージは、あっちの方が多い。

 ブルズアイが中指を耳に突っ込もうとする。

 僕はその指を折った。そして、投げ飛ばす。

 ブルズアイは地面と平行に飛んで行った。

 さらに、僕は飛んでいくブルズアイに追いつき、その首を掴む。

 ブルズアイもまた、僕の首を掴み、締め上げる。

 バチバチと、ワンフォーオールが瞬くが、僕は意に介さない。

 

「お前をどこにも! 行かせない!」

「お前に皆を傷つけさせない!」

「お前をここで! 仕留める!」

 

「やっちまえ緑谷ー!!」

 峰田君の声がする。

「ぶちかませー!!」

 切島君の声がする。

「勝って! デク君ー!!」

 麗日さんの声がする。

 

「なめるなガキがああ!!」

 ブルズアイが僕の鳩尾を蹴り上げる。

 僕は顔面を殴りつける。互いに吹き飛ぶ。

 

 その時、扉が開く。

「もう大丈夫! 私が来た!!」

 オールマイトがやってきた。

 皆が安堵の声を出す。

 その顔は笑っていないのだろう。

 だが、地面を転げまわったブルズアイを、あのモヤが覆った。

「逃げられる、逃がさない!」

 けど、足が嫌な音を出して、僕は倒れた。

 ブルズアイが叫ぶ。

「ガキ! てめえはここで、仕留める!」

 ブルズアイが手裏剣を放つ。

 弾丸よりも速く飛んでくるそれを、オールマイトは拳圧で防ぐ。

 やっぱりかなわないな。

 僕はそんなことを思いながら、意識を手放した。

 




ブルズアイ強くしすぎたか?
まあでもボスキャラなんてこんなものか

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