塩崎さんの衝撃の宣戦布告から2週間がたち、雄英体育祭当日。
選手控え室で、僕は選手宣誓の練習をする。
「我々選手一同はスポーツマンシップに乗っ取り正々堂々と戦いぬくことを誓います。でいいよね」
「まあ、奇を衒わなくていいだろ、いいんじゃね」
切島君に言われ、僕は自信を持つ。
そんな僕に声をかける人がいる。
「緑谷」
「轟君、どうかした?」
僕は点字の書かれた紙を折りたたんで、彼に向き直る。
「客観的に見て、お前の方が実力は上だろう。戦闘訓練じゃなすすべなく負けたし、USJでの件で実績もある。
お前がオールマイトの弟子だって知って、嫉妬するより先に納得したくれえだ」
轟君は淡々と僕を褒める。
「そんな急に、どうしたの?」
轟君の意図がわからず、僕は尋ねる。
「だからこそ、俺はお前だけには負けらんねえ。
この体育祭俺が勝つ。」
「うお、推薦入学者がクラス最強に宣戦布告?」
僕は、目のあたりを覆うバンダナをギュッと握る。
「おい、本番前にやめろって」
「仲良しごっこじゃねえんだ。別にいいだろ」
「……まず、USJでは、助けてくれてありがとう。君が、僕をライバル視してくれて嬉しい」
僕の言葉に、轟君は目を瞠る。
「僕は、母さんや父さん、オールマイトにメリッサさんデヴィットさん、色んな人の助けでここにいる。
その人達に、僕が立派にやってる所をみせたい。
目が見えなくても、ヒーローになれるんだってみせたい。
だからこの体育祭で必ず優勝する。
……君にも勝つ」
僕は湧き上がる怖気に、耐えながらもそれでも言い切った。
轟君も真っ向からそれに応えてくれる。
「おお」
「おい、半分野郎! 宣戦布告の相手間違えてんじゃねえ!」
「爆豪」
「クソデク、てめえが何背負ってようが関係ねえ。俺はオールマイトをも超える最強のヒーローになる!
てめえが邪魔だ。ひねりつぶす!」
「かっちゃん……。 ああ、全力で来てよ」
熱を帯びた切島君が硬化した拳を打ち付ける。
「良し、おめえらやるぞ!」
皆の覇気が、部屋に充満する。行こう。
「「「「「プルスウルトラ!!」」」」」
『さあ、テメーラお待たせしました!! お前らの目的はこいつらだろ! ヴィラン襲撃を耐え抜き! 傷つきながらも誰一人折れなかった不屈の新星! 1年! A組だろ!!』
プレゼントマイクが入場を宣言すると、1-A組が姿を現す。会場のボルテージは最高潮といったところだ。
「緑谷、会場大分うるさいけど大丈夫?」
「問題ないよ耳郎さん。ありがとう」
たとえ大歓声の中であっても、人の足音を聞き分け、問題なく動くことができる。
「選手宣誓! 1ーA組緑谷出久!!」
「良し、一発頼むぜ」
「……デク君?」
僕が真剣な顔をしているのを、麗日さんは気づいたようだ。
「宣誓! 我々選手一同はスポーツマンシップに則り、正々堂々と戦いぬくことを誓います!」
周りからはパチパチと音がする。
そこで僕はミッドナイトに断って、マイクを取った。
そして、バンダナを外した。
辺りがざわつく。
モニターには、僕の目元についた傷跡と、白く濁った瞳が映っていることだろう。
「僕は、ご覧の通り、目が見えません。
ですが、そのハンデを克服し、ここまで来ました。
それは、周りのサポート、仲間たちの協力があってのことです。
だから、僕は、周りの期待に応えるためにも、必ずこの体育祭で優勝します」
僕の言葉に、シーンと静まり返る会場。
やってしまったか?
だが、その後に大歓声が会場中に響いた。
A組の方に戻ると、皆が僕の肩を叩く。
「やりやがったな緑谷! てめえ!」
「上等だおらあ!」
「恰好よかったよー緑谷君!」
「しゃあ! やってやろうぜ!」
僕は皆の歓迎や宣戦布告に笑ってかえす。
「デク! てめえは俺が潰す!」
「……やってみなよ。かっちゃん」
そう言いあって、拳を合わせた。
そして、何故か様子がおかしいミッドナイトの宣言が響く。
「じゃあ、さっそく第一種目の発表! 障害物競争!」
バンダナを巻きながら、僕は、スタートに備える。
スタートの合図の時 案の定、足元が凍り始めた。
跳躍するなり、個性を使うなりして躱した人が結構多いな。
「フルカウル……70%!」
僕はひとっ飛びで人の群れを避ける。僕はすぐに走り出し、トップに立つ。
『おーっと!! 一人抜け出したのは選手宣誓通り緑谷出久! あとに続くはA組轟、爆豪続いてB組塩崎が続いていくー!!』
そして、エコーロケーションは正確に入試の仮想敵を見つけた。僕は飛んできた3Pヴィランを叩き落とす。
『さー速攻緑谷に叩きつぶされたが、まだまだ全然残ってんぞ第一関門ロボインフェルノー!!』
「入試の仮想ヴィランか!」
「でかくねえか!?」
僕は巨大0Pヴィランの足元を正確に把握、下から一気に加速し抜ける。だが、そこで、どうしても一体だけ邪魔になり、僕は飛び上がった。
「70%。トルネイド・スマッシュ!!」
僕はコークスクリューブローの要領で思いっきり殴りつけた。
吹き飛ぶ0Pヴィランの上に悠々と着地する。
『スゲーぜ緑谷! 一瞬にして瞬殺ー!!』
『あいつは入試でもぶっ飛ばしていたからな。当然の結果だろう。他の奴らも着々と突破していくが、やはり機動力とパワーという2点ではあいつが抜けてるか』
『あーと! だが先頭の緑谷! 蔓!いや茨に囲まれてるぞ!』
『あれはB組の塩崎の個性だな。緑谷の着地する隙をついて良くとらえた』
だが、僕は冷静に地面を殴りつける。
『! ここで突風! ツタがたわみその間を脱出! クレバー!!』
『やはりここぞという判断力が、ヴィラン襲撃を乗り越えたことでついたな。他の連中も、立ち止まる時間が短い』
『さあ、そうこうしている間に、次の関門だ。落ちたらアウト! それがいやなら這いずりな! ザ・フォール!』
ここも、僕はクリック音を出し、位置情報を取得、何とか綱渡りを渡っていく。
しかし、ここでも妨害された。轟君だ。
僕は氷を飛びながら躱す。
そしてかっちゃんも追いついてきた。
ちんたらしてらんないな。
僕はフルカウルを発動させ、道を飛び越えていく。
リスキーだからやりたくなかったがそうも言ってられない。
そのまま第3関門に移る。
『さあ、先頭の緑谷出久! とうとうやってきた最終関門! 怒りのアフガンだ!!
この地雷原をどう避ける! 2位の轟はすぐそ……
アレエ! 普通に走ってるー!!』
『おそらく、足音から生じるわずかな反響音の違いを捉えているんだろう。
本当に目に頼った俺達以上に視えているな』
『おお! このまま一位か! おっと! 緑谷の目の前で地雷が爆発! これは塩崎の茨だ!茨を這わせてわざと地雷を起動させた。こいつはシヴィー!! 緑谷もたまらず蹲ったぞ!』
『あいつは耳が尋常じゃなく良いからな、その辺が明確に弱点だな』
レーダーセンスが歪むが、嗅覚に切り替える。そして位置情報を修正。
僕は、そのままワンフォーオールを起動させる。
ワンフォーオール70%。ローリングアッパー・スマッシュ!
僕はそれを、前ではなく後ろに放つ。
すると土が地雷ごと盛り上がり、それがひっくり返り大爆発を起こす。
僕は吹き飛んだ地雷に目もくれず走り出す。
『さあ、今年の雄英体育祭! 第一種目! 有言実行したのはこの男!』
『緑谷出久!! この男の存在とくと見よ!』
「すげえ! あのエンデヴァーの息子を差し置いて、一位! 圧倒的だったな!」
「いや! あの茨の子も速かったぞ! いつの間にか抜かしてた!」
「ヘドロ事件の爆豪、エンデヴァーの息子の轟、二人を凌いだ超新星か! 今年の一年は粒揃いだぜ!」
そんな観客の叫びの中から、僕はトゥルーフォームのオールマイトを探し当てると、拳を突き出した。
1位僕、2位塩崎さん、3位かっちゃん、4位轟君、といった感じで順位が続いていく。
ゴールした麗日さんと飯田君が近くに来る。
「デク君凄かったね! あのパンチ!」
「いやあ、苦し紛れで」
「しかしこの個性で遅れをとるとは、ボ、俺はまだまだだ」
「でも危なかったよ、特に塩崎さん。何だかんだ僕のすぐ後ろだった。多分戦っても相当強いと思う」
僕は塩崎さんの心音を聞く。運動能力は心臓の鼓動である程度推察できる。運動した後に心臓がはやく正常に戻る人ほど運動能力が高い。
彼女もまた、すでに脈拍が平常に戻っていた。
「で、結局どういう知り合いか分かったん?」
「……それが、全然見当もつかなくて、かっちゃんは知ってる風だから、幼稚園か小中の友達だと思うんだけど。それで、僕がすぐわかんないってことは、レーダーセンスがまだ未発達な頃だと思う」
「ふーん、爆豪君も教えてくれればいいのにね」
「まあ、かっちゃんにも考えがあるんだと思うよ」
そんなことを話していると、予選の終了を告げる笛が鳴る。
そして、ミッドナイトから予選突破の順位が第42位までであることが告げられる。
『A組で一番順位が低いのが青山の25位! ヒーロー科は一クラス20人だ! そう考えると、A組の優秀さが際立つぜ!』
『共に死線を乗り越えた仲だからか、とっさの連携という点で他のクラスと一歩差が出たな。というか、B組の奴らが嫌に手を抜いていたように見えるが……』
その後、ミッドナイトから次の種目が騎馬戦ということが説明される。
参加者は2~4人のチームを組む、そして先ほどの予選順位の結果に従いポイントが与えられる。
42位は5p、41位は10p。
「そして1位の人のポイントはなんと、1000万ポイントです!」
その途端、皆の視線が僕に降り注ぐ。
視線は見えなくても圧となってふり注ぐ。
怖い。
そんな時、オールマイトの教えを思い出す。
苦しい時ほど、ビビってる時ほど、笑え。
すると、皆目をそらした。何だろう? 不細工だった?
「では15分間のチーム決め、開始!」
「デク君チーム組もう!」
「麗日さん早い! いいの? 僕一千万ゆえに狙われるけど」
「デク君がガン逃げすれば勝てるやん! それに、仲いい人同士で組んだ方が、絶対いい!」
「……ありがとう」
その後、僕は飯田君に声をかける。
飯田君の機動力なら逃げ切りも可能。
だが、飯田君は首を横に振った。
「緑谷君はUSJでも活躍していた。だが、俺はただ逃げていただけだ。これでは、君の隣に立てはしない。僕は、君に挑戦する!」
「……そっか」
残念だけど、飯田君の覚悟に、僕は何も言えない。
そういったところで、サポート科の人が声をかけてくる。
要約すると、一位である僕と組めば目立つので、広告塔に最適だそうだ。
メリッサさんとディスカッションをして科学知識にも明るい方だと自覚はあるが、それを差し引いても、すごい技術力だった。
そして、最後の一人、意外な人が声をかけてきた。
僕らの弱点である遠距離攻撃と防御、二つをカバー出来る人材に断る理由はない。
「じゃあ、行こうか、麗日さん!「はい!」発目さん!「フフフ!」
塩崎さん!「ご随意に!」」
このチームは、最強だ。
「よろしくお願いします!」
原作通りの所はダイジェストで
アンケート設置しました。
体育祭が終わった辺りで短編出します。
10万UA記念の短編アンケートです。
-
もしかっちゃんが女の子だったら
-
もしOFAを受け継がなかったら
-
もし緑谷出久がB組だったら