盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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騎馬戦

 雄英体育祭、第二種目開始。

 スタートと同時に、僕達の足元が沈み出す。

「これは、骨抜さんの個性ですね」

「塩崎! 何でA組の奴と組んだ!」

 B組の騎馬の騎手が言う。

 宣戦布告に来ていた人だ。

 だが塩崎さんは意に介した様子はない。

「私自身の勝利の為に、最善の手段を講じたまでですよ鉄哲さん」

 そう言うと、塩崎さんは目を閉じる。

「それと、この方とは決勝であい見えたい。そう思ったのもありますが」

「またか! そいつがいるって知ってからなんか変だぞお前!」

「僕?!」

「ウチの塩崎をたぶらかしやがって、ハチマキよこせおらあ!」

「誤解だ!」

 そう言いつつ、僕は倒れるすれすれになるまでスウェーでかわし、逆に左手でハチマキを取った。

『うおおおおお!! 1000万緑谷! いきなりなんだその体幹とありえない体勢からのハンドスピードは!!』

『緑谷はボクシングと柔道をやっていると言っていたな。双方とも格闘技の中でもハンドスピードの速い競技だ。それにやはり素の身体能力が高いなあいつは』

『こいつはシヴィぃぃぃ!! というか逃げの一手じゃねえのかよ! まさかの返り討ちだー!!』

 

 開始前

「「「逃げない?」」」

 三人が驚きの声を上げる。

「え? 一千万持って逃げ切りやないの?」

「そんなことして、もし後半にハチマキが取られたら目も当てられないよ。それに、相手には飯田君やかっちゃんといった機動力に優れた人がいるからね。正直接敵なしってのは厳しいと思う。だから、時間的余裕があるウチに保険を取る」

「成程、私としては攻めた方がアピールチャンスができるのでうれしいですが」

「それにね」

 僕は3人に笑っていう。

「どうせ取るなら、全部のハチマキを取った完全な一位。取りたくない?」

 きっと、かっちゃんならこう言うだろう。

「そうですね、敵を相手に逃げしか手立てのないヒーローなど、存在する意味がありませんね。逃げるだけでなく、立ち向かわねば」

 塩崎さんも目の前で手を組んで宣言する。

 僕達の作戦は決まった。

 

「取った! 頭下げて!」

 僕は発目さん謹製のジェットパックのスイッチを入れ、飛び立つ。

 麗日さんが自分以外を無重力にしているので、実質一人分の重量で飛び立てる。

 だが、その前に。

「塩崎さん! ツルを8時! かっちゃんが来る!」

「はい!」

 塩崎さんの茨が、盾のようにあつまり、かっちゃんの爆撃を相殺する。

 その隙に僕は70%の拳を振りぬくと突風で距離を取る。

 

『爆豪! 騎馬から離れるエキセントリックプレイ! しかし緑谷も超聴覚からの索敵に死角なし! 盛り上がって来たぜー!』

『何気に塩崎の個性も相当な練度だな。相性は悪いはずだがきっちり爆豪の個性を封じ切りやがった』

 

「くそ、あの茨女! もういっかい!」

「単純なんだよ、A組」

「んだてめえ! 俺から取ろうとするとはいい度胸だ!」

 ? あれはB組の騎馬か……。

 

「かっちゃんが揉めてる! 今のうちに……」

 着地、だが。

「麗日さん! 足元に峰田君のもぎもぎがある! もっと前に!」

「え、あ、ホンマや! 危ない!」

「ちっ 緑谷! てめえは許さねえ!」

 峰田君の声だ。どこにいる。

「障子君の背中か! 凄いな障子君! 人を二人抱えるなんて!」

「二人!?」

「蛙吹さんもいる! 一応言っとくけど、僕には奇襲奇策は通じないよ!」

「梅雨ちゃんと呼んで、流石ね緑谷ちゃん」

 障子君の複製腕にすっぽり覆われる形で、蛙吹さんと峰田君が鎮座している。

「黙れてめえ! この裏切りものがー!」

 僕達は首を傾げる。僕達だけじゃなく障子君と蛙吹さんも。裏切りって、何が?

「メリッサさんだけじゃ飽き足らず! 麗日のうららかボディにサポート科のおっぱい姉ちゃんに清楚系美人の三人とハーレムでお前が乗っかるってどういう神経しとんじゃ! お天道様が許しても俺が絶対許さん!」

 峰田君は血涙を流しながら言う。

「やめろ峰田、俺が言ってるみたいで恥ずかしくなってきた」

「障子君、心中察するに余りあるよ」

『おーっと! 峰田が全国の男子リスナーの魂の叫びを代弁だー!! こいつはシヴィィィィィ!! だが俺は同意するぜー!!』

『アホだろ』

 その時、僕の手元にシュルシュルと塩崎さんの茨が伸びる。

「……とりあえず、穢らわしいやり方ですが、すり取っておきました、緑谷さん」

「……ありがと」

『おっと塩崎! 自慢のツルで後ろから複製腕に覆われた峰田のハチマキを奪取! したたかだー!!』

「……峰田ちゃん?」

「ケロケロー!!?」

 仲間割れしているうちに離れよう。

 

 さて、次は。

「180度転身! 後ろから葉隠さん耳郎さん砂籐くん口田くん!」

「流石デク君! どんどん取るで!」

「ああどんどん……裸の女の子がいるよー!!??」

 葉隠さんは上半身裸だった。

「ふははは! 緑谷君! どうしたの!? 恥ずかしがっちゃって!」

「葉隠さん! だから僕はシルエットが分かるんだって! 何でそういうことするの!?」

 僕の問いに、葉隠さんは谷間を強調するようにポーズを取る。

「べ・つ・に~! 緑谷君になら……いいよ?」

 葉隠さんの答えに、会場から歓声と僕へのブーイングが飛び交う。

『おーっと緑谷ー!! 騎馬の三人だけならいざ知らず! 敵の女まで落としにかかる! 朴訥そうな見かけによらず色男かー!!』

『生徒をあんまおちょくってやるなよ』

 

 マイク先生め、PTAに訴えられないか? それはともかく、

「女の子がそういうこと言うんじゃありません」

「ガチめに怒られた!」

「顔真っ赤や!」

 

『ウブだー!!』

『当然の反応だろ』

 

 僕は一つ咳払いをしつつ、距離を詰める。

「まあ、とりあえず葉隠さん、受けよう」

 僕はボクシングのファイティングポーズを取る。

 すると、葉隠さんもまた、ファイティングポーズを取る。これは。

「自衛隊式格闘か……シブいね」

「わかるんだ……。いくよ!」

 そういうと、僕達は左を差し合っていく。しばし、流れるような攻防が続く。

 葉隠さんの狙いは、分かり切ってる。

「悪いね耳郎さん」

 僕は伸びてきた耳郎さんのイヤホンジャックを掴み、葉隠さんの鎖骨に押し当てた。

「きゃうん!!」

 心音がおそらく葉隠さんを突き刺しただろう。

「クソ! 緑谷! やるな!」

「攻撃に戦意はあっても害意はなかったからね。本命が別にあるのはわかってた」

 僕はぐったりしてる葉隠さんからハチマキを取った。

 

『さあ、何と何と緑谷チーム! 逃げるどころか返り討ちにして容赦なくポイントを奪っていくー!! さあさあ! これでA組で無事な騎馬は爆豪と轟……、アレ! 爆豪も0だぞ!?』

『何見てる。爆豪なら、さっきからB組の騎馬に囲まれてる』

 

「クソが! 返せやあ!!」

「しつこい!」

「爆豪! 勝手すんなあ!」

「俺が取んのは! 完膚なきまでの一位なんだよ! こいつらのポイントブン取ってデクに行くぞ!」

 わーお。

「どうしますか……?」

「塩崎さんには悪いけど、かっちゃんならB組の騎馬から全部奪い取って僕の所に来るさ。その時まで待とう。それより、こっちだ」

 僕の耳はその音を先ほどから捉えている。

「8時の方角から、轟君飯田君上鳴君八百万さん接敵、警戒して」

 轟君が、冷静な声に熱を込めて言う。

「さあ、奪りにいくか」

「重役出勤だね轟君……負けないよ」

 

 途端、周りの騎馬が僕達の近くにくる。

 狙っているな。

 八百万さんが何かを出す。

「塩崎さん! 壁を! 麗日さん! 浮かせて!」

「はい!」 

「了解!」

 

 無差別放電130万V!

 

 だが、塩崎さんは茨をしならせ、飛び上がった。

 そしてその瞬間、氷がリングのように出来上がり、僕らを囲んだ。

『さあ、ここでスパーキングボーイのカミナリキリングだー!! こいつはヴィラン襲撃事件で50人以上のヴィランを拘束したスーパーパワーだぜ!』

『上鳴の個性は防げる奴でないとどうにもならないからな。そこを轟の氷結。障害物競走で結構な数に避けられたのを省みているな。そしてその連携を既の所で躱した緑谷の危機察知能力と塩崎の個性の練度、一瞬だがかなり濃い攻防だ』

『ナイス解説!!』

 

 僕の鼻が異臭を捉える。

「! 皆! ジェットパックがショートした!」

「じゃあ逃げられへん!」

「いえ、獲りましょう」

 塩崎さんが冷静に言う。

「全部のハチマキを取った完全な一位。獲りましょう。」

「! ああ! 行こう皆!」

 塩崎さんと僕の戦意に当てられたのか、麗日さんと発目さんも覚悟を決める。

「しゃあ! やったるわ!」

「私のベイビーの見せ場も作ってくださいよ!」

 僕らは轟君に向かっていく。

 その時、終了まで6分といったところ。

 

side爆豪

「爆豪! なんでそこまで!」

 俺はあの後物真似野郎以外からはポイントを取った。あとは物真似野郎の持つ俺のハチマキと物真似野郎のポイントだけだ。

「ああ! ヴィランから尻尾まくヒーローが! どこにいるんだあ!?」

「言うことが違うなあ。流石ヴィランに年一回襲撃されている人だ」

「ああ!?」

「そもそも、A組の連中は分かっていないんじゃないか?

 ミッドナイトが予選と言った段階でそこまで数を減らすことはない。ならば、ある程度の順位を維持しつつ、個性や立ち回りを観察した方がいい」

「……それでA組の騎馬からポイントを掠めとるつもりだったか? ケ! 結局デクに取られまくってるじゃねえか。くだらねえ」

「そこだよ。なんだい彼は? 大人しい顔して優勝宣言とは。そのくせリスキーに取りに来るし、仮初の一位に固執して、僕から言わせれば馬鹿みたいなもんさ。ニンジンに釣られた馬みたいなもんだ」

 そこで俺は思い出す。あいつはいつだって震えながら、立ち向かっていったこと。

 泣きそうになりながらも、それでも他人のために、考えなく飛び出せるやつだってこと。

 それは俺が一番知ってるんだ。

 バカなガキの頃は何一つ分かっていなかった。

 確かにあいつは馬鹿だ。今も馬鹿みてえに自分を追い込んで、引子おばさんやオールマイト、クラス連中の期待に応えようとしてる。

 確かに馬鹿だ。

 だがこいつほどバカじゃねえ。

「爆豪!」

「なんだクソ髪! 俺は退かねえぞ!」

「逆だ。全部ぶんどってとっとと緑谷の所行くぞ」

 クソ髪がいつもと違う威圧感のある声を出す。

「ダチ馬鹿にされてケツまくるなんて男じゃねえ!」

「あたしも、ちょーっと今の物言いツノに来た!」

「うちのクラスで緑谷馬鹿にされて黙ってるやつなんていねえぞ爆豪。あいつがどんなやつかなんて俺ら全員目撃してっからな。……やっちまえ。 必ず拾う」

 黒目としょーゆ顔が物真似野郎に慳貪な瞳を向ける。

 俺はおかしくなって笑った。

 そうか、もうとっくにあいつは一人で歩いてんだな。

「しゃあ! とるぞ! 完膚なきまでの一位をよお!」

「「「おう!!」」」

 それがあいつの覚悟に応えるってことだろう。

 

 

side緑谷

 あれから残り1分まで、僕達はなぜか使わない轟君の左側に移動し続けることで、ポイントを保持し続けた。

 僕もアタックするが、上鳴君の電撃に牽制される。

 そして、ラスト1分。

 飯田君の脚部エンジンから、異音が響く。

 僕は反射的に、カウンターを放つ。

「ワンフォーオール、オーバーセンス!」

 その瞬間、世界がゆっくりになる。

 ワンフォーオールの力を、脳にのみ作用させる。

 ワンフォーオールの力により脳が活性化し、僕の世界の動きがゆっくりになる。

 僕は、轟君のハチマキを取った。僕は1000万を逆の手で死守、代わりに轟くんは僕の首元のハチマキを二つ取った。

「くそ、すまねえ飯田!」

「く、まさか対応するとは緑谷君!」

「ポイントは十分です! ここは退きましょう!」

 八百万さんの声に轟君は歯噛みする。

「……畜生!」

 一方、僕は僕で塩崎さんに耳打ちする。

「塩崎さん、最後の作戦だ」

「了解です」

 そう言うと、僕たちは大量のツルに覆われた。

『おっと一位緑谷! 残り30秒で籠城作戦だー!!』

『確かに、残り三十秒であれだけのツルをどけながら、緑谷の索敵かわして接敵するのは不可能だろう。……一人以外はな』

 そう、相澤先生の言う通り、必ず来る。

 その爆音は必ず来る。

 ほら、掘り進んできた。

 

side爆豪

 

 爆破爆破爆破爆破爆破

『あと20秒!』

 うるせえ! 分かっとるわ! チクショウ! 爆破した側から生えてきやがる!

『あと10秒!  9! 8!7!6!やっと開通!』

 どこだ騎馬は! 女どもしかいねえ!

「ラストベイビー! スタンロッド!」

「タッチや爆豪君!」

 デクは! 上か!

 

『まさか緑谷チーム! 作っていたのは城壁ではなかったのかーー!』

『緑谷の身体能力と数的優位を活かすジャングルジム。足場と壁を作っていたのか』

 

「フルカウル70%! ジャンピングダッシュ!」

「なめんなデクがああ!!」 

「「うおおおおおおおおおおおお!!」」

 

『緑谷出久! 爆豪のハチマキをとり! 完全勝利! ここで第二回戦の勝者は一千万ポイントの『よくみろ、一千万のハチマキ』アーハン!? 何と! 一千万ポイントが、燃え滓にー!!』

『爆豪め、調整を誤ったか……。まあ。あれだけの速度でしかも周りを囲まれてたんだ。しょうがないか』

『気を取り直して、集計結果を直して、それでも一位は緑谷塩崎麗日発目チーム! 二位は爆豪切島芦戸瀬呂チーム! 三位は轟飯田八百万上鳴チーム! 四位は拳ど……あれ? 心操常闇尾白青山チームが四位だ! どうなったんだ!』

「かっちゃん……」

「デク! 今回は俺の負けだ!」

「え!? 違うよ! 一千万取られたから僕の負けだろ!」

「ああ!? それを俺が燃やしたから俺の負けだろうが!」

『何かどっちが負けかで言い争ってる! 普通逆じゃね!? ウケルーー!!』

『アホ言ってねえでとっととハケろ。決着は決勝トーナメントでつけるんだな』

 その先生の言葉に俺らはしぶしぶ睨み合いを解き、分かれた。

 

 決勝で必ず白黒つけてやる。

 

 その後退場口で、俺はクソ髪に声をかけられる。

「おーい、爆豪! メシ食おうぜ」

「いいわクソが」

「そう言うなよ、俺らこれでも感謝してんのよ。お前に」

 しょーゆ顔が肩に腕を回してくる。

「そうそう! アタシら友達じゃん! 一緒に食べようよー」

「友達ねえ」

 

 俺は鼻で笑って、奴らに問う。

「デクの目が見えなくなった原因がよお」

 

「俺だって言っても、お前ら友達って言えるんかよ」

 

 そう言うと奴ら、アホづらかまして固まった。

 俺は今度こそ飯を食いに行った。




騎馬戦は難産でした。やっぱ原作ってすげーわ。
ポイント計算とか難しくてやってらんないから各自想像で補ってください。

アンケート締め切り、土曜日の昼くらいにします。

10万UA記念の短編アンケートです。

  • もしかっちゃんが女の子だったら
  • もしOFAを受け継がなかったら
  • もし緑谷出久がB組だったら

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