盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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第二回戦 轟焦凍

side 轟

 緑谷は、大した奴だった。

 最初は個性把握テストの時、オールマイトみたいな奴だと思った。

 戦闘訓練では、為すすべなく負けた。

 そして、USJで、あいつは黒霧というヴィランの奇襲に対応し、13号先生を一撃で倒したヴィランに近接戦で対抗し、1-A20人弱を一人で相手取ったブルズアイを撃退した。

 なんとなくだが、親父にとってオールマイトという存在はこんなものだったのかもしれない。

 絶対に勝てぬ味方。

 圧倒的な、超えられない存在。

 全盲というハンデなんてあってないようなものだ。

 

 それでも、あいつに宣戦布告をして臨んだ体育祭。

 第一種目は普通に負けた。緑谷だけじゃなく、B組の女や爆豪にまで。

 第二種目で、俺と組んだのは、飯田、上鳴、八百万。考えうる限り最高のチームだった。

 その時に俺は言った。戦闘において、熱は絶対に使わねえ。 

「あれ、USJでは、使おうとしませんでしたか?」

「……あれは例外だ」

 その時、八百万が不思議そうな顔をしたのを覚えている。

 けれど負けた。一千万を獲れず、逆に自分のハチマキすら守れずに。

 

「もし、君がプロになった時、胸を張って言えるの? ベストを尽くしたって、僕は全力で君を助け出したって、今まで辛い思いをしてきた被害者に言えるの?」

 

「もしあの時八百万さんが殺されていて、君は後悔しないでいられたの? 炎を使えれば、助けられたかもしれないって」

 

 ……認める。正論だ。

 それでも、俺は。

 

 奴は、エンデヴァーは言った。

 お前は最高傑作なんだぞ。

 俺は作品じゃない。

 俺は。

 

 なんだっけ。

 

 

side 緑谷

 僕の目の前に、熱量を持った物体がある。

 いや、人だ。

 身長は195センチ。

 体重は、120キロ前後か。

「あの、何のようですか? エンデヴァー」

「……見えるのか?」

「こんなに大きくて熱を帯びた人、一人しかいませんよ。……それで、僕もう行きませんと」

「いや、何。君の活躍見せてもらった。腕を振り回すだけであれ程の風圧。

 パワーだけならオールマイトにも匹敵する個性だ」

 ……この人もワンフォーオールについて知っているのか?

 いや、知らないようだな。

「それはどうも。ありがとうございます」

「うちの焦凍には、オールマイトを超える義務がある。君との試合は、いいテストヘッドになるだろう」

 義務、か。

「……そんな、愉快な戦いにはならないと思いますよ?」

「……なに?」

「結局、僕はオールマイトじゃないですし」

「……そんなことは当たり前だ」

「そう……同じように、轟君も、あなたじゃない」

 僕はトントンと足で床を叩く。

 廊下の状況が鮮明に分かる。

 いるのは僕とエンデヴァー、たった二人

「僕の幼馴染に、口癖がオールマイトを超えるヒーローになるっていう子がいるんです」

「ふん、それは、可愛らしい夢だな」

「……でも、彼は本気です」

 僕はエンデヴァーに向き直る。

「轟くんがオールマイトを超えたとして、それで本当に、あなたの心は満たされるんですか?」

「! 貴様に何がわかる!」

 エンデヴァーの熱量が上がる。

 僕は怯まない。

「何もわかりませんよ。一つ分かるのは、今のままじゃ、轟くんもあなたも、苦しいままです」

 僕は深呼吸を一つする。

「だから、僕が救います」

 そう言い残して、僕はその場を去った。

 

『さあ、体育祭両者トップクラスの成績!

 全てを見通す心眼+全てを壊す超パワー緑谷出久! バーサス 全てを凍らす冷気+全てを燃やす熱量轟焦凍!

 両雄並び立って! ファイト!』

 

 轟くんの氷結が僕を襲う。

 それに対し、僕は片足を振り上げる。

 そして、振り下ろす。

 突風が吹き荒れ、地面がひび割れ、氷が砕ける。

『緑谷! 轟の氷壁を四股を踏んで相殺ー!!』

『USJ襲撃事件でも、あいつは四股を踏んで突風を起こしていたそうだ。

 確かに拳を使うよりも力が入りやすく合理的か』

 僕は四股を踏んだ体勢で肩を嵌めながら、様子を窺う。

 それからは、轟君が氷結を放ち、僕が四股で突風を起こすという光景が繰り返される。

 

 ……だから言ったんだ、愉快な戦いにならないって。

 

「馬鹿ものが、焦凍」

 どこかで、エンデヴァーの声が聞こえる。

「震えてるね、轟君」

「ハァ、ハァ、緑谷!」

「風速1メートルにつき、体感温度は1度下がる。僕の起こす風速が少なく見積もっても風速30メートルとして、君は30度分、僕より余分に体温が下がっていく」

 轟君の体がガクガクと震えだし、心臓の拍動も弱くなる。

「で、その震えって、左側の熱を使えば解決するんじゃないの?」

 僕はため息をつきそうになるのを堪える。

 轟くんは氷による噴出力を利用し、僕に近接戦を仕掛けようとするが、僕は5%フルカウルのボディブローを食らわせる。轟くんはもんどりうって倒れこむ。

「体が冷えてるからかな。全然遅いよ轟くん。ちゃんとウォームアップした? それ以前に僕と接近戦して勝てるわけないでしょ」

 倒れこむ轟くんを見下ろす。

「降参してくれ、轟くん。これじゃあ、弱いものいじめだよ」

「ハア! ハア! まだだ!」

「諦めないんなら、左を使え、轟くん! 何がしたいんだ! 君は!?」

「うるせえ!! 俺は! 戦闘において熱は絶対使わねえ!」

 轟くんの氷結を、僕はアッパーで相殺する。轟くんは風に吹かれた木の葉のように転げまわる。

 そのような光景が続き、観客達もしらけ始めた。

「№2の息子があのざまかよ」

「緑谷のやつも緑谷のやつだ、とっとと終わらせてやれよ」

「審判は止めねえのか、さっきの試合と比べても大分クソだぞ」

 ざわめきはさらに大きくなり、ついにはブーイングとなった。

 

sideメリッサ

「轟さんが……アレほどまでに圧倒的に……」

 八百万さんが、ショックを受けたように声を出す。

「み、緑谷のやつ、加減してやれよ……流石に見てられねえよ」

 峰田くんが目を塞ぎながら言う。

「はん、んなもん半分野郎がわりいに決まってんだろ」

 かっちゃんくんの言葉に、周りの視線が集まる。

「とっとと本気を出すか、負けを認めるのが筋だろうが、どっちもやらねえでリングにしがみついて、あれじゃあデクの方がかわいそうだ」

「確かに、あれで緑谷を悪者にするのは違うかもな」

 常闇くんが同調する。

「けど、緑谷ちゃんなら、触れずに轟ちゃんを場外に出す方法なんていくらでもありそう。なぜそうしないのかしら」

「……きっと、待ってるんや」

 麗日さんが、口を開く。

「轟くんが、本気出すのを、待っとるんや」

「だが、轟くんは戦闘で熱は絶対に使わないと」

「ああ、言ってたな」

「そうなの? じゃあ、イズク君は、轟くんのことが嫌いかもね」 

 私の言葉に、皆が目を丸くする。

「彼、言ってたわ。個性が発現する前は無個性と診断されてたって。

 それでもヒーローを目指して努力を続けてたイズク君にとって、個性があるのにそれを使わない轟くんは嫌いかもしれないわ。私も無個性だから、気持ちは分かる」

「ああ、そうかもなあ」

 かっちゃんくんが同意したように頷く。

「……でも、嫌いな人でも、轟くんが助けを求めてるんなら、イズク君は助けちゃうわね」

「……そういうものでしょうか?」

 八百万さんが、疑問を口にする。

「ええ、だって、助けを求める声をすべて聞き届けるヒーローに、彼はなるんだから」

 そう言って、私は笑った。

 

side轟

 

 緑谷は、俺を見下ろしながら言う。

「あの時八百万さんが殺されそうになった時、君は炎を使ったじゃないか」

「あれは……違う」

 俺の否定を、緑谷は否定する。

「違わない! 君は! いざって時こだわりを捨てて人を助けることができる人だ! 君の思いがどれだけ重いのかなんて知らない! けれど! 君はいざって時全力で立ち向かうことができる人間なんだ!

 僕達は、そんなヒーローになりたいんじゃないのか!?

 立ち上がれよ轟くん! 君の原点を思い出せ!」

 その言葉に、俺の記憶がフラッシュバックする。

「俺の……原点……」

 俺は親父を、違う、俺は母を、違う。

「俺は……親父の力は……」

 

 緑谷は一瞬堪えたようにつまりながら、こう叫ぶ。

「君の! 力じゃないか!」

 

 あれは昔見た、ドキュメンタリー番組。

『個性とは親から子へと受け継がれていくもの、ですが大事なのはそれが自分の血肉であると認識すること。そういう意味を込めて私は言うのです』

『いいのよ、お前は、血に囚われることなんてない』

 

『私が来たってね』

 

『なりたい自分になっていいんだよ』

 

 瞬間、俺は熱を生み出し、立ち上がる。

「緑谷……。すまなかった。迷惑かけたな」

 おれの謝罪を、緑谷は笑って返す。

「良かった。君が助かって」

 その後、雰囲気が変わる。

「フルカウル……70%!」

 相変わらずすげえ圧力だ。けれど。

「今の俺は、つええぞ」

「はは、ちょっと後悔しているよ」

 そう言って、俺達は笑いあった。

 

 そうか、俺、こいつとは最初にあった時から。

 

 熱を最大限ためて散々冷やされた大気に放ち、爆発を起こす。

 対して緑谷は、片足を地面に埋め、両手を打ち鳴らした。

 

 瞬間、視界が爆ぜた。

 記憶はない。

 けれど、妙にすっきりした。

 

 ああ、そうだ。

 こいつとは、友達になりたかったんだ。

 目が見えないのに、雄英に合格したすげー奴と、個性把握テストで俺よりすごかったすげーやつと、友達に。

 

 

 

 

「ようやく子どもじみたこだわりを捨てたか、焦凍」

 知らない天井の部屋で、親父が話しかける。

「今は休め。だが、これからだ。この戦いを越えて、お前は俺の完全な上位互換となった!」

 そんなことより、俺は結果については薄々分かっていたが、それでもはっきり聞きたかった。

「試合は、どうなった」

「……あの緑谷という少年は凄いな。結局一歩も動かなかった。」

「……そうか」

 こいつも緑谷の強さに思うところが有ったのだろうか言葉に詰まる。

「だが、すぐに追い越せる! 卒業後は俺のもとに」

 それでも懲りることのないこいつを突っぱねる。

「忘れたわけじゃねえ。お前が母さんにしたこと。なかったことにはさせねえ、けれど」

 俺は緑谷の言葉を思い出す。

「俺は、ヒーローになる。……そのまえに清算しなきゃならないことがあるけど。な」

 

 とにかく、この体育祭が終わったら、母さんに会いに行こう。

 そのあと、できれば緑谷と、友達に。

 

 

 




流石に勝ちます。
これは原作が神回なのであんま改変するのもあれかなと思いましたが、セリフとかは結構変えました。
あとメリッサさんまじヒロイン。

職場体験先、どこがいい? (参考)準決勝終了まで

  • 原作通り グラントリノ
  • 幼き日の憧れ プッシーキャッツ
  • インターンへの布石 サー・ナイトアイ
  • 異能解放戦線への布石 ミルコ

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