盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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準決勝 塩崎茨

『さあ、準決勝第一試合のスタートだ! 

 試合前の情報ではこの二人はどうやら何かしら因縁があるらしいぜ!

 あのエンデヴァーの息子を屠ったリトルオールマイト! 盲目の恐れ知らず! 緑谷出久!

 

 バーサス!

 

 ベスト4の紅一点! 雷速も高速も制する柳のごときしなやかさ! 眠れる森の戦姫(いくさひめ)! 塩崎茨!』

 

 僕達は、二人揃って対峙する。

 戦略的には、塩崎さんに何もさせずに倒しきるのが正しいんだろう。

 けれど。それではいけない気がした。

 

「塩崎さん。最初に謝りたい、ごめん。結局思い出せなかった」

「それは仕方ありません。私はあの時まだ幼く、名乗ることもできませんでしたから」

 塩崎さんは相変わらず祈るような姿勢だ。

「だから、この試合が終わったら教えてくれないか。君とどこで知り合ったのか」

「……では、私からもお願いです」

 塩崎さんはそこで一つ深呼吸をする。

「どうか、全力でこの試合を戦ってください。私はあなたの隣に立つために、この8年、ひたすらに突き進んできました。個性も身体も鍛えました。その集大成を今見せます。私の持てる全ての力と策でもって」

 そう言うと、塩崎さんは体操服の上を脱いだ。

 そのしぐさに会場中がざわめく。

 分かってはいたけど、鍛え上げられていた。

 成長途中の女性の身でここまで鍛え上げるのは、並大抵の努力では無理だ。

「……分かった、受けるよ」

 そう言うと、僕はボクシングスタイルのファイティングポーズをとる。

「ありがとうございます。いざ全力で」

 塩崎さんは両手を広げ、迎え撃つ。

 

「いけー塩崎!」

「B組魂見せてやれー!」

 

「負けんな緑谷ー!」

「寝技に気を付けたまえ緑谷くんー!!」

 

『さあ、試合前の対話も終わり! 準備は整った様だ! それでは準決勝第一試合! レディゴー!』

 

 フルカウル70%! スマッシュ!

 僕の拳が暴風を生み、塩崎さんに叩きつける。塩崎さんはツルを地面に突き刺し吹き飛ぶのを防ぐ。

 その間に、僕は塩崎さんと距離を詰める。

 だが、塩崎さんはとんでもないスピードでツルを伸ばし、上空に浮かび上がった。

 そして、塩崎さんのツルの体積が、増大していく。

 

『な、なんだ塩崎! その茨の量はー! 轟の大氷結にも劣らない規模だー!』

『今まで手を抜いていたわけではないだろうが、温存していたようだな』

 

 その姿はまるで巨人のようになり、僕を見下ろす。

「この一撃、全力であなたに捧げます。巨人の一撃(ゴリアテ・フィスト)!」

 茨の巨人兵が、僕に向かって一撃を振り下ろす。

 

『塩崎の一撃ー!! 大質量にアリーナが揺れる! というか緑谷大丈夫か! 死んだんじゃねえか!?」

『いや、よく聞け、この音は』

『ん!? 確かに何かドカドカって音が、なんだそりゃ! 緑谷! ツルの大質量に拳のラッシュで応戦! 拮抗しているー!! というか、掘り進んでいるー!!』

『騎馬戦での爆豪の動きにヒントを得たな。だが、音で位置情報を得ているあいつにこれは』

 

 レーダーセンスが乱れに乱れる。だが、塩崎さんの位置はぼんやりと捉えている。

 技の発動当初から動いていない! 

「それが君のゴリアテなら、これがぼくの投石だ! トルネイド・スマッシュ!」

 そして、塩崎さんの形がほぐれた。

 何。

『あーと! 緑谷! 見当違いの方向に攻撃ー!! 何してるー!?』

『よく見とけ、塩崎は自分の形をした茨の人形を作っておいた。普段のあいつなら見分けがつくだろうが、あれだけのラッシュの風圧で奴の聴覚も鈍っていた。その間に、接敵』

 ツルの中から、彼女の姿が現れる。そのまま、僕に茨を巻き付ける。

『拘束完了! 万事休すー!!』

『まだだ、吹き飛ぶぞ』

 僕は完全に動きが封じられる前に、轟くん戦でも行った猫だましをする。瞬間、突風が吹き荒れ、茨が裂ける。

 そのまま、塩崎さんにぶつかる。

 そして塩崎さんの手首を、掴んだ。

 背負い投げに移行しようとしたところで、ふと僕は思い出す。

 

 昔、こんな風に、女の子の手を握って。

 8年間の努力、8年前、何があった。

 

 僕が一瞬動きを止めた刹那、塩崎さんは逆に僕を背負い投げる。

 僕は何とか受け身をとり、ゴロゴロと距離を取る。

 そのまま追撃しようとする塩崎さんを、僕は手で制する。

 

「もしかして、昔、かっちゃんと助けた子?」

 

 僕の問に、彼女の動きが止まる。

 そのまま静止する彼女に、僕の予感は確信に代わる。

 

「やっぱり、あの時、ヴィランにさらわれそうになってた時、助けを求めていた子? 君なんだね」

 あの時、かっちゃんと大通りを歩いていた時に、たまたま聞こえた助けを求める声。

 僕はあの事件で、自分もヒーローになれると思った。

 助けを求める声を聞けるヒーローになれると思った。

 そのきっかけになった女の子。

 僕の、原点。

「やっと、思い出して、くれましたか」

 塩崎さんの鼓動が早くなる。彼女が涙をこらえているのが分かる。

『急に止まってどうしたボーイアンドガール? アーハ―?』

『黙ってろ』

 彼女はそれでも、涙を堪えて構えを取る。

「いま、私達は、クラスの皆の期待を背負い、倒していった者たちの無念を抱えてここに立っています。

 だから、動きを止めないでください。

 ……全力で戦いましょう」

「……そうだね。そうしよう」

 僕達は構えを取ると、左手と左手を合わせる。

 彼女は僕の腕を取り、投げようとする。

 僕は自分の方から飛んで、その投げの勢いを利用し着地、フルカウルのパワーを利用し投げ返す。

 塩崎さんはツルを編み込み、まるで巨大な四足獣のように形成し、体勢を整え、僕を迎え撃つ。

巨獣闊歩(ビヒモス・メイク)!」

 それに僕はパンチを繰り出し、弾き飛ばす。

 四本脚のラッシュと二本腕のラッシュ。打ち負けたのは、僕の方だった。

 僕はゴロゴロと吹き飛ばされる。

 

 彼女があの事件がきっかけで何を思ったのかは、わからない。

 でも多分、僕がきっかけで積み上げたんだ。

 その個性も、その肉体も、その技術も、その精神も。

 だったら、僕は全身全霊で彼女を迎え撃つしかない。

 だから、使おう。

 僕の全てを。

 

『あのバカ! あとで反省文だな』

『なんだイレイザー珍しく声を荒げて……なんだありゃあ!』

 

 僕の体から、紫電が嵐のように湧き上がる。

 それに対抗するように、塩崎さんもあの巨人を編み込む。

「100%・トルネイドスマッシュ!」

巨人の一撃(ゴリアテ・フィスト)!」

 

 その瞬間、衝撃がスタジアムを揺らした。

 僕は、咄嗟に逆の拳を打ち付け、踏みとどまる。

 塩崎さんは。

 

『緑谷の奴、超パワーを全身でなく右腕一本に集中させることで、全身バキバキになるのを防ぎやがった。そうじゃなかったら説教コースだぞ』

『よくわかんねえけど! 轟戦並みの大爆発! 果たして残ったのは! っておい……』

 プレゼントマイク先生が絶句する。

 無理もない。

 確かに塩崎さんは、リング内に踏みとどまっていた。

 けれどどう考えても、戦闘続行は不可能だった。

 塩崎さんの頭髪にあたる茨、それが全部なくなっていたからだ。

 自分の武器である頭髪をなくした彼女は、それでも一歩一歩、僕を目掛けて、よろよろと歩いてくる。

『うわあ、ミッドナイト。これは』

『……少し待て』

 彼女の歩みに、観客達も戸惑う。

「茨ー!! もういいよー!!」

 B組の女子の涙声が響く。それを皮切りにプロからも悲鳴が上がる。

「もう終わらせてやれー!!」

「カメラ止めなさい! 止めなさいって!」

「緑谷! もう止めてやれー!!」

 

 僕の聴覚は、彼女の呟きを正確に拾う。

「……まだ、全部、見せてない」

「……私を、助けてくれた、ヒーローに」

「……まだ、全部、見せれてない」

「……まだ、ありがとうって、言えてない」

「……まだ、まだ」

 そこまでして、僕に。

 

「塩崎さん!」

 気が付けば僕は叫んでいた。

「僕にどれだけ感謝してるのか、僕はわからない! 手を引っ張って逃げることしかできなかった僕に!」

「けど、これだけは知っててくれ!」

「あの時、君を助けることができたから! 僕は変われた!」

「自分を鍛えることができた! 前を向くことができた! ヒーローになれると思った!」

「だから! ありがとうって言うなら、僕のほうなんだ!」

「あの時! 僕を呼んでくれて! ありがとう!」

 

 そう叫ぶと、塩崎さんは立ち止まる。

 

「……そうですか、私、ずっと、あなたの力になりたくて」

「……でも、私は、とっくにあなたの力になっていたんですね」

「……それは、良かった……です」

 

 そう言って、まるで野に咲く花のように笑った彼女は、そのまま倒れ、僕は痛む右手で抱えた。

「塩崎さん戦闘不能! 勝者、緑谷出久!」

 担架ロボより、僕の方が早い。僕はフルカウルを使いその場を離れた。

 

『お、俺達は! あの二人の間に何があったのか正確には分からない! けど、けれども想像することはできる!

 塩崎茨は確かにやり切った! 15歳の少女は確かにやりきったのだ! ゆえに! クラップユアハーンズ! クラップユアハンズプリーズ! クラップユアハーンズ!』

『泣きすぎだろ』

 相澤先生の声と割れんばかりの拍手を置いて、僕は塩崎さんを抱えて走り去った。

 

 

 

 

 

 

side あの日の少女

 

 私はあの日、家族と旅行に行っておりました。

 その時現れたのは、強い個性を持つ子どもを攫うという犯罪組織のヴィラン。

 私は誰もいない路地裏で羽交い絞めにされ、助けを求める声は届かず、もうダメかと思っておりました。

 そこに現れたのは、目元にバンダナをし、杖を持った盲目の男の子でした。

「その子を離せ! すぐにヒーローが来るぞ!」

 ヴィランは激高し、男の子を殴ろうとします。

 ですが、少年は未来でも予知したかのようにヴィランの攻撃を躱すと、逆に押し倒してしまいました。

 その後、少年は私の手を取り、もう一人の少年とヒーローのいる所まで逃げてくれました。

 

 警察に保護され、そのヴィランの背後にあった組織も摘発され、警察による監視も解かれたその日、私はその少年に会いに行きました。

 そこで見たのは、目が見えないというのにボクシングのトレーニングを続けている少年でした。

 その姿が、あまりにも真剣で、あまりにも神々しくて、私は話しかけることができませんでした。

 そして、私は決心したのです。

 彼は必ずヒーローになる。

 その時、私も隣に立てるヒーローになると。

 そこからは、辛い鍛錬の日々でした。

 個性のコントロール、度重なる限界突破の日々。

 近所の武道場に入り、大人の門下生に交じって乱取りなど実践的な稽古のトレーニング。

 それも全て、あの方のため。

 そして、雄英入学早々に起こった、敵襲撃事件を乗り切ったというA組の人達を見に言った時。

 あの日私はようやく出会ったのです。

 私の原点である。あの方に。

 

「これが私のオリジンです。すいません心配をかけて。水を飲んで日光を浴びればすぐに生えてきますので」

「いや、ありがとう。話してくれて。……そうだったんだね」

 

 緑谷さんは、淡々と私の話を聞いてくれました。

 そして、私の手を握ってくれます。

 

「君のこと、覚えてなくて、ゴメン。僕、気づかされたよ。人を助けるのって、大変だって。

 ちゃんと助けた人のこと、覚えてなくちゃいけないんだね」

「いえ、最初に言ったとおり、幼い日のことですから。でも、思い出してくれて、私嬉しかった」

 そう言うと、私は緑谷さんの右手を握ります。

 緑谷さんの右手は傷だらけで痛々しいです。

 おそらく次の試合もあるので、体力の温存のため、完全に治癒はしなかったのでしょう。

 ですが、確かに私に向かって、全力で向かってきてくれた証でもあります。

「だから、いつかまた、あなたがプロになったら、私も隣に立たせてくれますか?」

「うん! 当然だよ! 塩崎さんのツルがあれば僕の索敵範囲も広がるだろうし。それにあのゴリアテ・フィストって技、凄く強かった!」

 そう言われ、私はまた涙ぐみそうになります。

 ですが、それをぐっとこらえて、笑みを浮かべます。

 

『準決勝第二試合! 爆豪の勝利! クラップユアハーンズ!!』

 

 その時、プレゼントマイク先生の宣言が響きます。

「さあ、決勝も頑張ってください。私の分まで。それと、どうか爆豪さんをお救いください」

「かっちゃんを……救う?」

「はい、彼は贖罪を求めています。それを与えられるのは、あなただけです」

 緑谷さんは、そこで涙を堪えたように笑います。

「やっぱり、君はいい人だった。あの時君を助けられてよかったよ。じゃあ、行ってくるね」

 そう言って、緑谷さんは出ていきました。

 代わりに、B組の皆が入ってきます。

「塩崎ー!! 俺は感動したぜ! お前はB組の誇りだー!!」

 そう言うや否や、鉄哲さんは男泣きに泣いてしまいました。

「茨! あんた皆の分まで頑張ってくれたんだね! 本当に格好良かったよ!」

 拳藤さんはそう言って、私を抱きしめます。

 見ると、皆さん泣いています。

 私はそれが可笑しくて、でも、私自身も涙が出てきてしまいました。

 けれど、それは悔しさでなく、

 きっともっと、暖かな。

 

 

 

 

 

 

 塩崎茨 準決勝敗退。

 

 

 

 

 

 

 

 




茨ちゃん強くしすぎた(挨拶)
こいついつもキャラ強くしすぎてんな。

さあ、これでメリッサに対抗できるのか。


アンケート締め切ります。
意外と拮抗したので、ラーメンばりに全部載せようと思います。

職場体験先、どこがいい? (参考)準決勝終了まで

  • 原作通り グラントリノ
  • 幼き日の憧れ プッシーキャッツ
  • インターンへの布石 サー・ナイトアイ
  • 異能解放戦線への布石 ミルコ

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