コロナのせいで結構書き溜め溜まってしまった。
僕はメリッサさんとのパソコン通話を開き、彼女にヒーロー名を告げる。
「そう、デアデビル……。私の話、覚えててくれてたんだ」
「はい! あの日のメリッサさんとのお話を忘れないように、怯まずに誰かを救えるように、名前をつけました」
「格好いいヒーローネームね! うん! 凄いアイデアが浮かんできた! 名前に合った格好良いコスチュームとアイテムを作るわね!」
「はい! それから今度職場体験ってのがあって……」
他にも近況の報告等をしつつ、メリッサさんに日曜日の予定を話す。
「まあ、グラントリノ! おじさまの先生ね。その方に会いに行くんだ?」
「はい。メリッサさんもご存知で?」
「一度お話を伺っただけだけどね。そっか、職場体験には間に合わないけど、新しいスーツの開発急ぐわね。今度会うときには渡せると思うわ」
「はい! 楽しみにしてます!」
僕とトゥルーフォームのオールマイトは、甲府行きの新幹線に乗っていた。
「はははははキキキ緊張しななくてもいいいよ緑谷少年! とてもやさシイ肩たたききき」
「落ち着いてくださいオールマイト、何言ってるのか全然分かりません」
「そ、そうかすまない! いやついもう久しぶりで、ねえ僕の大腿筋?」
むっちゃ震えてる。
本当に大丈夫なのか不安になってきた。
「そ、そういえばあの後は、お師匠様の夢は見てないのかな」
「見ていないです。……もう一回心操くんに洗脳してもらえば何かわかるでしょうか?」
「ふむ、あまり焦ってやる必要はないと思うがな、どんなリスクがあるか分からないし」
オールマイトは渋ったような声をだす。
「そうですね……。あの、オールマイトのお師匠様ってどんな人でしたか?」
「……そうだなあ。一言で言えば私にとって」
「母親みたいなもの、だったなあ」
そう言うオールマイトの「だった」の部分。
そこがあまりにも重たい響きで。
僕はそれ以上聞けなかった。
山梨県
グラントリノ事務所
おじいさんがケチャップとソーセージをまき散らして倒れてる。
「うわあああああああああああああ死んでる!!」
「落ち着いてくださいオールマイト、ケチャップとソーセージです」
「生きとる!」
「生きてた!」
オールマイト、ノリがいい。
「して、誰だ君は」
「先生、お久しぶりです八木俊典です」
「雄英から来ました緑谷出久です」
「誰だ君は!」
「先生!! お久しぶりです八木俊典です!!」
「雄英から来ました緑谷出久です!!」
「誰だ君は!!」
「先生ーー!!」
「いやあ仕上がってますね……」
いや、こちらをからかってるとは分かるんだけど。
「ま、冗談はさておいて、よく来たな俊典」
「あ、ご冗談だったんですね」
オールマイト、天然だった。
「そして、そこの男が、お前の選んだ9代目か」
「はい、緑谷出久と申します」
僕は失礼のないよう深々とお辞儀する。
「うむ、わしはグラントリノ。オールマイトの先生をやっておった。一年だけだけどな」
そう言って笑うおじいさんは立ち振る舞いから、おとぼけは口だけだなと分かる。
「お話は伺っております。今日は何かお話があると」
「なあに、そう構えるな。単に昔話に花咲かせたいってだけだ。志村のことを知るヤツは年々少なくなるからな」
「志村さん……あの女の人はそういう名前なんですね」
「何だ俊典? 説明しとらんかったのか? 七代目ワンフォーオール継承者、志村菜奈、ワシの盟友であり、そこの八木俊典の師匠よ」
そう言うと、グラントリノはお茶を出してくれた。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
「先生、言ってくだされば私が……」
「気にすんな俊典。しかし、九代目継承者が雄英体育祭を優勝するとはな……。
体育祭見さしてもらったが、なかなか見る目あったんじゃねえのか?
まあ何度か無茶な場面はあったがな」
「はは、恐縮です。ですが私が教えたことなど何も。緑谷少年が自分で学び鍛え、勝ち取ったのです」
「だが、それにしてもきっちりワンフォーオールを使いこなしているじゃないか。理想は100%を使いこなすことだが、それも体が出来上がってくれば自然とそうなるだろうよ」
「ありがとうございます!」
「しかし、時間が経つのははえーもんだ。
俺にゲロ吐かされまくってたあのガキが立派に師匠やってやがる。
道理で俺も年をくったものだ」
「先生! その話は!」
道理で怯えていると思った。
「お年と言いますが、未だ相当鍛えてますねグラントリノ、すごい圧力だ」
「ほう、分かるのか?」
「大体ですけどね」
僕の言葉にグラントリノは愉快そうに笑う。
「目が見えないからこそ、見えるものもあるか……。おもしれえ、いっちょやってみるか」
あれ、地雷踏んだ?
その瞬間、グラントリノが消える。
否、天井、跳ねた、加速する個性?
右に回った、立ち上がって、いや、さらに180度、
旋回、無理、フルカウル5%、
ビリー・クラブを広げて、向かってくる。
キャッチ。
捕らえた。
「先生! 人が悪い!」
オールマイトが焦って近づいてくる。
「……元気なおじいさんですね」
「はははすまんすまん。だがやるじゃないの。分析と先読みか」
「全然本気の速度ではないでしょう? 全く」
グラントリノの心音は全くと言っていいほど乱れていない。
オールマイトの先生というのもわかる強さだった。
「いや、それにしても初見で捉えられるとはな、こと近接戦の才能で言えばお前を凌ぐかもな俊典。
これはあいつを呼んでおいて良かったな」
「あいつ?」
「ああ、別にいい。それより教えてくれよ、志村は何て言ってたんだ?」
グラントリノは僕の拘束をあっさりほどき、席に戻る。
捕縛術も身につけないとな………。
「はい、特異点はとっくに過ぎてる、だから僕は備えなければならない、と。……何か聞いていませんか?」
「ふむ……。それが噂の個性特異点のことなのか、それともワンフォーオールに備わった何か別の意味なのか」
個性特異点とは、ネットで時折見られる終末論で、複雑多様化していく個性により、いずれ現代社会は生まれる個性により破滅を迎えるというものだ。
「どちらとも取れる言い回しでしたね。ですが、備えると言われても……」
「ふむ、まあしばらくはワンフォーオールの上限値を解放することを考えるしかあるまい。
今はパッと見、7割といったところか?」
「そうですね……一応この間75%で動けるようになりました」
「ふむ、着々と伸びてはいるようだね」
入学試験では60%だったから、牛歩ではあるが伸びている。
けれど、まだまだだ。
「まあ、俊典は100%を受け取った当初から使えていたからな」
「流石はナチュラルボーンヒーロー……」
立つ瀬がない。
「だが、技術的な面ではお主の方が勝っている。そう落ち込むなよ」
「はい……」
とは言っても、なかなか先は厳しそうだ。
その時、チャイムが鳴る。
「お、きよったか。相変わらずキッチリした奴だ」
「先生? 誰か呼んだんですか?」
グラントリノはニヤリと笑う。
「こないだ賭けをしてな。俊典の選んだ男が一位を取ったら素直に会う。とな」
「……まさか、呼んだんですか!?」
「とっとと会わせておけばいいだろ? お前さんの元サイドキックと現弟子をな」
「オールマイトの、元サイドキック?」
それはつまり。
入ってきたのは、身長2メートル程の細身の男性。
細身の割に、凄まじく鍛え上げられた肉体。
そして、目の見えない僕でも分かる程、鋭くこちらを射抜く眼光。
「久しぶりだな。オールマイト。そしてはじめまして、九代目継承者」
「……久しぶり。ナイトアイ」
オールマイトの元サイドキック。
サー・ナイトアイがそこにいた。
「まあとりあえず、茶でも飲め」
「……相変わらずマイペースですね、グラントリノ」
ナイトアイはするりとオールマイトの対面に座る。
そして、ナイトアイとオールマイトの二人が対峙する。
重苦しい空気に、思わずグラントリノに尋ねる。
「あの、お二人、仲悪いんですか? とても仲良しだとの記憶があるのですが」
僕が光を失う前から、オールマイトはナイトアイとコンビを組んでいた。
丁度、オールマイトが活動を見合わせていた時期にコンビを解消したが、その時に何かあったのだろうか?
「まあ、昔ちょっとケンカ別れしてな。少し拗れている」
「……そんな人達をいきなり会わせて大丈夫なんですか?」
「なあに、老い先短いとだんだんおせっかいになってきてな」
自由だなこの人。
僕らの会話をよそに、ナイトアイはずずっと茶を啜る。
そして、おもむろに切り出した。
「単刀直入に聞く、オールマイト。あの件は九代目には教えているのか」
あの件?
「いや、教えてない」
「早急に教えるべきだ。その教え子を思い、信頼しているのであれば、なおのこと。とりあえず言いたいのはそれだけだ。
……あなたが無個性の中学生、それも光を失ったただの少年にワンフォーオールを継がせたと聞いた時は正気を疑った。
だが、確かにその少年は次代の平和の象徴になるために必要なものを持っている。
そのために、どれだけの努力が必要だったかは想像に難くない。
だからこそ、あなたは誠意を見せるべきだ」
ナイトアイは冷たい声でオールマイトを詰める。
なのに、僕は自分の心音がうるさくなるのを感じる。
「しかし、それでは……」
「体育祭の表彰式であなたは言ったな、『君と隣で戦う日を楽しみにしている』と。
何も変わっていないんだあなたは。
あなたを支えたい、助けたい、力になりたいと思う気持ちを何故かたくなに拒絶する!」
ナイトアイは感情に任せて立ち上がる。
「ナイトアイ……」
「あなたとその少年には私は思うところがある。
だがヒーローとして! 私はその少年への嘘を見過ごすことはできない!
彼が友達のために、少女のために、自分の光を奪った相手のために身を削って戦うことのできる少年だと知ったからだ!」
ナイトアイは言葉を終える。
何故か僕は嫌な予感がして、オールマイトに少しだけ近づく。
「……なんの話です? オールマイト、サー・ナイトアイ、グラントリノ」
「緑谷少年」
「お願いします。オールマイト。教えてください」
僕の声は思った以上に震えている。
「僕では、あなたの重みを支えるのに足りませんか?
体育祭で優勝して、僕が来たって見せれて、それでも、まだ足りませんか……?」
「緑谷少年、そんなことはない」
「だったら教えてください! とても大事な話なんでしょう!? それを何で僕に教えてくれないんです! 僕はあなたの後継者で! あなたとともに鍛えてきた! そんな僕に言えないことってなんですか!」
僕が叫ぶと、オールマイトは言葉を失う。
違う、僕はあなたにそんな辛い心音を。
「……すいません、声を荒げて……。外の空気を吸ってきます」
僕が杖を持って立ち上がろうとすると、オールマイトは手で制する。
「いや、話すよ緑谷少年。……確かに私が不誠実だった。ナイトアイの言う通りだ」
オールマイトはそう言うと、一つお茶を啜る。
「……ナイトアイの個性は知っているな?」
「……予知ですよね? 詳しい条件は公表されていないですけど」
「ああ、6年前、とあるヴィランと戦った私は、半死半生の重傷を負った。君にも見せたな。この傷だ」
「……はい、覚えてます」
「ナイトアイは引退を勧め、私は平和の象徴の継続を優先した。そこで意見の食い違いが出たのが私達がコンビを解消した理由だ」
僕は頷き、話の続きを促す。
「その時、ナイトアイは私を予知した。そしてこう言った。『もし、このまま戦い続ければ、私はヴィランと戦い、凄惨な死を遂げる』と」
「結局、戦いを続けた私はナイトアイと喧嘩別れ、今に至るというわけだ」
僕は、ただ、茫然とすることしかできなかった。
「オールマイトが……死ぬ?」
杖が落ちた。甲高い音が部屋に響いた。
ラーメン全部乗せ。
すいません。プッシーキャッツはどうしても乗らなかったので、林間合宿編まで少しお待ち下さい。