「オールマイトが、死ぬ?」
僕は、茫然と現実を咀嚼する。
「そ、それは、いつ頃のことなんですか」
「……今年か、来年だ」
「すぐじゃないですか!」
僕は思わず叫ぶ。
「こ、こんなことしてる場合じゃない! はやく予知と反する行為をしないと!」
「無理だ。ナイトアイの予知が外れたことはない」
「そんな……。ねえ、嫌ですよ、生きてよオールマイト……。
僕は、あなたのおかげでここまでこれた。かっちゃんとも向き合うことができた。塩崎さんのことも思い出せた。メリッサさんと出会うことができた。1-Aの皆と、友達になれた。
隣で戦うのを楽しみにしてるって言ったじゃないか……。僕が一人前のヒーローになるまで、生きてよ、オールマイト……」
僕に涙腺がなくてよかった。あれば、きっと泣いていただろう。
「死ぬつもりはないさ、緑谷少年」
オールマイトはそこで力強く言い放つ。
「例えどんなヴィランと出会うとしても、私は必ず勝って見せる。それが平和の象徴としての私の矜持だからね」
「……オールマイト」
「それに、君の隣で戦うことを楽しみにしているのは本当だ。そのために、運命なんていくらでも捻じ曲げてみせる」
そう言ってオールマイトはマッスルフォームになる。
「……今まで黙っていてすまなかった。だが、私は決めたよ。必ず運命にあらがって見せる」
オールマイトの言葉に、コホンとナイトアイが咳払いをする。
「……すまなかった、オールマイト。少々性急すぎたようだ」
「いや、ナイトアイ。確かにいいタイミングだった。……緑谷少年にとっても私にとってもね。
確かに、緑谷少年の憧れに身を任せ、私は彼の気持ちをくんでいなかった。……君の気持ちもね、本当に成長しない男だ私は」
オールマイトはそれでも、ポージングを取った。
「だが、私には頼れる仲間が付いている。だから、負けはしないさ。たとえどんな敵であってもね」
「頼れる仲間か……。その言葉を、どれほど聞きたかったか」
ナイトアイはそう言って、僕の肩を叩く。
「どうやら、君という男は私の思う以上に大した人間のようだ。君が言った、オールマイトすら助けられるヒーローになるという君の夢、それは今この瞬間、確かにかなったのだから」
「……ナイトアイ」
「この頑固な男が、人の助けを借りようと思うとは。それは口ばかりでなく、君が雄英体育祭という場で戦いぬいたからこそだ。
だから誇りに思いたまえ、そしてありがとう。私も彼と仲直りすることができた」
「……恐縮です」
そこで、グラントリノが手を叩く。
「じゃあ、話も纏まった所で、今後の方策に話を進めるか」
グラントリノはお茶のお替りを注いでいく。
「十中八九、オールマイトを殺すヴィランというのは、オールフォーワンで間違いあるまい」
グラントリノが切り出す。
「しかし、先生。奴は確かに6年前、仕留めたはず」
「だが、雄英襲撃の際に出たらしいじゃないか、個性の複数持ちの改造人間が。奴が生き延びていたと考える方がむしろ自然だろう。
それにお前を倒せるヴィランなぞオールフォーワンかそれこそアメリカのキングピン位のものだろうて」
そこに僕は口を挟む。
「そのオールフォーワンというヴィランが、例のオールマイトに傷を負わせた?」
「ああ、私の宿敵であり、歴代ワンフォーオール継承者の宿敵でもある」
ナイトアイがこくりと頷く。
「奴の個性は”人の個性を奪う”また、”人に個性を与える”というもの。その中に傷を癒す個性があってもおかしくない」
「ネットの都市伝説では見ますが、まさか実在するとは……」
本当に、僕が関わるのは”伝説の戦い”なのだと実感する。
「そして、奴はヴィラン連合の背後に立ちながら、お前を狙っている」
「……そのせいで1-Aの皆が傷ついたなら、僕は許せません」
「緑谷少年、そう怒るな。許せんのは、私もいっしょだ」
オールマイトは僕をいさめる。
「だが、奴のことは今のところは警察に任せるのが一番だろう。私としては、緑谷……失礼、デアデビルの底上げをするのが急務だと思うがな」
「う……。確かに、僕はまだ75%しかワンフォーオールを引き出せません……」
「それでもよくやっている方だとは思うが……。やはりオールフォーワンを相手取るとなると、100%を扱えないと心もとない」
それほどの強敵なのだ。オールフォーワンというのは。
「だが、緑谷少年はまず職場体験だな。ミルコのところで何か掴んでくるといい」
オールマイトがそう言うと、ナイトアイも同調する。
「ふむ、選択としては悪くない。奴は口は悪いが実力は確かだ。存分にしごかれてくるといい」
「は、はい!」
「ワシらは塚内に確認して、善後策を練ろう。
……既に後手なのが痛いがな」
また知らない名前がでてきたな。
「塚内さんというのは?」
「ああ、君は会ってなかったね。私の警察内の友人だ。今後、警察に関わりができることもあるだろうし、落ち着いたら顔を繋いでおこう」
「よろしくお願いします」
その後は、太陽が傾くまで議論に熱が入った。
けれど、オールマイト、ナイトアイ、グラントリノ、三人ともどこか嬉しそうだった。
その日の夜、僕は夢を見た。
夕焼けの町、ビルの上で僕は夕陽を見ている。
「俊典が、前を向けて良かったよ、ありがとう」
「志村、菜奈さん」
黒髪のとても美しい女性がそこにいた。
「ありがとうな緑谷くん。君のおかげで、良い流れに行きそうだ」
「いえ、僕は何も。その、特異点ってなんなんですか?」
「……それについては言えない。だが、君が早く力をつけなきゃいけないのは本当だ」
志村さんは心苦しそうに言う。
「……グラントリノ、寂しそうでした」
「あいつには悪いことをした。結局私は、約束を破ることしかできなかったから。
友も、弟子も、愛する息子も」
そう自嘲する志村さんは悲しそうで、僕は我慢できなかった。
「そんなことないです。あなたの弟子のオールマイトは色んな人を助けてきました。
それは巡り巡ってあなたが助けた人達なんです。
そして、きっと僕もたくさんの、誰かの愛する人を守って見せます」
そう言うと、志村さんはハッとして、嬉しそうに笑った。
「君は優しいな、緑谷出久。俊典が君を選んだのは英断だった」
そう、あらゆる人の心を洗うような快活な笑みを浮かべ、女性は消えた。
翌日、学校。
「おいらMtレディ!」
「やらしいこと考えてるわね峰田ちゃん」
「違うし!」
ギクって言った。
「……緑谷は、どこにするんだ」
轟くんがふらっと僕に尋ねてくる。
体育祭のあとから、険がとれて関わりやすくなったとクラスでも評判だ。
「轟くん、僕はラビットヒーローミルコの所かなって。轟くんは?」
「俺は、エンデヴァーのところにする」
僕は轟くんの言葉に少し驚く。
轟くんは、はにかんだように笑った。
「勿論許したわけじゃねえ。けれど、あいつのヒーローとしての面を俺は見ようとしなかった。
それはあんまりに、寂しい気がしてな」
「轟くん……。いいと思うよ、また何かあったら教えてくれ」
「ああ、……連絡先、教えてくれるか」
「うん! ちょっと待ってね。ヘイジャービス。連絡先を登録して」
『はい、イズクさん』
僕のスマホから電子音声が響く。
「珍しいAIだな。それは?」
「うん、デヴィットさんが知り合いから融通してくれた人工知能ソフトで、僕用にカスタマイズしてあるって言ってた」
「そうか、お前はどんどん前に向かって行くんだな。俺も何とか置いてかれないように頑張るよ」
そう言って連絡先を交換した所で、かっちゃんが近づいてくる。
「何だ半分野郎。お前もエンデヴァーか」
「もう半分じゃねえ。お前もってことは、爆豪もか」
「ああ、ベストジーニストやミルコとも迷ったが、どうせならナンバー1に近い方がいいと思ってな」
「……そうか、お前のオールマイトも超えるヒーローになるって宣誓、あれにあいつも思うところあったのかもな」
かっちゃんは舌打ちする。
「あんまセンシティブな所、見せんじゃねーぞ」
「ああ……あれ、事情知ってるのか?」
「聞かんでもお前の態度見ればなんとなくわかるわ舐めんな」
「そっか」
かっちゃんも、ミルコの指名受けてたんだ。
「おめーと一緒でも、お前を超えることはできねえからな。
認めたくねえが、体育祭の結果で格付けはすんだ、確かに俺が下だ」
「かっちゃん、あの決着は……」
ほとんど互角だったと言おうとした所で、かっちゃんは言葉を挟む。
「お前は半分野郎と茨女で消耗しまくってただろ。そんなお前と互角だった時点で俺の方が下だ」
「「「大して消耗させられなくてすいません」」」
麗日さん切島くん常闇くんが謝る。
相変わらず変な所で真面目というか、なんというか。
「だが、だからこそ! このままじゃ済まさねえぞデク!」
「うん! 僕も精いっぱい学んでくるよ!」
「男のあれだなー」
「麗日さん。麗日さんはどこ?」
「私ガンヘッド。指名来てた」
そう言って、麗日さんはパンチの真似をする。うんかわいい。
「ゴリゴリの武闘派じゃん! てっきり災害救助方面に行くのかと」
「うん、爆豪くん戦で思ったんだ。私触れられれば強いけど触れるまでが課題やって。それにやりたい方だけ向いても見聞狭まるし。そう言えば透ちゃんにも一票入ってたよね。どこやったん?」
「ふっふーん。何と聞いてよ。あのエッジショットから指名入ってたんだあ」
「忍者ヒーローエッジショット! 成程、インビジブルガールとはイメージ的にもあうね」
「正直実力で指名取れたとは思ってないけど、折角ナンバー5に指名もらったんだから、沢山学んでくるよ!」
「そっかあお前らすげえな! 常闇もホークスから指名もらったって言ってたし、トップランカー揃い踏みじゃねえか」
切島くんが笑顔で言う。
みんなどんどん前に進んでいる。
体育祭で優勝したとはいえ、うかうかしてられないな。
そして時は流れ、職場体験当日。
僕らは東京駅に集合していた。
「コスチューム落とすなよ」
メリッサさんが新しくデアデビル仕様のスーツを開発してくれているが、それまではこのオールマイトリスペクトのスーツで行くことになる。
「ふふーん、やっと見せれるよ。私の最新鋭光学迷彩コスチューム」
「……それ見れるの?」
葉隠さんと耳郎さんが楽し気な会話をしている。
だが、僕はやはり気になる人がいる。
「飯田くん、何かあったら言ってくれ、友達だろ」
飯田くんの行き先は保須市のマニュアルヒーロー事務所。
間違いなく復讐を考えている。
「ああ」
後ろを向く飯田くんに何も言えない。
……とにかく、僕のことも考えないと。
「あれ、デクくん、ミルコってことは広島じゃないの?」
「それが、メールで『東京駅で待て』って前日に来て……」
「ていうか、ミルコって事務所持ってないんだよね? 大丈夫なの?」
そう言えば、じゃああのメールって本人が?
そう思っていると、悲鳴が、多分僕にだけ聞こえる音量で響く。
「イレイザーヘッド! あっちに1km! 多分強盗です!」
「ふーん、あれが聞こえるのか。やっぱ合ってるな私とお前は!」
僕は声がした方を向く。
身長は160センチ、志村さんに勝るとも劣らない筋肉質な体。
肌の匂いからおそらく褐色。そして輪郭ではっきりわかる兎の耳。
ラビットヒーローミルコが、おそらく私服姿でそこにいた。
「んじゃ、とりあえず脱兎のごとく……」
そう言って、彼女は、僕を小脇に抱える。
ち、力強い!
「え、ちょっとま……」
「事件は待ってくれねえ! 行くぞ!」
そう言うと、ミルコは凄まじい勢いで飛び出し、建物の間を跳ねるように飛び出していった。
僕を抱えたまま。
「ええええええええええええええええええええええええ!!!」
ドップラー効果を見せながら飛んでいく緑谷出久を見て、爆豪勝己は、声を上げた。
「……行くのやめといてよかった」
クラスメイトは茫然と頷いた。
第5ヒロイン登場。そうジャービス(違いますミルコです)
と言っても、おそらく2週目にならないと攻略対象にならないタイプのヤツ。
どっちかというと師匠ポジションで書いていきたいです。