「ふむ、攻撃に殺意が高いのは気になるが、友達を思っての攻撃か。お前もいい」
僕はヒーロー殺しと対峙する。そのまま路地裏の状況を確認する。
ヒーロー殺しはビリー・クラブを抜き取り、はるか後方に投げ飛ばした。
「緑谷くん! ヤツの個性で俺は動けない! この人を連れて逃げてくれ! こいつの話では俺はどうやら殺されない!」
「……ヴィランの言うことなんて信じられないよ。それに、背中を見せたらその瞬間ザク! だ」
僕はヒーロー殺しの重心、立ち振る舞いから戦闘力を推察する。
間違いなくトップヒーロー級。
ブルズアイと比べても遜色がない。
だが、やるしかない。
「く! おそらく切りつけた後何かをすることによって動きを封じる個性だ! 一対一では危険すぎる」
これだけ情報を出しても、飯田くんにとどめを刺す気配がない。それでも、油断はできないだろう。
「ありがとう。……もうすぐミルコと、エンデヴァーが来る。かっちゃんや轟くんもいる。それまで何とか耐えて見せるよ」
それでも、人命がかかる以上不確実な戦闘は避けたい。
「ヒーロー殺し、いやステイン。おとなしく退くつもりはないですか? 相当不利な状況ですけど」
「ふん、人命を優先し、交戦を避けるか、悪くない判断だ。だが……。俺にはそいつを殺す義務がある。贋者のヒーローを殺す義務がな」
「贋者って、この人が何したっていうんですか?」
僕は純粋に疑問に思って聞く。そんな不適行為をするような人には聞こえないが。
「俺相手に何もできない。それが罪だ。
ヒーローである以上、強さは最低条件。それを満たさぬ愚物を生かして何になる」
僕はその言葉にムッとする。
「強かろうが弱かろうが、それでも誰かを救いたいと思う気持ちがあれば、それで十分じゃないか。
少なくとも、人殺しのあなたにヒーローを語る資格はない」
「ハァ……見解の相違だな。気持ちだけではヒーローは務まらない。オールマイトのような、社会を正しく導くヒーローで満たされるまで、俺の戦いは終わらない」
「……それで殺人を正当化出来るとでも?」
「正当化できるさ。あの人のような真の英雄の影で、有象無象が英雄像を汚す。
それが俺には我慢できない」
「ふざけんな」
「何……?」
こいつは今、許せないことを言った。
「アンタは……オールマイトを、殺人の理由にするんだな」
「……何を」
「オールマイトは確かに格好良くてグレイテストヒーローで、だからこそ悲しみを背負いながら、懸命にあがいて戦ってる。
そんな人を殺人の理由にするなんて、お前は許されないことをしているんだヒーロー殺しステイン!
あの人の功績と願いを、英雄像を一番汚しているのはお前だ!」
「……貴様とオールマイトの関係は何だ」
「……師弟だ!」
僕が叫ぶと、ステインの心臓が気持ち悪い音を立てる。
「そうか! ならば、俺とお前はどうあっても戦わなければならぬようだ!」
そう言うと、ヒーロー殺しは剣を抜き放つ。
僕は静かに、ボクシングスタイルのファイティングポーズを取る。
「そのつもりだよステイン。オールマイトを理由に、これ以上人は傷つけさせない。それを知ったらあの人は悲しむだろうから。
お前をどこにも逃がさない」
「行くぞ! オールマイトの弟子……。名は?」
「……デアデビル」
「ふ、向こう見ずなことだな。行くぞ!」
そう言って、僕達は激突した。
どんな個性か分からない、何かをさせるわけにはいかない。攻撃も食らえない。
だが、身体能力なら、僕が上だ。
「フルカウル75%!」
僕は右ストレートを放つ、だがそれは見せ札。ヒーロー殺しは僕の手首を切り落とそうとする。
左ジャブ、対応。バッティング、のけぞって避ける。そこを足払い。
右足を折った!
「ぐう!」
「お前に何も! させない!」
組技は武装している相手にはリスクが大きい。
ミルコはたしかこうして。
脱兎のごとく、蹴り飛ばす!
「焦りすぎだ」
隠しナイフ!?
足を斬り落とされる! まずい!
「おら邪魔だデク!」
「かっちゃん!」
「爆豪くん!」
「凍れ!」
「轟くんまで!」
二人の遠距離攻撃がステインを貫こうとする。
だが、ステインは跳ねるように避けた。なんていう反応速度と運動神経! 片足は間違いなく折れているのに!
「デク! てめえはモブとメガネ連れて逃げろ! 遠距離できる俺らが最善!」
「爆豪の言う通りだ。北のあの脳無とやらは親父が倒してるはずだ。そっちの方が安全だ。プロも大勢いる。戦闘許可も貰って来たしな」
「分かった! 多分傷つける条件で発動する拘束系の個性! 一発もくらっちゃだめだ!」
「余裕だわクソが! とっとと退け!」
「舐めるな! 贋者ども!」
ヒーロー殺しの殺気が膨れ上がる!
あまりの気迫に逡巡する。
このまま行っていいのか?
「信用しろクソデク! 俺を舐めとんのか! つーか何だ贋物ってクソ程本物だわ!」
「この間までの俺じゃねえ。とっとと連れて逃げろ!」
二人に言われ、僕も意を決する。
その時、エンジン音が鳴り響いた。
「飯田くん!」
「すまない。皆、迷惑をかけた」
「……時間経過で解けるのか。大したことねえ個性だな」
「は! これで四対一だ! 方針転換だ! 囲んでボコす! 行くぞ!」
「俺は退かんぞ! そいつを! 殺すまでは!」
そこで僕はフルカウルを使い、後ろに回り込み、ビリー・クラブを拾う。
ヒーロー殺しをけん制し、二人の遠距離攻撃を当てやすくする。
ヒーロー殺しはそれでも、全く隙を見せず投擲により立ち回る。
かっちゃんの声がする。
「目瞑れ、メガネ、半分野郎」
それは小声で、二人だけにかろうじて聞き取れる音量だ。
「スタングレネード!」
「グ!」
おそらく眩い光が路地裏を覆ったのだろう。
その隙に、僕は後頭部にビリー・クラブをフレイルのように投げつける。
ヒーロー殺しは苦悶の声を上げ、蹲ろうとする。
「レシプロ! バースト!」
そこを飯田くんの蹴りが顎にヒットし、今度こそ崩れおちた。
「……ビリー・クラブで拘束する。武器は全部外そう」
「めんどくせえ。裸にむきゃいいだろ」
「流石にそれは、絵面がヤバいかな。かっちゃん」
そう言うと、皆少しだけ笑いあう。
僕らはしばらく、そのぬるい空気を楽しんだ。
「すまない。皆。俺のミスで」
「……お前が応援呼んだのは賢明だメガネ。気にすんな」
「……爆豪、お前、そういうこと言うんだな」
「言うわクソが舐めとんのか半分野郎!」
「もう半分じゃねえ」
「まあまあ二人とも、とりあえず拘束しちゃおう。あなたも、大丈夫ですか?」
「ああ、君ら学生だろ? すげえな本当」
そう言いながら、立ち上がる。
「とにかく、皆大した怪我もなくてよかった。早く他の襲撃地点にいきましょう」
路地裏から出ると、町は静寂に包まれていた。
そこに、早い動きの物体がやってくる。ミルコだ。
「ミルコ! 脳無は?」
「空中を旋回して逃げちまった! それよりヒーロー殺し! 大丈夫だったか!」
「ええ、何とか。四対一でやっとってとこです」
「そうか、……来るぞ!」
ミルコが叫ぶ。すると、脳無が急降下してくる。そのまま僕を攫い、飛び上がった。
「舐めんなクソが!」
かっちゃんが高速で飛び出し、爆破しようとする。この速度は、今までと比べて凄まじく速い。
「脱兎のごとく……何!?」
ヒーロー殺しが拘束を解いて飛び出し、何らかの個性を発動。動きを止める。
そのまま、僕と脳無は自由落下する。
そのまま脳無にとどめを刺そうとするヒーロー殺しのナイフを、僕は手を掴んで止める。
「……助けてくれてありがとう。でも殺すことないだろ」
「……ハア。やはりお前はいい」
そのまま、僕達は対峙する。
「ヒーロー殺し、終わりだ。大人しくしろ」
ミルコが威圧感を込めて言う。
そこにさらに、もう一つ影がさす。
「ショート! バクゴー! 生きているか!」
エンデヴァーだ。
「……ヒーロー殺し!」
エンデヴァーが炎を出した瞬間、凄まじい殺気がヒーロー殺しから噴出する。
「エンデヴァー、ミルコ、贋者」
「正さねば、誰かが血に染まらねば!」
「真の英雄を取りもどさねば!」
「来い! 来てみろ贋者ども!」
あまりの殺気に、僕もかっちゃんも、轟くんも飯田くんも、みんな一歩下がってしまう。
だが。
「俺を殺していいのは「
ミルコのかかと落としが、ヒーロー殺しの顔面に入る。
そのまま、転げまわるヒーロー殺しに、さらに炎の追撃が入る。
「ミ、ミルコ?」
レーダーセンス上のミルコのしっぽは逆立っていた。
そのまま四本足で警戒するようにヒーロー殺しを見つめる。
それが、しばらく続いていたかと思うと、収まる。
立ち上がって、僕とかっちゃんの体をペタペタと触る。
そしてしばらく無事を確認したと思うと、フーっと息を吐く。
「……良し! 一件落着!」
そう言って、僕らを安心させるように、ミルコは笑った。
「……親父」
「……無事かショート、インゲニウムの弟」
「は、はい」
エンデヴァーもまた、何事もなかったかのように対応する。
「良し。とにかく今は病院と警察だ。行くぞ」
確かにヒーロー殺しの殺気は恐ろしかった。
あとで聞いた話だったが、ヒーロー殺しは顎が砕けていたらしい。
だが、ヒーロー殺しはたしかに、敵に立ち向かっていた。
そして、その夥しい殺気に一歩引いてしまった僕らと、
瞬時に立ち向かったミルコとエンデヴァー。
二人との、プロとの差をまざまざと見せつけられ、僕らは病院へと向かった。
みどりや「オールマイト理由に殺人するとかどう言う要件だゴルァ!!」
ステイン強いから四人で囲んでボコボコにしようの回。
子を後ろに守って唸る母猫めいて威嚇するミルコがお気に入りです。