盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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二人の英雄 その2

 sideデヴィット

 

 数分前、私は一人の大物スポンサーと会話をしていた。

 ウィルソン・フィスク。

 アメリカを代表する実業家の一人、そして私の研究のスポンサーが一人でもある。

 縦にも横にも広い圧迫感のある人だが、どこか人好きのする人物だ。

「やあデヴィット博士、お会いできて光栄だ。すまないな、融資を打ち切ってしまいまして」

「いえ、構いません。各国の思惑で研究が妨げになるのはよくあることですから」

 あの研究が悪用されることもないであろう。

 それにトシの後継者であるあの少年のこともある。

「それで例の研究なのですが、どこまで進んでいるんです?」

「ええ、もう9割5分完成しているのですがね、だが臨床実験は済んでいないのです」

 そういった話をしている所に、司会が声をかける。

「それではお集まりの皆様、乾杯の発声はかの日本のレジェンドヒーロー。オールマイト氏にお任せしたいと思います」

 拍手が会場を埋め尽くすと、トシが近寄ってくる。

「デイヴ。聞いてないぞ」

「オールマイトが来るとなればそうなるさ」

 だが、その乾杯がなされようとした時、突如モニターにデンジャーの文字が。

 

 その瞬間、男達が銃声を伴って入ってくる。

「皆大人しくしていろ」

 瞬間、自動捕縛システムが会場中のヒーローを捉える。

 あれは個性因子に反応し、ヴィランを捕縛する装置。

 まずい。

「な、貴様ら」

 トシもまた反抗しようとするが、首魁と思しきヴィランの蹴りで倒される。

「警備システムを掌握させてもらった。抵抗すればこの街のどこかで人々が犠牲になるだろう」

 仮面をつけた大柄なヴィランがそう宣言する。

「何者だ貴様は!」

「俺の名はウォルフラム。お見知りおきを、あのオールマイトを転げさせた男だ」

 

 レセプションパーティーを突如襲ったヴィラン達。

 まさか、ここまで無体を犯すとは、しかし、何かがおかしい。

 頼りになるオールマイト、またサイクロプス、ストームといった強力なヒーロー達、彼らがなすすべなく捕らわれているという状況、出来が良すぎる。

 まさか……。

「あまり乱暴はよしてくれ」

 私はウォルフラムと名乗るヴィランに言葉を投げかける。

「デヴィット・シールド博士か。丁度いい。お前にはついてきてもらおう」

「……目的はなんだ」

 私が問いかけると、ヴィランは肩をすくめる。

「こちらとしても、あまり無体はしたくない。大人しくついてきてもらおうかな」

 そういうウォルフラムはパーティー会場の料理をムシャムシャと食べている。

 この状況に私は既視感を覚える。

 やはり。

 私はチラリと上を見る。

 そこには、緑色の髪をした少年がいた。

 私はしばし考え、頷く。

「……どこに向かえばいい?」

「話が早くて助かる。お前には最上階にご同行してもらおう」

 ヴィランは部下を伴って私を連れて行こうとする。

「は、博士になにを」

「お前も来い」

 ウォルフラムがサムを指さす。

 私はオールマイトと目線を合わせ、イズク・ミドリヤを目で指す。

 

 犯人の狙いがおおよそわかった。

 だが何故だ。どうしてここまでの無茶を。

 私としてはとにかくイズクくんが、何よりメリッサが何とか状況を打開してくれることを祈るしかできなかった。

 

 

 side緑谷

 

 僕は犯人の会話から、おおよその状況を把握する。

「かっちゃん、ヴィラン達は警備システムを占拠。デヴィットさんとともに最上階に向かっている」

「……女どもの方に戻るぞ」

「待って、オールマイトが」

 僕はオールマイトの声を聞く。

「ヴィランが警備システムを占拠、島内の人々を人質にとっている。ヒーロー達はパーティー会場に捕らわれている人たちで全員、逃げなさいって」

「……とにかく戻るぞ」

 かっちゃんに手を引かれ、僕らはメリッサさんが待つエレベーターホールまで戻った。

 

「そう、パパが……」

「メリッサさん」

 メリッサさんはしばし考え込む。

「私なら、警備システムの設定変更も可能な筈……。イズクくん。ジャービスはいる?」

「は、はい。スマートフォンに」

「スマートフォンを警備システムに接続して、ジャービスを送り込めば、セキュリティを正常に戻すことは可能な筈よ。

 必要なコードは、私なら解読できる」

 メリッサさんの言葉に、葉隠さん麗日さんは息をのむ。

「い、行くんですか。危ないですよ」

「それに、ヴィランも何人いるか」

 二人の意見も最もだ。

 だが、メリッサさんの意志は固い。

「分かってる。けれど、じっとしてなんかいられないわ。このままだとパパがヴィランに連れ去られちゃう」

 そういうメリッサさんの手は、震えていた。

 そうだ、メリッサさんにとっては、たった一人の肉親なんだ。

 けれど。

「けれど、やっぱり危ないですよ。ジャービスを使えばいいんですよね。だったら僕らで」

「いいだろ、連れてきゃ」

「かっちゃん」

 かっちゃんが僕の言葉を遮りながら言う。

「重要なのは、やる気だろうが。心配しねえでもこの姉ちゃんなら大丈夫だろ」

「そうですね、重要なのは戦う力ではなく意志です」

 塩崎さんもかっちゃんの意見を援助する。

 二人の意見に、僕も覚悟を決める。

「……わかりました。けれど、戦闘は僕達がやりますので、危ないことはしないでくださいね」

 僕が言うと、メリッサさんは力強くうなずく。

「分かったわ。……ありがとう」

「それで、とりあえず階段で管制室に向かうってことでいいんかな」

 麗日さんもまた覚悟を決めたように言う。

「そうね、管制室は最上階の200階だから、急いで向かわないと」

「200階かー。ハイヒール履いてらんないなあ」

 葉隠さんが靴を脱ぎながら言う。そしてスパンコールドレスも脱いだ。

「見ないでね爆豪くん緑谷くん。エッチ」

「見るかクソが」

「はは」

 僕らは少し笑い合ったあと、頷く。

「じゃあ行こうか。行動開始だ」

 僕らは黙って、拳を振り上げた。

 

 階段を上り、80階まで登る。

 何とかみんな息を切らしながらも到着した。

 しかし、息を全く乱していないかっちゃんと塩崎さんは流石だな。

「くそ、隔壁がしまってやがるな」

「どうしましょう。無理矢理破壊しますか」

「そんなことをすれば、すぐに警備システムに気づかれるわ。ジャービスをかして」

 メリッサさんは僕からスマートフォンを受け取ると、壁の端末を操作する。

 しばらくして、隔壁が開く。

「警報はならないと思うけど、もしかしてモニターを見張ってるヴィランがいたら」

「見つかる前に、急ぎますか」

 塩崎さんは体育祭で見せた、四足獣を模した蔦で僕らを包む。

「塩崎さん、負担が大きいと思うけど、頼める?」

「大丈夫です。緑谷さんとの特訓で私の許容量も上がってますので」

 僕らはするすると登り、何とか130階まで登った。だが、ここまでだった。

「また隔壁しまっとるね」

「いや、気づかれた」

 僕が話すと、中に通じる扉から大量の警備ロボが現れる。

「まずい!」

「は! 丁度退屈してたところだ!」

 かっちゃんが両手の爆破で警備ロボをまとめて吹き飛ばす。

 僕は耳をふさぎながらも、爆破の反響音をとらえる。

「塩崎さん! 天井に張り付けれる?」

「可能ですが。なるほどそういうことですか。麗日さん。皆さんを無重力に」

「わかった」

 塩崎さんは天井に張り付くと、天井につけられた扉から飛び出し、屋上に張り付く。

 

 

 そのまま、外壁に蔓を突き立て、登っていく。

 風力発電システムまで登り、あと少しといった所で、僕は心音を2つ捉える。

「ボスの言う通り、外壁をつたってきたか」

「雄英生か。セカンドプランも一緒だ」

 男達二人は何か薬剤を首筋に打ち込む。

 セカンドプラン? 何の話だ?

「何だありゃあ」

「……おそらく、個性ブースト薬というものでしょう。そういったもので個性を底上げするヴィランがいると聞いたことはあります」

「は、自分は雑魚ですって自己紹介か?」

 かっちゃんと塩崎さんが僕らを守るように立つ。

「丸顔! てめえはそいつら浮かせてやれ! デク! てめえは飛んでけ!」

「緑谷さん。メリッサさんのことは頼みます」

 二人はそう言い残すと、ヴィラン達に突撃していく。

「麗日さん頼む、メリッサさんと葉隠さんはしっかり掴まって!」

「了解! 行って!」

 僕らは空中をたどり、何とか最上階にたどり着いた。

 

「最上階、ついたね」

「待って、デヴィットさんだ。サムさんもいる」

「パパ」

 男達に囲まれ、デヴィットさんは何か作業をしている。

「パパ? 一体何をさせられてるんだろう?」

「……何とか、時間を稼いでもらうしかない。僕らは、とにかく警備システムを」

「そうだね。あっちじゃない?」

 葉隠さんが指さすほうには、部屋を挟んで向こう側に確かに通路がある。

「あの先にあるモニターに、コードを打ち込めば、葉隠さん、イズクくん。私をあそこまで」

 敵は4人、ならば最適解は。

 そうこうしている間に、サムさんはアタッシュケースのようなものを保管庫から持ってくる。

 僕が考えている間に、葉隠さんがするすると敵に接近する。

 そして、彼女が思いっきり殴りつけると、糸が切れたように敵は倒れ伏す。

 男達はわけも分からず、葉隠さんにより次々と倒される。

 やっぱ葉隠さんの個性ってえげつないなあ。

 僕はフルカウルで近づいて男達を殴りつける。

 彼女のサムズアップに答えつつ、僕はデヴィットさんたちに近づく。

 他にヴィランはいないはず。

「デヴィットさん! サムさん! 大丈夫ですか?!」

「パパ!」

 瞬間、デヴィットさんは弾かれたように叫ぶ。

「いかん二人とも、サムは!」

 そう言うと、サムさんがメリッサさんに銃を向ける。

 だが、遅い。

 僕は20%フルカウルで近づき、銃を奪い取る。

「サムさん! 一体何を!」

「……この襲撃事件は、サムの手引きで行われたものだ」

 デヴィットさんが沈痛な面持ちで言うと、メリッサさんはショックを受けたように口を覆う。

「そ、そんな。なんで」

 サムさんが膝をつくと、沈痛な表情で話し始めた。

 デヴィットさんが主導していた個性制御装置の研究が、個性社会の崩壊を恐れた各国政府の圧力により凍結されたこと。

 そして、その制御装置を手に入れようとしたヴィランがサムさんに接触し、今回の襲撃計画を企てたこと。

「以前お前が私に言った計画そのままだからな。しかし、なぜだ?

 きっぱりと断ったはずだ。装置など渡してもいい。悪事に加担することはしないと」

「? 以前打ち明けられたってこと?」

 葉隠さんの問いに、デヴィットさんは頷く。

「ああ、だがその時は聞かなかったことにした。あまりに実現性に乏しい。護衛であるサイクロプスやストームといったヒーローの目を欺いて計画を遂行するなど不可能だ。

 何より、装置などなくても、イズクくんがいる」

「僕?」

「ああ、元々個性の消えかかったオールマイトのために使おうとした装置だったが、オールマイトの弟子であるイズクくんは凄まじい勢いで強くなっている。

 体育祭やトシとの期末試験での姿をみて、その装置で現状維持をする必要はないと思った。

 未来のヒーローは、確かに育っているのだから」

 僕はじわりと胸に灯がともる感覚がした。

 一方葉隠さんが小首を傾げる。

「オールマイト先生って、個性が消えかかってるの?」

 ……まずい。

「ああと、葉隠さん、それは……」

 僕の言葉を遮ってサムさんは震えながら、デヴィットさんに叫ぶ。

「あなたが悪いんですよ! 長年あなたにつかえてきて、この装置によって受けるはずだった名誉、名声、全て失ってしまった。

 だが、あなたは装置をあっさりとスポンサーに渡し、研究成果を手放してしまった。

 せめてお金位ないと、割に合いません!」

「だからって、こんな大それたこと!」

 確かに、これって内乱罪とかになるのではないだろうか。

 葉隠さんがそこで挙手をする。僕にしかわからないんだけど。

「とにかく! 色々言いたいことはあるけど! ヴィランが戻ってくるまえに解除コードを入力しないと!」

「……そうね。イズクくん。サムさんを見張ってて」

 メリッサさんがジャービスを持って通路へ走っていく。

 一方僕は、この部屋に近づく足音を察知する。

「いけない! デヴィットさん! サムさんを見張ってください!」

 僕はデヴィットさんに拳銃を渡し、足音の方に向かう。

「イズクくん!?」

「メリッサさん走って!」

 先手必勝。40%スマッシュ!

 だが、とんでもなく硬い壁に阻まれる。

「! アダマンチウム!」

 金属を操る個性。

 そんな個性持ちがアダマンチウムで武装しているなんて。

 ヴィランは、にやりと笑う。

「やれやれ。計画は失敗だな。全く邪魔してくれる」

 

 だが、ヴィランは口調とは裏腹に冷静だった。床を触ると、メリッサさんの足元が隆起し捕らわれる。

「セカンドプランといこうか」

「あ、きゃあああ!!」

「メリッサさん!!」

 メリッサさんの首筋に、ヴィランの手元から伸びた金属が巻かれる。

 そのまま締め上げられるメリッサさんに僕の頭が沸騰しそうになる。

「メリッサ! やめてくれウォルフラム!」

「やめて欲しければ、一緒に来てもらうぞデヴィット・シールド博士」

 そう言ってウォルフラムは、笑った。

 




すげえサクサク進んだ。
やっぱかっちゃんと塩崎さんが優秀すぎるなコレ。

ウォルフラムは金属なら何でも操れるっぽいのでアダマンチウム操ってもらいました。
それだけで大分強くなる不思議

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