僕達はメリッサさんに案内されて、研究室に通された。
「トシ、久しぶりじゃないか! 元気にしていたか!」
「やあデイヴ! そっちこそ! 研究の方は順調かな?」
オールマイトとハグする中年の白人男性、この人が。
「ああ、順調そのものだ。そしてこっちの少年が」
「ああ、私の弟子だよ」
「やあ、君がイズク・ミドリヤだね」
男性が僕に握手を求めてくる。
「は、はい! デヴィット・シールド博士。お会いできて光栄です」
「はは、ご丁寧にどうも。しかしあのトシが弟子を取るとは、時間が流れるのは早いものだ」
「おいおいデイヴ、年齢の話はお互いよそうぜ」
「ははは、それもそうだな」
二人はそう言ってしばし笑い合う。どうやら、親友同士という話は本当のようだ。
「それで、サポートアイテムが欲しいという話だが、一体どういったものを所望なんだい?」
「はい、実は考えてまして、杖が欲しいんです」
「杖。なるほど、盲人用の杖か」
「はい、今は強化プラスチック製のものを使っているんですが、できれば戦闘にも耐えれるようなものがいいんですけど」
今の杖も普通に使う分にはいいが、ワンフォーオールを使うとたやすく折れてしまうだろう。
「それなら、丁度いいものがある。といっても材料だけだが」
そう言うとデイビット博士がある材料を取り出す。
「す、すごい質量の物体ですね」
レーダーセンスの反響音から、物体がとんでもない密度を持っているとわかる。
「ほう、わかるのかい。これは最近の研究で偶然できた金属アダマンチウムだ。
本来であればヴィブラニウムという金属を再現するための研究でできた副産物なのだが、強度だけで言えば変わらない」
「アダマンチウム」
「これを加工して、君のアイテムを作ろう。どうせなら他にも何か要望はあるかい?」
「……でしたら、ワイヤーを中に仕込んでもらえないでしょうか、拘束にも使えますし」
「それなら、先端をフック状に変形できるようにするのはどうかしら」
「メリッサさんそれいいですね。もしそうすれば物に引っ掛けて空中移動ができるかも」
「ええ、他にもギミックを入れたいけど、かさばるかしら」
僕は、そう言いながら、ルーズリーフにスケッチしていく。
しばらくかきこんでいると、何か空気がおかしい。
「あ、あの? 下手でした?」
「あ、いや逆だよ。うま過ぎる。君はその、目が見えないんだよね?」
「ええ、でも、タッチの濃さで陰影は表現できますし、皮膚の感覚でどれくらいかけるかは分かります。
えんぴつの持つ炭素の匂いでなにが書いてあるかも判別できますし」
「……驚いたな、本当に常人と変わりないんだな」
「個性は超感覚? でもマイトおじさまの弟子ということは増強系よね」
メリッサさんがグイっと近づいてくる。
強くなったいい匂いに思わず顔が赤くなってしまう。
「いえ、僕の感覚は自前で、個性は最近目覚めた『超パワー』です。はい」
僕はパタパタと手で顔を扇ぐ。
「超パワーか、ならいいものがある。どのみちアイテムの強度計算のためには君の身体測定が必要だ」
「この訓練場にはプロヒーローも使う様々な測定器具がある。まずはパンチングマシーンだ」
「頑張ってイズク」
僕はメリッサさんの声援に応え、パンチングマシーンの目の前に立つ。
「そうだな、まずは試しに個性無しでやってみるといい」
「わかりました」
僕はボクシングの構えを取り、思いっきり殴ってみる。
「200Kg……200!?」
「すごーい、イズク君」
大体成人男性のパンチ力の平均が70Kgという所で、普通の人の頭蓋骨が70Kgの負荷で損傷する。
そういうことを加味すると、僕の数値は無個性の中学生としては十分だろう。
「そ、それでは個性を使ってみてくれ」
まずは、全身にパワーを漲らせる。
「それは衝撃を吸収する特別な機構が備えられてる。思いっきり殴ってみてくれ」
「はい!!」
僕は思いっきり振りかぶった。
そしてこう叫んだ。
「スマッシュ!!」
瞬間、突風が室内に吹き荒れる
レーダーセンスが多少乱れる。これはちょっと訓練の余地があるな。
というか。
「あの、すいません、ふっとばしちゃいました」
そこには、転がってしまった機械があった。
「そんな、並みの増強系が撃ってもビクともしないはずなんだが。衝撃力は、測定不能!?
4トントラックが最高速度でぶつかった際の衝突も計算できる機械だぞ!?
これは規格外だ」
デヴィット博士が興奮したようにまくし立てる。
「あの、これ弁償とかですか?」
僕は不安になって問うが、博士は苦笑する。
「いや、正当な使用であれば補償は利くから大丈夫だ。
しかし凄いパワーだな。トシが弟子にしようというのも頷けるというものだ」
僕は、デヴィット博士の下、他にも機能測定を行っていく。
加工にしばらく時間はかかると言われ、その間はシールド一家と過ごすことになった。
デヴィット博士とオールマイト、二人が話している間、僕達は近くのカフェでランチをしていた。
僕がピザをLサイズ3枚とパスタを5人前、ペロリと平らげるとメリッサさんは目を丸くする。
「イズク君のパワーの秘訣って、その食欲なのかしら」
「どうでしょう、最近個性が発現したんですけど、それまでもこんなものでしたよ」
レーダーセンスが発現して以降、脳がフル回転しているからか、食欲が旺盛になっている。
具体的に言うと、常人の5倍のカロリーが必要だ
母さんは僕の食べる量を作るのがハードだからか、同年代の母と比べて大分痩せている。
「最近って、いつ頃?」
「ほんの2月前です」
「……きっと、イズク君の体が出来上がるまで、待ってたんだと思うよ」
そういう訳では実際ないのだが、僕は曖昧に笑った。
「イズク君って本当に凄いのね、私、ビックリしちゃった」
「いや、そんな。メリッサさんこそ、I・アイランドのアカデミーっていったら優秀で、それに、エンデヴァーのコスチューム製作にもその年で関わっているなんて凄いですよ」
「ありがとう。良く知ってるのね」
「学術誌は毎月チェックしていて。音声ソフトで聞いてるんですけど。そこで、メリッサさんは期待の若手だって記事を拝見しました」
「そうなの。あの記事はちょっと書きすぎかなって思うんだけど。でもそういってもらえると嬉しいわ」
メリッサさんはそう言って紅茶を啜る。
「ここにいる間はゆっくりしてね。あ、でもイズク君は受験生だっけ」
「はい。I・アイランドは治安もいいですし、個性の訓練や受験勉強に集中できたらと」
「受験先はひょっとして、雄英高校?」
「はい! オールマイトの母校で、僕も立派なヒーローになれればと」
「きっと、イズク君ならなれるわ」
そう言って笑うメリッサさんに、僕の顔にまた血が集まる。
目が見えなくてよかった。なければ眩しさのあまりに目がつぶされていただろう。
その後、二人揃ってカフェを出る。
その時、僕の耳に助けを求める声が聞こえる。
僕はマンホールのふたをおもむろに外す。
「イズク君!?」
「ちょっと杖を持ってもらっていいですか」
そういうと、僕はするするとマンホールの下に下り、濡れながら助けを求める声の主を救い出す。
そこにいたのは、子猫だった。
「I・アイランドにも、迷い猫っているんですね」
僕の問いかけに、メリッサさんはキョトンとした表情をしたのが分かった。
いつのまにか集まってきたギャラリーに拍手され、僕達はその場を後にする。
その後首輪をしていた猫を警察に預け、僕らはメリッサさんのラボへと向かった。
「すいません、シャワー借りちゃって」
「いいのよ。良かったわね、飼い主の人も喜んでた」
「はい!」
「イズク君って、やっぱりすごいわ」
メリッサさんの声色がやさしい。
「きっとおじさまみたいな、どんな人でも助けちゃうヒーローになれるわ。その力なら」
「はい、僕は助けを求める声をすべて聞き届けるヒーローになります。それが、僕の夢ですから」
そういうと、メリッサさんの表情が明るくなる。
「素敵なヒーローね。きっとなれるわ。私も精いっぱいサポートするね」
「は、はい、よろしくお願いします!」
そして、僕たちは握手をした。
でも、僕は知らなかった。
ヴィランっていうのは、僕が力をつける間、悠長に待っていないってことを。
アメリカにあるとあるダーツバー。そこで、スマートフォンで会話する男。
「I・アイランドに侵入してデヴィットシールドの研究成果を奪う。頼まれてくれるな」
「……随分と、簡単に言ってくれるなボス」
「そういうな、これもすべて私のためだ」
「まあ、俺は報酬さえ貰えればそれでいい。空間移動系の個性はいるんだろう?」
男は会話をしながらダーツを投げていく。十数メートル離れた所から、ダーツは刺さったダーツの矢尻へと刺さり列をなす用に並んでいく。
「ああ、必ず個性増幅装置を手に入れろ。シールド博士は殺すなよ」
「
通話を切った男が、最後に振りかぶってダーツを投げると、連なったダーツは縦に裂けた。
「
さすがにクライベイビーサクラのように常人の20倍とはいかなかった模様。(なお一流アスリート並みの消費カロリー)
そしてデアデビルタグつけた以上はこいつとあいつは出さねばならぬだろう。エレクトラは未定。
イメージは2003年映画版です。