「実技総合成績出ました」
「……まさか、100ポイント越えが二人も出るとはな」
「一人はレスキューポイント50ポイント、ヴィランポイント60ポイントとバランスがいい」
「こいつ本当に全盲かよ? 実は見えてんじゃねえのってくらい正確な動きだったな」
「だが素行調査では全盲の診断に間違いはなかった。筆記試験も問題ないし、何より最後の動きがいい」
「聴覚由来の索敵能力、咄嗟の時に人を助ける選択肢が出る判断力。何よりその戦闘能力、素晴らしいな」
「もう一人はヴィランポイント90、レスキューポイント15でちょっとヴィランポイントによりすぎだな」
「けど、怪我しそうな子を助ける動きも僅かながらあったから、人格的に問題があるというほどじゃないわね」
「タフネスもそうだが、機動力がスゲエ! ここまで使いこなせるには才能もそうだが相当訓練しねえと無理だぜ!」
「じゃあ、この二人は合格確定として、どう振り分ける?」
「……俺にやらせてください」
「イレイザー。理由を聞かせてもらっても?」
「個性のみでは、こいつらすぐに限界きますよ。それに同じ中学でここまで切磋琢磨してきた奴らだ。一緒にしてさらに互いに刺激を与えるのが合理的だ」
「確かに、それもそうだね。いざという時の為に、個性を消せる君が適任か」
雄英からの合格通知を受け取った僕は、まず最初にパソコンの電源を入れる。そしてあの人に連絡する。
「雄英に合格したの!? おめでとう!!」
「ありがとうメリッサさん! 一番に貴女に教えたくて。ガントレットが役に立ちました!」
「そうなの!? それはサポーター冥利に尽きるわ。けれど何度も言うけど、無茶しないでね?」
「はい、気をつけます」
「フフ、夏にはエキスポがあるし、その頃にまた会いましょう」
「はい! 雄英体育祭も見ていてください!
……そういえば、あのヴィランはあれから現れてないですか?」
あの時現れたヴィラン、あれは本当に強かった。どこかの国のネームドヴィランかもしれない。
「全然。あの後I・アイランドの警備も強化されたし、私達も何人かのプロヒーローが警護してくれているから大丈夫よ。
心配してくれてありがとう。また今度新しいガントレットを送るからね」
「あ、ありがとうございます。恐縮です」
「フフ、私とイズク君の仲じゃない! それと、前言ってたコスチューム、サポート会社を通して送っておいてあげるね」
「ええ!? それは悪いですよ!」
「大丈夫、被服控除で開発費は出るから。マイトおじさまのコスチュームにも似た機構を……」
その後は、夜遅くまで話し込んでしまい、お母さんに怒られてしまった。
「オールマイト、お久しぶりです」
「うむ、試験が終わってからはばたばたしてしまったからな。メリッサ達には話したかい」
「はい! 一番に!」
「そうか! 親しき仲にも礼儀あり! メリッサ達とはプロになってからも付き合うことが多いだろう。だからという訳じゃないが、仲良くしておくといい」
「プロ……」
やっと実感が湧いてきた。
僕も、プロヒーローになれる。
あの幼い日の誓いとともに。
「僕は、恵まれすぎてるな……。なんかずるいや。オールマイトにメリッサさんにデヴィット博士。みんなの助力がなければ僕は」
「HAHAHA! なーに言ってる! ワンフォーオールを今ここまで使いこなしてるのは偏に、君の不断の努力があってこそ!
メリッサ達が力を貸しているのは、個性だけでない君の強さとやさしさがあってこそだ」
オールマイトはそこで一つ咳払いをする。
「それに、ワンフォーオールを受け継がなくても、君はヒーローになれたさ。史上初の無個性にして全盲のヒーローとしてね。私が保証する。だから自信を持ちたまえ」
「……はい!」
そして、入学式当日。
僕は、憧れの雄英高校の廊下を歩いていた。
「点字ブロックがあるのはありがたいな」
地図の通り歩き、1-Aの教室までついた。
「机に脚をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者に悪いと思わないのか!」
「思わねーよ端役が! てめーどこ中だ!」
しょっぱなからかっちゃんはフルスロットルだなあ。
「ボ……俺は私立聡明中出身、飯田天哉だ」
「聡明~? くそエリートじゃねえか! ぶっ殺しがいがありそうだな」
「君はヒドイな! 本当にヒーロー志望か! ……君は」
僕は飯田君と目が合う。
「君は実技試験の……」
「握手した人だよね? 飯田君。僕は緑谷出久。よろしく」
「丁寧にどうも。……君はあの実技試験の構造に気づいていたのか?」
「? レスキューポイントのこと? いや、気づいてないよ」
「ム! ならなぜあんなことを!?」
「だって危ないでしょ。あのままだったらあの女の子がつぶされてたかもしれないし……噂をすれば来たね」
そう言って、僕は後ろを向くと、女の子が近づいてくる。
「あ! そのモサモサ頭は、地味めの!」
「どうも、緑谷出久です。えーと」
「私、麗日お茶子! よろしく! あの時はハンカチありがとう!」
元気な子だなあ。
「どういたしまして」
「そりゃあ合格してるか! 凄かったもんね! あのパンチ!」
「ああ、あれは今の所サポートアイテムがないとできなくて僕一人の力って訳では……」
そう言おうとしたところで、僕はお茶子さんを引き寄せ、不審者に杖を突きつける。
「ほう、気づくか、それは個性か?」
「不審者ですか? 返答しだいでは」
「担任だよ。わかったらその物騒なものをしまってくれるか?」
僕はとりあえず杖を収める。
その担任は、すくりと立ち上がる。
「身長は183センチ、髪は長髪でぼさぼさ特に手入れはされてない。
マフラーのようなものの材質は不明だが反響音からかなりの強度を持っていると推察される」
そこで僕は言葉を区切り、首を傾げ言う。
「髭くらい剃られては?」
「よけいなお世話だ緑谷出久。常人以上に視えているという話は本当のようだな」
男はそういうと、くるりと僕らを見渡した。
「担任の相澤消太だ。よろしくね。早速だが、これに着替えて表に出ろ」
手渡されたのは材質から、体操服だった。
「更衣室はこちらのようだぞ」
その人は腕が6本ある人だった。
「ありがとう。試験会場が一緒だったよね」
「……、見た所全盲のようだが、なぜわかったのか聞いても」
「光を失ってから耳が急激に良くなってね、音の反射で大概のことはわかるんだ。輪郭もはっきりわかるよ。
ええと、君の名前は」
「失礼した、俺は障子目蔵。よろしく頼む」
「緑谷出久、よろしくお願いします」
そう言って握手する。
「おい、早く行くぞデク」
「あ、うん。分かった」
「デク?」
「あだ名だよ。あんまいい意味じゃないけど、かっちゃんは見ての通りだから気にしないで」
「どういう意味だコラ!」
「ええ、理不尽」
そう言いあいながら、僕たちは着替えてグラウンドへ出て行った。
みんなそれとなく壁際に立ってくれたり、段差を指摘したり、いい人ばかりだなあ。
「これから、君たちには個性把握テストをしてもらう」
相澤先生の突然の申し出に、麗日さんは悲鳴を上げる。
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローを目指すならそんな行事出てる暇ないよ」
「……僕、新入生代表ですけどいいんですか?」
結構時間かけて挨拶を考えたんだけど。
「ああ、問題なし、雄英は自由な校風が売り文句、それは先生側もまた然り」
まあ、先生が言うならいいんだろう。
「それでは、入試一位の緑谷。ソフトボール投げだが、だれか補助を」
「問題ないですよ」
僕は靴を脱いで素足になる。
「風と太陽がおおまかな方角を、匂いが白線の位置を教えてくれます。砂の質感と石灰の質感も大分違いますからね」
レーダーセンスより精度は落ちるが、問題ない。
あっちですよね、と僕が指さすと、相澤先生がうなずく。
「……問題なさそうだな、では、中学時代は何メートルだった」
「98メートルです」
(((すご)))
「じゃあ個性を使って思いっきり投げてみろ」
「わかりました……スマッシュ!!」
僕は構えると、思いっきり投げた。
先生の持つ機械に記録が表示される。
「1000メートル、流石だな」
「なにこれすっごい面白そう!」
「1キロ越えってまじかよ!」
「個性思いっきり使えるんだすげー」
「……面白そうか」
相澤先生の心音が、穏やかでいながら冷徹な感情をのぞかせる。
「ヒーローになるまでの3年間をそんな腹積もりで過ごすつもりか。
そうだな、トータル成績最下位のものはヒーローの見込みなしとして除籍処分としよう」
「「「はあああああああああああ!!??」」」
「生徒の如何は俺達の自由、それが雄英高校ヒーロー科だ」
入学初日の大事件。相澤先生の心音はそれが真実だと告げていた。
ヒーロー科はいい人ばかりじゃねえか!
今回は出久に余力があったため、原作よりレスキューポイント低めです。
そしてかっちゃんの様子が?