独りよがりだ。
これは、僕たちが辿った誰も救われないお話。僕がちゃんとした主人公だったのならもっと上手くできたのだろうか。
でも、僕は主人公じゃないから。ああなったのは必然なのだろう。
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「よっ!」
そういって僕の肩を叩いてきたのは、幼馴染兼親友の健二。
THE・野球部と言った感じで、髪は短く切り揃えられており、肌は黒く焼けている。高身長でイケメンだけど、勉強はからっきしだし、別に羨ましくもなんともない。
「ちょ、急に何すんのさ」
「いいじゃねえか俺らの仲だしさ」
そこからパーソナルスペースの侵害だとか、俺らの間にそんなん関係ねえだろ?、とか下らない話をしながら登校する。これが、僕たちの日常。
──でも、僕たちは知らなかった。この平凡な日常がどれだけ尊いもので、薄氷の上に成り立っているということ。
響おはよー、なんて声に挨拶を返しながら、席につく。
今更ながら、自己紹介を。僕は高谷響。
容姿が良いわけでもなく、虐められているわけでもない。ただただ平凡な学生生活を送っている高校生。
強いて特徴を挙げるならたまに初対面だと男か女かわかられないくらいには中性的な顔であるというくらい。
だから、どうして僕が物語に巻き込まれたのか、僕たちの冒険が終わるまでわからなかった。
異変が起きたのは、4限目の数学が終わって直ぐだった。僕は一瞬意識を失い──気付けば、僕と健二しか、教室にはいなかった。
「んあ?お?なんだこれ、夢か?え?誰も……じゃねえや、響以外いない。なあ響、一発殴ってくれねえか?」
「いや、僕も正直夢じゃないかと思ってる。……痛い」
自分で自分の頬を抓ってみたものの、普通に痛かった。と言うか何で僕と健二なんだ。他にいるだろう、適任が。まずい、こんな変な状況に置かれているからかこれがラノベかなにかかと勘違いしてしまいそうだ。
そんなことを考えていると、辺りをキョロキョロ見回していた健二に話しかけられる。
「な、なあ響。外、見てみろよ」
「え?」
その言葉を聞いて、嫌な予感がした。そういえば、やけに静かじゃないか?恐る恐る外を見てみると車は全て止まっており、歩いている人は見当たらず、また人がいるとは思えないほど物静かであった。
「外に出てみよう」
「でも……」
その声は震えており、今にも消えて無くなりそうだった。本能でわかる。この世界には自分と健二しかいないと。理性が訴えかける。そんなことはありえない、非科学的だと。
そして非科学的だと思うからこそ、響は恐怖していた。
「いくぞ、そんなところで立ち止まってんなよ……
俺一人で行くぞ!」
「わかった、行くよ!今行く!」
逆ギレするように言い放ち、もうどうにでもなれと言う気持ちで駆け出す。
学校の近くのコンビニに入り、中の様子を確認する。
そしてやはりというべきか。
──自分たち以外誰一人として存在していなかった。
「ぁぁ……」
「…ぃ……き」
声にならない呻き声と誰かの叫ぶ声が聞こえる。
理解したくなかった。認めたら、自分がどうなるかわからなかった……否、壊れるとわかっていたから。
だが、ここまではっきりと眼の前に示されたら理解するしかないだろう。
僕たちは世界に取り残された、と。
「お……びき」
まだ何処かに誰かいるかもしれない。そう思い、駆け出そうとした。
「おい!何処行こうとしてんだ!」
健二に腕を引っ張られ、無理矢理動きを止められた。
そして、健二の声を聞き、急速に思考がクリアになっていくのを感じた。
「ったく、お前は昔から考えてるときに集中しすぎる。少しは人の話を聞け」
「ごめん……」
「で、やっぱり俺らしかいないっぽいか?」
「多分……だけど、余りにも非現実的で非科学的すぎるよ!」
「でも今こう起きているんだ、そう捉えるしかねぇだろ。なんかそれっぽいのないか?」
「なにさそれっぽいのって」
それはあれだよ、言葉に詰まってるじゃんか、そんな話をあーでもないこーでもないと続けていると、ふと図書館でみたこの地域の歴史の本を思い出す。
「そういえば、この間図書館でこの地域では神隠しが起きていた云々って本を見つけた」
「神隠し……?なあ、その内容って覚えてるか!?」
「いや、あんまり。だけど、まだ借りられてないと思う。図書館の端の方の目立たないところにあったし」
「よっしゃそうと決まれば図書館までダッシュだ!急ぐぞ相棒!」
「ちょ、僕運動苦手なんだってば!」
そこから僕らは死ぬ気で──まあ健二はケロッとしてたけど──走って図書館までついた。
「ハァ、ハァ。ちょっとは、加減してよ。僕、運動苦手、なんだよ」
「す、すまん、ちょっと興奮してた」
ジト目で睨みつつ館内へ足を運ぶ。
お目当ての本は、やはりと言うべきか誰にも借りられていなかった。
お、あった。そんな呟きを漏らすと健二が声をかけてきた。
「流石“裏の司書”様だな!」
「なにそれ」
「あれ、知らねぇの?学校の連中が勉強しに来たときお前の周りに本の山が出来てるからそう呼ばれてたんだが」
「えぇ……」
僕の知らないところで不本意なあだ名がついていた。
そんな下らない、だがこの状況では気分が休まる話をしながらペラペラと本を捲っていると目的のページを見つけた。
☆☆☆
○○○神隠しについて○○○
この辺りでは、大昔から神隠しが度々起きていた。
伝承によると、自分たちが知っている街から当事者以外の人間だけが消えた世界に行くのだという。
神隠しは二人から四人、同じ世界に行く。その世界から脱出するには、清い魂──処女が命を捧げる必要がある。もしもその二人から四人の中に処女がいない場合、脱出は不可能である。
もし脱出した場合、世界はその世界に行く前の状態に戻っている。
そして、その世界で命を捧げた処女は元の世界から存在が抹消される。共にその世界に行った者も例外ではなく、誰一人としてその存在を覚えていないし、その者が生きた証も無くなるという。
☆☆☆
僕らの間に悲壮感が漂う。そんな中、先に口を開いたのは健二だった。
「それじゃあ、俺らが元の世界に戻るには……」
「健二、落ち着いて。ほら、二人から四人って書いてあるからまだ一人か二人いるはず。その人たちを探そう。それに伝承が間違えている可能性だってあるんだしさ」
そんな僕の呼びかけで健二は少し落ち着きを取り戻したらしい。
まずは、他の人を探さなくては始まらない。
……もっとも、そんなことは希望的観測で、まずありえないってことは、頭の片隅では理解していた。僕も、恐らく健二も。
「んじゃ、これから他の人探すがてら適当に日本中うろつくか。観光ツアーだな」
「そんな軽くていいの?だって……」
「ウジウジしててもしゃーねぇだろ。どういう訳かネットは繋がるからまずは掲示板とかに書き込もうぜ」
そういえば電気もネットも通っている。果たして人が管理していなくていいものかとも思ったが大丈夫なのだろう。詳しいことは専門家にポイッ、だ。
それから二人でいろいろな場所に今起きていることを書き込んだ。2ちゃ○ねるとかYah○o知恵袋とか、更には小説○になろうなどの小説投稿サイトにも書き込んだ。
でも、なんでか知らないけどこの世界について書いているものは投稿してもそのサイトに存在しなかった。じゃあこの世界からのアクセスがダメなのかと思い、どうでもいいことについて書き込むとそれは反映され、ちゃんと回答も返ってきた。
「うーん、何が起きてるかわからんな。響でもわからんだろ?」「うん、さっぱり」
「そんじゃ気持ち切り替えて食料を取ってきてそこらの車でもパクってドライブと洒落込もうか」
「ちょ、それ犯罪……」
「そんなん今更気にしてられるかよ。まずは人を見つけんのが先だ」
よく聞くと、健二の声は震えていた。明るく振る舞っているが、健二も怖いのだ、この理解不能な状況に。
「そうだね、じゃあ僕はスーパーに行ってるから車用意しておいてね。長く保存できる缶詰とか中心に集めてくるから」
「お、おう。どうした急に。そんなやる気なって」
「いや、覚悟が決まっただけだよ。それより事故んないでよ、脱出する前に死んだとか笑い話にもならない」
「問題ねえ、任せろ。車なら何回か運転したこともあるしな」
「健二?どういうこと?」
「あっ……。それじゃ、ちょっと大きめの車探してくる!」
そういって健二は逃げるようにいや、逃げていった。
「さて、僕も行くか」
スーパーでは、カップラーメン、缶詰、パン、水など、一ヶ月は生活できるくらいには物資が整った。
袋詰しているとき、健二がやって来た。
「すまん、遅くなった。中々鍵あいてる車なくてな。窓が割れてんのはやだろ?
それより、すげぇ量だな。手伝うか?」
「ごめん、お願い」
二人で黙々と作業している中、沈黙が破られる。
「なぁ、これからどうするよ」
「…………。生き延びよう。まず、生き延びてそれから考えよう。まだ……まだ僕らは冷静になれてない。
テンパってるときに考えても空回りするだけだから」
「ああ、そうだな。まず生きる。そして考える。っていっても考えるのは響に任せるけどな」
「ちょ、適当すぎでしょ!まかせっきりにするなー!」
健二は優しい。暗い空気を変えようと、あえてちゃらける。だから健二の周りに人が集まる。楽しいというのもあるが、もし何かやらかしても、健二が空気を変えてくれるから罰は少しは軽くなるという打算のもと。
きっと健二は気付いてる、打算だらけの関係に。だから、息抜きをさせてあげないといけない。そうしないと抱え込んで、いつ爆発しても可笑しくないから。
だからさっき言われた相棒っていうのも悪くない。
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それから、僕らはデパートへ向かった。
食料以外にも、必要なものは沢山ある。
とりあえず、トンカチやドライバー、ティッシュなどを取っていった。
何より大きいのは寝袋だ。これで車の中でねるということをしなくて済む。
寝るときは何処かの家を使わせていただくが知らない人が使ったベッドや布団は使いたくないだろう。ソファも同じく。
そんなことをしているうちに日が暮れてきた。旅館やホテルが見えなかったから空いている民家にお邪魔して、夕飯を作る。
当たり前だが冷蔵庫に食料があった。僕が食料を回収した意味って……
と項垂れるのは後にして、取り敢えずあるもので夕飯をササッと作ってしまおう。
挽き肉があったからハンバーグを作ろう。
玉ねぎを炒めつつ挽き肉に塩をパラパラと。あとは適当に捏ねてっと。
形を整えて焼けばそれらしくなってきたのではないだろうか。
肉汁が溢れてきて、それがフライパンに広がっていく。
しっかりと焦げ目がついたそれを皿に盛り付けてから、ソースを作る。
といってもフライパンに残っている肉汁の中にウスターソースと水とケチャップを入れて煮るだけだ。
いい具合になったそれをハンバーグの上にかける。いい感じなのではないだろうか。
最後にブロッコリーとトマトを添えて完成。
白い皿に茶、赤、緑の三色が揃い食欲がそそられる。ハンバーグが嫌いな人はいないのではないだろうか。
あとはご飯を盛り付けて完成!それをお盆に載せ持っていく。
「おお、美味そうじゃん!」
「でしょ、結構自信作なんだ。料理はまあまあ出来るしね」
自信作と言った辺りから食べ始めている健二。腹が減っているのか食い意地が張っているのかガツガツ食べている。作った側としては嬉しい限りだ。
「いや美味いなこれ。お前いい嫁なれるぞ」
「はいはい、ありがとうございます。口にあって良かったよ」
いい嫁云々はおいといて、やはり褒められるというのはいいものだ。普通に嬉しい。だからまた頑張って作ろうと思うようになる。
──そういえばお母さんに全然ありがとう、伝えられてないなぁ
そう思った途端、涙が溢れてくる。
「えっおい響!?どうした、なんかあったか!?」
「大丈夫、ふと、思い出しただけだから」
頑張って抑えようとしても、涙は止まらない。
ああ、会いたい。またお母さんの料理が食べたい。
お父さんともっと……なんだろう、話がしたい?
帰りたい。
そう思ったとき、頭の上に手が置かれる。
「大丈夫だ、絶対に二人で帰るぞ」
そう言われ、涙はますます溢れてくるのだった。
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「ご迷惑をおかけしました。どうか忘れろください」
「ん?日本語変じゃねぇか?」
「いいからわすれて!」
結局10分くらい泣いていて、冷静になった僕は酷く赤面していた。
人前では泣かないって決めていたのに……
その後健二はぐっすりと寝てしまった。
僕はというと、中々寝付けずにいた。先の見えない不安。僕ら以外いないのではないか。僕はもう戻れないのではないか。そんな不安が渦巻き、ネガティブな方向へと思考が向く。
だけど、横でぐっすり寝てる健二をみてると考えてるのが馬鹿見たく思えてきて、そこからはすぐに寝れた。
寝る直前、健二と目があったのは気の所為の筈だ。
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目が覚めたら元通りに、なんてことにはやっぱりなってなくて、世界はおかしくなったままだった。
いや、おかしいのは僕らなんだけど。
それから、同じような日々を繰り返しながら僕たちは日本中を回っていった。
「ねえ健二!あの大仏でかくない?牛久大仏っていうんだって!」
「でかっ!100m位あるんじゃねえの?なにが魅力最下位だよ。奈良の大仏より見応えあるぞ?」
「そういうこと言うと怒られちゃうからやめよ」
時には身近な場所の魅力に気付いたり
「おっ!海見えて来たな!」
「綺麗だね、流石日本三景って感じ。松島って初めて来たかも」
「水着持ってくりゃ良かったかな」
「今からでも遅くないと思うけど?」
「いやなんかな……寂しいなって」
「……そうだね」
時には東北の海に感動したり
「ガラスパークかぁ……
ガラスってこんなに綺麗になるんだね」
「スゲエなぁ……」
「何気ないものでも創意工夫次第でって感じかな?」
「俺には思いつかないから任せたぞ響」
「僕にも無理だよ……」
時には自らの発想力の無さを恨んだり
「これが琵琶湖かぁ」
「でっか。海と遜色ないんじゃねえか?」
「うん。因みに急がば回れは琵琶湖を回るっていう説があるらしいよ」
「へぇ。お前雑学大好きだな」
「まあね」
時には日本一のスケールに驚いたり
「えっへへ、けんじぃ〜〜。なんではなれるのさぁ」
「おまっ、まだコップ半分だぞ!?酔うにしては早すぎだろ!」
「よってないれすぅ〜。ねぇねぇどうしたの?ほら、もう一杯ぐいっといきな」
「もう寝てろ!」
時には酒に溺れたり。
日本各地を回りながら充実した、そして何処か寂しい旅を送っていた。
「今日はキャンプにすっか」
「もとからそのつもりだったでしょ。テントも確保したし」
「空が見えるやつだから結構探し回ったけどな」
「ごめんね僕の我儘に付き合わせちゃって」
「いや、いいさ。星空ってよく見たことなかったしな」
「ありがと」
パチパチ、とキャンプファイヤーから火が弾ける音のみが聞こえる。
二人の間には沈黙が広がっているが、それは気まずいものではなく、何処か心地よい。
「それじゃ、ご飯にしようか」
「おう」
短く、それでいて確かに伝わる言葉。
夕飯はバーベキュー。肉と野菜を並べ、火が通るのを待つ。
「健二はさ」
ぽつり、と溢れるように言葉が続く。
「この旅、どうだった?僕はね……楽しんじゃった。
元々他の人を見つけるため、帰る方法を探すために始めたのにさ」
声が震えているのがわかる。拒絶されたくない。けどとまらない。己の罪を懺悔するように漏れる言葉に健二は口を挟まない。
「でさ、僕一瞬だけ思っちゃったんだ。……ずっとこのままならいいのにって。
何にも縛られずに、自由に過ごせればいいのにって。
……ごめん。僕は、どうすればいいの?これから何を思って過ごせばいいの?わかんなくなったよ……もう」
「ばかじゃねぇの、お前」
「え?」
だから、そういって健二は言葉を続ける。
「ごちゃごちゃ難しく考えすぎなんだよお前は。
楽しかったか?ああ楽しかったさ。色んな所回って二人で遊んだんだから。
帰りたくないと思った?一瞬だろ?何の問題あるんだよ。今は帰りたいか?」
「当たり前じゃないか!」
「じゃあ問題ないわな。そんだけ強く思ってんなら大丈夫だろ。いつまでもウジウジしてんなバーカ」
あんまりな言い様だ。それになんだその理論は。文句が次々と思い浮かぶが全て霧散していく。
どうしても笑みが浮かぶ。
「ほら、肉焦げるから早く食うぞ。なくなってもしーらね」
ああ、こいつはどこまでも自分勝手だ。こっちの気なんて知らずに、わが道を行く。そして、その道について行きたくなってしまう。しょうがない、今はついていこうじゃないか。
「僕の分もちゃんととっておいてよね!」
「あー食った食った」
僕の倍位食っておいてよく言うよ。なんて思いつつ上を見上げる。空が見えるテントというのも悪くない。都会じゃお目にかかれない綺麗な星空が広がっている。
「ねぇ健二」
「なんだ?」
「ありがとね」
「さて、なんのことかな。お、流れ星。祈っとこ」
これ、流れ星というより流星群じゃ……
取り敢えず祈っておこう。
健二だけでも無事に帰れますように
「健二はなんて祈った?」
「二人で無事に帰れますようにってな。そっちは?」
「僕は秘密。自分で考えてみてね」
「くっそ俺考えるの苦手だって知ってるよな?」
「あははっ」
もう流星群は終わっていて、それでも綺麗な星空が残っていた。
ちゅんちゅん、という小鳥の囀りで目が覚めた。これが朝チュンというやつか。
僕らの旅も、終わりが近づいてきた。一年かけて東京から反時計回りに日本を一周してきた。
今日か明日で東京につくだろう。今まで人は……見つかっていない。
九州や北海道、四国にいるのかもしれないが初日に書き込んだものに返信も一切なし。
薄々勘づいてはいたものの、こう現実に直面するとかなりキツイ。
健二も少しピリピリしている。
結局、僕らの二人で帰ることは叶わなそうだ。
本州の県全ての県庁所在地を回ったけど人っ子一人いない。
そして僕らは遂に、東京に戻って来てしまった。
「ああ……。わかってたさ。俺らしかもういないって!でも、縋るしかないじゃないか……。可能性が、なくたって」
「健二……。まず、今日いっぱいは東京を探そう。そして明日になったら……まあ、明日は明日の風が吹くってやつだ。健二が元気ないと、僕も悲しいから。早く調子取り戻してよね」
返事はなかった。
二人で手分けしてビルの中、スーパー、家、様々な場所を探したものの……やはり、人はいなかった。
生気のない顔でカレーを食べ、床に就く健二。しょうがない、最後の希望が絶たれたんだ。毎日行っているネットのチェックも返信がない。
もう、二人で帰ることは叶わない。
だから、健二に問いかける。
「ねぇ、健二は帰りたい?元の世界に戻りたい?」
ああ、覚悟を決めた筈なのに、声が震える。涙が溢れそうになる。
「ああ。帰れるなら、帰りたいさ」
「そっか。それが聞けて良かったよ」
きっと、これからやることは僕の独りよがりで、健二に嫌われる行為だ。
でも、健二が帰るにはこれしかない。
──ごめんね、健二
健二が寝静まったのをみて、机の上に書き置きを残し、ボクは家を出た。
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都会の夜の筈なのに、酷く静かな街並み。きっとこんな街を見るのはまたとない機会だ。というかまたあったら困る。
のんびりと夜の散歩をしたいところだけど、少し急がなくちゃいけない。ボクは目的地に向かい軽く走り出した。
この旅の中でやはり体力がついたのだろうか。きっと前までの僕だったらへばっていた筈だけど、少し息切れする位でついた。
眼の前にあるのは古ぼけた神社。ボクと健二が小学校のころよく遊んでいた神社。名前は確か、【皐月神社】
そういえば、今は五月か。
去年の五月に神隠しにあって、五月に皐月神社でフィニッシュする。綺麗にまとまったじゃないか。
舞台は整った。あとは役者──健二を待つだけだ。
なんてカッコつけて悪役みたいな事を言ってるけど、ちょっと恥ずかしい。ボクにはキャラがあってない。
「ハァ、おい響。どういうことだよ、『小学校時代の遊び場に来て』って」
噂をすればなんとやら。ボクとしては朝まで待つつもりだったんだけど、時間は大切だしね。
「もうわかってるでしょ。元の世界に帰るには処女が命を捧げなきゃいけない……。だから、
夜風で
健二が息を飲む音が聞こえた。だけど、気にせず続ける。
「この旅、楽しかったよね。いろんな所を巡った。
海に行ったけど泳がなくて、後々それを後悔したり、富士山を登ってみたけどボクがバテて二時間ちょいで帰ったり、あとは琵琶湖にボートをおいて漕いだりしたよね」
あとはワイン工場に行ったり……泥酔してなんかやった記憶があるから封印しておこう、恥ずかしい。
「二人でただ散歩したりもして、そりゃ大変だったけどボクは楽しかったよ。健二はどう?」
「ああ、お前と旅して楽しかったさ。だから、もっと……もっと旅しよう!元の世界に戻ることなんてない!だから……だから、勝手に死なないでくれよ……響」
そんなことを言われると、心が揺れそうになる。
でも、決めたんだ。健二を絶対に元の世界に帰すって。流れ星にも健二だけでも無事に帰れますようにって願ったんだ。
大丈夫、ボクのことは忘れちゃうはずだから。健二はきっと辛くない。
だから、ボクがちょっと我慢すればハッピーエンド。
「なあ響。この際、言っておく」
「なぁに?」
「俺はな、お前のことが好きだ」
「しってた」
乾いた笑いをしながらそっかあなんて言ってる健二。そんな彼が、愛おしい。だからこそ、帰してあげたい。
でも、最後の我儘くらいは許してくれるよね、神様。
「ねぇ健二。ボクも……ボクも健二が好きだったんだ」
「ああ……両思いなら、さっさと思い伝えときゃよかったなぁ」
「あはは。
ねぇ、ちょっとだけ目を瞑って?」
彼は素直に目を瞑る。そして、ボクは彼の唇を奪った。
きっと時間にすればものの数秒だろう。でもボクにはそれが何十分にも、何時間にも感じた。
「もう目、開けていいよ」
なんだか口をパクパクさせて金魚みたいだ。きっとボクも、顔が真っ赤なんだろう。
でも、彼は覚悟を決めた顔でこっちを見てきた。
「行くのか?」
「うん。もう、この命を捧げるよ。ここならきっと神様も見てるでしょ」
「俺らは神様の前でイチャついたわけだけどな」
「きっと許してくれるでしょ。
……きっと、健二はボクのことを忘れちゃうから悲しくないはずだよ。
……けど、健二にはボクのこと忘れてほしくないなぁ」
「忘れないさ、絶対に」
その言葉を、その声を聞くだけで自然と笑みが溢れる。
最後の言葉は風に流されて聞こえてないんだろうけど、それでもいい。
ナイフを持つ手が震える。ボクは今から健二の為に死ぬ。だから、大丈夫。
そう思うと、手の震えが止まる。
そうだ、改めて自己紹介をしよう。
ボクは高谷響。
容姿が良いわけでもなく、虐められているわけでもない。ただただ平凡な学校生活を送っている。
強いて特徴を挙げるならたまに初対面だと男か女かわかられないくらいには中性的な顔であるというくらいの
女子高生だ。
Fin
御読了、ありがとう御座いました。
響は本当に死んだのか、健二は元の世界に帰れたのか、健二は響のことを忘れたのか。それらは皆様の想像によって変わります。もしかしたら、私の想像が執筆されるかもしれません。
私は一から十まで語りません。どうぞご自由にこのあとのお話を想像してください。
できればアンケート回答よろしくお願いします。
続きはほしいか(必ず書くわけじゃないよ、ごめんね!)
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いらない。この雰囲気で終われ
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健二くん視点で
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アフターストーリーを