その夜、僕はベッドに入っても一秒も眠ることができなかった。先ほどリャナンシーが口にした言葉が頭の中を巡り続けるのだ。
オブスキュラス
その言葉は闇の魔術に対する防衛術や魔法史の授業で聞いたことがある。魔法使いの子どもが魔法を無理に抑え込むことで発現してしまうことがある破壊的な力のことだ。だが、現在においてオブスキュラスは先進国においてはほぼ存在しないとされている。
魔法使いとマグルを隔離する法律が定められたためだ。
かつてマグルは不可解な力を使う人々を非常に恐れた。”魔女狩り”がその代表例だ。彼らは魔法使いと呼ばれる人を集団から徹底的に排除しようとした。例え、それが突然変異で魔法の力を宿した我が子であっても……。
だから、あり得ないのだ。
魔法使いの両親、それも純血の名家とに生まれマグルと接することなんてほとんどなかった僕がオブスキュラスを宿すことは。
それに、オブスキュラスを宿した子どもは10も満たぬうちに自らの強大な力に耐えられず死んでしまうことがほとんどだ。僕はもう13歳である。
それに今年まで一切オブスキュラスの症状である発作がでなかったのもおかしな話だ。物心がつく前の頃になにかあったのか?父上は何か知っているのか?
ああ!何もかも分からない!!
思考が堂々巡りし続け、気づけば朝になっていた。
起きてきたゴイルは僕の顔を見るなり「ア、アンデッド!!?」などと悲鳴を上げて腰を抜かした。
流石に失礼じゃないか?と思ったが、ドラコにも「今日は一段とクマが酷いな。朝から百味ビーンズを食べてゲロ味でも引いてしまったのかい?」と言われたので今の僕の顔は相当なものらしい。
寝室で身支度をしていると、監督生の上級生が息を切らしながら部屋に入ってきた。
「スネイプ先生が全寮生談話室に集まれとおっしゃている。急いで来い!」
と一言残しまたすぐに出ていった。
「朝からなんて珍しいな」
とドラコはまだ腰をさすっているゴイルの頭を急かすように叩きながら言った。
談話室に集まった僕らにスネイプ先生が告げたのは、闇の魔術に対する防衛術のルーピン先生の正体がオオカミ人間だということを告げた。
生徒たちがざわめく。オオカミ人間はオオカミ人間に噛まれることによって病のように感染してしまう恐ろしいものだ。教え方が分かりやすいいい先生だったが、恐れらてしまうのも仕方がないことだろう。
もちろんこの話はスリザリン寮内に収まることなく全校生徒に瞬く間に広まった。朝の食堂ではこの話でもちきりだ。しかし、僕らは家のフクロウによって届けられた手紙の内容に意識を向けることとなった。
「あのウスノロの森番のヒッポグリフが逃げて処刑が失敗に終わっただと?……父上はダンブルドアが裏で何か手を回し我が家の顔に泥を塗ったのだとお怒りだ」
ドラコは神妙な表情で手紙を読んだ。
「ふーん。それはポッターたち、特にグレンジャーは今頃大喜びしているんじゃない?……それは気に食わない?」
「ま、まあね」
僕の問いにドラコはどうも煮え切らない様子で曖昧な返事をした。
昼からは試験終わりの景気づけとしてホグズミードに行くことを誘われたが、どうもはっちゃける気分にはなれず僕は一日寮で過ごすことにした。
皆がホグズミード行きの汽車に乗るためエントランスに向かう中、僕は一人寮への帰路を辿る。大広間の角を出たところで、アストリアと出会った。
彼女の頬にはガーゼが貼られており、どうやら医務室からの帰りのようだ。
「ポラクス先輩……」
彼女はこちらに気付くと少し目を見張り、そのままうつむいてしまった。
非常に気まずい。
仕方がなく、こちらから声をかける。
「一晩医務室に泊まっていたのかい?」
「……ええ。誰かさんに置いて行かれたところをハグリッドさんに運んでもらってね」
嫌味たっぷりな口調で返された。彼女目線、吸魂鬼に襲われ訳も分からず気絶したら森番の小屋にいたことになるのか。
「それは、こっちも色々事情があったから……もしかして僕が一緒だったこと誰かに告げ口した?」
僕が慌てて問うと、アストリアは無表情のまま「いえ…」と首を振った。
「いえ。昨日は私の方が先輩に無茶を言ってご迷惑をおかけしましたので。……貴方を危険なことに巻き込んで本当に申し訳ありませんでした」
謝罪の言葉とともに頭を下げるアストリア。彼女の素直な態度を今まで見たことがなかった僕は気の利いた言葉一つ言えず、目を瞬かせるしかなかった。
頭を上げたアストリアは、何も言えない僕に困ったように眉を下げた。
「さっきまで医務室でポッター先輩たちと一緒にいたんです。そこで昨日私が貴方にぶつけた本音を話してみました。そしたら先輩方も色々話してくださって……
どうやら先輩方も少し前まで大喧嘩していらしゃったらしくて、それで気が立って私を無視してしまったとおっしゃっていました」
アストリアはいつもの仏頂面を崩し、柔らかく微笑む。
「謝罪と感謝の言葉をくださいました。そして、来年は一緒に勉強会をしようってハーマイオニー先輩が誘ってくださったんです!」
「そう…」
心底嬉しそうな、見慣れない彼女の笑顔に驚きつつ僕は何とか相槌を打つ。
「先輩方は喧嘩もして、失敗もして……私の思っていたような完璧な人ではありませんでした。それでいて、その弱みを乗り越えて進むような私の想像以上に勇敢な人たちでした。
ポラクス先輩……そのことに、気付くきっかけを与えてくださりありがとうございました」
そう言って彼女はまた深々と僕に頭を下げる。
「貴方はいつも弱腰で臆病だけれど、親切な人ですね」
そんな言葉を残して、彼女は階段を駆け上がっていった。
「あのコ、ちょっと助けられたからって勘違いしちゃって!ていうかアンタを助けたのはポラクスじゃなくてアタシ!!
ポラクスも何顔を赤くしてるの!」
「別に、赤くなんてしてないよ!……そうだね、全部君のおかげだ」
———アストリアに少しばかりの親切心を分けられたのは、去年君が僕を助けてくれたから……
そんな言葉を胸に秘めつつ、僕はリャナンシーをなだめながら寮へと帰った。
学期最終日。
僕は喉をカラカラにしながら大広間に向かった。試験の結果が掲示板に貼りだされているからだ。
自身の名前を探し、その横のアルファベットを確認した時、僕は小さくガッツポーズをした。
「Pなし!やった!!」
全科目合格していた。僕が有頂天でスキップしたい衝動をこらえながら広間を出ようとしたとき、スネイプ先生がすれ違いざま一言「よくやった」と声をかけてくれた。僕は涙ぐみ、感極まったままスネイプ先生をハグしたくなった。
食堂でのパーティーでは例年通り寮対抗杯の表彰が行われた。グリフィンドールとスリザリンは今年も接戦を繰り広げていたが、クィディッチ優勝の成績が大きく影響しグリフィンドールが1位へと輝いた。
ドラコは悔しそうに拳を握っていたが、今までと違い癇癪を起す様子はなかった。
「確かに僕は今年もポッターに負けた。だが、決勝戦のスニッチ争奪戦……あの瞬間は確かに僕がポッターを出し抜いた!来年こそは絶対に……!!」
「楽しみにしてるよ。ドラコが優勝トロフィーを掲げる光景を」
次は観戦中に気絶しないように努めてね、と付け足しながら励ますとドラコはより気を高ぶらせたようで他のクィディッチメンバーのもとに喝を入れに向かった。
……まて。確か来年ってクィディッチの対抗戦なくなって……
数か月後起こるであろうドラコに訪れる悲劇が目に浮かんだが、とりあえずは健全に青い炎を燃やす兄の背中を見守ることにした。
そうして、一抹……いやいくつもの不安を抱えながらも僕の3年生としてのホグワーツ生活は幕を閉じた。
アズカバン編これで完結です。
本当に時間がかかってしまった中、ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!!
執筆期間を空けすぎて話のテンポを整理できなくなってしまったのが凄く反省点なのですが……(こんなに話数多くするつもりは無かった)
今後もコンスタントに投稿というのは難しそうなので続きを書くとしたら書き溜めをする形にしようかなと思っています。そのため当分休載になりますが、ふと更新されていたらまた覗いていただけると嬉しいです!
手探りの状態の中始めた二次小説を多くの方に読んでいただけてとても嬉しかったです!重ね重ね感謝を申し上げます。