俺の命を救ってくれたのは人形師でした。 作:元ジャミトフの狗
★1998年 9月20日★
年季の入った古い建物ながら、高水準な清潔さを保っているとある老舗にて。
目の前で宮本武蔵を名乗る女剣士がうどんを大変勢いよくすすっていた。その食いっぷりは見事と言うほかない。因みに黒桐くんの紹介という事もあり、うどん自体は大変美味である。とっても美味ではあるのだが―――
「お前、あと何杯食べるつもりなんだ?」
何を言おうこの宮本何某、既に器を三つ空にしている。そして当然の権利のように無一文である。つまり支払いは必然的に俺になるという訳で。
食いっぷりの良さには感服するばかりだが、流石に俺の手持ちにも上限がある。というかこの調子だと普通に素寒貧になるぞ、俺。
「む、奢るって言ってくれたじゃない」
膨れっ面でそんな事を宣う。言ったんじゃない、正確には言わされたって方が正しい。
「刀で脅したのは貴女だろうに」
「そうね。でも古今東西、敗者は勝者に従うものでしょう?」
きっぱりした面持ちの女剣士。確かに彼女の言う事は一理ある。それは俺も理解するところでもあるのだ。
事実として俺はこの女に完膚なきまでに負けた。斬り結ぶこと79合。格上を相手したにしては想像以上に
しかし、しかしである。俺は確かに晩飯ぐらいは奢ってやると話した。とはいえ、元はといえば―――
「戦意のない人間相手に鯉口鳴らして、挙句の果てにいきなり斬りかかったのはいったい誰だったかなぁ」
「あはは、誰でしょうねぇ」
女剣士はできもしない口笛で誤魔化そうとする。目が泳いでいるあたり、しっかり引け目を感じているらしい。ならせめて相手のお財布事情を考えてほしいものだ。今日の俺、2000円ちょっとしか手持ちにないんだぞ。
「まぁいいけど。それと、お代わりするのならそれで最後にしてくれよな」
「わーいやったー。勝馬君って本当に話の分かる人ねー!」
強引な人が周りに多いからな。そりゃあ諦めも良くなるって話だ。
特に橙子。俺が義手義足の
「……け、結構苦労してるみたいねー」
「
言葉通り突如として
宮本武蔵といえば日本に生まれたのなら一度は聞いたことがあろう偉人である。剣術家や兵法家、芸術家としての側面をもち、晩年には世に名高い”五輪の書”を記している。仕合では一度も敗北したことがなく、嘘か誠か一度に70人もの腕利きの侍を斬り伏せたという伝説もあるくらいだ。その無双っぷりは半端ではなかっただろう。
さて、そんな高名な宮本氏。ありとあらゆる文献、もしくは絵画によれば『男性』とされている。しかも江戸時代初期の人物だ。したがって普通に考えれば、この目の前でうどんを食す女は、”宮本武蔵”の名を偽った
しかし、俺は奇天烈な存在に対して非常に寛容である。ありとあらゆる神秘を少なからず目撃し、理解してしまった者として、目の前に広がる現実を
何より、彼女の太刀筋は到底現代に再現できる代物ではなかった。
怖ろしいまでに強く、そして鋭い剣の冴え。勝利に極めて貪欲な姿勢と、二刀を器用に操る姿はさながら鬼の如し。実際に鬼退治に挑んだ俺が言うんだから間違いない。
「やだもぉ。そんなに褒めないでよ。でも勝馬くんも思ってた以上に強かったわよ? 本職は間者や忍の類なのでしょうけど、これだけ斬り結べるんだったら申し分ないんじゃない」
満更でもなさそうに喜ぶ女武蔵。対戦相手へのリスペクトを忘れないところも大変好ましい。これで初対面で斬りかかってこなければ最高だったのだが。
「お褒めに預かり恐悦至極でございますっと。で、結局貴女は何者なんだ? 大体そんな目立つ太刀を二本も引っ提げて、お巡りさんに見つかったら目も当てられないぞ」
「んー。勝馬くんになら全っ然話してもいいんだけど。長くなるよ?」
「これだけ関わって何も聞かない方が逆に気持ち悪いって」
「そっか、あ! 女将さんもう一杯ちょーだいっ!」
だなんて、心底幸せそうにうどんのお代わりを要求する。その安穏さに呆れると同時に笑ってしまった。ホント、この街には変なのばっかり集まるな。
★二時間後★
流石にうどん屋で長話をするのも気が引ける。と、いう訳で俺と女剣士は喫茶店に場を移した。因みに店の名前はアーネンエルベである。浅上藤乃とほんの短い時間だけお茶したお店だ。
そこで聞いた彼女の身の上話を纏める。
女剣士こと”宮本武蔵”は
それでどうして江戸時代初期の人物が現代日本に現れたって話なのだが、なんと言うべきか。彼女は体質としてランダムなタイムスリップをしているらしい。いや、タイムスリップという表現も本当はあまり正しくはないのかもしれないが。ここら辺は橙子に聞いた方が早いだろう。
何にせよ女武蔵は時代も場所も疎らに突然タイムスリップするものだから、生涯一度も定住したことがないという。例を挙げるなら、19世紀のアメリカ西部にも訪れたとかなんだとか。
「難儀な体質だな」
しかし親近感を覚える。俺も分不相応に二度目の人生を歩む身だ。世界そのものから疎外感を覚えたことも何度かある。そういう意味で言えば俺と女武蔵は似たモノ同士なのかもしれない。
「そうなのよぉ。だから勝馬くんのような話の通じる人と、こんなに早く出会えるなんて結構珍しくってさ。これも観音様のお導きかしら」
「その割には対話する前に斬りかかって来たけどな、お前」
「武芸者とはそういう生き物なのです。目の前に強い人がいたら戦いたくなるの」
「……強い人ねぇ」
七夜の前当主や軋間の紅赤朱、埋葬機関の化物たちに、執行者。ああいう奴らを
本来、敗北とは死と同義である。もし仮に橙子が俺の前に現れなければ、既に数度死んでいる。今日まで生き延びているのは、正直運に恵まれているからとしか言えない。
だからもし仮に俺の誇れる要素があるとすれば、それは運の良さと生き汚さのみだろう。恥ずかしながら、全くもって暗殺者らしくないと自覚している。そもそも得物がククリだからな、
「まぁでも、ある程度は把握したよ。要するに根無し草って事だろ?」
話を切り上げる。強いだの弱いだのというのは結局のところ個々による主観である。彼女が俺を強者として認めてくれるのであれば、その評価を甘んじて受け入れるのみだ。それに正直な話、かの剣豪に評価されて嬉しくない訳がない。
「そういう事です。だから出来れば宿を用意してくれると助かるなぁ、だなんて」
「いいよ。ウチの事務所に使ってない部屋がある、暫くは使うといい」
俺が快諾すると、女武蔵は分かりやすく目の色を変える。これまでの彼女の苦労が分かろうというものだ。相当大変な旅路を歩んできたのだろう。迷惑でなければリュックサックぐらいは用意してやろうか、きっと旅の役に立つはずだ。
武蔵ちゃんは本筋に関わらせないつもりです。
彼女に関しては、ちょっとした外伝として書いていく感じです。
ぶっちゃけ事件簿は……
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漫画だけなら見たことある。
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小説呼んだぜ。
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アニメだけなら見たことある。
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見たことない。