俺の命を救ってくれたのは人形師でした。 作:元ジャミトフの狗
いつも思うのが高クオリティを維持しつつ毎日投稿出来る投稿者の方々、マジパネェって事。ホンマ尊敬する。
★1998年 9月20日★
「勝馬。貴方、いい加減自分が誰のモノか弁えなさい」
女武蔵と邂逅した日の深夜。俺は社長椅子に足を組んで座る橙子の前で正座していた。因みに女武蔵は俺がいつも寝台として代用しているソファーで泥のように眠っている。長旅で疲労を溜めていたようなので、大変結構。
問題は橙子の方である。彼女は有無を言わさぬ様子で俺を見つめてくる。だから例えば俺が口を開こうとすれば―――
「えっと―――」
「黙りなさい」
ぴしゃりと言い放って俺を強制的に沈黙させる眼鏡の橙子。もはや豚を見る目だ。
言い訳すら認めてくれないのは珍しい。よほどお冠なようだが、ちょっと心当たりがありすぎる。実はこうなる事は予想出来ていたのだが、まさか橙子がここまでお怒りになるとは思わなかったのだ。
「浅上藤乃の件然り、ああ、マクレミッツの小娘の時もそうだったかしら。貴方は他の女を私の工房に連れてくるのが趣味なの?」
「いや、だから―――」
「いいから黙りなさい。次はないわよ」
こくりと頷く他ない。アレは
「さてどうしてくれようかしら、この駄犬」
「……」
そしてこの駄犬呼ばわりである。非常に遺憾である。一応しっかり契約通りの働きはしているつもりだ。まぁそれを口にする度胸はないんですけどね!
「何をどうすれば貴方は私の言う事を聞いてくれるのかしら。言ったでしょう? 報連相は忘れないでって。ああ、それとも私を困らせたい訳だ」
ぶんぶんと顔を振る。滅相もない。確かに連絡を怠りがちになるのは俺の悪い癖だと自覚している。特に今回は
だから言い訳をするまでもなく俺に責任があるのは認める。
でも浅上藤乃の時は連絡を入れる余裕がなかっただけで、決して橙子を蔑ろにしたつもりはない。なんならマクレミッツのお嬢ちゃんの時は橙子が「生け捕りにしなさい」って言うからその通りにしただけじゃないか。もちろん口答えはしない。したら死ぬ。
「ふーん、何か言いたげね」
全力で顔を横に振る。おかしいな、心内を面に出しているつもりは欠片もないのだが。
「その首輪は特製品でね。アンサズのルーンを刻んでいるのよ」
マジ? アンサズとは大言に『口語』もしくは『情報』の意が込められたルーン文字である。非常に便利であるため割と色々な用途があるが、今回に限った話で言えば恐らくコミュニケーションに関する側面を発揮している筈だ。例えば簡易的な読心とか。
「思考のめぐりは悪くないみたい。その通り。私の半径1m半以内にいる限り、隠し事は出来ないと心得なさいな」
こっわ。しかしどうも
それにこの首輪を外せば爆発する理由も分かった。
『アンサズ』は北欧神話の主神たるオーディン由来の文字でもある。したがって『火』も暗示しているのだが、大本の意味が『口語』であるため即席の炎として用いる事も出来る。たまに橙子が面倒臭がってこのルーン文字で煙草に火をつけたりもするが、これは余計か。
「……察しが良すぎるのも考え物ね。今度寝ている内に
ひょえー、独占欲高すぎんよー。しかしどうしてこう、橙子は俺を束縛したがるのか。いや別に構わんけどさ。
「どうしてそこで寛容になるのよ。たまに貴方の事が分からなくなるわ」
だなんて息を漏らす橙子氏。そういえば最近分かったのだが、恐らく橙子の
そしてそんな眼鏡をかけた橙子をここまで怒らせている。そう思うと、今回犯した己の不義理があまりに責任と配慮に欠けている事に気づかされる。
「……はぁ。もういいわ、貴方の言い分を聞いてあげましょう」
話すことを許された代わりに、言外にくだらない理由だったら折檻と言われた気がした。そしてこの勘は決して間違ってないだろう。俺は慎重に言葉を選びつつ、口を開いた。
「なんだ、まず前提として彼女の名前は宮本武蔵っていうんだが」
ほう、と橙子は分かりやすい興味の相槌を打つ。しかし目だけはこちらを視て離さない。マジで下手なことは言えないな、これは。
『昔話した事あるよな。俺、これが
輪廻転生。仏教やヒンドゥー教、中国哲学に東洋哲学、古代ギリシャの宗教観。存在は認められなくとも様々な国々で信仰されてきたこの概念だが、俺はソレを
というのも、信じられない話だが俺には前世の記憶というモノがあるのだ。今世と同じく日本を国籍とする身の上ではあったものの、現在のように混血だの魔術だの超能力だといった、まさに
―――幼少期に両親から目一杯の愛情を受けて育ち、
―――平均より上の学力を以て大学に入学し、
―――多大な運に恵まれつつも大手企業に就職し、
―――生涯の伴侶に出会い、
―――定年退職してからは孫に囲まれ往生する。
ソレが俺の前世、ありきたりというにはあまりにも最高の人生だった。必死に駆け抜け、時に間違い、時に藻掻いて、それでもと言い続けた俺の大切な■■■。今の俺を形作るアイデンティティである。
まぁだからどうしたって話なのだが。ただ俺は
「ちょ、この戯け! どこに耳があるのか分からんのだぞっ!」
しかし、
橙子は俺の腕を引っ張って、そのまま工房に押し込んだ。よく見れば橙子は顔面を蒼白にしながら呼吸を乱している。そして”きっ”とこちらを睨んでくる。
「一応この
指でトントンと首輪に触れる。こちらから指向性を与えれば通信機として使えなくもなさそうだ。問題は橙子の半径1m半以内でしか作用しないという点だが。
「だとしてもだ! まったく、ソレを器用に扱ったのは褒めてやるが、内容が内容だ。傍受されたらどうするつもりなんだっ!」
いつもは斜に構える橙子がここまで過剰に反応していることに驚く。まさか眼鏡をかなぐり捨てるとは。
とはいえ、確かに輪廻転生を気に食わないと考える
だからこそ、それを見越して魔術を利用したコミュニケーションを試みたのだが。
「……いえ、私も過敏だった。だがどうか頼む、工房以外でその話はしないでくれ。
あまりにも必死な懇願。それでようやく、橙子の危惧するところが分かった。つまり彼女は埋葬機関などではなく、世界による『抑止力』の存在に危機感を感じていたのだ。
「……浅慮だった。ありがとう」
心の底から感謝の意を述べる。まさか橙子が
世界が俺をどのように認識しているのか分からない以上、警戒するに越したことはない。第二の人生という第二魔法に片足を突っ込んだ偉業を俺は不本意ながらも成してしまった。その意味するところを、橙子は俺以上に理解していたのだ。
「見苦しい姿を見せたわね、忘れて頂戴。貴方がこうして今も生きていられる以上、世界から認められているって証左なのにね」
ああホント私らしくない。そんな風に橙子は告げる。落ち着きを取り戻したようで、眼鏡を拾いながらこめかみに指をあてて、何やら勝手に意気消沈している。
「そうだとしてもだ。橙子に大切にされてると分かっただけでも、俺は嬉しいよ。本当に有難う」
正直、本当に嬉しい。橙子はどこまでも俺という『個』を視てくれる。それがたまらなく幸せに思える。本当に、橙子に告白してよかったと思う。
「……よして頂戴。そういう柄じゃないの」
あ、照れてる。珍しい。というか初めてなのでは?
「そっか」
貴重な橙子の顔を見れて俺は大変満足です。俺がほっこりした笑顔を橙子に向けると、ほんのり朱色に頬を染めた橙子が「こほん」とわざとらしく咳き込む。
「さて、話を戻しましょう」
「ああそうだな。ちょっと話が逸れ過ぎた。それであの宮本武蔵って奴なんだが―――」
あの女武蔵について橙子に話す。
様々な国に様々な時代で
そして橙子と同じように、ほんの少しだけ
「……馬鹿ね」
「お互いにな」
俺には橙子がいた。だから願わずにはいられない。流浪の先に、どうか彼女にも良き出会いに恵まれる事を。
ようやく主人公の身の上話が出来た……。
武蔵ちゃんのおかげやでぇ(強引
賛否両論あるかと思いますが、頭空っぽでお願いします(逃げ腰
それはそれとして感想下さい(屑
ぶっちゃけ事件簿は……
-
漫画だけなら見たことある。
-
小説呼んだぜ。
-
アニメだけなら見たことある。
-
見たことない。