俺の命を救ってくれたのは人形師でした。 作:元ジャミトフの狗
この程度、もっと早く書けるようになりたいものです。
「おい勝馬。お前、懐に業物を隠してるだろ」
唐突にそんな物騒なことを宣ったのは両儀の跡取り、両儀式だった。彼女はちょうど俺の腰のあたりに視線を向けており、自身の発言に確信を持っているようだった。
★1998年 11月9日★
一応魔術的にも物理的にも隠蔽してるのだが、式嬢の
「まぁ隠してないといえば嘘になるな」
「見せてみろ」
強引な物言いである。いや、きっと本人はそんなつもりはないのだろう。意図が伝わるなら、口数は最小限で良い。そう考えたら、なるほど確かに式嬢らしい。
「あー俺としては見せるのも吝かではないんだが」
ちらりと、社長椅子で踏ん反り返る橙子の方を見やる。
「見せるのなら外でやれ。お前の
彼女は煙草を吹かしながらそう言った。
余談だが、今橙子が咥えている趣向品は大変不味い。銘柄を『煙龍』というのだが、とにかく不味い。橙子がどうして好き好んで吸ってるのかはわからんが、本当に不味い。
「そういうこった」
言外に「いいな?」と聞くと、式嬢は素直にうなずく。純白の和服が実に映えるなと、何となしに思った。しかしいつもの赤い革ジャンはどうしたのか。
外に出れば、天気は文句の付け所のない快晴そのものだった。ただ乾燥した空気と肌寒さは変わらないので、やっぱり冬なのだろう。
「ほい、これだ」
腰に下げていた自らの得物を見せる。数は二振り、どちらも鞘に収まっている。形状からして分かりやすい刀剣の類ではない事は明白だ。
「驚いた。あっさり見せるんだな」
本当に驚いたように目を見開く式嬢。そう言いつつも珍しく若干興奮した様子で、彼女は得物の片方を受け取る。
「見せろって言ったのは式嬢の方だぜ」
「本当に見せてくれるとは思わないだろ。こういうの、軽々しく見せちゃいけないじゃないのか?」
「普通だったらな」
確かに式嬢の言う通りである。他者に自らの武器を見せるという行為は褒められたものではない。ましてやこちとら元暗殺者だ。手の内を明かすことに駆け引き以外で意味は存在しないし、推奨もされてないのは事実である。だがしかし――
「友人と趣味を共有する分には、何の問題もないだろう?」
俺が答えると、ぽかんと式は口を開けた。そして数秒経ってから、彼女は噴き出すように笑う。
「ははは! そうか、オレとお前は
とても偉そうな風体で式は言う。事実として彼女は退魔四家の次期当主なので、時期が時期だったら確実に俺よりも偉いのだが、それはまた別の話か。
「いきなり笑いだしておかしな奴だな。え、それとも俺たち友達同士じゃなかった?」
「だから笑わせるなって。何をどうすればオレたちが
「何もしなくとも人は友情を結べるぞ」
個人差はあるだろう。しかし人生という短い期間の中で、一緒に会話して同じ時間を過ごして、同じ釜の飯を食った人がいるのなら。それはもう友人と言っていいだろう。だいたい人間関係、特に友達かどうかなんて線引きが難しいのだ、いちいち考えたって仕方がない。
「……そういう事を真顔で言えるところはアイツとそっくりだな」
「黒桐くんのことか」
「うるさい」
ちょっと顔をそらして式嬢は視線を切った。頬がほんのわずかに紅潮しているところを俺は見逃さない。惚気やがって、でもごちそうさまです。
「そいつ。銘を『
我ながら露骨なくらい話題を切り替える。
このまま式嬢を弄ってもいいのだが、そうすると彼女は猫のように機嫌を損ねる。恨みったらしくこちらを見る目はある意味愛嬌があって可愛らしいものだが、それは異変に気付いた黒桐くんが苦労する未来もセットである。それはそれで居た堪れないので、これくらいしておこうという判断である。
「いきなり話を戻すなよ」
と、言いつつ手にしている鬼哭の鞘を抜く。刃に触れている式嬢はいつもの三割生き生きしているような気がする。たぶん気のせいじゃないだろう。意外と刃物収集が趣味だったりするのだろうか。
「———これは」
感嘆の音を式嬢は漏らす。
湾曲した墨色の刀身に内反りの刃。2尺にも満たないソレは、或いは日本でもあまり見られない刃物だろう。
「まさかと思うが、骨かこれ」
「ご明察。
刀崎、またの名を骨師。『混血』の古い血族にして、その宗主たる遠野の分家の一族である。
「有名な混血の一族だな。鍛冶師の」
「そうだ」
式嬢の言う通り、刀崎は鍛冶師の一族でもある。その名を示すように刀を鍛え、それだけを頼りに生きる職人の集団だ。普段は鋼を打って刀を鍛えるが、”これは”と思えるような人物を前にしたとき、彼らは己が腕を差し出す。
「まさか骨ってことは」
「ああ、
式の持つ『鬼哭』と俺の手にある『三影』を指す。
古き時代では、日本の山には数多の鬼が生息していたといわれている。特に平安の世は酷い有様だったらしいが、そうした鬼が備えるメジャーな武具として同族の骨を切り出した『骨刀』というのがあった。
もとより凄まじい神秘を湛える鬼種である。その中でもとりわけ硬い部位である骨を使うのだから、本当か嘘か『損壊』という概念すらなかったといわれている。加えて死んだ鬼の怨と呪がいっとう込められているというのだから、対峙する侍の方々は討伐に苦労したことだろう。
そして刀崎はそうした鬼の遠い子孫との混血児である。さらに言えば、彼らが骨師と呼ばれる所以は、自らの腕を材料として刀を生み出すというところにある。
つまり『鬼哭』と『三影』は歴とした『骨刀』という訳だ。
「鬼哭と三影の刀匠は兄弟だった」
「……お前、どんな手品を使ってこんな怪態な代物を手に入れたんだ」
「言いがかりだぞ。これは本人たちから快く譲り受けたものだ。いやまぁ、当時は驚いたが」
七夜の先代頭首、七夜黄理さんとちょっとした親交があったという刀崎の者とコンタクトをとる機会があった。その時に有無を言わさぬ勢いで「刀を作らせろ」と言われたので、俺も「どうぞ」と考えなしに答えた半年後に『鬼哭・三影』の二振りを譲り受けた。
当時の俺は刀崎の一族の
「しかし刀崎って刀匠じゃないのか。これ、どう見てもククリだぞ」
「よく知ってるな」
ククリ、もしくはグルカナイフ。ネパール発祥の武器であり、『く』の字に曲がった刀身と内側についた刃が特徴的である。農作業や狩猟に用いられる鉈のような汎用性を持つこの刃物だが、もちろん戦闘にも使える。
「さっき刀匠は兄弟だって言ったよな。その二人、どうも刀崎の中でもかなり異端だったらしくてな。本人たちも外国かぶれだと自虐して笑ってたよ」
刀には刀の良さが。西洋剣には西洋剣の良さが。古今東西の武具を見て、その結果俺と一番相性が良かったのはこのククリだったらしい。
今でも心に残ってるのが、「人が刀剣に合わせるのではない。刀剣が担い手に合わせるのだ」という格言染みた言葉だ。そしてその言葉の通り、俺にとって『鬼哭』と『三影』は今でも最高の刀剣である。
「……見ただけでわかる。これは本物だ」
「だろう? ちょっと振ってみる?」
「いいのかっ」
分かりやすく目を輝かせる式嬢。年相応の興奮がどこか嬉しく思える。あと、最近いろんな人のいろんな側面を見ている気がする。これもいいことだと思う。
「ほいっと。これを使いな」
投影魔術で生成した青竹を地面に固定する。
青竹のように幼少期から試斬に使っていた代物であれば、このように何とかなる。ただ投影魔術の性質上、流石に本物の青竹ほどの強度はない。したがって事前に青竹の表面に強化の処理をしている。難度の高い所業だが、ここら辺はもともと技術肌だった自分と相性のいい仕事だ。
意外だと思われるかもしれないが、材料学と魔術はある一定の親和性がある。物質に特定の機能を呼びかけるという点でいえば、ある意味両者は同じだといえるのだろうか。こんな事橙子に聞かれたら怒られそうだが。
「魔術って便利だな」
「そうでもない。これでも俺の体内ではそう少なくない魔力が消費されてる」
「魔力だって? そんなあやふやなものが消えたところで、お前に何の問題があるっていうんだ」
「俺の性能が落ちる」
「なるほど、それは問題だ」
人間としての根っこの部分が違えど、お互い生きてきた過程は似ているから感想も共有できる。こういう部分だけで言えば、式嬢はある意味黒桐くんよりも話が通じると言えるだろう。
「……さて」
柄を強く握る音が聞こえる。
青竹を正面から見据えながら、式はゆっくりと胸の位置にまで持っていく。
呼吸を整え、そして―――あっと息をつくよりも早い一閃。
「お見事」
そこそこの魔力を込めて、なんならこっそりルーン魔術を組み込んだ青竹はあっさり両断された。
切り口を見れば、それが実に自然であることが分かる。魔眼は使ってない。これだけ綺麗に切断したのだ、相当な鍛錬を積んできたのだろう。
「世事は良いよ。得物がいいんだ」
「賛辞はしっかり受け取っておきなよ。実際、俺はいろんな人を見てきたけど、
「……あっそ」
最近分かった事だが、実は両儀式という女の子は照れ隠しが苦手らしい。気勢が悪くなるとそっぽを向くのは、最早癖のようだ。となると、式嬢はしょっちゅう黒桐くんから顔を逸らしているに違いない。
「あ、式に勝馬さん。こんにちわ。って、これどんな状況?」
そして噂すれば現れる黒桐くん。彼は肩に竹刀袋のようなものをかけている。その荷物の中に刀が積まれている事を式嬢は察したのだろう。
「おい幹也。それはいったい誰の仕業だ」
即座に『鬼哭』を俺に返却して。しかも黒桐くんの質問にまるで答える様子を見せずに、式はその白い指を伸ばす。もちろん竹刀袋に向けてだ。
たぶん、なまじ業物に触れてしまったから刀剣に飢えてしまったのだろう。言うなれば友達が最新のゲーム機を持っていたから、両親に同じものをせびる子供のようだ。
「え? ああ、もう」
式嬢は強引に黒桐くんから荷物を取り上げる。すると黒桐くんがものすごく文句を言いたそうにしていたので、さすがにこれはと思い、「ちょっと試し切りをしてたんだ」とフォロー交じりに告げる。
「試し切りって。もしかしなくともソレのことですか?」
「ああ、ククリっていうんだ。かっこいいだろう?」
俺が笑いかけると、黒桐くんが曖昧な顔をして「はあ」と返事をする。どうやら彼はあまり男のロマンを解さない男児らしい。
「大丈夫なんですか? その、法的に」
「大丈夫そうに見える?」
「全然」
「それが答えだ」
ヤバイ人を見る目で俺を見てくる黒桐くん。なんか損した気分になる。
「おい幹也っ! これ九字を入れた兼定じゃないか! 一体だれが―――」
と、まぁこんな具合で式嬢は俺の『鬼哭・三影』を忘れて、その兼定という刀に夢中になる。やはり何というか、損した気分になる。ええい、爆発してしまえこのおしどり夫婦め。
なんというか、ちょっと型月作品を知ってる人が見たらニヤリとするようなssを書いていきたい。というか、そういうssを読みたい(願望
今回は意外と絡みの少ない式との話でした。
橙子さんもそうなんですけど、式もたいがい口調が難しいですよね。うまく再現できてたらいいのですが……。
あ、それと評価の欄で感想を述べてくださる方々がいるのですが、個別に返信できないのでこの場を借りて感謝を。本当にありがとうございます! 大変励みになっております!
―追記―
アンケートが以外にもロードエルメロイ二世の事件簿が多くてちょっと嬉しい。読者層が何となくつかめたような感じです。いいですよね、事件簿。あの雰囲気本当に大好きです。
ぶっちゃけ事件簿は……
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漫画だけなら見たことある。
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小説呼んだぜ。
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アニメだけなら見たことある。
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見たことない。