俺の命を救ってくれたのは人形師でした。   作:元ジャミトフの狗

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強引かつ雑な伏線回収。辻褄合わせともいう。


第20話

 ★1998年 11月10日★

 

 

 場所は『伽藍の堂』。

 

 黒桐くんは既に退社しており、式嬢はそもそも出勤(彼女は別に社員ではないからこの表現は適切ではないのだが)すらしてない。黒桐君が言うには昨日から音信不通だとか。『鬼哭』を振ったり兼定を手に入れたりして超エキサイトしていたからだと俺は思う。

 

 「ん? なんだこれ。財布か」

 

 革製の長財布。パッと見ただけでも値打ちものだとわかる程度に立派な工芸品だ。しかも何がとは言わないが()()

 

 「式のだろう」

 

 俺のつぶやきに律儀に返事をしてくれたのは我が主にして相棒、蒼崎橙子である。彼女は相変わらずと言うべきか、糞マズ煙草を吹かしている。

 

 「え、あの子こんな文明的なもの持ってるの?」

 

 「式に解体されても文句は言えんぞ」

 

 呆れたように肩を竦める橙子。実際俺も言っていてあんまりだとは思う。

 

 しかしそう思わせる式もまた式だ。だって式嬢はあまりにも浮世離れしている。それこそ文明や文化だのといったものに対して興味は持ってないだろう。頭の中は至極シンプル、それが両儀式という少女に対する俺の印象だ。

 

 「しかし不用心だな。めっちゃ入ってるぞ、これ」

 

 「悪趣味だぞ。やめてやれ」

 

 「俺もそう思うけど気づいちゃったもんは仕方ない」

 

 忘れていった式嬢が悪い。そう自分に言い聞かせるが、魔が差さない内に財布は元の位置に置いておく。

 

 因みに、というか何度も言っている気がするが『伽藍の堂』は常時経営難である。主な原因は橙子が仕事をしない癖に出費が激しい(しかも良くわからんアーティファクトのために)からなのだが。それはいつものことだ。いや、いつもの事だから経営難なのか。

 

 しかしここ数日の橙子は働きづめだ。というのも、今日から人形の展覧会が始まったからである。これで買い手が見つからなければ晴れて『伽藍の堂』は破産と相成る訳だが、まぁ橙子の人形が売れないという事態はほぼ100%在り得ないので問題ないだろう。まぁそもそも『伽藍の堂』は正規の会社じゃないので破産も糞もなし。

 

 「あの式が財布を持ち出してここに偶然忘れた挙句、今日になって私たちが気づく、か」

 

 そう呟いた後に、橙子は顎に手にやって何やら思案に耽る。こういう橙子が唐突に思考に注視しているとき、遅かれ早かれ大抵ロクでもない事が起きる。それを経験則として知っている。

 

 「出来すぎだと思うのか?」

 

 「ああ、偶然と神秘は表裏一体だ。無論すべてがそうだとは限らないが、こと式に関して言えばこの偶然も看過すべきではないと思ってな」

 

 いつも以上に橙子は神妙な顔つきになる。ともすれば、一年前、俺に()()()()()()()()()を紹介した時以上に。

 

 「抑止力って奴か」

 

 「さて、絶対とは断言しかねるが」

 

 「ふむ」

 

 つまりどういう事だ? 

 

 式は『根源の渦』に接続してしまった少女だと以前の橙子は言った。それが仮に本当だとすれば、両儀式は魔術師という生き物にとって得難い標本(サンプル)と言える。それは間違いない。

 

 そして仮定に仮定を重ねるが、もしその魔術師が()()()()()()()()()とする思想を持っていたとするのなら。抑止力とやらが働く道理はある。

 

 「例の黒幕がついに動いたと見ていいかもしれん」

 

 「そこまで予兆出来るものなのか?」

 

 「伏線はいくらでもあったさ。浅上藤乃に巫条霧絵、突如として表れた執行者*1にコルネリウス・アルバ。そして極めつけには先日、黒桐と共に視察したあの小川マンションだ」

 

 橙子は何かに気が付いたのだろう。「気づくのが少し遅かったな」と独り言ちる。だが俺はいまだに何もわからない。そもそもこういう探偵染みた事は俺の預かり知るところではないのだ。しかし、かといって思考を止める事も俺の主義に反する。

 

 材料が多すぎる、一度整理しよう。

 

 浅上藤乃は俺を殺すために黒幕が用意した駒だ。なぜ俺を殺そうとしたのか。それも橙子が二か月前に指摘した。目的は俺の魔眼、橙子が『業報の魔眼』と呼ぶ()()が黒幕にとって目的の成就に必要、もしくはあれば便利だったから。

 

 では巫条霧絵はなんだ。俺は委細を承知してないが、結末だけ聞けば黒桐くんと式を狙った事件だったという。ここで鍵になるのは式だ。橙子が言うに、巫条霧絵も黒幕によって用意された駒だとするなら。彼女の役割(ロール)はなんだ。

 

 「言っただろう。黒幕は式の精神状態を気にしていた。だからお前の『眼』は丁度よかったんだ」

 

 「……式の精神。それに両儀と根源、おい待てよ。それって」

 

 「恐らく本質に気付かせたかったのかもしれんな。式とは全くベクトルの異なる、しかしどこまでも似ている殺人鬼を差し向けて、内部から破壊する。ああ、そうすればいくらか根源に辿り着きやすくなるだろうよ。陰陽を司る式と織の原型は『両儀』だからな。そう考えれば、もしかすると元々浅上藤乃にもそういった役割があったのかもしれない」

 

 「———外道だな」

 

 橙子の限りなく核心に迫っているであろう推理に、極めて本能的な所感を口にする。

 

 つまり式の精神が壊れる様を確認するためだけに俺の『眼』を欲したという事か。そして浅上藤乃も巫条霧絵も所詮は使い捨ての駒に過ぎなかったと。挙句の果てにはその黒幕とやらは抑止力を恐れて高みの見物を決め込んでいた。

 

 全くもって度し難い。

 

 「いろいろ繋がってきた。畜生、じゃあ()()()()()()()()もその黒幕の差し金か」

 

 「その可能性は十分に考えられるな」

 

 俺と橙子を見過ごせぬ脅威と判断した黒幕は、二か月ほど前にこの日本に複数の執行者を呼び寄せた。その結果俺は巫条霧絵の事件に関わる事は出来なかったし、橙子も黒幕の素性を調査しきれなかった。

 

 用意周到、まさにその言葉が当てはまる。

 

 「ではコルネリウスは?」

 

 「黒幕の協力者さ。見当もついてる」

 

 「教えてくれ橙子」

 

 それは怒りではない。ただあまりにその黒幕が自分と相容れないだけ。この不確かでありながらも尊い日常という螺旋に現れた不純物が、どうしても許容できないのだ。

 

 「荒耶宗蓮、死を蒐集する概念さ」

 

 

*1
第九話参照




次回、最終決戦。
の予定

ぶっちゃけ事件簿は……

  • 漫画だけなら見たことある。
  • 小説呼んだぜ。
  • アニメだけなら見たことある。
  • 見たことない。
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