俺の命を救ってくれたのは人形師でした。   作:元ジャミトフの狗

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第3話

 ★1998年 6月8日★

 

 

 

 「なぁ橙子、人って痛みを感じないと無感情になるのか?」

 

 「どうしたの急に」

 

 「いいから」

 

 ふと、昨日の事を思い出したため橙子に聞くことにした。彼女は人体のスペシャリストだ。だからそういう質問するにはうってつけの人物であると言えるだろう。

 

 「……そうね。五感の一つがないんだから、感情も薄れるのは自明。痛みを感じるが故に人は恐怖と危機感を覚える。そのことは勝馬、貴方が一番分かっているんじゃないの?」

 

 「そりゃそうだ」

 

 「で、どうしてまたそんな事を?」

 

 気づけば橙子は興味深そうにこちらを見ていた。ついでに嫌な笑みと一緒に。

 

 「昨日、無痛症っぽい女の子にあった。それだけ」

 

 「ふむ。その割には随分と思い悩んでいるみたいだけど」

 

 「そう見える?」

 

 「ええ、少なくとも私にはね」

 

 橙子がそういうのならば、きっとそうなのだろう。俺にもその自覚がないわけではない。ともすれば、この違和感は実体を帯びているような気がする。

 

 「彼女、名前は浅上って言うんだが」

 

 「……浅上。退魔四家に縁の者ね」

 

 「恐らくは」

 

 退魔四家。両儀(りょうぎ)七夜(ななや)浅神(あさかみ)巫淨(ふじょう)。人の身でありながら代々化物を狩る一族にして、『歪みを正す者たち』の総称である。はるか昔から超能力を継承する一族でもある。

 

 かくいう八朝も七夜の分家だ。もっとも、残念ながら彼の家は化け物を殺すための体術は受け継がれてきたが、超能力自体は継承されていない。だからこそ分家なのだろうが。

 

 「……浅上は浅神の分家だ。そんでもって昔、浅神は取り潰しになったが本家の娘が分家筋に引き取られたという話を聞いたことがある」

 

 「ほう?」

 

 「彼女がそうだとすれば、何らかの超能力が発現している筈だ」

 

 浅神は退魔四家の中でもとりわけ強力な超能力者が生れる。この土地で浅上という苗字、もはや言い訳はできないだろう。

 

 「しかしお前の『眼』はその業は見えなかったと」

 

 俺の言いたい事を先読みする橙子。彼女は眼鏡を外し、魔術師としてこの会話に参加する。

 

 「ああ、どうも薬品か何かで痛覚を封じて超能力を抑えているみたいでな」

 

 「それはまた原始的な」

 

 「俺もそう思う。だが効果的だった」

 

 しかしそこには代償が伴うだろう。

 

 橙子は足を組みなおし煙草を咥える。すると煙草の先が不自然に火が付く。そこには奇妙な(カルマ)の跡がみられる。これは橙子が魔術を扱った証拠である。

 

 「お前はその『眼』で人の業を視る。確か『業報の魔眼』と名付けたな」

 

 「別に名称なんざどうでもいいけどな。重要なのは―――」

 

 ———この眼は人の業、つまり善悪問わず人の軌跡を見る事が出来るという事だ。

 

 例えば誰かが人を殺したとしよう。俺はその()()を見ただけで、その人物が殺人を犯した事を知ることが出来る。厳密には少し違うが、これはそういう魔眼だ。

 

 「それだけならよかった。そうだろう?」

 

 「……まぁ」

 

 一概にそうとは言えないのが悲しいところだが、それでも部分的には彼女の言う通りだと言える。

 

 「で、勝馬。オマエはその眼で何を見た」

 

 「凄まじい力の残滓。俺と同じ魔眼の類だと思われるが、恐らく単純な出力で言えば例の少女や俺よりも数段上かもしれないな」

 

 「———ほう?」

 

 ますます橙子の興味が深まったようで、彼女はPCの操作を始める。彼女が何を調べるのかは知らないが、一応忠告しておく。

 

 「これは浅上の家の問題だ。俺達が関与すべきことではない」

 

 「正論だな」

 

 しかしそれで彼女の手が休まる様子はない。なんせ蒼崎橙子という人間は魔術師だ。そして人の理の外にいるのが魔術師という人種である。

 

 「だが生憎、興味を失えば枯れる性分でな」

 

 「知ってるよ」

 

 もう三年の付き合いだからな。

 

 

 

 ★1998年 6月21日★

 

 

 

 「こんにちは。勝馬さん」

 

 時刻は午後三時ごろ。休日につき例によって街をぶらついていた俺に、声をかけてくる人物がいた。

 

 彼女の名前は浅上藤乃。二週間前、不良に、言葉を選ばずに言ってしまえば犯されそうになっていた不運な少女である。先週、橙子との話題にあった例の人物でもある。

 

 浅上藤乃は以前出会った時と同様に修道服を身に纏っている。また琥珀色の瞳は俺を見据えており、また前に見た時よりもその『眼』は()()()()を纏っていた。

 

 「どうも、奇遇だね」

 

 「はい」

 

 彼女の表情がほんのり喜色に染まる。どうやら純粋に再会を喜んでいるようだが、こちらとしてはその理由が分からない。何とも不思議な心持になる。

 

 「()()()は大丈夫だった?」

 

 「はい。おかげさまで。()()()()よりも、今お時間よろしいでしょうか?」

 

 そんな事、か。少なくとも彼女にとって、あの強姦は苦痛ではなかったという事だろうか。元々知っていたが、やはり少し歪んだ精神の持ち主なのだろう。

 

 折角のお誘いだが橙子に忠告した手前、浅上藤乃に関わることに抵抗がある。何より八朝としての立場もある。既に俺は破門にされたであろう身の上だが、それでも他の退魔の家に干渉をするべきではない。

 

 とはいえ―――

 

 「それは別に構わないけど、どうしたの?」

 

 この少女を放置する事は危険であると判断する。歪な心もそうだが、魔眼の動きが不安定だ。ともすればいつその超能力が誤爆しても不思議ではない。

 

 「———先日のお礼がしたいのです」

 

 浅上藤乃の表情は大人びているが、およそ年相応といえる範疇にある笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 




「ぼくの考えたさいきょーのキャラクター」が活躍させたいが故にこのssを書いてるところがあります。まず間違いなく設定に荒があると思いますが、暖かい目で見てくだされば幸いです。

ぶっちゃけ事件簿は……

  • 漫画だけなら見たことある。
  • 小説呼んだぜ。
  • アニメだけなら見たことある。
  • 見たことない。
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