俺の命を救ってくれたのは人形師でした。 作:元ジャミトフの狗
あと事件簿のネタバレが著しいです!
読む際には注意をっ!
バイロン卿から割り当てられた客室にて。
早朝、肌寒さを感じながら起床する。
朝になれば目が治るだなんて奇跡が起こる筈もなく。昨日と変わらず、視界は真っ暗だった。聴覚と触覚を頼りに寝巻から着替えると、ごとりと何か物が置かれる音がする。
そちらの方に顔を向けると、少しばかり褪せた赤色の雰囲気を纏うナニカがいた。
勿論、実際に視覚化されている訳ではない。正しく言語化すると『
「おはよう」
その赤い実体から橙子の声が発せられた。紅茶を飲んでいるのだろうか。さっぱりした匂いが鼻孔をくすぐる。
「ああ、おはよう」
「目の調子はどう?」
「何も見えん」
「でしょうねぇ」
呆れの混じった声が聞こえてくる。 昨日、橙子の申し出を断ったのが気に入らなかったらしい。ごめんって。
「んー替えの包帯は確かここに」
若干臭いが気になったので、両目に巻かれた包帯を新しく交換しようとする。すると橙子が「やってあげる」と俺の手を止めた。特に断る理由もなし、「それじゃあ、よろしく」と近くの椅子に居直る。
「しつこいようだけど、今すぐにでも治してあげることは出来るわ。その用意も済ませてるし」
俺の頭にぽんと手を乗せて橙子はそのような事を言ってくる。
彼女からすれば人間の眼球を一から作り出すことも、そしてソレを誰かに移植させることも大した仕事ではないのだろう。『
「でも数日はかかるんだろう?」
「もちろん。最低でも二日は必要」
「……ならやっぱりいいかな」
しかし時期がよろしくない。橙子の施術で数日を費やす内に
「貴方、何か企んでるでしょ」
僅かな返答の遅さから何らかを悟られたのか、橙子から鋭い指摘が入る。いつの日か黒桐くんに探偵を勧めていたこともあったが彼女も大概である。
しかしそれと同時に俺も理解してしまう。というよりも欠けていたピースが一気にハマったというべきだろうか。その結果として推理小説めいた所感を抱いてしまったのは、きっと本質を突いているからだ。
「ああ」
嘘をつく必要はないと判断する。俺は慎重に言葉を選びながら、
★2003年 6月4日★
「おいおい面白くなってきたじゃないか」
現在自分が抱える問題をすべて伝えると、橙子は辛抱溜まらんといった調子で噴き出した。それはそうだろう、俺だって初めての経験で困惑してるのだ。
「つまりあれか、お前が黒幕になる訳か。これは傑作だぞ」
「ああ、そうだな」
「だがマイオやイスローはどうする。
「……二度目だよ。その質問は」
とはいえ、答えに詰まる。橙子の言う通り、俺は
「人が死ぬと分かってるんだ。動かない理由はない」
「そうか。なら私から言うことはないな。傍観に徹しようじゃないか」
「助かるよ」
正直、話を持ち掛けられた時は断ろうかと思った。
一月ほど前、メイドのレイ―ナさんから『
まず魔術界そのものが広いようで狭い界隈である。一度でも魔術が世間に露見すれば、協会は餌に群がる蟻のように介入してくる。何より連中は封印指定や魔術師上がりの吸血鬼の討伐に大変熱心だ。身を以て味わっているのだからこれは間違いない。
だが逆を言えば魔術を金輪際用いる事がなければ、魔術協会にも身元はバレないということである。それさえ約束してくれるのであれば、あとは式嬢あたりの伝手を使えば何とかなる。
「しかし白銀姫を匿うとなると中々の仕事だな。アレは存在そのものが奇跡の塊だ。何か考えでもあるのか?」
「そこら辺は割とどうにでもなるらしい。俺にも理屈は分からないが、生活習慣を少し変えるだけであの『美』は継続できないとか」
「ふむ、習慣の変調か。となると自ずからを惑星と見立てた魔術の線が濃いが、まだ何か足りないな。あそこまで至ったからにはもっと分かりやすい要素がありそうなものだが」
「さて俺にはさっぱりだ」
橙子の魔術談義は際限がない。付き合ってたらキリがないのでさっさと別の話題を切り出す。
「そういえば橙子、結局記憶の方はどうなんだ?」
「残念ながら」
お手上げだと云わんばかりに首を竦める。
つまるところ、橙子はここ一か月の記憶が失われていたのである。正確にはバイロン卿から受けた依頼に関する全てを忘却していた訳だ。現在の彼女は食客としてここにいるという
理由なんて考える必要もない。『美』を『ヒト』の形で顕そうとする魔術師が人体のエキスパートたる彼女に要請した依頼である。十中八九、黄金姫と白銀姫と関係している。
しかしながら、黄金姫と白銀姫はイゼルマの集大成だ。おいそれと外部に見せるものでもない。だがバイロン卿には手に負えない一世一代のトラブルが起きてしまった。それこそ外来の、それも極東という田舎魔術師の手を借りなければならない程の。
言うなればバイロン卿が行った行為とは、特許前の技術を外部の者に露呈するような行為である。苦肉の策だったに違いない。
「お前なら、依頼の内容が面白ければ記憶を消しても構わない、とか言いかねないのがな」
「ふむ、如何にも私らしい」
「まったく大した奴だよ……」
そう、問題なのはこの女の性格。払いさえよければ、もしくは面白ければ、ギアススクロールに署名してでも記憶を消しかねない。そうすればバイロン卿の懸念は解消される。刹那的快楽主義者はこれだからいけない。
「私がバイロン卿に脅されたとは考えないのか?」
「そんなワケあるもんか。橙子があの男にやられる程度のタマなら、俺たちはとっくの昔に死んでる」
「ふむ、それもそうか」
納得してしまう橙子さん。とはいえ、イゼルマの歴史がどれだけ長かろうが魔術師はあくまで研究者である。ましてやイゼルマはバリュエレータの庇護下にあり、時計塔の策謀劇にもさほど関心がないとなれば、警戒はしても脅威にはならないのだ。
こんこんっ
少しばかり強めのノック音。橙子が「なんだ?」と声をかけると「ディアドラ様が殺害されました」と扉越しに聞こえてくる。ディアドラとは黄金姫の本名である。
「この声はレジーナさんか」
「はい」
目が見えなくなったからだろうか。聴覚がかなり研ぎ澄まされているようで、すんなりその声の主が彼女であることが分かった。因みにレジーナさんは俺に社交界のイロハを教えてくれた師匠で、イゼルマのメイドである。
「遺体は寝室で?」
「ええ、その通りです」
「俺と橙子は後から向かう」
「承知しました」
結局一度もドアが開かれる事がないまま、レジーナさんは立ち去っていった。それが足音で分かる。
やっぱりこの体、というか耳の性能が良すぎる。俺が寝てる間に何らかの細工をされたのかもしれない。もちろん橙子に。
「……なるほどな。読めてきたぞ」
橙子がニヤリとほくそ笑む。ちょっと理解が早すぎて怖くなるが、傍観者に徹するというのだから放っておいていいか。尤も、橙子の言葉を鵜呑みにするようでは彼女の使い魔としては失格ではあるのだが。
「勝馬、答え合わせだ」
「どうぞ」
「黄金姫は最初から、そう一月以上前から死んでいたな?」
「正解。もっと言うならお前の受けた依頼は整形だよ」
「―――ああ、それはなんとも」
どういう手法で橙子の記憶を消したのかはしらないが、こうしてバイロン卿による記憶消去は意味をなさなくなった。正直、相当苦心しただろうことは想像に難くないだけに少しばかり申し訳ない気持ちになる。
一方橙子の方はと言うと、部外者でありながら真相を知ってしまうというのは、それはそれで面白い役回りなのだろう。彼女は「良く分かった」と満足そうに言葉を漏らしている。
「橙子、確認だがお前はどうする?」
「外から見ているさ。魔が差さないとは確約しかねるがね」
この野郎。全力で楽しむ気じゃん。
「その時はまぁ、一報よこしてくれると助かる」
「善処しよう」
投稿が遅れた理由なのですが、ちょっと展開を考えるのに時間がかかったと言いますか(言い訳)。
とにかく申し訳ないです!
ぶっちゃけ事件簿は……
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漫画だけなら見たことある。
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小説呼んだぜ。
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アニメだけなら見たことある。
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見たことない。