俺の命を救ってくれたのは人形師でした。 作:元ジャミトフの狗
★1998年 6月8日★
午後4時近く。少しづつ空に朱色が差し始めた頃の話である。
アーネンエルベという喫茶店がある。黒桐くんが言うにはパイがおいしいお店という話だが、実際に店に入るのは初めてだった。
木製造りの店内は雰囲気が非常に落ち着いている。なんというかドイツ風味とでも言えばいいのだろうか、極力電灯を廃したアダルトチックな空気は悪くないと感じた。
「えっと、何も頼まないのですか?」
メニューを広げながら不思議そうに首を傾げる浅上藤乃。対面して座る俺はきっと苦笑いしているに違いない。
「お礼ってまさか君の奢りってことじゃあないよね?」
そう、今年で二十代半ばになる男がその十歳年下の女の子にお金を出させるという事態だけは絶対に避けねばならない。主に世間的な意味で。ましてあの独占欲の塊たる橙子にバレたらエライ目に遭うのは必至だ。
「……嫌でしたか?」
何故か悲しそうな顔をする浅上藤乃。その愛らしい姿には絆されそうになるが、橙子に折檻される危険性を思えば気の迷いと断じる事が出来る。
「そりゃあ年下の子にお金を出させるってのはね?」
「私は気にしませんよ」
「俺が気にするんだなぁ」
俺の返答に満足したのか、彼女は薄い微笑みを湛えて「理性的ですね」と呟く。
「理性というか、常識というか」
「ええそうですね。失礼しました」
浅上藤乃は上品に口元を隠しながら笑う。やはりそういった仕草から、年相応というには少し大人びている印象を受ける。いや、正確には自我が希薄と言うべきだろうか。何にせよ若干浮世離れした雰囲気を纏っている。
また修道服を着ているからには礼園女学園の生徒である事はまず間違いないと言えるだろう。しかしそう考えると少し疑問が残る。というのも―――
「しかし良いのかい。礼園女学院は生徒の外出に厳しいって話だが」
情報元は橙子だ。元々彼女はその礼園女学園に通っていたらしい。所感だが、そのころの橙子の写真を見てみたく思う。十代の橙子とか全然想像できないからな。
「よくご存じですね。特段隠すことではないのでお話しますと―――」
そういって彼女は自身の身の上を語る。曰く、病弱故にお抱えの診療所で定期的に健康診断を受ける必要があるため、学園から月に二回の外出を許可されているのだとか。
それで、全てが繋がるような感覚を得た。
「……そうか。変な事聞いて悪かったね」
「いいえ、気にしなくて結構です。ではこちらからも質問、よろしいですか?」
「もちろん」
「どうして私は貴方を見ていると
なるほど。いきなりケツの穴に
落ち着きながら魔眼で『視』れば、浅上藤乃の元から危なかった精神が少しづつ不安定になっている事が分かった。加えてそれは外部からの干渉を受けているようにも見える。魔術や呪詛、そういった妖しい気配を感じる。
「……おっけー。ちょっと落ち着こう」
「はい。すみません、こんな事初めてで」
だろうな。普通に生きていれば一度しか面識のない人間に対して殺意など抱かない。だからこれは十中八九人為的なものだ。
「もしかして結構我慢してる感じ?」
「先ほどからお腹が痛くて、貴方を見ているとどうしても、止められなくて」
彼女の顔つきが険しくなる。つい先ほどまでは穏やかだった顔にじんわりと汗がにじんでおり、なのになぜか口が三日月に歪んでいる。そして目が紅色に染まりつつあり、その奥には緑と赤の螺旋を備えていた。
「あと1分耐えてくれ」
もはや人間としては不気味と形容する他ない表情を作りながら、こくりと浅上藤乃は頷く。その様子からも彼女が全力で
「失礼っ!」
浅上藤乃を背負う。ひとまず人の目に映らないところに移動する必要がある。人払いの結界を作ることも考えたが、俺の魔術の腕では間に合わない。
「しっかり捕まってろよ!!」
初めの一歩でアーネンエルベを出る。そしてすぐさま建物の側面を走るようにして
本来の俺ならば、こんな荒業を使うことは無い。何故なら一般人の目に触れてしまうからだ。
そもそも魔術師も退魔師も暗い影の内に生きる者である。したがって無暗矢鱈にその
しかし経験則から、都合の良いことに衆人は勝手に映画の撮影か何かと勘違いする。よしんばそうでなかったとしても、後で橙子が何とかしてくれる。ようは他力本願だ。
だから今はこの場を迅速に収めるために力を尽くすべきである。つーかそれ以外の事に気を遣ってられる程の余裕は今の俺にない。
急展開につき注意(激遅注意
ぶっちゃけ事件簿は……
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漫画だけなら見たことある。
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小説呼んだぜ。
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アニメだけなら見たことある。
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見たことない。