俺の命を救ってくれたのは人形師でした。 作:元ジャミトフの狗
★1998年 6月8日★
勝馬は劣化の激しいコンクリートの路上に藤乃を寝かせる。そうして彼は彼女の瞳を観察すると、その中にある赤と緑の螺旋が酷烈に巡っている事を知る。
「……大丈夫、ではなさそうだな」
仰向けに寝かせた浅上藤乃は腹部を押さえながら、呼応する様に苦悶の音を漏らす。しかし同時にどこか嬉しそうに、その苦痛を噛み締めている節がある。それは彼女の口元を見れば明らかだった。
「痛いのか?」
勝馬が問いかけると藤乃は小さく、苦しそうに頷く。
先日の橙子との会話を勝馬は思い出す。無痛症の人間は感情が薄くなり、生の実感が得難くなる。それを橙子は生物として欠陥であると、暗に評していた。
だがそうまでして浅上の者たちは目の前の少女の超能力を封じたかった。浅上藤乃という一人の少女の人生を左右する障害を与えてまで、発現させたくなかった力が彼女には備わっている。そして今、その封印が解かれようとしている。
だとすれば退魔の一族として、人生の先達としてやるべき事がある。
「ここなら、俺以外誰もいない」
だから我慢しなくていい。そのように続けようとした時、勝馬と藤乃の間にあったコンクリートの地面が
「———っ!?」
唐突に感じる浮遊感。しかし彼の注意が浅上藤乃から離れることは無い。すると勝馬と藤乃の視線が交差した。藤乃もまた、勝馬を
「やっば」
崩れる足場を勝馬は直感的に蹴り上げた。丁度、両者の中間にコンクリート片を挟むように。それは過去に魔眼使いの魔術師と交戦したことがある経験から来る対処であった。
直後、コンクリート片は粉々に粉砕された。正確には凄まじい力で
「ウッソだろおい」
決して小さくなかったコンクリート片を、一目見ただけで引き千切るほどの出力。
単純な
―――真正面から挑めば死ぬだろう。
情けない話だが、数々の戦闘経験を重ねた勝馬はそう結論付ける。また、視られただけで即死する可能性がある以上、外で戦う行為そのものが自殺行為だ。
故に勝馬は逃げるようにして、近くの廃ビルの中へと飛び込む。
———逃がしませんよ。
鋭く冷ややかな声音。逃げ往く勝馬に背中越しに掛けられた言葉。それが先ほどまで談笑していた少女の口から出たモノだとは到底思えなかった。
しかし狂気や殺意に飲まれただけではない。恐らくは彼女の生来の気質も関係している。ハッキリと言ってしまえば、浅上藤乃という人物は元より好戦的な性格だったのかもしれない。魔眼が解放されたことで長らく秘めていた本性が暴走しているとも推測できる。
「さて、どうしたもんかね」
殺そうと思えばいつでもできる。相手は闘争を知らぬ平和を享受してきた少女、相対する勝馬は日本に跋扈する魑魅魍魎を暗殺してきた一級の殺し屋である。だから勝馬が
しかしそれは人道に反する。
浅上藤乃は利用された人間だ。この街に巣食う橙子以外の魔術師によって操られた、ちょっと生まれが特殊なだけの平凡な少女だ。そして勝馬は何も知らない無垢な少女に突き立てる刃を持ち合わせていない。
「……やってやるさ」
この少女を無傷で家に帰す事を決意する。三年前、七夜の一族を滅ぼせし紅赤朱の鬼との相克に比べれば大したことは無い。そう考えれば安いものだ。
★4時間後★
蒼崎橙子が『伽藍の堂』に戻ったのは三十分前の出来事である。
いつもであれば炒飯か麻婆豆腐を作りながら、彼女の帰りを出迎えてくれる忠犬が今日はいなかった。
「妙だな」
八朝勝馬の趣味が散策である事を橙子は知っている。しかしそれも長くて六時までであり、その時間帯より遅くなりそうであれば電話をよこしてくる。
だとすれば、何らかの事件に巻き込まれた可能性がある。しかも
「手のかかる犬だ」
手持ちのルーンを補強。工房からトランクを手にし、使い魔の様子を確認する。調整が必要ない事を確認すると、即座に『伽藍の堂』を後にしようとすると―――
「……わりぃ。少し遅くなった」
懐かしい
「お前」
「すまねぇ。橙子の作ってくれた義足、壊しちまった」
八朝勝馬は左足は引き千切られ、左腕はあらぬ方向に捻じ曲がっていた。滴る血がその壮絶さを否応なしに表している。故によく見なくとも彼が満身創痍である事は明白であり、立っているだけでも億劫な筈だ。
なのに勝馬は橙子に笑顔を向けている。
「馬鹿者。そうなる前にどうして連絡をよこさなかった」
「そんな余裕、なかったよ」
苦笑いしながら勝馬は前のめりに倒れる。橙子はソレを抱きとめ、意識の失った彼を頬を撫でた。
「まったく。本当に」
戦闘シーンは難しい。故に諦める(クソ雑魚文章能力)
ぶっちゃけ事件簿は……
-
漫画だけなら見たことある。
-
小説呼んだぜ。
-
アニメだけなら見たことある。
-
見たことない。