俺の命を救ってくれたのは人形師でした。 作:元ジャミトフの狗
ですのでこの場を借りてお礼申し上げます、ありがとうございます!!
★1998年 6月9日★
目が覚める。全身が強張っていて、無理に動こうとすると左半身が痺れた。
しかし使い物にならなくなった左腕と左足はどうやらもう動くようになったらしい。まだ少し感覚に慣れないが、いずれ良くなる事を三年前に学んでいる。
俺がいたのは、あの杜撰な橙子が管理する工房とは思えない程度に清潔な部屋だった。少し辺りを見渡せば、今にも動きそうなくらい精巧な人形の数々が置かれている。ソレは女性を模したモノが多いが、中には男性の人形がある。よく見ればそれは―――
「あまりジロジロ見てくれるな。それは未完成品だよ」
奥の扉から橙子が入ってくる。そして俺が横たわるベッドに彼女は腰かけて、左手に触れた。
「動くか?」
「ああ」
「そうか」
なんの感慨も抱く様子を見せずにただ息をつく。
欠けた人体をそのままそっくり作り出し、再生させる技術。それは言い換えれば神の御業とでも形容すべき英知の結晶だ。しかし当の本人はなんでもないかの様に振舞う。なぜなら橙子にとってソレが当たり前だから。
これが魔術師という人間の実態である。
「それで? 全部説明してもらおうか。勝馬、あの小娘と何があった」
橙子の言葉に棘があるように聞こえるのは果たして気のせいか。いやまぁ、怒ってるんだろうが。
「……どこから説明したものかな」
昨日の経緯を橙子に話す。散歩中、ばったりと浅上藤乃と会った事。少しお茶をしようとお店に入ったら、彼女の魔眼が暴走した事。だからソレを鎮めるために観布子市の廃ビル群で
話の途中。橙子は不機嫌そうに目を細めたりもしたが、俺が説明を終えると彼女は口を開く。
「浅上藤乃に外傷は見られなかったが?」
「一般人に暴力を振るう訳にはいかないだろう」
「はッ! 魔眼を覚醒させた人間が一般人だと? 格好つけるのなら無傷で帰ってきてから言えこの戯け」
「耳がいてぇ」
ぐうの音も出ない正論。見れば橙子は恨みがましい目でこちらを見つめていた。ホントごめんって。
「まぁいい、こうして生きて帰って来たんだ。ひとまず許してやる」
ひとしきり睨んだ後、彼女は腕を組む。
「で、今回は何を
「黒い大男、だな。流石に具体的な容姿までは分からなかったが、そいつが浅上藤乃の魔眼を覚醒させた
「相変わらず便利だな。お前の眼は」
「そうでもないよ。今回、視るのには本当に時間かかったし」
その魔術師はかなり慎重な性格だと分かる。
浅上藤乃に暗示もしくは魔術を施したのはほんの一瞬の出来事だったようで、彼女の
しかしそれだけのリスクを冒した甲斐はあった。
「件の魔術師はまだこの街にいる」
「ふむ」
「腹立たしいが、ヤツはただ俺を殺すためだけにあの少女を用意したんだろう。もちろん、彼女の本質をしっかり把握した上で。だから暗示の魔術を
「
全く同感である。奴はよほど俺の存在が気に喰わなかったらしい。浅上藤乃の眼を焼き切っても構わんといった勢いで殺しにかかっていた。
「そういえば浅上藤乃は」
「今は眠っているよ。魔眼の様態も良好、また
「不可抗力だって」
何故なら浅上藤乃の暴走を止めるにはガス抜きをする必要があったからだ。
数年間、浅上の一族の手によって押さえつけられた魔眼は、痛みに伴って目覚ましい飛躍を遂げた。それこそ廃ビルを一棟圧し折る程に。したがって浅上藤乃の業を簒奪する他に、彼女を止める手立てが思いつかなかったのだ。
「いつか死ぬぞ」
橙子は冷徹に言い放つ。しかし彼女のそうした冷たい眼差しの裏に込められた温かさを俺は知っている。だから俺は―――
「ごめん」
彼女に誠心誠意謝るほかないのだろう。
★1時間後★
目が覚める。
いつもの浅上藤乃にとって、夢の世界も現実の世界も大して変わりがない。痛覚がないとはそういう意味であり、また彼女の生来の気質と振る舞いがそのことを他人に悟らせないでいた。
しかし今日は違った。ここが何処なのか、そんな単純な疑問が頭に過るよりも先に、腹部の激しい疼きを気にするよりも先に、浅上藤乃はまず最初に頭を抱えた。
思い出したのは昨日の出来事だ。恩人ともいえる男性を何度も
「……私、何てことを」
どうしてあんなことをしたのか。何故彼は逃げなかったのか。想起する事のどれもが罪深く、意味不明で、顔を覆いたくなる衝動に駆られる。
「取り繕っても無駄だぞ、浅上藤乃」
いつの間にか、もしかしたら最初からいたのかもしれないが、一人の女性が壁を背にして立っていた。赤い髪が特徴的で、中性的な雰囲気を纏いながらも非常に女性的な体つきをした女性。
「貴方は」
「橙子、お前が甚振ってくれた男の上司だよ」
「そんな。甚振っただなんて」
むしろその逆だと、浅上藤乃は口走りそうになって手で抑えつける。どうしてそう思ったのか。彼女自身が分からなかった。
「そうだろうな。アイツはお前を殺そうと思えばいつでも殺せたはずだ」
橙子と名乗った女性の言葉は、ストンと腑に落ちた。
昨日の勝馬の動きは人外染みていた事を藤乃は思い出す。重力に逆らうようにして壁や天井を足場にし、恐ろしい速度でこちらに詰め寄る男の姿。しかし彼は最後まで手にしていた刃物を藤乃に振るうことは無かった。
それがどうしてか、ほんの少しだけ、腹立たしい。
「驕るなよ。お前はアイツに助けられたんだ。そもそも殺し合いですらなかったんだよ」
攻撃的な口調になっても藤乃は動じることがない。元より揺れ動く感情が希薄なのだから、それは当然の事である。しかしそんなあってないような感情にも、怒りを感じるときはある。
「でも私は彼の手足を凶げました」
「それは独り相撲というんだ。そもそもアイツは最初からお前と殺し合う気なんてなかったんだ」
「……殺し合う気が、なかった?」
「そうだとも。アイツは最初から最後まで浅上藤乃、お前の眼と体の事を気にしていたよ。でなければ手足を失うだなんて無様、犯すわけがない」
意味が分からなかった。ではなぜ彼は刃物を持ってこちらに相対したのか。藤乃が問いかけるよりも先に、橙子は答える。
「八朝勝馬。奴は人の
「何となく、分かります」
「それで勝馬は
絶句してしまった。それではまるで奉仕だ。全く自分に利がないではないか。
「アイツはそういう奴なんだよ。日常という変哲のない螺旋に人一倍憧れを抱いている癖して、自分から離れるような事ばかりする。面倒臭い奴さ」
悪態をつきながらも橙子はほんの一瞬だけ穏やかな目つきになる。その姿が一番人間的なように見えて、浅上藤乃はほんの少し驚いた。こんな人を人とも思わないような冷血な人でも、こんな顔をするのかと。
「さて、勝馬の頼みだから一応聞いておいてやる。『眼』はもう問題ないか?」
不快そうな顔つきを隠す素振りも見せずに、橙子は会話を続ける。最初の調子に戻った訳だ。何となくだが、藤乃はこの橙子という女性との距離感が分かった。
「ええ、勝馬さんのおかげで」
「ならいい」
不愛想に言う橙子。彼女は胸ポケットから何やら箱のようなものを取り出し、そこから一本の棒を取り出す。その一品が煙草である事に藤乃が気づいたころには、既に橙子は火を点け終わっていた。
「で、だ。これが本題だが、腹部は痛くないか?」
「え?」
なぜ分かるのか。驚いた表情を見せる藤乃の姿に、橙子はやはりつまらなそうに告げる。
「アイツからの伝言だ。痛いときは痛いと言え、だそうだ」
懐かしい心地が浅上藤乃の中に駆け回る。ともすれば瞳から熱い涙が流れそうになる。いつもなら堪えていたのに、今日は何故か我慢できなかった。だから―――
「痛い、です。すごく。どうしようもなく、痛いんです」
「ならまずは病院に行くべきだ」
車なら出す、橙子は最後にそう呟いた。
なんかいきなり総合評価が伸びててスゴイ嬉しいような恥ずかしいような。
でも一番嬉しいのは感想をもらう事なので、少しでもこの厨二次創作を面白いと感じる方がいらっしゃれば感想オナシャス!
ぶっちゃけ事件簿は……
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漫画だけなら見たことある。
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小説呼んだぜ。
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アニメだけなら見たことある。
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見たことない。