俺の命を救ってくれたのは人形師でした。   作:元ジャミトフの狗

7 / 35
第7話

 ★1998年 7月2日★

 

 

 

 「うーっす。おはようございま……す?」

 

 平日の木曜日。橙子お手製の義手の調整(リハビリ)を終えて、ついにお仕事に復帰できるようになった俺は『伽藍の堂』の扉を開ける。しかしそこにいたのは見慣れない顔だった。

 

 「革ジャンに和服? ロックだな」

 

 その女性は間違いなく美人だった。死人と類似した冷めた目つきにアンニュイな雰囲気。ちょっと挑戦的な服装越しでも分かる程に人間として完成された肉体。そして何よりも―――

 

 「なんだよ。文句でもあるのか?」

 

 「まさか。寧ろ思いの外かっこいいかも」

 

 「あっそ」

 

 魂が色々と不完全、というか欠けているように見える。否、その表現も正確ではない。口調からもこれはどちらかというと、一つの身体()に二つの―――

 

 「()()()。不快だ」

 

 「すまん。癖だ」

 

 ()を閉じる。すかさず謝罪も忘れない。悪癖である事を自覚しているが、中々止められないでいる。

 

 橙子が『業報の魔眼』と呼ぶこの魔眼。他者の業を視る事が出来るというが、応用すれば対象の人格や気質、精神状態等も把握する事が出来る。

 

 しかしその全容は俺でも未だよくわかっていない。ただ浅上藤乃のように分かりやすい魔眼ではないことは確かである。そして今回のように、相手が見られたくないセンシティブな部分を観測してしまう事もある。要は使い方を弁えなければならないという事だ。

 

 「で、君が両儀の?」

 

 「名字で呼ぶな」

 

 「じゃあ式ちゃん」

 

 「橙子、こいつ下ろしてもいいか?」

 

 少女が振り返りながら問うと、大変微笑ましい顔つきをしていた眼鏡の橙子が「ダメよー」と答える。

 

 「最初はどうなるかと思ってたけれど、仲がよさそうで何より」

 

 ニコニコしながら告げる赤髪の魔術師。ぶっちゃけこの状況を一番楽しんでいるのは彼女だろう。因みに俺もそこそこ楽しんでいる。

 

 しかし当の少女の方は大変不機嫌なようで、げんなりした表情のままため息交じりに口を開く。

 

 「オレとコイツがか? 冗談、大体名前すら知らないんだぜ」

 

 「八朝勝馬です、よろしく」

 

 「聞いてないよ」

 

 ぶっきらぼうに答える少女。

 

 灰汁の強い子だ。口調からして分かるが、まるで他人に関心がない。最初に感じた気怠そうな雰囲気はどうも勘違いではないらしい。もしくはその余裕がないのか。

 

 「さて、冗談はこれ位にして。説明してもらおうかな、橙子」

 

 俺は今も所長デスクに座りながらニヤケ面の橙子に問い詰める。大方の予想はつくが何の説明もなしに扱われるのは癪だ。如何に俺が蒼崎橙子という一人の魔術師が備える使い魔だとしても、お互いが人間である以上()は通すべきである。

 

 すると橙子は眼鏡を外して机の上にそっと置いた。性格を切り替えるサインである。

 

 「何、簡単な事さ。式にはこの『伽藍の堂』で働いてもらう。表沙汰には出来ないような、そういう案件でな」

 

 「ふーん。で、俺はどうすれば?」

 

 「魔眼の扱い方を式に教えてやってほしい。得意だろう、そういうのは」

 

 得意げな様子で橙子はその美貌を綻ばせる。全くもって綺麗な顔つきをしているが、流石に物申す事がある。いや、流石に彼女が気づいてないはずがないとは思うが。

 

 「おいおい、俺と彼女の魔眼は全くの別物だろうが」

 

 「だが両者ともども『黄金』以上の魔眼保持者には違いあるまい。ある程度ならば私でもアドバイスが出来るかもしれんが、何事にも領分はある」

 

 声にならない悲鳴をあげる。つまるところ、橙子は理論以外の部分、言うならば感覚的な部分は全部俺に丸投げするつもりらしい。

 

 「なんだよ、橙子が教えるんじゃないのか?」

 

 端正な顔つきが怪訝そうになる式嬢。どうでもいいが、どうすれば着物の上に革ジャンを着ることが出来るんだろうか。

 

 「いや、そこを違えるつもりはない。だがな、今お前の目の前にいる男は魔眼使いのプロフェッショナルだ。現に先月、こいつは一人の魔眼使いを更生させている。学べる事は大いにあるだろうさ」

 

 「……物はいいようだなって思いましたー」

 

 浅上藤乃の件はまた少し違うような気がする。尤もそれは感覚的な話で反証の材料にはならないし、そもそもやれと言われたらやる。特に俺の『眼』は細かいところの調整が大の得意だ。やり様はあるだろう。

 

 「ふーん、見かけによらないんだな。オマエ」

 

 両儀式はやはりつまらなさそうに口を開く。そりゃあ一応、元暗殺者ですからね。

 

 

 

 ★1998年 7月3日★

 

 

 

 「思い出した。八朝って七夜縁の者か」

 

 早速魔眼との向き合い方について色々指導している最中、唐突に式が口を開いた。

 

 「ん? ああ、そうだな。でもまぁ、今は破門されてるか死んだことになってるんじゃないかな」

 

 「へぇ」

 

 あの雪が降りしきる日に橙子の手によって命を救われて以降、俺は八朝の里に一度も帰っていない。一応橙子の口から里の者たちに「八朝勝馬という人間は死んだ」といった旨を伝えてくれたらしいが、信頼を越えて俺という人間を()()()()彼らが素直にそのことを認めてくれているかどうかは怪しい。

 

 何より、確かに俺はあの時に死んだ。そして橙子との契約は彼女の使い魔になる事だ。父や母を始めとした家族、幼馴染に友人、一族の者らには育ててくれた恩があるが、命を拾われてその見返りが従属であった以上その通りにするのが()である。

 

 しかし何時か、もう一度里に戻って挨拶はしておこうと思う。少しばかり息苦しい環境ではあったが、故郷である事に変わりはないのだから。

 

 「なんだよ。オマエ、イロモノだと思ってたけど意外と普通に喋れるんだな」

 

 「イロモノって……」

 

 確かにファーストコンタクトはふざけてた気がするから、そう言われても仕方がないのか? それにしたってイロモノって評価は如何な物かと思う。

 

 「でもどうしてそんな事を」

 

 「いや、何も。ただ思い出しただけだ」

 

 式は本当に何でもないかのように呟いた。しかし残念ながら俺は彼女と同じ魔眼の保持者である。しかも人の感情の機微には中々敏い『眼』だ。式が話を誤魔化している事はすぐに分かった。

 

 「そうか。ま、聞きたい事があれば聞いてくれ。答えられる範囲なら答えるから」

 

 「ああ、言われなくともそうする」

 

 ぶっきらぼうな口調の美人。これで未だ十代というのだから面白い話である。一体どういう経験をすれば一つの肉体に()()の人格が出来るのか。

 

 「俺からも質問良いか?」

 

 「勝手にしろ」

 

 「両儀の家ってまだ退魔の務めを―――」

 

 七月の暑い一日。突如として現れた面白少女、両儀式とはこれからもそこそこ仲良くやっていけそうだった。

 




感想がいっぱい来てくれてすごく嬉しい……
日間2位、本当にありがとうございました(泣

ぶっちゃけ事件簿は……

  • 漫画だけなら見たことある。
  • 小説呼んだぜ。
  • アニメだけなら見たことある。
  • 見たことない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。