俺の命を救ってくれたのは人形師でした。 作:元ジャミトフの狗
★1995年 1月13日★
蒼崎橙子と
きっかけはとある御山に住む混血の鬼を一目見たいという橙子の好奇心だった。当時、彼女の妹によって(正確にはその相方とでも言うべきか)最古最強の
つまるところ橙子は当初の予定では混血の鬼、軋間紅摩に契約を持ち掛けるつもりだったのである。
しかしどうやら先客がいるらしい。御山に足を踏み入れた橙子はそのことをすぐに察した。これは彼女が当代きっての奇才かつ天才魔術師だったからではない。その時の光景を見れば誰だって気が付くだろう。
御山は騒々しかった。
至る所から木々が倒れ、酷く燃え盛っていた。そこに生息するありとあらゆる生き物が逃げ惑い、山火事へと至る。そんな最中、聴こえてくるは鋭い剣戟の調べ。そう、何者かが
「なんて馬鹿なことを」
橙子は嘯く。古来より鬼は益荒男に退治される存在として語り継がれていた。しかし逆を言えば、鬼種は英雄でなければ打倒されない。
如何に陰陽道を極めようが、どれだけ剣の冴えを磨こうが、英雄足り得ない人間では鬼を屠る事はあり得ない。寧ろ、だからこそ鬼は恐るべき存在として、絶対的強者の証として、この現代にいたるまで伝説として残っているのだ。
したがって現在、荒ぶる鬼神と対峙する
しかしその判断が全くの間違いだと気づかされるのは、割と直の事だった。
「―――長いな」
何時まで経っても争いは終わらない。
諄い様だが、鬼とはこの地球という惑星における最強格の種である。伝承によれば拳を振り下ろすだけで地を割り、生み出す灼熱の炎は概念すらも燃やし尽くすという。人間の領分を軽く超え、幻想種の頂点に立つのが鬼である。
そんな化物に鬼の象徴である『炎』の異能を扱わせる
「まさか」
ここにきてようやく、女魔術師は山を登り始めた。静観を決め込む筈だったが、興味が優ったのである。
足に強化の魔術を施したからか、或いは己が好奇心から為せる業だったのか。蒼崎橙子は自身の想定を上回る速度で不慣れな筈の山道を駆けていく。
彼女が震源地に到着する頃には既に殺し合いは終息していた。
森林が燃え上がる中、隻眼の大男が立ち尽くしていた。見れば夥しい量の血を吹き出しながら、片腕がだらりと力なく垂れ下がっている。そして人体のエキスパートである橙子は、その大木の如く太い腕がもはや使い物にならない事を見抜いた。
「……今日は来客が多いな」
男は橙子の方を見る訳でもなくそう呟く。まるで悟りを開いたかのように静かな佇まいだが、体の内から溢れ出る『死』の気配だけは誤魔化しようがなかった。
かつて偉大な幻想種である金狼を目にし、従えた事がある橙子だからこそ、その呪詛、もしくは瘴気とも形容できる空間に呑まれる事はなかった。それだけ肝が据わっているとも言う。だがらこそ橙子は気圧されることなく口を開いた。
「殺したのか?」
簡潔な問い。橙子は事情を与り知らない全くの第三者である。だから闘争の結末を知りたいと思ったのは単なる興味心である。
「オレには終ぞ殺し得なかった。点滴石を穿つというが、アレはその究極だ」
それはそうだろうと橙子は同意する。軋間紅摩と思われる鬼の全身には裂傷と打撲の数々が見られた。気が遠くなる程の長い時間、その
そうしてようやく、鬼の腕一本を無力化した。
「だがもう二度と立ち上がる事はあるまい」
混血鬼は最後に色のない声音で、ただ当然の事のように独り言ちた。その一言で橙子は事の顛末を知る。
「久々に
口ぶりからして、件の人物は未だ生きているらしい。もしくは死に損なったともいうのかもしれない。これを幸運と言うべきか、それとも不幸と言うべきかは当事者でない橙子では分からない。
「……ああ、承った」
しかし鬼の方は満足しているようだった。彼の者は最後まで橙子に目を向ける事はなく、深い木々の奥へと消えていく。
そして橙子の興味もまた、その分不相応にも鬼退治に挑んだ愚か者に移っていた。
★1998年 6月19日★
金曜日、天気は晴れ。伽藍の堂にて。
義手と義足の
「橙子さん、この段ボールはどこに置けば良いですか?」
「ん? ああ、ソレはそのままでいいわよー」
こういったやり取りを既に十数回と続けている。
幹也はこれらの段ボールに何が入っているのかを知らない。ただ橙子からは「割れ物も入ってるから気を付けて―」との事。一応内容物は仕事関連の物だと言っていたため、恐らくは骨董品か何かだろうと推測する。
しかし幹也は知らない。これらの段ボールの中に眠らされている
「じゃあこれで全部ですね」
「はい、ご苦労様。今日はもう上がっていいわよー」
「あ、はい。ありがとうございます」
「はいはーい」
眼鏡の橙子は複数枚の資料と睨めっこしながら幹也を労わった。普段の彼ならば退勤の許しが出た時点でさっさとオフィスを辞し、そのまま真っすぐ両儀式の居る病院へと向かうだろう。
しかし今日の彼はこの場に留まり、何やら悩んでいるようだった。
「どうしたの、幹也君?」
特段忙しいわけでもなかったため、橙子は声をかけた。すると幹也は「いや、その」と歯切れの悪い様子を見せており、ともすれば彼女に何か聞きたい事があるのではないかと考える。
「もしかして勝馬のこと?」
橙子が何となしに告げると、図星だったようで幹也は驚きつつ頷いた。
「はい、入社した初日に橙子さんには聞いたと思うのですが。その、勝馬さんは社員ではないって」
「そうね」
毎日のように清掃、資料の整理に従事し、そして橙子の作成した人形の展覧会があればそのスタッフを務めているため忘れそうになるが、八朝勝馬は正規の社員ではない。本人からも給料はもらってないと幹也は聞いた。日銭はバイトで稼いでいるとも。
「だから、何て言えばいいんだろう。橙子さんと勝馬さんの関係って何だろうって」
慎重に言葉を選んでいるのだろう。邪推しているという自覚があるのか、時折表情や態度に不安な様子を見せてくるあたり愛嬌すら感じる。
「そんなに畏まらなくてもいいわよ」
「あ、あはは。やっぱりそう見えます?」
頬を掻きながら羞恥心を誤魔化す幹也。橙子は『両儀式』と関わる事を決めた手前、彼女の人となりから交友関係までくまなく調査し、本人に聞き込みもした。したがって幹也と式の間にどういった
ともすれば、一見すれば固い信頼関係を築いているように見える橙子と勝馬には、憧れを感じていても何ら不思議ではない。だから迷える若者に塩を送るのも一興かと、橙子は考えた。
「そうね、私と勝馬。ちょっと難しいけれど、言ってしまえば彼が奴隷で私がその主ってところかしら」
とんでもないことを口にしておきながら、何処か嬉しそうに、楽しそうに橙子は目を細める。善良な一般市民である幹也による橙子の評価は『素晴らしい作品を創る人形師』である。だが、頭に『ロクでなし』をつけるべきか真剣に悩んでしまう程度にはその笑顔に陰りが見えなかった。
しかし、それ以上に―――
「何というか、本当に信頼し合ってるんですね」
「どうしてそう思うの?」
「だって他人にそんな事を公言できるって事は、勝馬さんが『自分のモノ』だって確信しているからでしょう?」
中々に鋭い言葉だった。
確かに以前の
だから蒼崎橙子が勝馬の命の恩人である以上、望めば一生を捧げてくれるだろう。しかし逆を言えば―――
「彼をモノとして見るのであれば、こんな悩みもなかったんだろうけどね」
「え?」
橙子の呟きを幹也は聞きとることが出来なかった。そして聞かせる気もなかった。橙子はほんの一瞬だけ憂わしげな顔になるも、すぐに取り直す。
「さて、それで? 私も話したんだから幹也君の話も聞かせなさいよ。式ちゃんとは―――」
あからさまに話を逸らす橙子。結局のところ、同じ穴の狢という事である。
軋MAX口調難しすぎィ!
当初の予定ではMBAAの七夜エンド並の熱血展開を書こうと思ったけど、自分の能力を鑑みた結果こうなってしまった……すまねぇ、すまねぇ。
というか作品別の版権キャラ同士を会話させるの難しい……。
ここにきて型月作品をつなげる二次創作の難しさを知る作者。
感想が来てないか一時間ごとにマイページを更新する、ありませんか?(意訳:感想ほしいです。お願いです何でもしますから
ぶっちゃけ事件簿は……
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漫画だけなら見たことある。
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小説呼んだぜ。
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アニメだけなら見たことある。
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見たことない。