ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

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神は罪を決めない 後半

 ゴンダのそこそこ長い話を聞き終わった俺、ウリエルはほんの少しばかし同情していた。聞き終わってみればかなりひどい話ではある。いきなり環境がデスゲームという地獄に様変わりして、多少は適応してきたと思ったら、今度は自分だけが安全な町から追い出される。おまけに犯罪者のレッテルまで付けられる。ホントに酷い話だ、仮にも管理者の一人としては罪悪感を感じざるを得ない───この話が全て正しいという前提ならば。

 

「話は分かった。色々聞きたいことはあるが、まず最初にこれだけ聞かせてくれ。エリカさんあなたはゴンダさんの話の中で違っていると感じたところはあるかい」

「私をどうするつもりなの」

 

 とりあえず、先ほどから一切の発言がないエリカの方に話を振るが、帰ってきたのは彼女だけの処遇を問う言葉。いや確かに彼女にとっては重要なことというのは分かるけどさ…

 

「聞いているのはコッチなんだけどナ」

 同じく困惑しながらも、先ほどの質問に答えさせようとするアルゴ

 

「そんなのゴンダの話に補足してない時点で察してよ」

 

 懺悔するゴンダとは対照的に、この女は完全に開き直っているようだった。色々思うことはあれど、とりあえず彼女からの異論はないのか。

 

「まぁいいや。俺としては奪ったコルさえ返してもらえればそれで済ませる。パーティメンバーにもそのことは了承済みだ。けどね流石にこの現状をこのまま放置するという訳にはいかないのは分かってくれるよね?」

 

 ここまで関わった理由は、半分はお節介だが残りの半分は取られた金を取り返すことである。

 

「現状を放置しておくわけにはいかないって言っても実際にはどうするんですが」

 

 ゴンダの疑問ももっともだろう。だがしかし、俺には秘策がある。

 

「ここにおわすのを誰と心得る。畏れ多くもアインクラッド1の情報屋アルゴ様にあらせられるぞ」

「......そこはオイラだよりなんだナ」

 

 アルゴの呆れたような声が洞窟に響いた。

 

「賢者には素直に頼れ我が家の家訓でね。俺の知識だと少しばかし不安だ」

 

 嘘だ。βの時の仕様から一切変更されていないことは知っている。多分茅場もそんなところまで変更していないだろう。それでも記憶違いや勘違いという可能性はある以上、アルゴからの情報が欲しかった。彼女は俺が知る限りで一番信用のできる情報を売る情報屋なのだから。

 

「その情報は高いゾ」

「対価はエリカに盗られた俺のコル全額でどうだ? 」

 

わるくないナと呟くアルゴ。...すまない多分たったの1130コルに釣り合う情報じゃないんだ。

 

「そんな、俺達のためにウリエルさんがコルを払う必要なんか」

「人様から奪ったコルで支払うと?」

「......それは」

 

言い淀むゴンダ。

 

「安心しろダダじゃない。出世払いだ」

「...感謝するウリエルさん」

 

 罪を償ってから稼いだコルで返してくれ__その思いはゴンダはともかく後ろの彼女には届いたのかどうか。

 

「ほらエリカ。お前も礼を言え」

「─ありがとうございます」

愛想のない顔で礼を言うエリカ。

 

「まず一つ目ダガ、被害者への誠心誠意込めた謝罪」

「それは当然です。...一応被害者の方々とフレンド登録交わしてしますので連絡は取れます」

 

 そういえば、俺も狂言強盗の後にフレンド登録を求められて了承していた。これは後に聞いた話だが、ヒルコとユウキとも交わしていたらしい。

 

「随分と計画的なことダナ」

「......詐欺られた俺がいうのもなんだが、そこまでの計画性があるならもっと効率的なコルの集め方があったんじゃないか?」

 

 事実もし仮に俺がオレンジプレイヤーとグリーンプレイヤーを一人ずつ自由に使え、尚且つ手段を選ばなければ多分彼らの数十倍はコルを集められただろう。少なくとも金を奪う相手には全てのアイテムを実体化させていた。

 

「......都合のいい話ですが、なるべく人様に迷惑をかけたくなかったんです」

「そうかい」

 

 随分と中途半端なことだ。だがまぁ良心を捨てきれなかったのも分からなくはない。実際あの方法で言われるがまま全額コルを出す奴は、ヒルコとユウキのお人よし純粋バカ×2くらいなものだろう。大抵のやつは俺のようにある程度の余力を残してコルを差し出すはずだ。

 

「次に二つ目ダ。今回起こったことを全て()()()()()()()()()()()

()()()()

 

 ゴンダの話以降、話題を振られない限り一切喋っていなかったエリカが初めて自分から明確な反応を示した。その表情は驚愕。なぜそれをしなければならないのかとその顔に書かれていた。

 

()()()()()? なぜコルが必要になった時にパーティメンバーに相談しなかった? 」

「それはエリカが巻き込むことを嫌ったからで......」

「犯罪行為に手を染めることよりもハードルが高かったのか? 」

 

 2人で詐欺をしながらコルを集めるよりかは、パーティメンバーに事情を話して集めた方が、掛かる時間も大体同じだろうし、ゴンダの精神的にも良いと思うのだが。

 

「......あの小娘に弱みを見せたくなかった」

 

 数秒の間を経てようやく喋り出しだエリカ。だがその答えには首を傾げざるをえなかった。

あの小娘とは誰だ?一番真っ先に連想するのはやはりパーティメンバーの一人であるメルだが......

 

「い___メルのことだ。エリカとメルはまぁなんというか相性が悪くてだな」

「はぁ?」

 

いくら仲が悪いとはいえ、仲間が圏外に取り残されているのだ。会ったのは一度だけだが、メルとついでにジキルはそこまで情の無い人間には見えなかったが......

 

 頭によぎるのは迷宮区にて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()仲良さげに過ごしていた3人の会話。

 

 深く考えるのはよそう。所詮は他人のこと。傍から見てわかるものでもないのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「エリカ......」

「......分かった。分かりましたよ。私の口からしっかりと謝罪します。被害者にもメル、ジキルにも」

 

ゴンダの何かを言いたげな声でエリカが断言する。

 

「じゃ3個目。これで最後ダ。今後アンタらが何らかの形で意図的に人を害することをしたことを確認した場合ハ、オイラは速やかにオイラの知る全てのアンタらの情報をプレイヤー全体に通達スル」

 

 えぐくないですかアルゴさん? あなたほどの情報屋なら、(そう簡単にやらないだろうけど)一般プレイヤー如き簡単にアインクラッド社会から抹殺できるんですよ?

 

「モチロン、この条件をアンタらは気にしなくていい、そうダロ?清廉に過ごしていれば、関係ない話ダ」

「おっしゃる通りです。アルゴさん。......では教えていただけませんか、エリカのカーソルをオレンジからグリーンに戻す方法を」

「その前にコルを払えウリエル」

「りょーかい」

 

 といってウィンドウを開いて、無残なコルの残額を目のあたりにする。

 

「なら奪われたコルを返してもらおうか。奪ったコルはどうやって管理していたんだ? 」

「エリカが自分のストレージで全額管理していた」

「ほう?」

 

 つまるところ、奪ったコルの量はエリカしか把握していなかったという訳か。

 

「渡す」

 次の瞬間、それなりに重いコルが入った袋をエリカ投げられる。残高はヒルコとユウキから聞いていたコルの量+俺がとられた1130コルとピッタリと一致して──エリカが、ゴンダに向けて盗ったと言っていた3000コルよりも遥かに高い金額だ。

 

「確認した。なんか少し多くないか」

「気のせい。ガキ二人があなた以上に持っていたんでしょ」

「そうかな」

 

 追及しようかとも考えたが、後回しにすることにする。

そのまま、ストレージにしまい込む前に、実体化されたままの状態で、1130コルをアルゴに渡す。

 金額を確認し無言でなにか言いたげな鼠には後で迷宮区のマッピング情報とドロップ品でも無償提供しよう。だからその目線をやめてください。お願いします、アインクラッド一の情報屋様のアルゴ様。

 

 

「それで、どうすれば......」

「......先ず、オレンジフラグを戻す方法ハ二つあるンダ。一つは極低確率で出現するNPCのクエストを受けること」

 

ゴンダが話を進めようとしたことで、アルゴ殿下がこちら側に下賜する目線をようやく他所に向ける。

 

「それが、あの人(雨合羽の男)が言っていた方法ですかね?」

「ソレが分からないンダ」

「は?」

 

 予想外の返答だったのか、ゴンダが素っ頓狂な返事をする。

 

「その様子だとβの時は変わっていないみたいだな」

「その通りダ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()N()P()C()()。少なくともオイラはその他にオレンジフラグを解消するNPCもクエストも知らないンダ」

「まって下さいならあの人(雨合羽の男)が言っていたクエストは」

「オイラは一介の情報屋だからナ──ホントにある可能性は否定できないナ」

 

 茅場でもない限り証明は不可能だろうが、少なくとも俺は十中八九嘘だと思っている。

 管理者である俺と凄腕の情報屋のアルゴが、ランダム湧きのNPCと後述するもう一つの方法しか知らない以上、現時点で他の方法がある可能性はまずありえない。

 

 アルゴの否定に絶句するゴンダ。そもそも、安全圏を提供されたからと言って、多額のコル要求と犯罪行為を推奨する奴がまともな訳ないだろう。

 

「──ともかく、そのNPCが出現する可能性ってどれくらいなんですかね?」

「オイラが知る限り、そのNPCに会ったって話ハβ時代に5回、本サービスが開始されてからはなんとたったの1回だけダ」

 

 ちなみに、出現条件は罪を起こしてからその罪に応じた時間が経過することと、カーディナルが"罪を償った"と判断した上で確率である。

 その条件の厳しさからβ時代はたったの10人しかこのイベントに遭遇していなかったはずだ。さらに言うとその中でカルマ浄化したのは半分くらいである。

 

「だからこそオイラとしてはもう一つの方法をお勧めする」

「教えてください」

 

 だからこそβ時代に主に取られていたのは次の方法。

 

「自首ダ」

「えっ? 」

 

 アルゴの言葉に聞き返すゴンダ。その様子だとこの機能をゴンダは知らなかったらしい。なんというか、最初から気がついていれば詐欺行為に手を染める必要がなかったことを考えるとうん。無知って怖いね

 

「ウィンドウのメインメニューの一番目立つ所から自首できるンダ」

 

 開発時、β時代共にこの機能に気がつかなかったという意見はなかったため、特に実装時と比べて変更されたことはない。しかし、気がつかなかったプレイヤーがいるならば後で改善案を上に出すべきか―と一瞬考え、既に実現不可能であることを思い出す。

 

「は? エリカ気が付いてたか?」

「気がついてた」

 

 もちろんエリカも気がついているはずもなく.....,いやちょっと待て今なんて言った?

 

「「「は?」」」

 

 エリカ以外のすべてのプレイヤーの驚愕の声がハモった。ゴンダなんて驚きすぎで、顎が外れかけている

 

「だって()()()()()()()()。自首しても何されるかわからないし」

 

 恥ずかしい?マジでなにいってんだこいつ。その困惑はアルゴも同様だったようで、彼女にしては珍しく顔に諸に出ている。

 

「詐欺までして多方面に迷惑かける方がよっぽど恥ずかしいと思うんだが」

「もしあなたたちにバレなければ、私は暫くは潔白でいられた。そうでしょ、誰かにバレなきゃ犯罪は犯罪じゃない」

 

 なにいってんだこいつ(2回目)うん。いやちょっとごめん。理解を求めるようにこちらを見ているが全く理解できない。犯罪は自分が自覚してる時点で犯罪だ。

 

「.....いやそれ問題の先送りにしかなってないんじゃないでしょうか」

「先送りしたら誰かが解決してくれるかもしれない」

「あーうんーあーうん」

 

 そんな毎回都合よくいくわけねぇだろ!! という言葉を流石に飲み込む。なんか今はなにを言っても無駄に終わりそうになる気がしたからだ。エリカに習って俺も後回しにすることにする。ゴンダが青い顔しているのが僅かながら救いだ。

 

「......アルゴ悪いが話を進めてくれ」

「コレはオイラもめんど......持て余しそうだしナー。とりあえず、自首することで体力がゼロになるとかアイテム没収されるとか、BANされるとかそういうデメリットはナイ。一定期間黒鉄宮の牢屋エリアに閉じ込められるだけダ」

「うちのエリカが大変申し訳ない......その一定期間っていうのはどれくらいなんですか? 」

「正直それは分かってないんだナー。流石にこればっかりはオイラも実証するわけにもいかないシ。ただ確実なのは『犯した罪に応じて拘束時間が増える』ことと、『牢屋に入るたびに拘束時間が延びる』、『牢屋から出る際には拘束時間経過後、誰かに開けてもらわないといけない』この3点だけダ」

 

 実際のところカーディナルが定めた条件としてはアルゴがいった通りだが、β時代は、牢を開けてくれる仲間がおらずずっと閉じ込められる(とはいっても当時は当然ログアウトできたので、あくまでゲーム内での話だが)ことを防ぐために運営チームによって恩赦として拘束解除したり、

牢に入ってるプレイヤーの扉の前に別プレイヤーが立ち物理的に出られないようにする(このゲームだと、プレイヤーは他のプレイヤーを押しのけることができない)、通称『ブロッキング』と呼ばれる手法がなされていた時には適度に対処していたりしていたりする。

 この仕様よくよく考えてみれば、デスゲーム化した現状、随時対応できる管理者が茅場(といるとすればだがその協力者)しかいない小数人対応って時点でかなり不味いのでは?カーディナルだけで対応しきれるのだろうか?

 

「β時代には殺しは一人やるごとに3~4日って言われてたな。だからそれよりは短いんじゃないんか」

「ウリエルの言う通りダナ。本サービス開始後も大体1~2日で出れたって話ダ」

「そうなの」

 

 エリカがウィンドウを可視状態で開く。メインメニューの一番目立つ所に自首ボタンはあった。血のように赤い文字で警告文が踊って......待て、『赤』だと?

 

 

「危ない!! 上!!」

 

 ヒルコの声が空間に反響した次の瞬間一気に様々なことが起こった。

 まず、ゴンダが倒れた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを俺たちは静止することができなかった。あまりに唐突だったこともあるが、一番は上から大小さまざまな石礫がオレとアルゴの頭上に落ちてきたからだ。

 

 慌てて左手の盾を掲げアルゴと自分を守る。なぜ突然岩雪崩が発生したのか、その答えは黒光りするダガー示していた。それが洞窟の屋根にある大量の石礫を保持していた網を切り裂いたのだ。無論自然に生成されたトラップではない。誰かが人為的に仕掛けたものだ。

 

 ダガーを投げた、そして恐らくはそのトラップをセットした下手人は洞窟の入り口に立っていた。迷宮区のエリカと同じフード付きの雨合羽(ポンチョ)(ただしこちらの色はオリーブグリーンである)のを纏っており、その表情容姿共に一切のことが分からない。ただ、頭上に浮かぶカーソルの色はオレンジ...ではなく恐ろしいことにグリーン。

 

「ヒルコユウキ無事か!?」

「大丈夫! ごめん、防げなかった! 」

 

It's showtime

 

流れるように完璧なイントネーションで呟いた直後雨合羽(ポンチョ)の男がこちらに突っ込んでくる。決して遅いわけではなく、現実世界においては運動神経バツグンといった感じだが、なんとなくデスゲームが始まって3週間近く経過しているのにも関わらず未だに仮想世界での動きに慣れきっていない感じがする。

 手に持つ獲物は屑鉄の小型剣。包丁のように刃渡りが短い武器だ。

 

「させるか!」

 

 俺はそれを盾で防ぐ、いいや()()()()()()()()()()()()()()()()()。オレンジになる条件それは『デュエル状態ではない他プレイヤーに切りかかることではなく』あくまで『デュエル状態ではない他プレイヤーのHPを自身が装備する武器で削ること』である。

 

 決して相手のHPの色はグリーンからは変わらない。先ほどの落石攻撃も雨合羽(ポンチョ)の男はダガーを網に向かって投げただけであり、その結果他のプレイヤーが死にかけようが雨合羽(ポンチョ)の男には関係のない話___そうカーディナルは判断したのだ。

 

 反射的に右手の愛剣で切りかかりたい欲を抑え剣先を相手に向ける。ここで切りかかったら俺がオレンジになる。そうなれば相手の思う壺だ。

 

「チッ」

 

 狙いに気がつかれたことを察したのか舌打ちし距離を取る雨合羽(ポンチョ)の男。

 

「お前はなんだ?」

 

 分からない。エリカの主張よりもっと意味の分からない生物だった。

先ほどの落石攻撃。あの量、あの高さだと命中していれは、体力がゼロになっていても不思議なことではなかった。それをやってのけた何を考えているのか分からない、目の前の存在に恐怖した。

 だが言葉を発した俺ではなく、エリカの方を向き叫ぶ

 

「エリカ、俺ならお前の全てを肯定してやる!俺と共に来い!」

「はい、行きます!あなたと一緒ならどこへだって!」

 

 それに呼応したエリカが雨合羽(ポンチョ)の男へと駆けだす。麻痺して動けないゴンダが呻く。

 

「恋愛映画の主人公の気分か? 」

 

逃がすわけにはいかない。ちょうどタイミングよく背中を向けている無防備なエリカの足を切り落とそうとする。

 

──それで死んだらお前は殺人者だな

 投げかけられた悪魔の言葉でソードスキルを発動する寸前で手が止まった。経験上、体力マックスの相手に現状使えるソードスキルを打ち込んだところで同レベルのプレイヤーが死ぬ可能性はほぼない。だがもしクリティカルと弱点部位が上手くかみ合ってしまって削り切ってしまったら?

 

 今この瞬間、俺は危険なプレイヤーを野放しにするリスクと自らの保全を天秤にかけ──反射的に後者を選んでしまった。

 

 ソードスキルを無理やり中断したことでペナルティの硬直がシステムによってかけられる。

 その隙に雨合羽(ポンチョ)の男が丸いピンポン玉程度の大きさの球体を地面に叩きつけた。叩きつけられた玉から白い煙が急速に広まっていく。目隠し玉だ。

 

 このまま逃がしてしまうのか。いやまだ手はある。この洞窟の入り口は一か所、今ヒルコとユウキがいる場所だけだ。ならば、彼らに足止めをさせれば逃がすことはない。

 

 無理だ

 

 ヒルコ(健太)にオレンジプレイヤーとそれ以上の危険人物を閉じ込めるための盾になれとは、とてもじゃないが言えない。

 

「......見事に逃げられたナ」

アルゴが憎々しげにつぶやく。煙が晴れた後には当然あの二人はいなかった。

 

「ヒルコ探索スキルの様子は? 」

「今まさに範囲から出たところ。急いで追いかればまだ間にあうかも」

「ダメだ。追うなヒルコ。危険すぎる」

「でも......」

「追うな」

 

 ヒルコは何かまだ言いたげだったが、黙らせる。

 地面に這いつくばるゴンダを見る。泣いていた。大の大人がみっともなく号泣していた。麻痺していなければ地団駄を踏んでいたのではないかと錯覚するほど泣いていた。

 

「ゴンダ……」

 アルゴが何か言いかけようとするが、口の上手い彼女でさえ次の言が見つからないのか口をごにょごにょさせる。

 

「ウリエルこれ落ちてたんだけど何か分かりそう?多分あの人が天井に向けて投げた短剣だと思うんだけど」

 

 ユウキが俺にダガーを渡してくる。見たことのない知らない武器だ。プロパティを見るが、鑑定スキルの無い俺だと、新品同様の耐久値であることしか分からない。

 

「......アルゴ、鑑定スキル持ちに伝手あるか」

「OK、オイラが預かっておくヨ」

 

 そのままアルゴが自身のストレージにダガーをしまい込む。

 

 残る彼らの手掛かりは一つだけ、

 ようやく、麻痺が治ったゴンダだ。

 

「なぁゴンダ、教えてくれ、エリカは()()()()()()()()

「えっ?ころした……エリカが?誰を?」

「とぼけるなよ。エリカがオレンジ化した原因となったプレイヤー。あいつ本当は死んでるんだろう?」

 

泣きはらした目でこちらを見るゴンダ。その表情は事実を言い当てられた驚愕......ではなく、何をいっているのか分からないという当惑の顔。

 

「まってウリエルどうしてエリカが殺したって分かったの? 」

ヒルコが疑問を浮かべる。ユウキもゴンダもアルゴでさえも分かっていなさそうだ。

 

「一瞬見えたエリカの自首ボタンが赤かったんだよ。アルゴ、レッドプレイヤーの語源は知ってるだろ」

 

 俺の言葉でアルゴは気づいたようだ。

 

「ウソダロ......? 見間違いじゃないカ? 」

「残念ながらこの目でしっかりと確認したんだ」

 

 見間違えであって欲しかったが、あの赤い文字列はしっかりと目に焼き付いてしまっている。目をつぶるアルゴ。それは弔うためかそれとも精神を落ち着かせるためか......傍からでは分からない。

 

「待ってごめん、全然意味が分からないんだけど」

 

βの知識がないヒルコたちは話に置いてきぼりだった。

 

「......レッドプレイヤーってのはβの時のPK(プレイヤーキル)のことダ。そう呼ばれるようになった理由は、自首ボタンが普通はオレンジなんダガ、デュエルの完全決着モード以外で一度でも人のHPをゼロにしたプレイヤーは自首ボタンが赤に変わるンダ」

 

「そんなバカな......俺は知らない。本当だ。あのプレイヤーに限らずエリカが人をその...殺害したことなんてないハズだ」

 

 否定するかのようにゴンダは首を横に振るが力がない。だが、ゴンダがエリカが殺人者であることを知らないというのも事実のようであった。

 

「ならあの女は誰を殺したんだ?」

 

 俺の疑問に答える者はいない。ただただゴンダの嗚咽のみが空間に響く唯一のサウンドだった。

 

 

俺がこの時に雨合羽(ポンチョ)の男を殺さなかったのを激しく悔いるのはほんの少し遠い未来の話

俺がこの時では笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の首領を殺せないことを理解するのは更に遠い未来の話




次回更新は未定です......
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