ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
俺達は第一層迷宮区から一番近い街、トールバーナーにやってきていた。
「すごい人数だね。ここまで人数が集まってる状態なんだか新鮮だな」
ユウキが呟く。確かにSAOでこれ以上の人数が一堂に集まったのは始まりのあの日以来なのではないのだろうか。
俺達がここに来た理由はただ一つ。ここで行われるという第一層迷宮区ボス攻略会議に参加するためである。
故にここにいるプレイヤー。その全員が第一層のボスを倒すために集まったトップランナーである。このアインクラッドがくそったれなデスゲームから変わって早1か月。ようやくか。というのがこの俺、白澤の偽らざる心情だ。
だがしかし、これでも俺は少ないと感じてしまう。集まった人数は大体40人前後。一レイドこと48人にも満たない
ベータの時だと多い時には200人を超える人数が来たことを知っている俺としては若干の寂しさがあるが、今はデスゲームにも関わらず、これだけプレイヤーが集まってくれたことに感謝しよう。
「負けられないな」
「うん、これだけいれば行けるよ」
ヒルコと声を掛け合って気合をつける。
実際のところ、本サービス開始前のアーガスの見立てでは一層のボスは早くて5日、遅くても2週間ほどで撃破される予想だった。ところが、デスゲーム化の弊害で一ヶ月も一層にいたおかげでプレイヤーの平均レベルは推奨レベルであった6を遥かに超えている。プレイヤーによっては10の大台を超えた奴もいたのではないだろうか。
だからこそ指揮官がよっぽどの無能ではないという注釈がつくが、ここのボスは犠牲者無しで問題なく勝てる。βとの変更点は存在するが、落ち着けば間違いなく対処できる範囲だし、なんなら見た目からして変更点があるのでβテスターの誰かが開戦と同時に気が付く筈だ。事前に得られる情報ではボスの変更点は分からなかったはずだが、仮にもこのデスゲームで一ヶ月戦い抜いたβテスターならば必ず気が付いてくれると信じている。
「大丈夫だよ、ウリエル」
「ありがとうヒルコ」
ヒルコがまるでこちらの思考を読んだかのような発言をする。この従弟が居たことは、俺にとって人生5回目の絶望だが、それでもいてくれるだけで精神的に楽になることは事実である。
「ウリエルさんたちも来たんですか」
そんなことを考えているとゴンダ・メル・ジキルの3人組に声をかけられた。
「「メル、久しぶり!」」
「ユウキちゃんもヒルコ君も元気そうでよかった!」
早速、子供たちが再会に手を叩きあって喜んでいる。久しぶりとか言っているが前にあったのはつい一週間ほど前のことである。
「なんというか、お久しぶりです。ウリエルさん。あの時のことは本当にすまませんでした」
「あぁそのなんだ、久々だな」
詐欺の片棒を担いだ挙句、詐欺の主犯に捨てられた男に何と言うべきか分からなくて中途半端な返答を返してしまう。
「挨拶が遅れてすみませんでした、リーダーと元パーティメンバーが大変な迷惑をおかけしたみたいで」
「あっしからも謝罪します。大変申し訳ございませんでした」
土下座せんばかりの勢いで誤り通すメルとジキル。
「メルとジキルが謝る必要はないよ」
「そうだよ、知らなかったんだから」
ユウキとヒルコが慌ててフォローする。
「知らなくとも、ゴンダはあっしらのリーダーだ。リーダーの馬鹿を見逃したあっしらにも責任がある」
ジキルが力強く答える。こちらもなぁなぁで済ませるわけにはいかないだろう。
「──君たちの気持ちは分かった。その謝罪は受け取っておこう。それでこの話は終わりだ」
「「「ありがとうございます」」」
彼らの装備を見る。迷宮区で初めて出会った時とほぼ同じ装備であった。
詐欺被害者への返済分で、少なくともゴンダの装備の上から下まで纏めて売り払うことくらいは売り払う必要があると思っていたのだが......まぁ今までのやり取りをみてわかる通り、ゴンダには頼れるパーティメンバーがいるのだ。皆で頑張ったのだろう。
「ようゴンダ、来てくれたんだな」
そんな折、ゴンダの肩をポンと叩く者が現れた。
巨漢のスキンヘッドの黒人だった。装備は斧、後ろの少し離れたところに似た色合いの装備を持つ男が2人ほどいるが、仲間なのだろうか?一度か二度迷宮区で遠目でちらりと見た覚えがある。
「エギルさんお久しぶりです。その節は......」
「いいって気にすんな。初めましてオレの名前はエギル斧使いだ」
「どうもご丁寧に、自分の名前はウリエル、あっちがユウキで、こっちがヒルコだ」
「始めましてだねエギル!一緒にボス攻略頑張ろうね!」
「威勢のいい子供たちだな、ヒルコとユウキ、こちらこそよろしくな」
そういって握手をするエギルと子供×2。こいつらの交流が増えるのはいいことだ。決して
「まてよウリエル?ひょっとしてあんたがゴンダ達の恩人か?」
「恩人?」
「いやいや、本当にウリエルは俺にとっての恩人ですよ」
「そういってもらえると嬉しいですね」
......だがそもそも俺達一般アーガス社員がしっかりとしていれば彼らがこんな気苦労を負う必要はなかったんだ。
「アンタらと共闘できるなら心強いな!」
そう言って去っていくエギル。そういや、なぜ彼は俺のことを知っていたのだうか。聞いてみようかと思ったが、既に話は別のことに移っている。別の機会に聞くとしよう。
「そういやユウキたちは今回攻略組を集めた主催者知ってます?」
「ううん。メルは知ってるの?」
今回第一層のフロアボスのために攻略組を集めた奴か。言われてみれば知らないな。鼠なら知っているのだろうか。そう思って辺りを見渡すが、彼女は見つからなかった。
ただし彼女の場合、見つからないだけでいないとは限らない。驚くべきことに彼女はもう既にヒルコ程度の気配察知では発見できないほどの気配遮断の熟練度を上げているのだ。もし今彼女が本気で隠れだしたらゲームクリアまで誰も見つけられないのではないだろうか。
「はーい!それじゃ5分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!」
そんなことを考えていると広場中心の噴水の縁に青髪の青年がふらりと飛び乗る。こいつが主催者か。
「俺は『ディアベル』。職業は気持ち的にナイトやってます!」
このSAOに職業システムはないが...まぁ言うだけなら自由だ。
「このSAOにも髪色変えるシステムあったんだ」
「ユウキ変えたいの?」
「ちょっと興味あるかな」
子供たちが騒いでいるので流石に静かにしておけと注意しておく。
ちなみに壇上ではディアベルがボス部屋発見したのは俺たちだ!と言っていた。
「このデスゲームそのものもクリアできるんだってことを、はじまりの街のみんなにつたえなきゃならない。それが俺たちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろう、みんな!」
演説が終わったようなので拍手の一つも返しておく。拍手で沸き立つ会場。
「ちょーまってんか!」
だが、その歓声は一つの低い声によって混乱が混ぜられ、謎のとげとげ頭がディアベルの横に飛び込んでくる。
なんだアイツは。空気の読めない奴だな。
「ワイはキバオウってもんや!」
キバオウ?キバオウ⁉ 聞き覚えのある名前に驚愕とうれしさを同時に覚える。初日のデスゲーム開始前にアドバイスしたあの人たちの内の一人だ。生きていてくれたのか。良かった。
けれどもなぜいきなり壇上に上がってきたのだろうか。そんな疑問に答えるかのようにキバオウが口を開く。
「皆で仲間ごっこするのはええ。だがな、その前に話つけなあかんことがあるはずや、こんなかにも心当たりがあるハズや!」
「話とは何のことかなキバオウさん」
急な乱入にも慌てず対応するディアベル。
「βテスターのことや。奴らは上手い狩場やボロイクエストを独り占めして、自分だけポンポン強くなってそのくせワイらビキナーのことは知らんぷりどころか妨害すらしてくるんや。当然たくさんのプレイヤーがゲームから抜けてしもうた!こんなかにもおるはずや。妨害してでもボスのドロップや経験値を狙っとるβテスターが!そいつらに詫び入れさせてコルやβ時代の情報吐き出してもらわな、同じパーティメンバーとして命は預けられんし預かれんとわいはそういうとるんや!」
キバオウの怒号に場の空気が悪くなる。実際のところβテスターに傲岸不遜自分が良ければそれでいい....そう思っているのは一定数存在しただろう。それこそ初日のあのラストアタックを奪っていったあの青年のように。
だが、それが大多数かと言われるとそうではない。βテスターの中にも表立たずひっそりと情報屋を介して情報を提供するものもいるし、中にはアルゴのように自ら情報屋をやっているものもいる。
そしてここが一番重要なことだが、傲岸不遜自分が良ければそれでいいと思ってるβテスターは大多数が既にゲームオーバーを迎えている。理由は簡単、SAOがβテストから本サービスに移行する際に、(性格の悪い運営人によって)β時代を知っているほど引っかかりやすい罠が意地の悪いところにいくつも仕掛けられているからだ。
実際にアルゴに依頼して聞いてみたところ、聞いた時点での死者数2000人。死者数にβテスターが占める割合は6割。参加者全体でみるとβテスターが7%から8%であることを考えると異常なまでに多い。
こんなことになるんだったら、βテスト後にプレイヤーの行動を元に様々な変更、特にβの知識があるほど引っかかりやすい悪質なものをする木田センパイを止めときゃ良かったと自らを嘲る。覚えていたものだけでも自身で確認してからアルゴにまとめて渡しておいたが、それでもすべてを覚えているわけではない。
......これ以上考えるのはやめてるべきだ。それに引っかかって死んだ奴は慢心と過信があって死んだ。全ては対処しきれなかった彼ら自身と、一回死んだら終わりにした茅場の責任だ。
この結果を聞いて何も知らないアーガスの皆が病まなければいいのだが。茅場は純粋に〇ね。
「発言いいですか」
かなり近くで高い声が上がったことで物思いから覚める。
「私の名前はメルです。キバオウさん、あなたが言いたいことはβテスターの対処が悪かったからたくさんの人がログアウトしてしまった。だからβテスターは責任を取って謝罪と賠償をしろということで間違ってないですか?」
手を挙げて発言したのはメルだった。気丈にふるまっているが足のあたりが震えている。怖いのだろうか。怖いのだろう。キバオウの見た目や振る舞いは言い方は悪いが......完全にチンピラそのものだ。よくぞ立ってくれた。
「そうや。あんさんが情報出してくれるちゅうんか?」
「いいえ、私は出せません。ですがキバオウさんコルやアイテムはともかく情報ならば提供されていたと思います」
「なんやて!どこに提供されてるっていうんや‼」
圧をかけるキバオウに怯えるメル。圧から守るかのようにユウキとヒルコ、一拍遅れてゴンダとジキルが前に立つ。とりあえず俺もたっておく。
「キバオウさん。あんた少し落ち着いたらどうだ、幼い子供相手にそんなに圧かけながら話さなくてもいいだろう」
俺も正直キバオウはヒートアップしすぎであると思っていたので、少し釘をさす。
「これです。アルゴのエリア別攻略本。この中にももらった人もいると思います。町の道具屋で無料配布されてましたから」
そういって彼女が取り出したのは大丈夫アルゴの攻略本だよ、と書かれた本。先行しているプレイヤーやアルゴのサイン目当てのやつからは500コルとりそれを元手に量産して配布されていたはずだ。
せっかくなのでストレージからアルゴの攻略本(サイン付き)を出して便利な奴だよなと少し大きめな声で言う。
「このガイド、私たちのグループが新しい拠点につくと必ず道具屋さんにおいてありました。...速さの割に正確だと思いませんでしたか」
「...あんたらのはやさなんか知らんわ。第一、アンタらより配布が早かったらなんだというんや」
「これらのデータを情報屋に流したのは元βテスターたち以外にはまずあり得ないと思います」
「...アンタらの進みが遅かったんやろ」
キバオウが一瞬言い淀んだ上で吐き捨てる。
「…それは___「発言いいか」
メル達もタイムを競うような速さで攻略を進めてきたのではないのだろう。発言に窮したところでエギルさんが挙手する。
「なんやアンタは」
そのデカさに一瞬気圧されたような気配を見せるキバオウ。
「オレは自慢じゃないが割と速いペースで攻略してきたという自負があるが、そのガイド、オレが新しい街や村に着いた時も置いてあった」
「僕達が来たときも置いてあったよね、ウリエル、ユウキ」
「「うん、そうだね」」
エギルの発言を皮切りに、プレイヤー達から賛同の声が聞こえてくる。
無言でエギルをにらむキバオウ。だが、何も発言しない。
「キバオウさん君が言いたいことも理解できるよ。俺だって分からないなりきに進んできてここまでたどり着いたわけだからさ。でも今は前を見るときだろ?元テスターだって、いや元テスターだからこそ、その戦力は必要なモノなんだ。彼らを排除して結果として攻略失敗してしまったら意味がないじゃないか」
ここでディアベルが仲裁を図る。キバオウの立場をも慮った、騎士ではなく政治家や官僚を名乗ったほうがいいのではいいのではと思うほど巧みな弁舌だ。
「皆思うところはあるかもしれない、でも今はこの1層を攻略するために力を合わせてほしい。どうしても協力できないという人がいたら残念だけど抜けてもらって構わない。ボス戦だとチームワークがなにより大切だからね」
そう皆に向かって演説し、最後にキバオウを表情のない顔で見つめる。
「...ええわ。ここはあんさんに従うといたる。けどな、ボス戦が終わったら四の五のはっきりつけさせてもらうで」
キバオウはしばらくその視線を受けていたが、フンと鼻を鳴らして吐き捨て踵を返す。
......βテスターと一般プレイヤーの亀裂がこれ以上広がらなければいいのだが。そんなことを考えながら、自己本位なβテスターなんかよりもっと罪深い存在である
ディアベルのパーティがボス部屋を発見したのはその3日後だった。
前回の話に登場したエリカですが、SAO本編読み返して気がついたのですが、明日奈のALOのサブ垢の名前もエリカで被ってました。
意図した被せ方ではないので、過去話を含めて変更するべきかあるいはただの偶然として無視するか迷っています。
という訳でアンケートを作成しましたので、答えていただけると参考になります。
(意見の一番多かったものでも必ずしも採用するとは限らないのであしからず)
期限は次話更新までとさせて頂きます。
ちなみに次の更新予定は5月7日です。
PS.2025/04/06
名前を変更しました。3年越しではありますが、改めましてアンケートに答えてくださった方ありがとうございました。