ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
少しだけシリアスな入りですが
多分ギャグ回です。頭を空っぽにして読みことをお勧めします。
これに関しては全て俺のせいである。
人はなぜ最善を求めるのだろうか。別にほどほどでもいい。何度その言葉を聞いただろうか。
ああ、確かにほどほどでよかったんだ。こだわりすぎて全てを失ってしまうのならば。適当なところで妥協すべきだったのだ。
無論、茅場によるデスゲーム化を予想できた人は我々の仲間にはいなかっただろう。
しかし、しかしだ。我々は予想できたのだ。
ならば、実装したものを安易に手直しのために一度廃棄するべきではなかった。一度隙を見せれば最後、他派による蹂躙があったのかもしれないのだから。
否!否!否!
あったのかもしれない。ではない。実際にあったのだ。そう醤油派茅場によるデスゲーム宣言によって。
このゲームの管理者を茅場が握り、更に外部からの干渉をカットすれば当然アーガスはまず管理権限を取り戻すことが最優先となる。そして当然ながら
このアインクラッドの食事は当たり外れがとてつもなく大きい。
原因は開発時の構想では食事はそこまで重要視されてなかったからだ。
極一部の食品以外はカーディナルに作らせたものである。なぜならば食事をとるならば別に仮想世界でなくていい。むしろ仮想での食生活を充実させるとかえって現実世界に与える影響が大きいのではないか。あとめんどくさいそういった考えがアーガスサイド全体にあり、それをぬぐえなかった結果、
この世界に
その代わりが、名前を聞いたこともないような洋食や味覚パラメータを適当にいじった創作料理(大体はゲデモノ)。そしてゲテモノ未満の食べ物と名乗るのもおこがましいナニカ。
本来ならばこれでも問題はなかった。おいしいものが食べたければ現代の日本にはあふれているのだし、アインクラッドの食生活の低さをお客様から突っ込まれても現実世界に影響が及ぼす可能性が云々といっておけば言い訳としては十分からであるついでにアーガスサイドの怠も隠し通せる
だが、茅場のデスゲーム宣言によって現実世界に戻れなくなった今、儚くその目論見は霧散した。そして食事の玉石混交どころか石礫混同まれに玉のアインクラッドにおいて人々は何を食べようと思うか。
そう、今まさに人々ががっついている醤油ラーメンと味噌らぁめんである。
本来ならばここに
アーガスの塩派だって無能ではない。しかし誰一人として現実から介入できていない以上、状況が明らかに詰みだ。
おとなしく負けを認めよう。俺のせいだ。俺のせいでこの現実世界から隔離されたアインクラッドで人々から塩ラーメンを食べるという自由が奪われ、醤油ラーメンと味噌らぁめんの布教を許してしまった。
「マクラギはんはなにを食べるんや」
いつまでたっても注文しようとしない俺をみて不審に思ったのか、キバオウがはよ頼めと言外ににじませながらこちらを見てくる。周りを見ると皆既に注文し終えた後のようだ。
「いや、塩ラーメン頼もうと思ったんですがないんですね」
「いわれてみればそやな。」
興味なさげに答えるキバオウ。やはり私が、私が塩ラーメンを消してしまったせいで遂に人々の記憶から塩ラーメンという傑作の記憶を消してしまったのだ。
すまなかった。本当にすまなかった。塩ラーメンを愛する人々そして、この地にいるすべての人々よ。私が管理者として不甲斐ないばっかりに___
「しょうがないのでこの『steamed bun of haphazardness』ってやつにします。酒はエールで」
塩ラーメン派として別の味を食べることは極刑に当たるので、適当によくわかんないまんじゅうを注文する。これならば心情に反しない。『haphazardness』の意味は忘れたが、この店、ラーメン屋『スガーア』は(建物から珍しく料理も含めて)一から十まで製作スタッフが作ったものなのでとんでもないものは出てこないだろう。
「皆酒を手に取ったな!ほな乾杯!」
注文すると同時に手に握られたグラスを高らかにぶつけ合って一気に飲み干す。久々にごくごくと一気にのどが潤う感覚。あくまで仮想の感覚と理解はしているがそれでもなかなか良いものである。
「そういや、ウリエルさんって塩ラーメン好きなんですか」
「好きさ、とっても。メアリーさんは」
「私もです。醤油とか他のと違って野菜とかの味がしっかりとしている感があって好きなんですよね」
「オレはチャーシュー麺。頼むときはいつも大盛りで頼んじまうな」
「ワイは食えれればなんでもええがな...ただジョーとは違ごうてチャーシューは脂っこすぎてあまり好きやないな。」
酒が入れば会話も弾むというものである。取っ組み合いも乱闘もなく、ミサイルも飛んでこないラーメン談義は楽しいものである。基本コミュニケーションが闘争なアーガスの皆さんはもっと自制して()
久々に穏やかにラーメン談義に花が咲いたところで奥からNPCが注文した料理を持ってくる。皆の前に醤油ラーメンや味噌らぁめんが置かれる中俺の前に置かれたのはホカホカと湯気をあげる大きめなまんじゅう。中身は何だろうか、酒のつまみにあうものがいいのだが
そんなことを思いながらながらまんじゅうにかぶりつく。
「甘っつ」
とたんに口内に来るのは思わず口に出てしまうほどのあまっつたるいクリームのようななにか。今回のエールとは絶望的にかみ合いが悪い。
それでも捨てるのはもったいないので咀嚼を続けていくと
(なんだこれ...?!)
ぐにゃっと団子状の塊をかみしめた瞬間に麺と謎肉、そしてタールの味がする。
(まさかこれ、チャーシュー麺に汁の代わりにクリームのようななにかを入れたのか⁈)
絶望的な噛み合いの悪さと純粋な不味さに仮想の胃が全力で拒否する。SAOに嘔吐機能をオミットしておいて本当に良かった。なんでスタッフが作ったはずの料理にこんなゲデモノが含まれているんだ?! 最低限食えるものを出せ! 何考えてんだこれ作った奴?!
「返事がないと思ったらウリエルさん顔青いですが大丈夫ですか」
「アハハ!はずれ引いたなアンタ」
「はずれとは?」
「あーよりにもよってあのランダム饅頭注文しちゃったんですね」
一部始終を見ていた長身の男、タケが笑い、察したメアリー達が苦笑いする。詳しく話を聞いてみるとどうやらこの饅頭は中のラーメンの味が毎回ランダムで決まるらしい。恐らくカーディナルが適当に決めているのだろう。
「まぁ基本はカオスな組合わせで”hazard”の名にたがわぬ酷さなんだけどな、たまぁにうまいもんが出てくる。____例えばアンタが食べたがっていた塩ラーメンとかな」
なんだと?聞こえてきた言葉にわが耳を疑いながらも再度メニューを開いて『steamed bun of haphazardness』を注文しようとする。
『警告:注文されたものを全て食べ切ってからでないと新しく注文できません』
だが、赤い警告文によって阻まれる。警告文によるとさっきの食べ物未満のハズレを食べ切らないと新しく注文できないらしい。なるほど、これだからアーガスの連中は!!
「なるほどね」
だが、これで怒るのはアーガス社員として二流。怒りを面に出さずにゆっくりと深呼吸する。
「どうする?諦めるか?」
「まさかまだ案はある」
タケがニヤニヤとこちらを見ているが、塩ラーメンが手に届くところにある(かもしれない)のだ。これであきらめるわけにはいくまい。
「案ってなんや?」
「まぁ見ててください」
アインクラッドの飲食店では仕様上、一度敷地外に出ると自動的に料金が引き落とされる。こうすることによって食い逃げを防いでいるわけだが、これと同時に注文履歴が消去される。
つまりシステム上もう一度入りなおせば新規の客として注文できるはずだ。
「コレで勝つる‼」
「いやウリエルはんそれは__」
キバオウがなにか言っているが知ったことではない。そうして愚かにも俺は出口に向かって愚昧突進していき_____
「ふぎゃっ?!」
衝突
敷地外に足が出た瞬間に紫色の障壁に阻まれた。当然止まれずにそのまま突っ込む俺。実は破壊可能オブジェクトなのではないか__そんな期待はあっさりと裏切られたと頭の痛みが教えてくれる。
『警告:注文されたものを全て食べ切ってからでないと退出できません』
なるほどなるほど、制作陣の性格の悪さを甘く見ていた。落ち着くためにゆっくりと深呼吸する。大丈夫、怒るのは二流。怒るのは二流。
「滅びろアーガス」
「煽ろうかと思ったけどウリエルの目が怖い」
ジョーをはじめとした幾数人が恐れおののいているがそんなにひどい顔をしているのだろうか?オコッテナイヨ。ホントダヨ。ただこれ創った<自己規制>は<自己規制>して<自己規制>するべきだと思うだけだ。
まぁ食べ切るまで脱出できないと分かったのなら、切り替えよう。
俺がとった次の手段、それは食べ物ですらない汚物の耐久値を全損...つまり破壊してしまうことだ。
饅頭のプロパティを出す。どうせ食べ物なのだから耐久値は100もあればいい方だろう_____
「はっ?」
だが、その予想は裏切られる。出てきた数字は 75,890/100,000 という数字。確か今の俺の主武器の耐久値の最大値が2,529。つまりこれはただの饅頭でありながら俺の武器の40倍以上の耐久性があるのだ。
「もうみんなこの饅頭を主武器に茅場を倒しに行けばいいんじゃないかな」
「冷静になってくださいウリエルさん。それでどうやってソードスキルを発動させるんですか」
メアリーの言うとおりである。武器が長持ちしたところで、饅頭が武器カテゴリではない以上火力は素手と変わりないだろう。
だが、こんなバカげた耐久値なんか食べる以外の方法で削れっこない。試しに産業廃棄物にむかって適当なソードスキルを放つが耐久値はほんの少ししか削れない。もし馬鹿正直に削ろうとしたならば深夜までかかるだろう。
「お手上げだな」
「お前もその結論に至ったか」
正直、管理者権限を使って対処しても、消せずにバイバイン的なノリでどんどん増殖してきそうな気さえする。だれだここまでメタ貼った奴は! なぜか頭の中で木田センパイがダブルピースしているのでとりあえず心の中で中指立てておく。
タケのしたり顔がうざいがまぁしょうがない。
鼻をつまんでろくにかまずに残りのまんじゅうを口に放り込む。頭にはきれいな青空を思い浮かべて脳と味覚の接続をシャットダウン。
「よっぽど酷い味だったんすね」
「...ああ」
だが、それでもすべての感覚をカットできるわけではない。産業廃棄物はどこまでいっても産業廃棄物だ。水をがぶ飲みしてわずかに残った後味を完全に消し去る
「まぁこれでアンタもその災害から逃れられよかったな」
タケが優しく声をかけてくれる。
「ああそうだな」
そう言いながらメニュー表を取り出して再び『steamed bun of haphazardness』を注文する。
静まり返る周囲の人々。
「...あのウリエルさん、今何注文しました?」
「え?もちろんランダム饅頭ですが?」
恐る恐る聞いてきたメアリーに笑顔で返答する。帰ってきたのは絶句__そう呼ぶにふさわしい表情。
「...何というか
「そうですか?」
正気の沙汰じゃないかもしれない。だが、リスクよりも食欲が勝った。___ただそれだけのことなのだ。
「いただきます」
すぐさま運ばれてきたまんじゅうを覚悟を決めてほおばった。
その後のことはあまり覚えていない。
ただ一つ覚えているのは夜遅くまで泣きながらまんじゅうに向かってソードスキルを放っていたということである。
steamed bun of haphazardness(直訳するとでたらめな饅頭)
頼むたびに味が変化する摩訶不思議な饅頭
旨いものが来るか不味い物が来るかそれは自分で確かめよう。
(味に関してはカーディナルシステムにより完全にランダムに決定される。そのため、食べ物ではない味(例:タール味、革靴味等)である可能性もある。なお、ド〇カンテーブル形式により、各人で出やすい味は決まっている。そのため白澤がこの饅頭を頼んだところで塩ラーメンが出る可能性は限りなくゼロに等しい)
という訳で第3話ぶりのラーメン回でした()
前回のラーメン回(約2年1ヶ月前)覚えてた人はいるんですかね?
ちなみに塩ラーメン派は最終回で暴走した醤油ラーメン派筆頭の茅場を白澤が泣きながら調理してアインクラッド崩壊