ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
俺がランダム饅頭とかいう狂気の産物を破壊し終わり、店から脱出できたのは夜の二時の頃であった。キバオウたちはくたびれてみんなとっくに帰っており、そこにいるのは俺ひとり。
ではなかった。
「あー味覚がこーわーさーれーるー」
「やっぱ乱数はクソ、はっきりわかるんだね」
あの後、何をとち狂ったのかメアリーとタケもランダム饅頭を頼み、
結果から言えばメアリーが赤しかないとても辛そうなナニカを引き当て悶絶後ギブアップ、タケは一発で塩ラーメンモドキを引き当てたものの(ちなみに一口味見を頼んだら例の紫オブジェクトに阻まれた。)本人曰く『面白みに欠ける』ということで、もう一個頼んだ結果くっそ岩塩まみれのリアルで食べたら一発高血圧なラーメンを出され、そもそも硬すぎてかみ砕けないという欠陥からギブアップ。
あんなクソ饅頭の2個目頼むからひどい目にあうのだろう。
「ウリエルさん、なにがとは言いませんが盛大にブーメラン刺さってません?」
「うるさい、うるさい。人が食べたがってるラーメン目の前であんなに旨そうに食べられて冷静でいられるかばーか」
「たべものの恨みは恐ろしいからね。しかたないね___悔しがる奴の前で食う塩ラーメンはくっそ旨かったよ!!」
「明日のボス戦ミリ残しして、ラストアタック他のやつに奪われてしまえ!」
低レベルな争いがひときしり繰り広げられた後、タケと肩を組んで笑いあう。うん愉快だなhahaha
「__なぁウリエル、アンタはなんで攻略に参加するんだ」
笑ったことで少し冷静さを折り戻したのだろうか、タケが急に冷静な声を出す。
「タケいきなりマジになってどうしたんですか。らしくないですよー」
「ええぃ、メアリー余計な茶々入れるな」
なぜ攻略に参加するのか。管理者としての責任、保護者代わりとしての責任。それもあるが......
「色々あるが一番はな、上でふんぞり返ってる糞野郎をぶっ飛ばしたいんだよ」
現状が憎い。当初の目標の達成が絶望的にされたのが悔しい。そしてそれを引き起こした茅場が憎い。
たとえここまでこれたのが茅場とアーガスのおかげだったとしても。
「アンタも義憤によって動ける奴なんだな」
「義憤じゃねぇよ。私欲だ」
「そうか。あんがい皆同じようなもんなのかもな。」
そういってタケは笑った。
「ちなみに俺は未探索のダンジョンを探索したいから参加してる。」
「絶対に新雪があったら踏み荒らしてくタイプでしょ」
「なんで分かった」
「タケは分かりやすいんですよ」
「そうか()」
分かりやすくて好感を持てる人である。でも塩ラーメンで煽ってくるのは許さん
「なぁアンタ、良かったらこのボス戦が終わった後も俺たちとパーティ組まないか」
「え?」
「キバオウのパーティはキバオウはまぁなんだ癖は強いがなかなか居心地がいいぞ」
思ってもいなかった誘いに目を白黒させる。正直嬉しさはあるものの、管理者(笑)の仕事に支障が出かねない。今まがりなりきにも俺が暗躍モドキをできているのは、あくまでもヒルコとユウキが俺の事情を知って好きにさせてもらっているからである。
「誘いはうれしいけど、パーティメンバーの意向もあるし、しばらくは少人数で行かせてくれ」
「そうかい。βの時は3層でギルド作れたって話だしその時になったらまた考えてくれよな」
ギルドか。プレイヤーが集まって作るシステムで定義されたグループ。結成すると維持費としてコルの一部は取られるが、その代わりにステータスの向上やメンバー内での物資のやり取りが楽になるなどといったリターンがある。β時代はほとんどが攻略メインだったが、中には料理や演奏といった趣味系のギルドもあり、βテスト最終日での始まりの街での演奏会及び食事会は非常にクオリティが高かった記憶がある。
「なら誘われるまで死なねぇようにしないとな」
「アンタのあの饅頭でクソみてえな味出しまくる屑運見てると心配だけどな」
「貴様も塩ラーメン何度も出せる豪運のツケに気を付けろよ」
そう言いながらお互いに殴り掛からん勢いでハイタッチ。
「それじゃ、俺たちはこの辺で帰るとするか、パーティメンバーと宿同じだからあんまり遅いと”なんでや!”ってどやされる」
「キバオウさんのマネ似てませんよ?それはともかくおやすみなさい、ウリエルさん」
「おやすみなさい。二人ともまた明日のボス戦で会いましょう」
二人が去っていくのを見届けた後、顔を隠すために仮面をつけ直し、未読通知があったのでフレンドメッセージを開くと、ヒルコから『先に寝てる』と入っている。子供たちも今日は早めに寝るとこにしたらしい。いいことだと一人頷いた。
だが俺はこのまま帰るのもいいが、あの二人のように別に怒られるわけでもないし、何故か素直に帰る気になれなかった。
「義憤じゃない私怨だ」
ああ、そうだ。俺が茅場を殺そうとするのは決して不特定多数のためじゃない。自分のためだ。
あの時から自分の行動の理由を他者に押し付けないときめたのだから
大通りから路地を抜けるとそこには小さな公園があった。座るにはちょうどいい石のオブジェクトもある。
座ると丁度建物と建物の間からは大通りの様子が見える。
ベータ時代は社会人がログインする関係でこの時間帯からログイン数が増える傾向にあった。けれども茅場のデスゲーム宣言が始まって以降次第に夜遅くまで行動するプレイヤーは減っていった。集中力の途切れは死に直結するので当たり前といえば当たり前だが、こうして誰一人としていない光景を見せられるとなかなかに物寂しいものがある。最も今日の場合は一日後にフロアボス攻略を控えていることも大いに関係していそうではあるが。
するめを噛みながら思考をずらす。例の攻略本、明日のボス戦、現実世界でのアーガスの動向、茅場晶彦の現在などなど...様々な思考が浮かんでは、碌な解決策も浮かばないうちに消えていく。せめて管理者権限の使用回数か時間がもう少しあればかなり動けるのだが。
「ハァ」
「なにため息なんかついてるんダ、幸運が逃げるゾ、ウリエル」
誰もいない。そう思って油断しきっていたからこそ声をかけられた時は随分と驚いた。具体的に言うと足が10cmほど地面から離れた。慌てて振り返るとそこには
「誰かと思ったらアルゴか。心臓に悪いから驚かせないでくれ」
暗めの外套を被った鼠がいた。
「そんな恰好してるってことはフィールド帰りか」
「...まぁそんなところダナ」
どことなく彼女の様子が普段と違う気がした。サバサバした性格のアルゴにしては珍しくどこかしら言い淀んでいることがあるような感じだ。
「…なんかあったのか」
「なぁにキー坊とヒー坊がぶっ飛ばされて宙を舞うのを見ただけダ」
「いや待てホントに何があった?!というかヒー坊ってヒルコのことだよな、無事なのか?!」
「安心しろ命に別状はないはずダ…何が起こったのかは500億コルダナ」
「売る気ゼロじゃん」
にゃははとどこか力なく笑うアルゴ。間違いなく今の彼女はどこかしら変である。言葉の節々に覇気がない。
「そういえば、例のダガーについて何か分かったか?」
なにかあるな。そう思いながらも、話す気はまだなさそうなので、地味に気になっていることを聞く。
「
そう言って調査用紙をひらひらさせるアルゴ。
どうやら、先にコルを払えということらしい。
「0.5Kでいいか」
「その半分でいいゼ。オイラも気にならないわけじゃなかったからナ」
普段の調査料金を言うがどうやらその半額でいいらしい。ちなみに0.5KのKというのは1,000コルの略称である。
受け取った調査用紙を一瞥する。
「思った通りプレイヤーメイドだったんだな」
「やっぱり気がついてたのカ」
「まぁな」
あのダガーはアーガスの開発スタッフの一員であり、第一層ならばモンスタードロップ、店売りそしてクエスト入手の武器もすべて把握している俺でさえ知らない武器であった。
俺が知らなかったという可能性もなくはないが、アインクラッド一の情報屋であるアルゴがそれに対しても知らないようだったから選択肢から消えていた。
現状で武器を手に入れる手段は大まかに4種類ある。そのうちの3つが先ほども述べたモンスタードロップ、NPCショップで販売される武器、それとクエスト報酬による入手。
そして最後のひとつがプレイヤーが鍛冶スキルを用いて作成した武器、通称プレイヤーメイドである。
鍛冶スキルというスキルは一癖も二癖もあり仕様が大変めんどくさいのだが(そのせいでいくつものバグの修正に時間がとられたことか!!)、そのめんどくさい仕様の一つとして武器作成に使う素材が同一のものを使用したとしても、毎回別の______性能から見た目フレーバーテキストと言った諸々が全て違う______武器ができるということだ。
ついでに言うと、麻痺毒を塗られた短剣も現段階だとプレイヤーメイド限定であったりする。
アルゴの資料をめくると、あのダガーを作った武器屋の名前が目に飛び込んでくる。"GaruGariGare"というらしい。
「なんて読むんだこれ、ガルガリガレって読めばいいのか」
「分からない」
「え?」
アルゴの返答に疑問を覚える。アルゴが分からないといったのはこれが初めてだったからだ。
「......もう誰も知る人がいない情報はいくらオイラでも分からないからナ」
「誰もいないって、本人は当然____」
知っているだろ。と言いかけたところである可能性に気がつく。
「黒鉄宮で確認したら既に亡くなってタ」
「マジかよ」
一瞬だけ瞳を閉じて呼び名も分からぬ男に黙祷を刺さげる。
「死因は」
「出血死ダ」
レッドプレイヤーともモンスターによるものとれる微妙な死因だ。
「軽く探ってはみたガ、特に有益な情報は得られなかっタ」
「アルゴでもダメだったのか」
「オイラにもな......限界があるンダ」
アルゴでさえ、探れなかったのならもうこれ以上は無理だろう。
「......何人茅場に無意味に殺されたんだろうな」
いる筈だ。他にもアルゴでさえ名前と死因しか分からない元プレイヤーがこの鉄の城にいた筈だ。
「その情報は1kだ......聞くカ?」
「......止めとく」
聞いたら足は鈍らないが心が止まってしまいそうだから。
「......で、それで何か他に話したいことが有るんじゃないか?」
そこからお互いに無言で顔を合わせること数秒。
「見透かされてたカ。そうだな単刀直入に聞こうカ」
口火を切ったのはアルゴの方だった。
この時点で俺がポーカーフェイスを保てたのは奇跡に近い。それくらいあまりと唐突さと核心を得た疑問に内心びびっくっていた。
「あの攻略本って攻略会議で話題になってたアレか?誰が書いたかわからないけどボスの行動パターンがまとめられたやつ」
「そうダナ」
怪しいと思われるのは分かっていても、アルゴの目線が厳してつい目線を逸らしてしまう。
「で、アルゴは俺がそれを書いたと疑っていると」
「そういうことダナ」
心の中で深呼吸をする。まだばれたわけじゃない。証拠はない。カマかけに決まっている。だが心臓のバクバクが止まらない。
「いやホントになんでや」
「キバオウのセリフ移ってるゾ」
「...なんでアルゴはそう思ったんだ」
それくらいタダで説明してやるカ。そう前置きしてアルゴは話し出す。
「知ってるカ、プレイヤーが本を書いた時、内部では著者情報が残ってるんダ。鑑定スキルでバッチしお前さんの名前がでてきたゾ」
はい?アルゴの言葉にわが耳を疑う。鑑定スキルはそんな仕様ではないハズである。著者情報はオプションで残すか残さないかを選択し、今回のように残さないを選択した場合、一般プレイヤーからは絶対に誰が書いたかわからない___はずである。
だが、アルゴは俺が知る限りもっとも優れた情報屋といても過言ではない。ひょっとして仕様変更されてたオチ?そんな些細なことでばれるの?!
「...何かの間違えじゃないか。俺は知らない」
「さてナ。オイラはオイラが調べたことを信じるだけダ」
「ちょっと待ておれ売られてた道具屋にすら近づいてないんだけど...」
俺の情けないの弁護にもアルゴさんは一切動じていない。自分に間違えがあるとは露とも思っていない顔だ。
こわいよ、アーガス社員でもなんでもいいからタスケテ...
というか茅場はとっとと悔い改めろ。もとをたどればこうなったのも全部あの人のせいだ!!あの人がアインクラッド独占しなければこんな苦労もしなくてもよかったのに!!いっぺん死んだ後、全プレイヤー開放してそのまま地獄に堕ちろ!
頭をフル回転するがなんの解決策も見つからない。故に何も言葉に出せない。
「__なーんてな、そんな思いつめた顔するなって。冗談ダ」
「はい?」
「It's a complete lie」
「は?」
「全部ただのカマかけダ」
「haaa?」
思わぬ言葉に思考と言語がバグる。ふざけるな!本気で怯えただろうが馬鹿野郎!といいたい気持ちはやまやまなれど流石に言葉には出せない。出したらそれこそ終わりだ。
「なんでこんなことしたんだ」
「わるかっタ、実は未だに例の攻略本の書き主も情報元もどっちも分かっていなくてナー、強引な手を使っても見つけ出したかったンダ。あとからかいがいありそうだからダナ」
情報屋失格だ、とほほとしおらしくするアルゴ。開発者情報が元でホントにすまん。最後の言葉は聞かなかったことにしてやろう。
「ってことは例の攻略本の真偽も分からないのか」
「…これは明日というかもう今日か、の攻略会議で話す予定なんだけどナ。ディアベルのパーティがボスが背負っている武器が曲刀からカタナに変更されていたのは確認したンダ」
よし。1層ボスでもっとも危険なβからの変更点は其処だったからな。正直ラストゲージでの取り巻き雑魚が増えるなどの他の変更点は、今現在の攻略組全体のレベルの高さから見ればあんまり大した障害にならないからな!これで一応の目的は完遂できたか。
「そうなのか。なら案外その情報提供者もボスを見たんじゃないか」
「それだと取り巻き雑魚の追加を知ってタ。そのことが引っかかるんダナ」
あー。なるほどそこか。ぶっちゃけどうでもいいな!目的を達した以上俺の中では既に終わった話。もはや興味はない。
「情報提供者がボスを最終ゲージまで削ったんじゃないか。別に情報提供者は一人とは限らないだろうし」
「いやいや、なめてもらっちゃ困るナ。オイラが情報屋だってこと忘れてないカ。ボス部屋に入った程度ナラともかくボスを最終ゲージまで削ったパーティが出たなら把握くらいできるサ」
彼女がそういうんならそうなんだろう(適当)。
「そーなのか。ならどうやって情報提供者はその情報を手に入れたんだろうな」
「情報屋としては悔しいガ、これに関しても分からないとしか言いようがないナ__」
しょぼんとするアルゴ。本人の体型もあって小動物的なかわいさもあるが、俺としてはそんなことより追及を逃れられたという安堵のほうが勝った。
「それじゃオレっちは調査に戻るとするカ、ウリエルも明日のボス戦がんばれ、応援してるゾ」
「ありがとさん。アルゴもな」
アルゴはフードを被りなおす。これからありもしないボスの情報を探してフィールドに出るのだろうか。それに関しては本当に申し訳なさがあるが、まぁしょうがない。
いやはや最初にアルゴに問い詰められた時はどうなるかと思ったが、無事に切り抜けることができて本当に良かった__
「__それと最後にもう一つ」
『売られてた道具屋にすら近づいてない』はウソダロ?
アルゴの置き土産に再び頭が真っ白になる。
「まてアルゴ、今なんて」
慌てて呼びかけるが、もう既に彼女の姿はどこにも見えなかった。