ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
《イルファング・ザ・コボルドロード》、第一層フロアボス。迷宮区でさんざん戦う羽目になったコボルド達の王。
開発時代から数えれば何回も戦った相手だ。きちんと数えたことはないが、恐らく2桁は行くだろう。一歩及ばすポリゴンのかけらになったこともあれば、圧倒的なレベル差で完封勝利を収めたこともある。
けれどもここまで恐怖を覚えたのは初回以来かもしれない。ボスの行動パターンも間合いも全部把握している。攻略組も全員レベル的には余裕があるし、攻略本のおかげで初見殺しが機能しない。それでもこのバトルに掛かっているものはプレイヤー全員の生命。
(こわいなぁ)
肩に乗るリスクの重さに潰されそうになる。
___それでも俺は管理者なのだからやらなければ。
ディアベルのスイッチという言葉を合図に恐怖心を押し殺してパーティメンバーと共に2メートルを超す巨体へと突っ込む。
イルファング・ザ・コボルドロードの行動パターンは4段あるゲージの3段までは骨で作られた斧を振り回すだけであり、その動作は非常に大ぶりなため攻撃を避け続けることはたいして難しくはない。注意するべきなのは範囲が広い横なぎ攻撃くらいである。
「いまや!総員ソードスキル!」
数分斬りあった後、奴が斧を大きく振り落として硬直した瞬間を見極め、号令と共にキバオウ隊全員が各自の最高打点であるソードスキルを放つ。
「スイッチ!」
片手剣ソードスキル水平切り『ホゾリンタル』で硬直した俺のフォローにF隊の男が入る。硬直が解けたら攻略組の最後尾に退避し、攻撃の余波で削れたHPを不味いポーションを飲み干すことで回復する。
6パーティでこの単純な工程を数回繰り返すだけで、イルファング・ザ・コボルドロードの体力がラストゲージ近くまで削れるのだから、なんとも楽なものである。
「気抜くなよ、ウリエル」
「分かってるさ、タケ。むしろ順調すぎて怖いくらいだ」
いくら適性レベルから逸脱しているといってもここまで順調にいくとは思ってなかった。ディアベルリーダーの指示もさることながらプレイヤー全員が逸らず慎重にいった結果だろう。
ヒルコの方を見るが取り巻きをなんの苦労もなく倒している。...というかゴンダとメルの動きも悪くないのだが、ヒルコとユウキ、そして攻略会議で見かけた青年とフードを深くかぶった娘(後でヒルコに名前を聞いたところキリトとアスナというらしい)の動きが別格クラスで長けている。ぶっちゃけると、あれ以上動けるのはアーガス社員でも茅場や木田センパイあるいは如月辺りの上位陣しかいないのではないだろうか?
「なんというか、将来有望だな」
「ウリエルはんパーティメンバーが気にかかるのは分からんでもないが、今はこっちの方に集中せい!!」
そんなことをのんきに考えているとキバオウさんから叱責される。なぜか取り巻き対処部隊のほうから来ていたのかは気にはなったが、彼の言う通り油断は禁物だ。イルファング・ザ・コボルドロードの方に注意を向ける。体力バーは...ちょうどラストゲージに到達したところ。
そしてイルファング・ザ・コボルドロードは咆哮をあげ、装備していた骨斧と盾を投げ捨て吠える。
「ラスゲだ。みんな攻撃モーション変わるぞ!」
そして腰の後ろから引き抜いたのは鍛えられ研ぎ澄まされた一太刀。
「カタナだ…」
良かった、変更されていなかった。内部情報が流された場合、茅場がどう動くのかだけが不安材料だったが、なにも変更を加えなかったようである。
となると、やはり今回の騒動一から十まで茅場の単独か。もし人手に余裕があるのなら間違えなく何らかの変更をしていただろうし。少なくともアーガスの大半が協力していたということはまずありえないだろう。
そう考えると今後のボスは開発段階と同じ強さになるのか。開発段階の一部ボス(主にクォーターボス)の超絶理不尽的な強さを思い出して絶望しかけるが....その時になったら考えよう。
「全員距離を取れ!ソードスキルが来る!」
ディアベルの指示でパーティメンバー全員が敵の超攻撃を完全に対処しきる。
必殺技の代償に長めの硬直を課せられるイルファング・ザ・コボルドロード。動けないのをいいことに右手を切り落とされ落下するカタナ。
勝敗は決した。そう思った瞬間
「ッツ!」
後に__ずっと後になってヒルコが落ち着いて言ったものだ。「あの時は直木兄ちゃん死んじゃうかと思った」と。
コボルトの王には大半の管理者が知らなかった行動パターンが存在していた。すなわち『何らかの形で装備武器をロストした場合、隠し持っていた大量の短刀を前方に高速で投擲する』というものが。
ボスの圧倒的な筋力とエイムにシステムアシストが加わった投擲だ。その短刀の大半が前衛のディアベル隊の人間に命中したが、中にはすり抜けたもののあり、それらが命中したのは
既に勝利ムードを漂わせた回復中のプレイヤーであった。
「ちっ!」
対処できずに、俺の頭と右手、そして左足に短刀が刺さった。そのことを認識すると同時にようやく回復が終わりつつあったHPバーが急激に減っていく。
これ死ぬかもしれん。そう思いながらも、ポーションを急いで飲み込こむ。体力バーはわりとギリギリのところで止まり、そこから少しずつ回復していく。だが、レベル1ポーションの弊害で回復速度はとても遅い。
想定外の大ダメージを負ったため、キバオウさんに一度引く旨を伝えようとした時だった。
先ほどのごたごたの隙に左手でカタナを拾いなおしたイルファング・ザ・コボルドロードがソードスキル<
攻撃範囲は脅威の360°、先ほどの投擲のダメージもあって死者こそいないが一気に崩れるC隊。おまけに数人がスタン状態に陥ってしまった。
「追撃が来るぞ!」
誰かが発した警告も虚しく、近くにいたエギルがフォローに入る前に、我らが攻略組のリーダー、ディアベルが高く宙へと打ち上げられる。
あの軌道はソードスキル<
最もよい対処法は体を丸めて最大限防御姿勢をとることだが、ディアベルの残存HPを見るとそれでも耐えれるか微妙なところ。
同じことをディアベルも思ったのか、ソードスキルをぶつけることで攻撃の相殺をもくろむ。しかし、空中で放たれた不安定な動作をカーディナルはソードスキルと認めなかった。
虚しく空を切る剣士にコボルトの王の非情な3連続ソードスキル<
その衝撃で飛ばされるディアベル、一気に削れる彼の体力バー。どんなに楽観的に考えても彼の生存の可能性は決してない。
キバオウもそのことを察したのか絶望的なうめき声をあげる。
くそっ、思わず声が漏れる。彼は生きてさえいれば今後も攻略組を引っ張ってくれる存在だっただろうに。
そこまで考えて___ふと、案を思いついた。
離れたところでポリゴンが爆ぜる音が聞こえた。
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ヒルコ目線
「...後は頼む、キリトさん。ボスを、倒」
最後まで言い終わることなく、リーダーのデイアベルさんは青いポリゴンへと四散した。
人を見送るのは初めてのことではない。リアルこそ幼いころから病院の一室に閉じ込められていたため、誰かの葬儀に行くことなんてなかったが、『アンカー』で知り合った友人が亡くなってしまったなんてことはそれなりにあった。死に関して考えたり、明日にも自分や好きな娘が死んでしまう想像をして怯えてたことも一度や二度ではない。そういう意味ではヒルコは同年代の子供と比べて”死”というものに慣れているのかもしれない。
それでも、目の前で人が死ぬのを見るのは辛かった。
ボスの方から悲鳴が沸き上がる。司令塔が倒れたせいで戦列はバラバラだ。回復中の直木兄ちゃんはボスから距離を保ちつつ、部屋の全体を隙なく見守っている。
「___ボスを倒しに行く」
キリトが、遺志に導かれ決意を固めた目で呟く。
「アスナたちは...「私も行く。仲間だから」」
アスナがキリトについていく様子を見せ、
「わかった。なら雑魚共はボクたちに任せといて、こんな奴らキリトとアスナがいなくたってなんとかなるよ」
ユウキが虚勢を張る。...まぁでもユウキがいれば百人力。抑え込むことくらいはできるだろう。
「行ってこいキリト」
「...分かった。頼む」
そういってキリトとアスナが部屋の中心部。ボスの方へ駆けていった。
「......これ雰囲気的に言い出せなかったけど俺たちで抑えるの?あのコボルトの集団を?」
「何言ってるんですか、ゴンダ。たかが4体。たまには年上っぽいカッコイイところ見せてくださいよ」
メルがゴンダの背をバシンと叩くのをしり目に一気に駆ける。
目標は......!
「入口付近のやつからやるよ!」
「分かった!」
二人で同時に技後硬直にならないように気を付けながら、隙を見つけ交互にソードスキルを打つ。ユウキの早業と、僕の大技であっという間にコボルトの体力バーが削れていく。むろん僕もユウキも被弾は一切していない。
「…あの二人の連携見てたら行けるきしてきたわ。ユウキヒルコ、俺の活躍分も残しておけよ!お前らに任せっぱなしだと全部倒されそうだからら言っとくぜ。無理はすんなよ!」
「助かる!」
それから、ひたすら4人に対処し___
コボルト王が倒されて勝利のファンファーレが鳴るまで誰一人として離脱することなく対処しきった
久々に活動報告を更新しました。
この話の軽い感想と、今後の更新予定についても軽く触れてるのでよろしければ見てってください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=282512&uid=210226