ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

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副題『遊びではなくともゲームではあった』


ウリエルというキャラの死

「___なんでディアベルさんを見殺しにしたんだ‼」

 

第一層フロアボスイルファング・ザ・コボルドロードを討伐した余韻冷めやらないフロアに泣き声が響く。

 声の発生源はC隊のシミター使いのリンド。ディアベルの当初からの仲間だ。

 どうやら彼らはキリトが元βテスターであったことを隠し、情報を隠匿していたせいで結果としてディアベルが死んだ。そう言いたいらしい。

馬鹿なことを...と心の中で吐き捨てる。彼が死んだのは引くタイミングを逃してしまった、彼自身のボス攻略が始まって最初で最後の判断ミスによるものでしかない。もしディアベル以外が悪いのだとしても、責められるのはたかだかβテスターの一人であるキリトではなく、製作者陣___ひいては俺であるべきだ。

 

こっそりと左手を上げステータス画面を出す。()()()()()()()1()2()()

.....助け舟を出そうと思えば恐らく時間的にギリギリになるができる。俺以外には決してできない、だれもが納得できる解決策を。

 

 だが、それはヒルコのそばで助け続けることをひとまず諦めるということと同義だ。

昨日アルゴに聞かれたことを思い出す......

 

 「あの攻略本を書いたのはお前カ」

 

 彼女には気が付かれているのかもしれない。俺がイルファング・ザ・コボルドロードの情報を攻略会議に流したことを。それだけならまだ一応なんとかギリギリ崖の縁で許容範囲といえるだろう。まだごまかしがきく。だがあの人は優秀だ。もし彼女に俺が製作者の一人であると気がつかれたならば...

 

 俺だけならばいい。できることならやりたくはないが、()()()()管理者権限を使用することで対処できる。けれどもし、ただのプレイヤーであるヒルコにも災が及んだら?

 

不安げにことの成り行きを見守るヒルコの様子を眺める。

 

「だから、僕は挑むよこのゲームに」

初日の啖呵を思い出してこっそりと笑う。お前が成長しているっていうのなら、ひとまずは俺がいなくてもできるよな健太(ヒルコ)

 

 

______________________

 

キリト目線

 

「俺はビーターだ。これからは元βテスター如きと一緒にしないでくれ」

 これでいい。今後すべてのプレイヤーの敵意は俺に向かられるはずだ。

 だが、

 

クククアッハッハッハ

  突如品性を疑うような笑い声がフロア中を駆け巡る。

 

笑い声をあげたのはE隊のウリエル。タンク装備で前はヒルコとユウキのパーティーメンバーだったはずの男だ。

「なにがおかしいんだ」

C隊の男たちが再び感情的に叫び。

「ウリエルはん?」

近くにいたキバオウが不可解そうに男の名をつぶやく。

 

「ああ、すまない。本来ならばここは笑うのを抑えるべき場面だっただろうがな、そこのプレイヤーがあまりにも的外れなことを言っているものでね。つい抑えきれなかった。」

 

 演技臭く肩をくすめて首を振るウリエル。ただそれだけの動作の中にどこか異常性が混じる。

 

「俺から見ればβテスターも一般プレイヤーも変わらない____ただ俺たちの手のひらで踊ってそのうち死ぬ阿呆だ」

「なっ・・・なんだと・・・・・どういう意味だ?」

 

こんな暴言も普段なら皆ただの戯言だと流していたのだろう。だかなぜだか、この男の言葉には謎の重みがあった。

 

「これだけ言ってまだわからないのか?あの無能リーダーにして率いられるプレイヤーありだな」

「無能リーダーって誰のことだ、まさかディアベルさんじゃないだろうな‼」

「ディアベル、そういやそんな名前だったか。そうだよ、対応できずに無様に何も残せず死んだあの男だ」

「ディアベルさんはそんな人じゃねぇ!あの人はあの人なりきに全力でこのクソゲーを攻略しようとしてきたんだ!」

 

 その通りだと心の中でシミター使いの男に賛同する。確証はないが、キバオウを使って俺の愛剣<アニールブレード+6>を買い取ろうとしたのは彼だ。β時代に『汚い立ち回り』でフロアボスのラストアタックを全て奪い取った俺の戦闘力をそぎ落とすために。

 だがあの聖騎士がそうするに至った直接の原因はレアアイテムで戦闘力(生存力)を上げ攻略組を引っ張る中心人物としての戦闘力としての格が欲しかったのだ。

 孤独なソロプレイヤーではなく集団の先頭に立つ騎士として。俺は彼のことを何といえばいいのか上手くあらわせないが、すごいと思う。

 誰がなんといおうと、混乱するばかりだったプレイヤー達を率先してまとめ上げ、初めてのフロアボスを倒したのは間違いなく彼の功績だ。そして間違いなくウリエルはそのすごさを一切理解していない。

 

「馬鹿にするなとは言うが____死んじまったものは何言われたってどうしようもないよな」

「きっさま!何も知らない貴様ごときがディアベルさんを馬鹿にするんじゃねぇ!!」

 

淡々とディアベルを貶す言葉を吐くウリエルに遂に堪忍袋の緒が切れたのか、周囲の制止も聞かずにシミター使いの男がソードスキルのエフェクトを発生させながら突っ込む。一切動かないウリエル。このままいけばウリエルが直撃を受けることは間違いないと思われた。

 

 しかし、オレの予想は外れる。直撃する寸前ウリエルが()()()あたかもステータス画面をいじったような動作をする。ただそれだけでなんの前触れもなくシミター使いの男が倒れた。シミター使いの男の体力バーを見ると先ほどまでなかったはずの雷マークが付与されている。麻痺状態だ。だがしかし相手に一切触れずに麻痺を付与する方法など、魔法がないこの世界ではない。ありえない

 

「どういうこと...?」

 

 アスナが理解できないものを前に呟く。それはここにいるほぼすべてのプレイヤーの総意であった。今まで「遊びではなくともゲームではあった」このソードアート・オンラインというゲームルールの根本が覆られたといってもいい。

 

全員がこの異常性を感じ取っていた。全員がSAOというゲームのトッププレイヤーであったからこそ、異なるルールで動くウリエルを前に誰も動けなかった。

 

 

「ビーターのキリト君に質問だ。2層のフロアボス戦闘時に出現するモンスターの名前は?」

 

突然ウリエルから予想外の問いが投げかけられる。βの時と変更がなければ2層のフロアボスモンスターはバラン・ザ・ジェネラルトーラス。それと取り巻きの中ボスクラスのナト・ザ・カーネルトーラス。

 ナミング・インパクトという、1撃目はスタン2撃目は麻痺を付与するという厄介なデバフ付きソードスキルが印象的だが....

 

「βの時と変更されていなければフロアボスのバラン将軍と取り巻きのナト大佐だったはずだ」

 

とりあえず相手が何をしてくるかわからない以上俺が知っていること(βの知識)を正確に話し___

 

「うん、外れだ。βなんて未完成でないない尽くしの話をされても困るんだよ」

 その宣告と全く同時に俺の周りの空気が異様に重くなった。避けようのない悪意。体を動かそうとしてもはちみつの中にいるかのような凄まじい抵抗を感じ、屈服させようという強い意志があった。

 

「あが_っ_アッ」

どうしても立っていられずに床に這いつくばる。

 

「どうしたの⁈」

「ッツ、アスナ、エギルくるな__アガァ_」

 慌てて駆け寄ってくるアスナとエギルを制する。

 

「しっかり__っつ、アッ__」

「なんだこれは __っつ、ガハァ__」

 しかし忠告の声は一歩遅く、アスナとエギルも巻き込まれ、俺と同じく地面に這いつくばる。

 

「なっなんでや、何が起こっとるんや、そうや、ベータ―共がつるんで下らん茶番やってるんやろ」

キバオウが上ずった声で的外れな指摘をする。否定したいが否定できるほどの余裕はない。

 

「俺がβテスターと一緒にされているだと....アッハッ、笑わせてくれる。たかが製作途中の中途半端なβテストしか知らないベータ―ごときと混同されるとはな...ホントに視野狭窄な人だ」

 

 ウリエルがステータス画面をいじるのと同時に当然のようにキバオウも地に伏せる。

 

「実際にやられてどうだ?まだベータ―共の茶番と言い張るか?」

「___ッツ、こんなん屁でもないわ__アガッ__」

抵抗しようにも抵抗しきれないキバオウ。

 

「まあいい、時間の無駄だ。さて、プレイヤーの皆さん驚かせて済まなかったね、さぞかし混乱させたことを謝らせていただこう。ソード・アートオンラインの管理者の一人としてね」

 

 このゲームの管理者。それを聞いて俺は素直な驚きを抱いていた。なんでここにいるのか。なぜデスゲームにしたのか。本当に死ぬのか。聞きたいこと、言いたいことは大量にある。それはここにいる全員同じだろう。だがしかし、動けば次が自身が標的になるのではないか。____その恐れからウリエル以外の誰もが動けない。

 

「いやはや、本来正体を明かすつもりはなかったのだがね。私はやはり隠し事ができないタイプであるようだ。そこのビーター君達の会話が実に的を外したものだったものでね___つい笑いを抑えきれなかった。ベータ―が情報を隠し持っているだと?ばかばかしいにもほどがある。俺は本サービス開始する際に当たってβテスターさんを優遇するのも良くないと考え____βのことを知っているものほど引っかかりやすい、そんな悪辣なトラップを仕掛けた。その結果新規の死亡率が2割にすら達していないのにもかかわらず元テスターの死亡率は約4割」

 

 それをいいことにウリエルは聞かれてもない、聞きたくもない話をえいえんとしゃべり続ける。

やはりβからの仕様変更の一部は悪意をもってなされていた。聞いているだけでもホントに胸糞悪い話だ。俺が気がついた仕様変更の箇所は、普通のMMOならいざ知らず、これがデスゲームであることを前提に置くと、βの知識に従えばそのまま殺してやる。そういわんばかりの彼らの性根の悪さが滲み出ていた。耳をふさぎたいがドロドロに重い空気のせいでそれすらかなわない。俺ができるのは無力さをかみしめ彼をにらみつけることだけである。

 

「実に面白いじゃ____「いい加減にしろよ、ウリエル」___なんだい?ヒルコ君、今興に乗っているところなんだ。邪魔するな___「黙れっていってるんだよ!ウリエルなんで___」

 

 胸糞話を止めたのは、いまにも泣き出しそうなヒルコだった。当たり前と言えば当たり前だが、元パーティーメンバーだったからとはいえウリエルの正体に気が付いていたわけではないようであった。

 

「__なんでお前らとパーティを組んでいたのかとでも言いたいのか?ハッ、嘗てのパーティーメンバーとして言わせてもらうとな、単純に俺が優越感を覚えたいだけだよ。子供二人を引きいる俺。実に絵になる図じゃないか...なのにお前らのうるさかったこと、邪魔だったとこ...カモフラージュのためとはいえ外れだったぜ、お前らは。子供だから俺に1から10まで従属してくれるもんかと思ったがそんなことは全然ねぇ。自分の意思で行動しやがる。もっと適した奴をカモフラ役にすればよかったよ」

「居ないよ。アンタが思う奴なんてどこにも。」

「そうかもな。まぁいい、倒れてろ」

 

 粗雑な侮蔑極まる言葉にヒルコは傷ついた顔を浮かべるが、すぐに空気に押しつぶされて倒れ、俺からは表情は伺えない。

 

「ついでに管理者権限で全員倒しておくか、これ以上余計な茶々入れられても面倒だしな...」

 ウリエルがついでといった軽い感じで恐ろしいことをつぶやいた次の瞬間、フロアにいるウリエル以外の全員が地に伏せる。今度は俺たちとは違って体力バーに麻痺のアイコンが点灯している。

 

「どこまで話したかな...まぁ、これ以上βテスターがどれだけ仕様変更に踊らされ、このゲーム、引いては現実から消えていったかを話す義務も意味もないか。それならば、このゲームから脱出できると踏んでありもしない脱出スポットのデマを信じたりや自殺した愚か者共の話でも...」

 

まだこいつは胸糞悪いの話を続けるのか。口が軽そうだし、もしかしたら攻略情報でもぽろっと出してくれないだろうか。

 

「いいやけれども、長々と拘束するのも問題か。...とにかく、混乱させて済まなかった。僕は、というか恐らく茅場さんを含めて君たちを拘束はしても危害は加えない。もちろんアイテムを不当に譲渡したり奪ったりするとこもない...基本的に僕はゲームを傍で邪魔にならないように鑑賞するタイプなんだから。そもそも本来僕が管理者として君たちと関わっていること自体がおかしいんだ、うん。これでいい」

 

 だが、思い直したかのように口を閉ざして(その前にステータス画面を眺めていたので他の管理者からの文句でも送られてきたのかもしれない)適当に話を切り上げようとする。

 

 しかしここにおいて管理者が見逃していることがあった。

 

「待てよ管理者一発受けてけ!」

「なっ」

 

 そう、最初に麻痺にされたシミタ―使いの男の麻痺はもう既に解けていたのだ。

 曲剣ソードスキル"リーパー"が管理者の首元に迫る。命中する。そう誰もが確信した___

だが次の瞬間時間がコマ送りになった。停止した世界でウリエルだけが動く。

 少しずつ亀のような遅さで迫るシミターを前に管理者は酷薄な笑みを浮かべて_____シミターを握る男の手首を切り落とした。時間を盗まれたとでも表現したい超反応を前にしてシミター使いだった男は「ハイッ?」と信じられないものを見たと硬直し、再び麻痺させられて地面に倒れた。

 

「...あっぶね。最大レベルでも5分で切れるの忘れてた。言い忘れていたがそこのβテスターやキバオウさん達ももうすぐ回復するはずだから、一生このまま地面にはいつくばうという訳ではない。安心してくれ。」

 

 辺りを見回して誰の反応をないことを確認して管理者は満足げに頷いてシミタ―使いの男の口に体力回復用ポーションを強引に投げ込む。シミター使いの男の徐々に減らされた体力バーが回復していく

 

「自己防衛とはいえプレイヤーを傷つけると後々が面倒なんでね。これで補填とさせてもらうよ」

 

 デスゲームの管理者のくせに妙なところで律儀である。いやむしろ管理者だから律儀なのか。大規模MMOだと運営の不手際一つで大きく炎上してしまうこともある。特にこのゲームの運営はアーガス。プレイヤーに配慮したサービスに定評があった企業だ。茅場がデスゲームを始めても、(個人の本性は別として)管理者としては公平に接するそのスタイルには変わりないらしい。

 

「さてとまだ反撃したいという人は直ぐにかかってきてくれ」

  いつの間にか体力バーの色をオレンジから緑色に戻して余裕綽綽とぐるりと辺りを見回す管理者。誰も立ち上げれなかったのに満足したように頷き再び話始める。

 

「それでは私はココでお暇とさせていただく。プレイヤーの諸君多大な犠牲を払うだろうが100層までの攻略頑張ってくれたまえ。...そうだ最後にあえて言っておくが茅場も含めて私が『管理者として』言った言葉にウソは含まれていない」

 

 茅場の話は恐らく全て事実だろう...だがこいつの話は?本当に全て事実なのか?謎の違和感に思考を巡らせる。根拠があるわけではない。ただなぜかどこかに虚飾が混じっていたような....ただの...ただの俺の直観だが。

 

「それは失礼」

だが、その直感をぶつけられる余裕はなく、管理者は青い結晶を取り出し

 

「転移”ウルバス”」

 ほんの少しのポリゴンのエフェクトを残して、管理者は一般プレイヤーには決してできない方法で2層の主街区へとワープしていったのだった。




おまけ
~ウリエル視点~
「とりあえずβテスターじゃなくて管理者にヘイト集めないと...とりあえず死人に口なしってことでディアベルさんでも貶すか...」ディアベルスマン

「よし、噛みついてきたやつを麻痺で倒したで、これでここにいる全員俺の異常性把握したやろ。リンド君は犠牲になったのだ」

「後は俺が管理者であることの更なる信ぴょう性持たせるついでに2層のボス戦にも変更があること示唆しとこ。キリト君すまない」ジュウリョクマホウポチ

「ビーター共でつるんでいる...?やべ、その可能性考慮してなかった。とりあえずキバオウにもキリト君と同じことしとこ。こうすりゃ大丈夫やろ。キバオウは犠牲となったのだ」

「とりあえず新規さんがベータテスターさんたちに抱いてる悪印象を否定してと...βのことを知っているものほど引っかかりやすい、悪辣なトラップを仕掛けた木田先輩たちは今頃どう思っているのだろうか...」

「ヒルコここで来るか...怒ってる?怒ってるよな...とりあえず表向きラインは切れたけど...後が怖い」ガクガクブルブル

「さて、今更だけど一時期流行ってた脱出デマを完全否定してと。これで大体管理者として言いたいことは言ったかな...ってやべ管理者権限後6分しか残ってねぇ‼急げまだアイツと交渉しなきゃいけないのに!!」アトシオラーメンタベタイ

「急げ急げ...ってなんで?なんで?なんで麻痺解けてるの?! 塩ラーメン食べたいとか言ってる場合じゃねぇ!!」

「やられるかと思った─。オーバーアシスト使えるようにしとかなかったら間違いなく一撃もらっていたな。オレンジフラグも直さなきゃ」カルマジョウカト

「さてとやり残したことはないよな...それじゃ行くか。黒鉄宮に」

_______________

________

____

「随分と混乱しているようだね」

男は管理者を目の前にして随分と混乱しているようだった。管理者の格好は薄汚れた鎧と大楯、そして顔を隠すようにつけられた仮面。確かにこれでは神とか天使とか、とにかくそういった彼が出会うと思うようなふさわしい存在には見えないだろう....そこまで考えて管理者はくすりと笑った。

「気持ちは分かる。そう言わせてもらおう。君の境遇は恐らくこのゲームがデスゲームになって以降初めてのことだろうからね。説明はゆっくりと塩ラーメンでも食べながらさせてもらおう」

管理者権限を使って出されたアンティークな机の上にさらに塩ラーメン2つが出現する。

「さぁそこに座りなよ、()()()()()
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