ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
(死んだはずだ。オレは確かにあの時イルファング・ザ・コボルドロードのカタナソードスキル<
ディアベルは混乱していた。死んだはずの自分が未だに仮想世界に立っていることに。殺風景な部屋だった。部屋の大きさは8畳ほど、真ん中には木製の机といす。なぜかその上には2杯のラーメンが湯気をたてて置かれている。
そしてそこには顔を仮面で隠した男性が座っていた。
「どうした、ディアベル。座らないのか?塩ラーメン冷めるぞ」
目の前の男に促されるままにディアベルは近くの椅子に腰掛ける。
「...説明してくれないか、ウリエルさん」
間違いなく事情を知ってるであろう目の前の男___ウリエルに問いかける。
正体を当てられた男がおやっと首を傾げる。
「装備しか面影が残っていないのによく分かったね」
「リーダーだったからね。メンバーの装備くらいは把握してるさ」
なるほどと男はラーメンのシナチクをつまみながら呟く。
「それじゃ改めて自己紹介を、俺の前のプレイヤーネームはウリエル。『ソードアート・オンライン』の管理者だ」
管理者と呟く。そうだと応じる管理者。
「つまりオレはアンタによって生かされたという訳か?」
「まだ生かすと決めたわけじゃない」
つまりディアベルの返答次第では殺す、と言外で言い放つ管理者。
「とにかく塩ラーメン食べないか?この世界じゃのびはしないが、冷めることはあるからな」
なんでこの男はこうまで執拗に塩ラーメンをすすめるのだろうか?疑問に思うディアベルだったが、とりあえず、警戒しながらもスープを一口だけ飲む。よく出汁のきいた汁だ。旨いと感じてしまうのがなんだか悔しい。
「警戒しなくてもなんにも入ってない。ただの塩ラーメンだ。」
なんで、出されるものがお茶とか紅茶といった軽いものではなく、塩ラーメンという重いものなんだとは思うディアベルだったが、そんなことはどうでもいい。今は自らの状況を知ることを優先するべきだと考え直す。
「それでなんで管理者サイドのアンタは俺を生かしたんだ?」
「俺は『ソードアート・オンライン』の管理者ではあるが『デスゲーム』の管理者サイド、要するに茅場晶彦の仲間ではない。」
「なんだって、なら外部からの助けは「残念ながら俺が知る限りそれはない」...そうか」
知っていた。全てが一変した日から一ヶ月と少し。外部からの介入があるのならばこの一か月が分水嶺。それが
それゆえに外部からなんの音沙汰もなく一か月が過ぎてこそ俺はリーダーとしてフロアボスというプレイヤー死亡のリスクの高い攻略に踏み切れたのだ。
可能性は薄い。けれども、管理者を見て外部からの助けという安易な解決策につい縋ってしまった。
「すまないな。俺だって何も知らずに巻き込まれた身だ。外部がどうなっているのかはわからない」
「ウリエルさん以外の管理者は?」
「分からない。茅場に協力しているのかあるいはこの蛮行を止めようと模索しているのか...」
どちらにせよこの一か月の様子じゃアーガスの連中には期待できないだろうな。と、どこか自虐的にしゃべる管理者。
「だからこそ俺は茅場のいいなりになるのは悔しいが、このゲームの攻略をサポートすることにした。」
「あの著者不明の攻略本もウリエルさんの仕業かい」
「その通り」
あの攻略本はボスのラストゲージの情報など明らかにボスに挑まないと分からない情報が多く含まれていて、俺達や情報屋に知られることなくどうやって挑んだのかずっと不思議に思っていたが...管理者サイドの人間ならば製作途中で知っていてもおかしくはないか。
つまり、この男は本サービス開始から、今まで決して他の人に知られないように様々な形で暗躍していたわけだ。
恐ろしい男だ......
「ところが色々あってフロアボスを倒した後、公衆の面前で『俺は管理者だ』と公言してしまってね」
「アンタはなにをしてるんだ?」
前言撤回。ただのアホかもしれない。
「アンタは茅場側に存在自体バレたら不味いんじゃないか?」
誰もが抱くであろう疑問をぶつけるが、対処できたハズだ。と言う管理者。ディアベルは管理者の手が震えているのを一瞬見たような気がしたが気のせいであろう。
頼むから気のせいであってくれ。
「まぁけれどそのせいで"ウリエル"としてあのまま留まるのは不可能になってしまってね」
それはそうだろう。とディアベルは一人頷く。
管理者のやった行為は、ただの一般プレイヤーであった"ウリエル"というキャラクターを完全に殺す行為だ。
そしてスープの一滴まで飲み干し、丼を置く管理者。
「さて、ここからが本題だ。ディアベル」
ディアベルの動きが止まった。仮面に阻まれて管理者がどのような表情を浮かべているのかはわからない。
「......そのためだけだけにオレを生き残らせたのか」
「きっかけは君の死だが、本題と本意は別のところにある。まぁ君にとってはその認識だろうと大差ない」
「『本題』と『本意』ってなんだ。アンタが攻略組に居られなくなったことと関係あるのか?」
黙り込む管理者。慎重に言葉を選びつつ話し出す。
「...正直話したくない。できれば君のことは最後まで信頼したいと思うが、コレは別だ。『本題』は分の悪い賭けだけにこれは俺一人にとどめておきたい。...このゲームをクリアするための行動だったとだけは言っておく」
「分かった。ならそれに関してはこれ以上は聞かないでおこう。...どうして俺だけを助けたんだ?」
ならば『本意』は分の良い賭けだったのか。ディアベルは聞こうかとも考えたが、これ以上は藪蛇な予感がする。次の質問をすることにした。
「たまたま目の前で、頭が回りそうでこのクソゲーを攻略するために奔走してくれそうなやつが死んだからだが?」
うーわシンプル。とディアベルは心の中で毒づく。
助けられた身でこういうのもなんだが、この管理者は基本人でなしだ。
管理者と名乗り、実際にディアベルを救った以上どれだけ使えるかは知らないが管理者権限を行使できる立場にはあるはずだ。
だったらわざわざオレを生き残らせる必要はないだろう?
さっきあの管理者は"装備しか面影が残っていない"と言った。
逆に言えば装備以外は面影が残っていない。そのことを念頭に置きながら観察すると、ほんの少しの違いしかないが、明らかに"ウリエル"と体型が違う。具体的に言うと背が高くなり、腹が周りが増量されている。恐らくもうあの仮面の下は『ウリエル』ではなく、別の顔に変化した後だろう。
ならオレを代理とする必要はない。
容姿を変えた管理者自体が動けばいい話じゃないか。そうしない理由はただ一つ。
コイツただ単にいつ切り捨てても構わない駒としてオレを使おうとしている。
「なるほど、あなたのある程度の事情は把握した。こちらからも頼む。このクソゲーの攻略に協力させてくれ」
だが本心は隠す。下手な対応をして放置されたらたまったものではない。オレはディアベルが置かれている立場について考える。
いまこのアインクラッドはデスゲームという「HPがなくなったら死ぬ」ことを前提にしている。そしてオレは攻略組にHPが全壊したことを目撃されている。そんなオレがもしその辺を歩いていたらどう捉えられるのか。
最初はよく似た別人だと思われるかもしれない。けれども、管理者の求め通り攻略組に情報を流すとするならば攻略組との"誰か"との積極的な接触は避けれず、間違えなくどこかで『オレ』=『ディアベル本人』だとバレる。
それは何としても避けなければならない。さっきほど管理者は『君の境遇は恐らくこのゲームがデスゲームになって以降初めてのことだろうからね』と言った。前後の文から俺が生き残ったのはゲーム全体で見れば間違いなくイレギュラー。
「ところでいくつか質問したいことがあるんだが、このゲームでの死は現実世界との死と同様というのは本当なのか?」
「...茅場は狂人だがそんな冗談をいう人種じゃないだろうな。君が生き残ったのはタイミングが良かったからに過ぎない。同じ轍は踏まないように行動した方がいい」
管理者に確認してみると考えていた通りの反応が返ってくる。
このゲームがデスゲームとプレイヤーに認識されているのは、『茅場晶彦がデスゲームだと断言した』、『死んだプレイヤーがゲームに戻ってくることはなかった』この二点によるところが大きい。
オレが生きていることを明らかにするというのはこの前提を壊すことだ。
もしそんなことになろうものならば、死なないために行われていた最大限の努力はなくなり、死亡前提の行動すら現れるだろう。
本当は死ぬことも知らずに
「なら次の質問だ...」
先を考えながら聞きたかったことを管理者にぶつけ...
「…うん。聞きたかったことは大体聞けたかな」
オレがそういうと管理者が(仮面で遮られて見えないが恐らく)やっとかという顔をする。...調子にのってアーガスの管理体制やなんかを聞き出したのはやりすぎたかもしれない。
「...疲れた」
管理者が脱力して椅子によりかかる。うん、やりすぎたな。
「さて、改めて説明し直すが、そこのドアから出たら黒鉄宮の端だ。何もない場所だから人はいないとは思うが注意して出てくれ」
それとこれを渡しておく。そう言われて渡されたのは、茅場から渡されたのと同じような手鏡。
「これが一度だけ顔を変えることのできるアイテムだ......本当にここで変えていかないんだな」
「ああ。ディアベルとして会わなきゃいけない人がいるんだ」
知る人を増やすことには俺は反対だがなと管理者がぼやくが、"彼女"を巻き込まない方があとあと面倒だ。そこまで説明してやる義理はないので言わないが。
ちなみに管理者には誰を巻き込むかは説明していない。アンタから茅場にサイドにバレると問題だと言い張って誤魔化した。
「君がリスクを把握しているなら構わない。ネームチェンジクエストに関しては全てのフラグをリセットし、全プレイヤーが再度一度だけ受けられるようにしておいた。好きに活用してくれ」
名前か。もちろんのことディアベルの名前は使えない。なんの名前にするか迷う。本名のもじりは微妙である。悩ましいが後で悩むことにしよう。
「それじゃ死なない程度に、正体がばれない程度に頑張ってくれ」
「アンタもな」
ドアの外に出る。振り返ったところでそこにはなにもない。周囲と変わらないただの壁だ。遠くに全プレイヤー名と死因が記載されている生命の碑が見える。
ステータス画面を確認する。レベルとアイテム。そして装備以外は全て別のものに置き換わってしまっている。当然ながらフレンドリストもリセットされてなにもない___
いや、一つだけ名前があった。名前は
これが今後もなんどもやりあう管理者の名だった。
ディアベル「なんか蘇生してもらったけどこいつは信用できない!でも、とりあえずはこいつの言う通りにするしかない!情報は取れるだけ取ろう!」
管理者「ゲーム攻略に動いてくれるならやり方は任せるよー。情報提供もするよー。
......ただし俺の立場がやばくなることはするなよ」
大体二人の思惑はこんな感じ。
余談ですが黒鉄宮の生命の碑ではディアベルは死亡したように偽造されてます。