ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
これもここまで読んでくれた皆様方のおかげです。
これからもマイペースで頑張っていきますのでよろしくお願いします。
ヒルコは怒りながら駆けていた。
ヒルコにはウリエルの真意は分からない。それでも必ずや、あの誰もが予想だにしていない方向に突っ走っていった兄貴分をぶん殴ることをヒルコは決意した。
「ヒルコ待って一回落ち着こう」
「安心してユウキ。一発だ。一発ぶっ飛ばしたら落ち着くから大丈夫」
なんとか追いついたユウキの静止の声にも止まる気配はない。まだ猪を止める方が楽なのではと思うような勢いで突っ走る。
ユウキは白澤らしき人物から『勝手な行動をしてすまない。迷惑をかけると思うがよろしく頼む。それと恐らく健太(ヒルコ)が怒ってると思うから落ち着かせておいてくれ。じゃないと俺が半殺しされる』ときたメールに大げさだなと思いつつも気軽に『いいよ。また今度なんでいきなりカミングアウトしたのかちゃんと話してね』と返したのを後悔していた。
そもそも、なぜヒルコがここまで怒っているのか。それは、"マクラギ"からのメールがヒルコとユウキ両方に送られてきたからだ。そこには詫びの言葉はあったが、どうしてソードアートオンラインのトッププレイヤー層が集まってた場所で、全プレイヤーを愚弄するような発言をしたのか、その真意が一切わからなかったのだ。
しかし、暴走機関車と化したヒルコも止まらざるを得なかった。
「よう。落ち込んでるかと思ったケド随分元気そうじゃないカ」
「
情報屋の鼠が正面に立っていた。偶然な筈はない。アルゴはヒルコとユウキの行き先を予想し、待ち伏せていたのだ。
「まぁナ」
実際のところ自身のフレンドリストから居場所を調べただけなのだが、アルゴがそれを口にすることはない。
「悪いけどアルゴ。急いでるんだ」
「どこに行くンダ? オイラの力が必要なら手を貸すゼ? 」
「アルゴの手を借りることのほどのことじゃないよ」
「そう遠慮するナ......それとも何かオイラに言えないことでもしようとしてるのカ? 例えばそうダナ......今や全プレイヤーから注目の的になった管理者に会いにいくとかナ」
アルゴの推察は正しい。なんなら彼女はあずかり知らぬことではあるが、すぐ真横の宿屋の二階に従弟への言い訳を必死になって考えている管理者が居た。
「......まさか」
とぼけるヒルコ。だが、真相を見事に言い当てられたことに動揺して妙な間が空いた。
そもそも、ユウキとヒルコ。この二人どちらも腹芸というものには全く疎い人種である。『アンカー』*1では、そんなものは滅多に必要とされなかったし、使う必要もなかった。
その一方アルゴは隠された情報を得る。その一点においては他の追随を許さないアインクラッド一の実力を持つ情報屋である。
嘘に対する経験量が圧倒的に違うのだ。
故にその様子をみてアルゴは、ヒルコたちがウリエルと名乗っていたあの管理者の居場所を知っていることを確信した。
「アルゴはどれくらい知ってるの......そのウリエルのこと」
「一応全部聞いてはいるゾ、ユウちゃん。二人とも大変だったナ、キバオウ辺りに変なこと言われなかったカ」
ヒルコとユウキも最初期から管理者のパーティメンバーであったことから、管理者が去った後なにか知っていることはないか、もっと言えばこいつらも管理者権限を持っているのではないかと攻略組から質問攻めにされてたのだ。
「されてないよ。むしろキバオウさん、ショックでほとんど黙ってたし」
主に質問をしてきたのは、キリトとリンドである。特にリンドは(ヒルコによって未遂で済んだが)ユウキに掴みかかろうとするほど、ヒートアップしていた。エギルの静止がなければオレンジプレイヤーになっていたかもしれない。
「あの男も身内相手にはとことん甘いからナ。少なくないショックがあったんダロ。ところでウリエルはどこにいるんダ?」
「しらないよ」
急なアルゴの質問にすました顔でヒルコは言うが、アルゴから見れば彼の手汗と後ろのユウキの微妙な目線のずらし方で何かを知っていることはバレバレである。
「嘘ダロ?」
「まさか」
「といいながラ......?」
「だから知らないってば」
「本当カ?」
「本当だ!」
問答を繰り返すたびにヒルコらの手汗が増え、目線がどんどんずれていくことに嗜虐心をそそられながらも、アルゴはこれ以上の問答は無用だと判断する。
「なら、もし仮にあの男に出会うことがあったらこう伝えてクレ『オイラには協力する用意がある』ってナ」
「......協力って、僕達をこの世界に閉じ込めた相手に?」
思ってもみなかった言葉にヒルコが思わず疑問を聞き返す。
「ホントにウリエルがオイラ達を閉じ込めた茅場の仲間と思っているカ?」
「どういうこと?」
『唯一無二の人間』とやや低い声でアルゴは呟く。首を傾げるヒルコとユウキ。しかし、どこか聞き覚えのあるセリフだった。
「覚えてないカ?あの日茅場が開幕言ったンダ___『私の名前は茅場 晶彦。いまやこの世界をコントロールできる
その時だったか。とヒルコが短く呟く。通りでどこかで聞いた覚えがあるフレーズだと思ったわけだ。
「そのセリフがどうかしたの」
「なら自らをソード・アートオンラインの管理者と名乗ったウリエルは何者ダ?」
その言葉に僅かに沈黙した。
「別に茅場さんが嘘をついていた可能性だってあると思うよ」
「わざわざウリエルが去り際に
「そんなことを言われてもボクたちに言われても、あの人の真意なんて分かんないよ」
「もし、ウリエルの『管理者』としての発言を全部是としたらどうダ?」
一拍おいて再びアルゴが話し出す。
「茅場は自らをデスゲーム化したこの世界の唯一無二の管理者だと言う。
ウリエルは自らをソード・アートオンラインの管理者と言う。
実はウリエルは茅場の企みについてなに一つ知らなかっタ、ただの管理者権限を持ってるだけの一人のプレイヤーなんじゃないかって考えれば納得できないカ?
」
アルゴ大正解。もしもここに渦中の男が居たらうっかり惜しみない感嘆の声を浴びせていたかもしれない。そうしたかったのはヒルコとユウキも同じ。けれども、白澤に無断で事情を説明できない___そんな思いがアルゴに何もかもぶちまけたいという口を閉ざした。
「...証拠は」
代わりにヒルコは、確証を問う。
「まるで探偵に追い詰められた犯人みたいなセリフダナ」
ぶっちゃけ言った本人も同じことを考えていた。
「まぁいい、証拠ハ......これ以上はタダでいう訳にはいかないナ」
「えー。せっかくだから教えてよ」
「いくらユウちゃんとヒル坊と言えどもナー」
ユウキが不満げにぶう垂れるが、アルゴは笑ってはぐらかす。
きっと教えてはくれないだろう。
「まっ。オイラはアレとコンタクトとる手段はないからナ、伝えるのはヒル坊とユウちゃんに任せるゼ」
「僕たちも伝えられるとは限らないよ?」
『伝えられる』と二人の顔に書いてあることは言わずにアルゴは二言三言告げて去ろうとする。
「待ってアルゴ最後に聞かせて」
「?」
それをヒルコは呼び止めた。足を止めて疑問符を浮かべるアルゴ
「...アルゴは
目をパチクリするアルゴ。そして
ニャハハッツ
爆笑だった。何一つとしてはばかることのない大笑いだった。
「あ、アルゴ笑わないでよ!」
これでもヒルコは本気だった。本気の質問を笑いで返されれば、誰だって(普段感情を表に出すのが少ないヒルコでさえ)怒るだろう。
「...悪かっタ、悪かっタってヒル坊。正直オレっちには分からん。
オイラは、ウリエルは本人が言ったように人を地獄に落として、その死ぬ様子を見て悦に至れる人物には見えなかった。むしろ印象としては、小物臭くて性格が悪くてけち臭いところもあるガ、どちらかと言えばお人よしの部類ダ。
けどナ、実は茅場の仲間だったって言われたら『違うそうじゃない』とは言えない程度の関係ダ。
でもヒル坊はウリエルのことどこかで確信してるんダロ、それが本心じゃないって」
「......」
予想だにしない言葉にヒルコは言葉に詰まった。
「じゃぁまたナ。いい返事期待してるゼ」
そう言ってアルゴは走り出し、瞬く間に建物の裏へと消えていく。
アルゴが消えて少しししたころヒルコがぽつりと呟いた
「違うよアルゴ。僕は確信してるんじゃない、信じたいと思ってるんだ」
去った後二人がどう動くかをアルゴは少し離れた場所から見ていた。ヒルコとユウキはその目線に気がつかない。もし仮にヒルコが探索スキルを使っていても気がつくことはできなかっただろう。この時点でのアルゴの隠蔽スキルの熟練度は脅威の300越え、どこぞのまっくろくろすけよりも遥かに高い値である。
(さてあの二人どう動くカナ?)
アルゴがユウキたちに語ったウリエルの人物像に虚飾はない。だがこの
そういった点でアルゴはユウキとヒルコ、2人の友人のことすら信用してないといえるのかもしれない。
目の前でようやく態勢を立て直したヒルコとユウキが直ぐそばの宿屋に入っていく。
(…ン?尾行を警戒してるのカ?)
もしそうであるならば、見つけられるリスクを冒してでも距離を詰める必要がある。しかし、彼女の心配は杞憂だった。聞き耳スキルで彼女らの話を盗聴したところ、宿屋自体に用があるようである。
(これはひょっとしたらひょっとするといきなりアタリかもナ)
このまま2、3日ほど付け回す覚悟だっただけにうれしい誤算である。現在時刻は16時が過ぎたところ、尾行対象らの行動パターンを考えると、まだ宿を取るには早い時間だ。
気配を消しながら慎重に宿屋に貼りつき様子を伺う。ほんの一瞬のことだが、ユウキの紫色のスカートが階段の方に消えていくのを確認する。
(ロビーには立ち止まらないト)
基本的にアインクラッドの宿屋はロビーでないと部屋を借りることはできない。もちろんこの宿屋も例外ではない。にも関わらず、ロビーに立ち止まらずに階段を上がっていったということは、ユウキたちの趣味が宿屋巡りでもない限り、予め"誰か"が部屋を取っているということに他ならない。
(だとすると面倒ダナ)
この宿屋は3階建てで、ここらの宿屋の中では高級な部類である。2階のスタンダードルームならば、聞き耳スキルで部屋の話を盗み聞きできるが、3階のスイートルームだと、部屋がフロア丸ごと占めているほどの大きさなため、奥に入られると現在のアルゴの聞き耳スキルだとカバーできない可能性がある。
(このタイプの宿屋なら......)
それを危惧したアルゴは急いで外に出て宿屋の裏手に回り込む。
この宿屋の裏手には幅が狭いどぶ川が流れており、どぶさらいの男から(圏内の中でという注釈はつくが)そこそこ割のいいクエストを受けられるのだが、アルゴの狙いは其処ではない。
(やっぱり軽業スキル無しでも登れる壁ダ!)
念のためを装備したクローで窓枠を軽く叩く。思った通り紫色の破壊不能オブジェクト警告画面が表示される。
フレンドリストで、ユウキとヒルコの位置を調べてみると、宿屋の3階にいるようである。そこまで確認した瞬間、唐突に位置を示すアイコンが消える。消える理由は色々あるが、一番可能性が高いのは、フレンドリストの設定が変更されたということである。
(とにかく急げ帆坂朋!ウリエルとコンタクト取れる最後の機会かもしれないんだ!)
まずは跳躍して、一気に一階の窓枠の上の部分に両足を乗っける。次に2階の窓枠に手をかけ自分の体を引き上げようとする。敏捷力特化のアルゴの筋力ではギリギリだったが何とか窓枠に体を乗っけることに成功した。
聞き耳スキル発動。......しかし、人の話し声は聞こえない。この位置で盗聴できないならば、残るは3階のスイートルームだけである。
上の部屋のカーテンが占められていることを確認してから、先ほどと同様の方法で3階の窓枠に移動する。
(さてどんな話が聴けるのか......アレ?)
しかし、聞き耳スキル発動してもなにも聞こえない。まさかスキルの発動ミスか。そう疑ってメニュー画面を見るがまず間違えなく発動してる。つまり___
「やられたカ」
そう、スイートルームを含めてこの宿屋には管理者はおろか、ユウキとヒルコすら居ないのであった。
(今から追いかけても、どこに行ったか分からない以上見つけ出すのは無理ダナ─。管理者に簡単にコンタクトできると考える時点で無理があったのかもナ)
さて、この後どうするべきか、そう思案気にアルゴは大量に来ていたインスタントメールに目を通す。
5割は目を通す価値もない、ござる口調が目立つエキストラスキルの情報を求めるメール。残り4割が、なじみ客からの(主に解放された2層の情報を求める)依頼。そして残りの1割が初見の依頼。
(とりあえず2層の情報は、知り合いに攻略本を道具屋に委託を頼んであるから放置。この依頼は直ぐに対処可能、この浮気調査は判断保留、最悪これは別の情報屋を紹介した方がいいカ? そしてこの依頼は頼んであったリストアップ作業が終わったカ。そしてこのメールは.......)
思案気にメールを眺めながら次々に依頼をさばいていくアルゴ。そこには管理者とコンタクト取れなかったショックはなく、冷静な仕事人の心情であった。
そして、目線は一つのメールへと行きつく。
(これは初見さんダナ。さてどんなメールかなット)
何の気なしにメールを開いて、その内容に絶句した。
「おいおい冗談キツイゼ」
もし仮にこのメールの内容が本当なら大変なことになる。それこそ、この鉄の城が根本からひっくり返る程度には。
とにかく、こんな所でじっとしてる場合ではなかった。アルゴはその勢いのままとりあえず移動しようとして
踏み出した一歩が空を切る。
あっという間に崩れる体勢。
「やっべ」
そういやここ3階だったナー。そのことを思い出すがもう手遅れ。既に彼女の体は宙を舞っており
数秒後、どぶ川でびしょ濡れになった鼠の姿があった。
蛇足ですが、プロットだとここにアルゴが登場する予定はなかったんですよね。
なんで勝手に出てきた挙句真実に近いところまでたどりついてるんでしょうかこの方