ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
現実世界側の一人のただのアーガス社員のお話
純粋に書いてて辛かった
本日2話目投稿です。
遂に2022/11/06 SAO正式サービス開始日! おめでとうございます!
柊 メイには年の離れた弟がいる。弟とは父親が違う。母親が彼女が小学生の頃に再婚し、その後産まれた子供だ。
別に家族仲が悪いという訳ではない。父親はいい人だと思うし、弟のレイは色々と世話を見てやった記憶がある。
ただなんとくなくその家族は居心地が悪くてなじめなかった。
そんなわけで彼女は高校卒業を契機に一人暮らしを始めて家族と距離をとっていた。
その後、大学卒業後アーガスに入社した彼女は途轍もなく多い仕事量に押しつぶされそうになりながら日々忙しく立ち回っていた。そんな折、久々に母から電話がかかってきたのだ。
話の内容は弟のレイがソードアート・オンラインを欲しがっているから、誕生日も近いことだし会社のコネでどうにかして手に入れられないかという頼み。久しぶりの家族の頼み______それも可愛い弟のためとあれば少しは尽力してやろうという姉心からソフトを手に入れようと努力し、
結果的にアーガス社員による仁義なき争奪戦(特にまさかの白澤が厄介だった)を潜り抜けなんとか一つだけソフトを手に入れたのだ。
手に入れてしまったのだ。
彼女が自分の取り返しのつかないミスに気がついたのは、茅場による犯行声明があってからおよそ20分後。重度の社畜による疲労で倒れていた柊を強引に起こした大量のスマホの通知音だった。
寝ぼけなまこで電話を反射的にとった。普段の彼女なら電話をとる前にアーガスの騒然とした異常な様子を見て何か察することができたかもしれない。けれども、あの時は疲労でそんなことを考える余裕すらなかった。
聞こえてきたのは狂乱した母の声だった。
今から一ヶ月近く前のことだ。具体的な内容は覚えていない。それでも弟が仮想世界に囚われたことに対して、今まで聞いたことがないような自身を責め立てる母の声は、柊の心をひどく抉った。
翌日になると警察が来て、アーガス社員はほぼ全員自宅待機を命じられた。
その日は何もできずに、一人だけの部屋で鳴り響くスマホの通知音だけを聞いていた。
更に次の日になると少しだけ元気が出て、大量の電話の着信に出る気はしなかったが、SNSやメールはすこしだけ読んだ。
大量の野次馬メールに埋もれるようにして母の謝罪のメールがあった。
返事を返す気にはなれなかった。
5日もすると、関係者が居なければ事態の収拾は不可能なことにようやく気がついた警察により、アーガス社員の出社が許可された。
仮にも柊は現状唯一のサーバー管理者だった。私ならもしかしたらプレイヤーを、弟を開放できるかもしれない。
無理だった。
そんな淡い期待は直ぐに木っ端微塵に粉砕された。決して彼女は世間一般で言われているような無能ではない。
それでもだ、稀代の天才茅場晶彦が残した数々の妨害の前には全く太刀打ちできなかった。
入社するたびに会社の前を張るデモ隊やマスコミに責められるのが嫌だったので、会社に泊まり込むことにした。幸いなことに社にはシャワーも布団も洗濯機もあったので泊まり込みにはそこまで支障はなかった。食料は木田さんがマスコミの追尾を振り切り入手してきた段ボール10箱分のカロリーメイトと飲料水があったので何とかなった。
6時に起床、1時に就寝することで、1日の大半を仕事に充てたが、それでも茅場からアインクラッドを取り戻す計画の進捗は遅々として進まなかった。
焦りがあった。日々じりじりと増えていく犠牲者の数を見て、早く解決しないとこのまま弟が死んでしまうのではないかと。
その焦りは、毎朝8時ちょうどに送られてくる母と血のつながりのない父のメールで更に加速された。
どのメールにも、あの日と違い物腰こそ柔らかかったものの、進捗を問う内容だった。
返信に困り______解決には程遠いところに居るとは言えずに、そのままスマホを閉じた。
電話はもう既に取る気を失せていた。
事件発生から2週間ほどたったころ、ある日ふと会社から外を見てみると母が居た。デモ隊の女性と話していて、毒々しい特徴的な色合いの鉢巻きを受け取っていた。
「ッツ!!」
アーガスへの入館時の時に、同じ鉢巻きを付けた男性に絡まれたから書かれている内容は覚えていた。
その鉢巻きには『アーガスを許すな!!』と書かれているはずだった。
そっと窓から離れた。母があの毒々しい色合いの鉢巻きを頭に巻き付けた姿は見たくなかった。
その次の日からはメールすら開かなくなった。この時期から吐くことが増えた。吐いたところで、出たのは胃液だけだったが。
洗面台に吐いているところを宮田さんにみられ、事情を聞かれたので仕方なく弟が囚われていることだけを話した。適度に休みながら仕事に励めと言われた。どうせ、宮田さんの言う『適度に休め』なんてただの建前だ。あの人は他の人をどう働かせるかしか考えていない。
とある日、同僚の
また別の日に、遠藤に仕事終わりに雑談に誘われた。その日も新たに見つかった障害の解決策を検討したかったので、チョコを一個だけもらってその場を去った。
またまた別の日に、木田に朝一のラジオ体操に誘われた。運動するだけの体力がないので断った。
そうしていつの間にか事件開始から1か月がたっていた。弟はまだ生存しているが、アインクラッド内部の状況はつかめず、未だに解決への見通しは立っていなかった。スマホは未だに8時ちょうどにメールの着信音を響かせていた。どうせ内容は分かっている。
珍しく外部に謝罪に出向いておらず会社に居た宮田さんに資料のコピーを頼まれた。
定期的になるコピー機の印刷の音を聞いていると、ふと地面が揺れる感覚がした。天井が回った。背中が壁に当たる。状況がつかめなかったが、少しして自分が座り込んでいることに気がついた。誰かに押し倒されたのか。そう思い周囲を見まわたすが、見渡す限りコピー室には自分以外誰も居なかった。
なぜ、私は座っていたのだろうか。分からないが、いつの間にか資料の印刷は終わっていたので早く立ち上がって仕事に戻らなければならない。
力が入らなかった。ほんの少し体が上がって、ストンと重力に従いまた落ちる。
「あれ、おかしいな」
もう一度立ち上がろうとするが、無駄な努力で終わった。後ろを見ると
だから立ち上がれないんだ。
「みんななにしてるの、離してよ」
そう問いかけるが、彼らは首を振るばかり。なにか言ってる気がするがノイズ混じりで聞こえない。
「だって皆私にそれを望んでいるんでしょ」
「その通りだよ、
目の前に
気がついたら立ち上がっていた。いや、そもそも最初からずっと立っていたのかもしれない。無駄な時間を過ごしてしまった。一刻も早く解放目指して頑張らなければなるまい。
コピー室を出る前に忘れ物がないか後ろを振り返る。
何もなかった。なにかがあるはずなかった。
──.......木田は店の選定を頼む。俺はとりあえず全員に声かけてくる
宮田さんの元に向かっていると、声が聞こえた。宮田さんと木田さんだ。
──一応聞いておきますけど、なんか希望あります?
──キンキンに冷えたビールさえあればなんでもいい
最初はまさかと思った。だが、話を聞いていて確信した。この二人はあろうことかこの状況下で飲み会を開こうとしているのだ。
その瞬間私を襲ったのは憤怒だった。何も考えずに部屋に飛び込む。
お二人ともふざけてるんですか?
私は、アーガスは全てをもってこの事態の解決に当たらなければならないのだから。
それが皆にのぞまれていることなのだから。
これが私の償いだ
次回更新は来週を予定しています。