ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

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多分この話が今まで一番没と書き直しの多かった話。

視点移動多いのでご注意を


閑話3:右手にはスマホ、左手には上司の首

宮田としても柊の錯乱に思うところがないわけではない。彼女の仕事量が多いのも知っていたし、弟さんのことで随分と思い込んでいることも把握はしていた。

 

 まぁでも仕方ないだろう?

 

 現在茅場からアインクラッドを取り戻そうとしている()アーガス社員は15人。事件前の7割のアーガス社員が様々な事情____例えば世間から犯罪者扱いされるのに疲れただったり、茅場の残した障壁に心折れたなど____で去ってしまった現状、システムについて頼ることができる人材は相当少ない。無論国から派遣された仮想課自体も優秀で頑張っていくれているのだが、複雑化したシステムを把握しきれては居ないし、かと言って残ってくれた()アーガス社員も全員が全員システムの全貌を把握できているわけでもない。

 

 そんな中で柊は唯一と言っていいほど、物事を説明できる程度にはシステムを把握しており、尚且つ人にモノを教えるのに長けている稀有な人材である。

 

 システムを把握しているだけならば宮田自身や木田.....その他にも数人いるが、宮田自身はアーガス社の代表としての仕事(またの名を世間からのサンドバック)という役割があり、木田は複雑な物事を教える効率が悪く、残りは人格的破城者であり各人色々理由に違いはあれど人に物事を教えるにはあまりに不向きだ。 

 

 白澤辺りの比較的常識人よりの人材が残っていれば、柊の仕事量ももう少し軽くしてやれたかもしれないが、いない以上は仕事をこなせる奴に集中するのは仕方ない。少しばかし人仕事量は多いが、体を崩したとしても柊本人の体調管理がなっていないだけである。

 

 悪いのはとんでもない爆弾を投げつけて消えた茅場ただ一人だ。間違っても俺が仕事を押し付けすぎたせいではない......はずだ。

とは言え、彼女に倒れられるとひじょーに不味い。仮想課の連中もようやく動けるようになったとはいえ、まだまだ不安だ。万一にもヒューマンエラーでシステムが強制終了し復帰できなければ、8,000人近くの人間がそのまま死亡するのだ。いざというときの対処役として柊の存在は必須である。

 

 しかたないケアするか......そう思い宮田が口を開こうとした時だった。

 

 そっとごつごつした手で静かに口をふさがれた。真綿のような軽い感触でありながら絶対的に宮田の行動を縛る行為だ。

 

______なんのつもりだ!木田ぁ!

 

 一切動かずに目線だけで下手人にメッセージを送る。もし仮にこの時何らかの形で動いたら木田によって意識を落とされていたかもしれない。そういった意味では宮田は利口だった。......いや単純に木田の型破りっぷりに調教されていただけかもしれないが。

 

______聞こえていますか。私は今あなたの脳内に直接イメージをぶつけています。

______えっこわ。えっこわ

 

突如宮田の脳内に木田(仮想世界の女の子version)が出現し語りかける。

何言ってんだコイツと思われるかもしれないが実際にそうなのだから始末が悪い。

 

______日々の修行の成果です。そんなことより宮田さん(クソジョウシ)は少し黙っていなさい

______なんか看過できない言葉が飛び込んできたんだが?!

______これは私にとっても未完成の技。きっとこのビルに残った残()思念が混じったのでしょう。反省しろブラック上司(宮田)!!

 

 なにを反省しろと?

 

そう思った矢先に手にこもる力が強まる。

 

______ごめんなさい。ごめんなさい。首絞めないで。何を反省するべきか分からないけど反省するから許してください。

______なら事が終わるまで黙ってろ。社畜メーカー(ブラック上司)のやり方は、高速で走る分離しかけている自転車を乗りながら直そうとするようなもの。現状はなんとかなっても将来的に失敗して潰れることが確定したやり方。今は遠藤君に任せましょう。

 

 そう(脳内で)いった彼女は小悪魔的な笑みを見せて笑った。

 

 現実世界でも彼女は同じようにスマホを構えて笑っていた。

 ......正直イケメンとは言え現実の姿でのその表情は正直きもちわ......ちょまちょままてまて謝るから無言での首絞めやめぇ...ぐぇ

 

 この間の無音のやり取り僅か2秒

 

 

 

 

 

 遠藤はここまで柊が追い詰められてしまった原因を知らない。

 ふさぎこむばかりで何も話してくれなかったから。

 

 情けないな。自身がちっぽけに見えてどうしようもなくなる。

 

 茅場さんが何を思ってアーガスから仮想世界を奪ったのか知らない。かつては尊敬していた茅場晶彦のことは今となっては考えるだけで吐き気がする。

 

 それでも、柊がここまで追い込まれてしまったのはきっと俺たちが作り上げた環境のせいだ。

 

 社長が襲われ入院し、白澤が仮想世界に囚われ、その他にも頼りがいのある人たちが茅場の所業を受けて次々とやめていった。

 

 今この会社にいる大半は国から派遣された仮想課であり、旧アーガス陣はおよそ3割しか残っていない。

 

 仮想課は仮想システムについてアーガス勢と比べると知識が圧倒的に少なく、アーガス勢だってシステムをしっかりと理解できている人はまれである。よって負担が所謂"できる人"に集中した。

 

 柊は有能な側だった。知識が深く、頭も回る。グラフィック担当である遠藤では到底及ばない所に彼女はいた。

 

 彼女にかかる負担は大きかった。そもそも正式サービス開始前には既に倒れていた彼女のことだ。彼女の小さな体にかかる重圧は相当なものだっただろう。それでも皆それを軽視した。

 

 人の命が掛かっているのだ。そういう意味では柊が少なからず抱いているであろう"だれかを救うためなら自分が犠牲になってもいい"という気持ちを抱くのは特別妙なことではないだろう。

 

 吐き気がした。理不尽だと思った。

 

 確かに遠藤達、一般アーガス社員にも非はなかったとは言い切れない。

 でも、諸悪の根源は茅場だろ?

 なんで、柊がそんなことを思ってしまうまでに追い詰められなきゃならないんだ?

 

 柊のやり方じゃ......

「お前自身が救われないじゃないか」

 

 その言葉に一瞬。ほんの一瞬だけ柊は押し黙った。彼女にも思うところがないわけではなかったのだろう。

 それでも、

「......だからなに?」

 

 柊は頑なだった。

 

「私が救われなくたって誰も悲しむ人なんていないさ」

「......はぁぁぁっ ⁈」

 

 その言葉に遠藤の何かがプッツンと切れた気がした。

 

 

 

 

 

木田はこの後起こるであろうことをほぼ正確に予想し______笑みを深めながらスマホの録画ボタンを押した。宮田はその胸元で白眼で泡を吹いていた。

 

 

 

 

 

 柊は遠藤の雰囲気が変わったのを察した。

 柊が言ったことがよほど信じられなかったのだろうか。

 でも事実______

 

「______んな訳ねぇだろうが」

 

ドン

 

 と荒々しく柊の後ろの壁を叩かれる。

 

「お前が救われないままだと俺が悲しいんだよ!」

 

 なんで と初雪のような直ぐに消えてしまうような声で柊は言葉を漏らす

 

「お前のことが好きだからだよ」

 

 放心したのち、ようやく柊は______自分が告白されていることに理解が追い付いた。

 その時の遠藤の真っ赤に染まった顔を柊は生涯忘れることはないだろう。自身の頬の熱も含めて。

 

 思考が回らない。こんなの不意打ちにもほどがある。柊の顔は寝不足で熊が酷いし、彼もよれよれのワイシャツで(私ほどはないが)酷い顔をしている。こうして整理してみると考え得る限り最悪の告白だ。もっと告白されるのなら別の場所、シチュエーションが良かった。少なくともこんなひどい顔で受けたくはなかった。

 

 頭がグワングワンする。視界が揺れ出す。遠藤は真っ赤な顔で返事を待っている。

 

 混乱したままなにかを言おうとした時だった。

 

 どさりとなにかが落ちる音がする。

 

 そもそも柊がこの部屋に入った理由を思い出す。そういえばこの場にはもう二人ほどいなかっただろうか?

 

遠藤と柊が同時に音をした方に目を向ける。

 そこには、床に伏せる青い顔をした宮田さんと「やっべ締めすぎた」と呟く木田さんがいた。

 その右手にはカメラ部分が光るスマホが一台

 

「?????」

 

 唐突だが、柊の現状を整理しよう。過労死寸前の勤務形態と過度なストレスによる睡眠不足と判断力の低下。更にそこに不意打ちの告白。情緒が乱高下して滅多めたの滅茶苦茶である。

 

 辛うじて万一のために残していたまともな思考能力はもはや告白のシーンを脳みそに記憶することに費やしてしまった。今の彼女に思考能力は残っていない。だからこそ、目の前のカオスな状況への理解が追い付かない。

 

 しかしだ、柊は真面目な、悪くいってしまえば逃げを知らない愚直な人間である。そうでなければここまで追い詰められてはいない。故に思考を止めることができない。しかし、前述した通り彼女に思考するための能力は残されていない。

 

 するとどうなるか。簡単だ。

 

 キャパオーバーだ。

 

「きゅーーう」

 

柊がショートし目の前が真っ暗になる。

処理しきれなくなった彼女の脳は本能的に気絶を選択したのだ。

 

 気を失う寸前に一つのことに気がつく。

 

 "あぁでも、告白されたこと自体は別に嫌だと思っていないんだ。"

 

 

 

 

 

 遠藤は倒れこむ柊をギリギリのところで受け止める。

 

「柊? 」

 

 問いかけるが返答はない。耳を澄ますとスース―という小さな寝息が聞こえる。

 

「寝やがった」

 

 一世一代の告白されて返事も返さずに寝る奴いる? いるさ! ここに一人な!

(まぁいいか)

 

 遠藤は一人呟く。

 

 (......あれだけ険しい顔だったのに、こんなに穏やかな表情で寝てるんだ。起こす気になんかなれねぇよ)

 

「木田さん、スマホの録画データ全部消してから柊運ぶのを手伝ってくれません」

 

そう言って遠藤は木田に助力を頼む。

 

「リアルKABEDON見せてもらったからね。それくらい手伝うか。......スマホの録画データだけでいいの?」

 

木田はスマホの画面を見せる。そこにはデータ転送済みの文字が鎮座していた。

聞きたくはない。送信先は知りたくないが、聞かなければならない。

 

「......どこに送ったんですか」

「社内SNS」

「なんということをしてくれたのでしょう。なんということをしてくれやがったのでしょう。この天災は」

 

最悪の回答をされ、表情が消える遠藤。それを見て爆笑する木田。この時をもって周囲から遠藤が永遠にからかわれることが確定したのだが、もはやどうしようもない話である。今頃既読がつき、愉快犯によって何らかの形で保存された後だろう。アーガスとはそういう会社だ。

 

遠藤はため息一つした後、問題を棚上げすることにして柊の上半身を持つ。

 

「木田さんそっちの方お願いします」

「いい機会だし、KABEDONの次はお姫様抱っことかやってくれていいのよ? 」

「いいからお願いします」

 

木田は『えー』と残念そうな声を上げるが、そのまま素直に柊を持ち上げるのであった。




この時点でのアーガスサイドでなにを書いても最終的に全部茅馬鹿のせいになるのは酷いけど、所業考えたら当然すぎるな......他の人に責任が全くないとは言いませんが。労働法違反ダメ絶対。

 なんかいきなり知らん奴ら(一応第0章の時点で登場済み)の告白模様見せられて面食らった人もいるかもしれないですが、これくらいしないと冗談抜きに単調で暗くて救いがない話になるんだ。許せ

 次回更新は一週間後を予定しています。本当はおまけとしてあとがきにでも載せるつもりだったのが、気がついたら一話分の文量になってた......
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