ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
鍛冶屋を開店して数日がたったある日のこと、
始まりの街は天候が悪く、『こりゃ人の出は期待しない方がいいな』と思いながらも鍛冶屋を開いていた時のことだった。
「お前じゃな! 鍛冶屋詐欺師は!」
初見のお客様が商品を吟味している最中に、唐突に罵声を浴びせられた。
“はぁっ?”とつい素の声が出てしまったのも無理はないだろう。
俺は真っ当な鍛冶屋で、詐欺どころか適性値段から考えると随分と良心的な値段で提供している良心の塊のような存在である。
その罵声の内容に全くと言っていいほど心当たりがなかった。
罵声を飛ばした相手を見てみると初老の男性で、ハゲ......頭の髪の毛の残量が可哀そうな人であった。マクラギはおろか、ウリエルの時でさえも見たことない人物である
「何が”はぁっ”じゃ! お前の悪行は全て聞き及んでおる! 詫びろわしに!」
「......どういうこと?」
なにがどういう理屈で俺が見知らぬ男性に謝らなければならないのかが分からない。
「”どういうことと”とは何事じゃ! とぼけるのも大概にしろ!」
「一点確認させてください。あなたと私初対面ですよね?」
頭の中の記憶媒体をもう一度隅から隅まで洗うが荒々しく叫ぶ男性の容姿に全く心当たりはない。
「そうじゃ!」
勢いよい肯定のセリフが返ってくる。やっぱり初対面だよね。この禿ジジイ。
「だがそれで謝らなくていい理屈がどこにあるというんじゃ!」
「何に謝るのか分からない謝罪は出来かねます」
「うるさい。謝れ! 理由はお主が一番よく知っているだろう」
「えぇ......」
知らねぇよ......。俺目線いきなり現れては怒鳴り散らかす目的不明の狂人なんですが。
もう面倒だからこのまま適当に謝ってしまおうか。と一瞬思ったものの、こういう手合いは下手に言質を与えると更に面倒くさくなる。
目の前の珍獣への対処に悩んでいる時であった。
助け舟は意外なところから現れた。
「ふむ私は寡聞にして知らないが、そこの人のよさそうな鍛冶屋は一体どのようなことをしたのか、よろしければ教えてくれないだろうか」
髪と一緒に知性を落としたジジイがあらわれたせいで、対応を忘れていたお客様が、事情を聞こうとしてくれた。
お客様は銀髪の凛々しいといった表現が似合うような男性だ。今のところ入手の難しい最高級のプレートアーマーを装備しており、それにふさわしい盾と片手剣を探しに来たのだと相談を受けていたのだ。
「お前、まさかこの男からなにかを購入しようとしているのか? 止めておけ、こいつが扱っているのは他のプレイヤーから取り上げた武器じゃあ! お前も盗人の仲間になるつもりか? 分かったのならやめろ!」
「そんなわけあるか! 俺が扱ってる武器は全部俺の自作だ! 言いがかりも大概にしてくれ!」
「ふん。自作の武器ならもっと量があるはずじゃ!それなのにこんなに扱う量が少ない理由はただ一つ」
ここに並んでいる商品は全て他のプレイヤーから盗んだ盗品だからじゃ!
ためを入れた後、更にでかい声で叫ぶ禿カスジジイ。辺りのプレイヤーが何事かとこちらを見てゆっくりと距離を離していく。商品が少ないのは単純に素材が足りてないからだ。
「皆さま、違います。そのような事実はないです。全部自作の商品です」
なに?なに?なに? なんなのコイツ? 新手の営業妨害? 茅場の回し者? やっぱり茅場は死ぬべき存在か。
「豆腐に頭をぶつけて死んでくれ茅場」
「なぜそこでゲームマスターの名前が出てくるのだ」
「何が豆腐じゃ! 訳分からんことをのたまうな! とりあえず詫びろ!」
いけないいけない。不用意に声を出してしまったことで、更にクレーマー様を怒らせてしまったようだ。お客様でさえ今の言葉に疑問の声を上げている。
ここは一度落ち着いてピシッと言うべきか。
「詫びません。貴方が言っていることは全て事実無根だ。俺が人から武器を取ったことはない以上、私から一切なにもいう気はない」
「ふざけるな詫びろ」
「お断りです」
「詫びろ!」
「断る」
「謝罪しろ!」
「断る」
「本心からワシに誠心誠意心の底から頭を地に付いた謝罪しろ!」
「できるか!!」
あれ? コイツ、プレイヤーじゃなくて"はい"っていうまでフラグ更新されないタイプのNPC? カデコさん無限ループになってますよ。話が進むように更新して。
「二人ともそのまま話し合っていても、らちが明かないだろう。それより私の対応をだな......」
「こいつが詫びればいいだけの話だ」
「俺の謝罪はそんな安いものではありませんよ」
「いいからやれ! 詐欺師の頭なんぞ安い物だろう!」
「私の対応をしてくれ......」
「悪いが俺の頭は頑強でね。容易には動かせんよ」
「ふざけるな! ふざけるな!」
「それはむしろ、身に覚えのないことで営業妨害されまくってる俺が言いたい」
「あるだろう。スカスカな頭はそのことすら忘れてるのか! 」
「昨日の夕飯すら思い出せないようなジジイに言われたくないですね」
「私の対応を......」
「昨日は黒パンと野菜スープだ」
「そうですか。思い出せてよかったですね。ついでに言うと、あなたの来た方向はあちらですよ」
「分かるわ! ワシをなんだと思ってる」
「思い込みの激しく、髪の毛と共に知性と常識をどこかしらに落としてしまった愚者」
「ふざけてんのかこのけつの青い理解の悪い若造が!」
「私の対応......」
「今までの言動を考えたうえで導かれる極めて事実に近い評価だと思いますが?」
「ふじゃけボケナスけいいシメせよこのせけんしらすが!(聞き取りにくい)」
「うるさいですね。残り少ない髪の毛を守る代わりに言語能力も差しだしたのですか?」
「私の......」
「わしは禿じゃない!」
「今日一番の朗報ですね。これからの短い余生、数少ない髪の毛を守る事に努力してください。1年以内にその努力は無駄に終わるでしょうけど」
「何いっとんじゃこの若造がぁ!! 仮想世界で髪は減らんだろうがぁ!!」
「今、残り少ない髪の毛が数本落ちましたが?」
「......えっ?」
俺が発した適当な剥げ煽りに、ようやく喋ることをやめ、恐る恐るといった形で禿ジジイが後ろに手をやる。まぁ、さっきジジイも言っていた通り仮想世界で髪の毛は、直接斬られるか、美容室にでも行かない限り基本変化はないのだが。つまり髪の毛が落ちたというのは俺のついたウソである。
ようやく、隙を得たお客様が盾を指さして割り込んでくる。
「すまない店主。この大盾が気にいったのだが、少々テストしても構わないだろうか」
「ええ構いません......テスト?」
「なに数打打ち込むだけだとも。では構えたまえ」
え?俺に打ち込むの?? とは言え、商品は持ち主である俺しか装備することができないため、当然と言えば当然の流れであろう......いや待て本当に当然か?プロパティである程度把握できないか?
お客様が鞘から剣を引き出す。
瞬間、届くは殺意。死ぬ心配のない園内でありながら、剣先は俺の心臓を指している。
全力で構えなければやられる。そう思う前に体は自然な動きで盾を構え防御姿勢を取っていた。
次の瞬間、盾に衝撃が走った。
「......いってぇ」
「ふむ。こんなものか」
2連撃のソードスキルを放った本人は平然とした顔で呟き、剣が鞘にしまわれた。
しかし、重いソードスキルだった。ソードスキルのアシストに任せきった動きではなく、ソードスキルでの動きを完全に理解し、アシストを使って更に加速するような剣の軌道とその重さ。
このプレイヤーは強い。これから成長の見込みがあるとかそんな次元ではない。
もう既に強者なのだ。間違いなくこの仮想世界において完成された戦闘スタイルを得ている。
才能に溢れて、1年以上仮想世界に触れあっていたユウキやヒルコでさえ発展途上なのだ。あのビーターことキリト君でさえ、その次元には至っていない。
本サービスから一ヶ月。仮にβテスターだとしても二ヶ月。
それだけの期間でここまで至っているとは、ある種の異常だ。
この男は間違いなく今後の攻略の中核を担う人物になる。......ディアベルのように死ななければ。
「...ているのかね。」
「へっ?」
「聞いているのかといっていたんだ。この盾を買い取りたいのだが、この値札の通りでいいのか?」
「はい、3,800コルになります」
トレード画面を開き、お客様______Heathcliffからの入金を確認。Heathcliff、荒れ地の絶壁か。
「ヒースクリフさんでよろしいでしょうか」
「合っている」
念のために確認後、盾を一旦ストレージにしまってから、トレード機能でヒースクリフさんに送る。
「ああそれとそこの落ちてない髪の毛を必死に探してる爺さん。恐らくだが君の言っている悪徳鍛冶屋と、このマクラギ氏とは別プレイヤーだ」
「なんじゃと⁈」
「ナタクというプレイヤーだ。探してみるといい_______もっとも君のような思い込みだけで無関係の他人を責めるような人間に見つけ出すことができるとは思えないが」
「なにもかも見透かしたようなことを言うな! お前に何が分かる!」
「持論だ。それに文句があるならば」
剣で語るがいい
ヒースクリフ氏が禿ジジイに向かって剣を向ける。
「......断る! デスゲームでプレイヤー間で争いなんぞ馬鹿らしくでやってられるか‼」
ジジイはその気迫に気圧されたのか、最後に吐き捨てるだけ吐き捨て、脇目も振らず逃げ出してしまった。
ヘッピリ腰のくせにやけに早い。______なんかあの逃げ方に見覚えがあるような気がするが、俺があのジジイを始めて見かけた以上気のせいだろう。多分きっとめいびぃ
「結局何だったんだあのジジイ」
「なに気にする必要はない。あの爺さんはクレーマー気質でね。トラブル場に現れては直接の関係あるなしに謝罪を要求。それに謝罪をしてしまったら最後、迷惑料や慰謝料と称してコルを要求し、支払いに承諾するまで粘着してくる」
「妖怪かなにかかな?」
クレーマーってレベルじゃねぇぞ。
「というか、そのナタクさん? にあんなの差し向けて大丈夫だったんですか?」
本物の詐欺師であっても、あの妖怪派遣は流石に人道に反するひどすぎる所業だと思うのだが。
「問題ない。あの爺さんには例え見つけられたとしても分からないだろうさ」
ヒースクリフ氏が真顔でなにか含みを持たせて言う。
「それにしても、よく詐欺師のことを把握していましたね。」
「なに簡単なことだ。知り合いの顔が広くてね。私は彼女から聞いたに過ぎない」
知り合い? 彼女ってことは女だろうか。なぜか脳裏にどこぞの鼠がちらつくが、流石に別人だろう。
「では、これにて失礼。またメンテナンスは頼むよ」
「色々ありがとうございました。またのお越しを」
そう言ってヒースクリフ氏は去っていく。これから彼は圏外に出るのだろうか?
軽く彼の無事と今後のご活躍を願ってから、帳簿に先程の収入を記録する。ヒースクリフ氏に売ったあの大盾は純利益が高い商品だったので、ホクホク顔である。
「いい顔してる。商売は順調みたいだね」
「ナナか。そうなんだよ、さっき大盾が一点売れたんだ」
手に入ったコルの使い道を考えていると、声をかけられる。そこにいたのはナナ。自称ベテランポーション師だ。彼女とは連絡先を交換して以降なんだかんだ顔を合わせており、時折入手した素材を交換する仲だ。
「ナナはこれから店開きか」
「そうそう。って言いたいんだけどさ。ちょっと悩んでて」
良かったらそこの喫茶店でちょっと相談に乗ってくれない?
そう言って近場の洒落た店を指すナナ。ふむ、これは.......
「なに?デートの誘い?」
「えっ? いや違うけど?」
「ですよねー」
冗談交じりに言ったらガチトーンで否定されてちょっとダメージを受けたが、そんなことはささいな問題。貴重な生産職仲間なんだ。相談事に乗ってやるのもやぶさかではない。
「いいぜ。なんだか分からんが相談相手くらいにはなってやるよ」
それを聞いて彼女は嬉しそうにほほ笑んだ。
キリト以上に完成された戦闘スタイルを持つ男性、ヒースクリフ。一体何場何彦なんだ...
作中内でハゲについて言及するシーンがありましたが、良識ある読者の方々はよほどのことがない限りは人様の髪の毛について言及しないようにしましょう。余談ですが作者は禿げてません。
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次回も一週間後に投稿できるように頑張ります。
どうでもいいけど今回の話でヒースクリフの意味を知った。