ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

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本編の更新となります。


セミナー

「______という訳で本日の()()()()の説明パートを終わりにいたします。ご清聴ありがとうございました」

 

 良く晴れた昼下がり。始まりの街で俺は1時間のセミナーの前半を締めくくった。

 

 セミナー。それは少数の指導者が()()を通して多数の生徒に特定のスキルを学ばせる集まりのことである。今回の場合、ワークショップと言い換えてもいいかもしれない。

 

 指導者は俺達、生産部。生徒は今目の前にいる(多分)未経験者30人。

 そして特定のスキルとは______

 

「それではこれから10分間の休憩を入れて実習パートに移ります。皆さんスキルスロットの空は用意してありますか? 実習には作成スキルが必須となります。休憩中にスキル欄に入れておいてください。もしスキル上限に引っかかって取れない場合は別のプログラムを用意いたします。」

 

 ______鍛冶関連のスキルだ。

 

 質問がないことを確認してから、ステージを降りる。

 

「......説明お疲れ」

 

「助かる」

 

 舞台袖に引っ込んだ俺に差し出されたお茶を一気に飲み干す。生産部以外の目がないここならば、多少リラックスできる。

 

 生産部での人材獲得の話で悩んでいた時、技マシン20から提案されたのがセミナーの開催による、やる気溢れる有望なプレイヤーの獲得であった。

 

 セミナーという掲載で参加費用もある程度調整することで、ある程度のやる気が保障されているプレイヤーのみが集まったんだと思いたいが......

 

「どうなの? 感触は?」 

 

 ナナがポテトチップスをつまみながらに聞いてくる。人に説明役を任せて間食タイムとは気楽なものである。別に気にしないが。

 

「思った以上に悪くはないな、ただ......ちょっとばっかし見覚えのやついない?」

 

「左奥の男性ペア______」

 

「の左側」

 

 しばし沈黙の後に俺達は同時に口を開いた。

 

「「キバオウさんだよねアレ!」」

 

 参加者の中に生産部の上司ともいえる存在、キバオウが混じっていたのだ。

 ただ自信をもってそう言い切ることができない。なぜならば普段の恰好とは違い、バンク系の服装でありどこで買ったのかもわからないバンダナで目元が隠れているからである。髪の毛は相変わらずとげとげしてるので間違いないと思うのだが......

 

 いやしかし、ここにいるのは俺らだけではない。

 ここにはキバオウさんと共に戦っていたであろう男がいるのだから。ウリエル()? 一回しか共闘してないからキバオウ判定スキルが上がっていないのでノーカウント。

 

「ワザマシン20さん。判別お願いします」

 

「8割方、キバオウさんです」

 

「なぜ2割の余地を残した」

 

とは言え、この場にいる全員がアレはキバオウというのなら、もうあれは9割キバオウだろう。残りの1割は知らない。

 

「なんでこんなところに居るんだ、暫定キバオウさん......」

 

 3層の攻略も佳境だろうに。いやもちろんキバオウさんも人間である以上休みが必要ではあるだろうが。

 

「隣の人の付き添いとか?」

 

「ありそう」

 

 隣にいるのは随分とラフな格好______パーカーのようなものを羽織っている女性だ。フードを被っており顔は分からない。

 

「ワザマシン20さんはあの人知ってる?」

 

「0割キバオウさんです」

 

「つまりあれはキバオウさんじゃないと」

 

「知ってた()」

 

ナナが呆れた顔を見せるも、特に補足の説明もしないということは彼女も誰だか分からないのだろう。

 

「フレンドメッセで聞いとく?」

 

「頼んだ」

 

「オッケー」

 

 なんか変装(?)してるようであるし直接聞きに行くと周囲に正体がばれて迷惑になるかもしれない......そう思って悩んでいると、ナナがメールで聞くことを提案してきたので任せる。

 

 実習パートで使用するインゴットを全員で精査していると、数分でメッセージは返ってきたらしい。

 

「......キバオウさんの横にいる人、新しく生産部に入りたい人だって。説明代わりに連れてきたっぽい」

 

「ほー。ありがたい話だな」

 

 なるほど、そういう訳だったのか。セミナーの目的を考えると最低でも一人は確保できるのはすごい助かる。流石に発足したてのグループに入りたいプレイヤーなんてそう多くはないだろう。なんでキバオウ直々に連れてきたのかは知らないが。

 

 そんな感じで気楽に聞いていたのが続く言葉に態度を一変させることとなる。

 

「ちなみにレベルもそこそこあるらしい」

 

「よっしゃ!」

「助かる!」

 

 男二人の狂喜の声にナナは少し距離を取った。

 

「......いや無言で離れるな。」

 

「ごめん。純粋に成人男性二人が叫んでる姿は怖い」

 

「......すまん。レベル高くて圏外出れる奴は多ければ多いほど助かるんだよ」

 

 今の生産部は(ナナは滅多に出たがらないものの)全員レベルが最低限あり、圏外に出るという選択肢を取れるが、今後メンバーを増やすとなると絶対に圏外に出たくないというプレイヤーも現れるだろう。

 素材の全ての入手口をキバオウ達に任せるのは色々と懸念点があるし、入手できる素材にも偏りができる。ある程度は自給自足できるに越したことはない。だから戦闘ができるメンバーが増えるのは素直にありがたいのだ。

 

 それは分かるけど......とナナが呟いた所で休憩に入ってから大体10分が経過した。

 

「それはそれとしてそろそろ再開するとするか。全員インゴットの配布を頼む」

「おけ」

 

 

 

「______皆様インゴットは行き渡りましたでしょうか」

 

 インゴットの配布はほんの数分で終わった。特にもらっていないという声も上がらないのでそのまま話を進める。

 

「では、これから実習に移ります」

 

 そう言ってストレージから鍛冶台を引っ張り出す。

 

「これが鍛冶台です。前半パートでも言及しましたが、このアインクラッドにおいてはこれがないと鍛冶スキルは十全に機能しません。」

 

 鍛冶台の上にくすんだ色のインゴットを置く。性能は悪いが説明用としては十分だろう。

 

「武器の生成、強化、インゴット化。大きく分けて3つの用途がありますが今回は武器の生成をやっていこうと思います」

 

 手に愛用の鍛冶用ハンマーを握る。

 

「必要なのは鍛冶スキルと作成したい武器種に対応した作成スキル、インゴット、鍛冶台。そしてインゴットを叩く用のハンマーです。ハンマーでインゴットを叩いて生成する武器種を決めると鍛冶スキルが発動して武器生成が始まります。」

 

 それでは実践してみましょうか。

 そう言ってインゴットを叩く。さて、楽しい武器生成の始まりだ。

 

「武器生成中は自動的に腕が動きます。強引に動こうとすると確実に武器生成は失敗するので注意しましょう」

 

 4回叩いたところでインゴットが一際輝き形が片手剣へと転じていく。インゴットの性能から考えれば大成功も大失敗もない普通の性能だ。

 

「これにて完成です」

 

 なぜか観客たちから拍手されたので軽く感謝の言葉を述べる。別に大したことではないのだが。

 

「それでは、これから皆さまに試してもらいましょうか。だれかやってみたい人はいますか?」

 

 場がざわつき、周囲でだれが行くのかと無言の応酬が交わされる。興味はあるが真っ先にやるのは嫌だ。ということだろうか?

 

「あの自分いいっすか?」

 

 そんな場の流れで立ったのは犬耳をつけた青年であった。

 彼がつけている犬耳には見覚えがある。たしか始まりの街の福引の2等賞の商品で、多少だがドロップ率を上げる効果があったはずだ。(ちなみにその特賞がこの前変装に使ったピ〇チュウモドキである)

 

「ええもちろん。渡したインゴットを使ってやってみてください」

 

 犬耳青年は恐る恐るといった感じでインゴットを置きハンマーを手に取り慎重に叩く。

 

「......武器種の選択が出ないんですが」

「作成スキルはスキル欄に入ってますか?」

「すんません。忘れてました」

 

 慌てだす犬耳青年に慌てなくていいですよ。と優しく声をかける。

 

「これ獲得する作成スキルはどうすりゃ。なんか沢山あるんですが」

 

「お好きなものをどうぞ。生成した武器は各自で持ち帰ってもらうつもりなので、自身が使える武器種にするといいかもしれません」

 

 作成スキルは武器種ごとに一つずつ必要だ。片手剣なら片手剣作成スキル。盾ならば盾作成スキル。装備類ならば装備作成スキルといったようにだ。

 ちなみに現状俺が獲得している作成スキルは片手剣、盾、両手剣の3つだ。

 

 俺の言葉を聞いて犬耳青年は片手剣にすることにしたようでスキル欄をいじり、ハンマーを手にした。

 

「行きます」

「どうぞ」

 

 覚悟を決めた表情で犬耳青年が宣誓する。正直そんな気負うものではないのだが。

 

 犬耳青年が再びハンマーでインゴットを叩き、武器種を選択。今回は上手くいったようでそのまま武器生成が開始される。

 

 6回を叩いたところで一際輝いてインゴットが形となる。

 

 ほへへぇと感嘆の声を出しながら犬耳青年は自らが作成した剣を掲げる。随分とうれしそうな顔である。俺も開発時に初めて作成した時は似たような表情してたっけ......もっともその後にたくさんバグが発見されてその笑みは引っ込んだのだが。

 

「それでは次の方どうぞ」

 

 

 その後、特にトラブルはなく順調に実習は終わっていく。既に実習が終わった人たちは自身が作り上げた武器を眺めたり、仲間内で集まってひそひそ話をするなど思い思いに過ごしている。

 

 暇を持て余している人もいるようだし、次の機会があれば暇な時間に質問を受け付ける役を用意しておいた方がいいかもしれない。

 

 そして、最後に残ったのはキバオウさんが連れてきた女性だった。

 

「ワイとラサキが最後か?」

 

「ええ、そのようで。どうします? キバオウさんもやります?」

 

「なんでや」

 

 冗談めかして言うとキバオウは真顔で突っ込みを入れる。当然攻略組の彼はスキルを上限まで獲得しているのだろう。

  

「私ィだけお願いします。」

「はいどうぞ......ん?」

 

 微かに『私』のしが間延びしたような一人称に記憶が刺激された。まさかと思い呼吸をするのも忘れて女の顔に目を向ける。

 

 

 

 特徴的な泣きぼくろ。左右で瞼の厚さが違う。口元はほにゃっとしており柔らかそうな唇。低い鼻。昔は長く伸ばしていた黒く美しい髪だけは、短く切りそろえられてしまっている。

 ほにゃっとした口から今にも『直ちゃん』と俺を呼ぶ声が聞こえてきそうな気もする。

 

 

 

 

 

 俺はこの女を知っている。

 名前は"無茨(むいばら) (つぼみ)" 

 

 昔、(白澤直木)が付き合っていた相手だ。

 

 

 

 

 

「あの、なにか?」

 

 彼女の口から発せられたのは、密かに期待していた『直ちゃん』という優しい声ではなく、それとは反対の苦味が込められた声だった。当然だ。ここにいるマクラギという男は白澤直木とは全く違う見た目なのだから。初対面の男性に見つめられれば誰だって似たような対応をするだろう。

 

「あの、いえ...「まさか一目惚れとか言い出すんじゃあらへんな?」...すみません、少し昔の知り合いに似ていたものでして」

 

 キバオウさんのとげとげしい声に脳内を切り替える。彼女に限った話ではないが、これ以上俺の正体を知られている相手を増やしてはいけない。

 

 にしても、昔の"知り合い"か。自分の言ったことだがまさに俺たちの関係を表した言葉にぴったりの言葉だろう。

 彼女との関わりは高校進学の少し前に切られた。いや切れた後に繋ぐ努力を怠ったというべきか。表情に出さないように心のかさぶたをなぞる。今更めくれることはないし、血は出ない。既に終わった話だ。

 

 なにも知らない彼女はほんの少しだけ奇妙に思っていそうな顔をしていたが、そのまま目線を動かしインゴットを鍛冶台に置く。

 

 なんでこんなところに鍛冶台があるんだ......そうだ俺、鍛冶屋セミナーの講師やってるんだった。

 

 うん。やっぱすごくコンランしてるな俺! はいはい、ここで顔に出さないように深呼吸深呼吸! 仮想世界では何の意味もないだろうけど、深呼吸をキメルと心が沈静化するぜ!! ......エクスクラメーションマーク出してる時点で全く沈静化してないのでは? 白澤直木は訝しんだ。 

 

 俺はそもそもこうなった原因を考える。

 

ん_______5割くらい茅場が全部悪いな! 運転中に、どこから飛んできた宝くじの外れが顔に張り付いて馬と鹿に衝突して、過激な動物愛好家にマシンガンでハチの巣にされればいいのに。

 

 そんなバカな事を考えながら (いくら茅場でも後輩の中学時代の恋愛事情までは知ったことではないだろう。) 盛大に混乱しまくってる俺をよそ目に彼女はてきぱきと工程を進めていく。

 

 作成する武器は斧か。決してメジャーではない武器だが火力は悪くはない。しいて言えば振りかぶった後の隙が大きいことが弱点だろうか。

 

「どこか間違っている箇所があったら指摘お願いしますね? 隊長さん」 

「......あぁ」

 

 彼女はそういうが、わざわざ指摘する部分はない。教えた範囲においては彼女の行動は100点だ。

 

 その後も滞りなく彼女は工程を進めていき武器の完成までもっていく。まさかまさかの大成功まで決めたようであり、素人目で確認する限りインゴットの性能以上の斧である。

 俺でさえあのレベルの大成功は10回に満たないのに。よりによって性能の低いインゴットで大成功が出るとは相変わらず運はいいのだが、その出力先が悪いやつである。

 

「なんか出来の悪かったテストを返却された後の学生のような表情してない? もう全員実習終わったけど締めの挨拶しなくていいの?」

 

「悪い。少し呆けてた」

 

 ナナの言葉で意識が現実へと引き戻される。

 

 『もう既に終わった話にこれ以上固執するな』

 

 誰かに言われた言葉がリフレインする。首を振って今度こそ完全に脳を切り替えた。

 

 ステージに飛び乗る。 

 

「皆さん、本日はお疲れさまでした。」

 

 うん、やっぱり質問役を設けなかったのは失敗だったな。明らかに集中力切れました。と、顔に出ている輩が数人いる。いちいち指摘はしないが覚えておくからな、お前らの顔。

 

「今回のセミナーはいかがだったでしょうか。満足した武器を作れた人。反対にあまり結果に満足できなかった人もいると思います。それでも、今回のセミナーを通して武器制作の面白さを知っていただけたら幸いです」

 

 では解散! と言いかけて、すんでのところで本来の目的を思い出す。

 

「最後になりましたが、現在私たち生産部では一緒に働いてくれる生産職を募集しています。もし、興味があるという方はセミナ―終了後に気軽にこの後お声がけください。」

 

 一呼吸おいて、何かほかに話すべきことはないかを思い返す......ないよな、多分。

  

「それでは最後にはなりますが、なにか質問がある方はいますか」

 

 即座に半数近くが手をあげる。思っていたよりずいぶんと多い。

 

 ざっと見渡し、偶々目が合った犬耳青年を指名する。

 

「生産部についてもっと詳しく教えてほしいです。」

 

「なるほど......」

 

 答えてもいいのだがそれを詳しく話し出すと結構な時間がかかってしまう。

 

「生産部に関しては今回のセミナー内容について直接関係ないので後でまとめさせて答えさせていただきます」

 

 なので後回しにさせてもらう。

 

「生産部に関すること以外に何か質問等はありますでしょうか」

 

 プレイヤー達に問う。しかし不可解なことに先程まで手をあげていた聴講者達は皆手を降ろしてしまっている。

 

(皆生産部に関することしか質問したい事なかったの?)

 

 それはそれで今回の鍛冶講習は何だったのか。と思うが、きっと俺の説明が分かりやすくてきちんと理解してくれたのだろうと無理やり納得する。

 

「分かりました。ここで本日のセミナーを終了とさせていただき、その後生産部に関する質問を受け付けます。生産部に興味ない方は此処で退出してもらって構いません」

 

 しかし誰も立とうとしない。......ひょっとして今回皆、鍛冶屋スキルの習得云々じゃなくて生産部に興味あるから来たってこと? 確かに告知用ポスターの下の方にメンバー募集の一文は入れていたが。

 

「それでは先ほどそこの青年から寄せられた質問に回答しますが、生産部は......」

 

 この後、めっちゃ質問攻めにあった。

 なお圏外に出てもらう可能性について話したら半数近くが帰った。なんでや!




 圏内でコルを持続的に稼げる手段があるなら、コルを獲得手段が限られている圏外に出たくない勢は押し寄せてきます。今回は参加料を取っていたのである程度先を見据えたプレイヤーしか来ませんでしたが、もし参加料を取っていなければ物見遊山のプレイヤーが押し寄せて大変なことになっていたでしょう。
 白澤は圏外に出たくない勢の気持ちを軽視していたので作中参加者の行動に疑問を持っていましたが。

tips
saoの鍛冶スキルについて
インゴット化、武器の強化をするだけならば武器種に関わらずどの作成スキルでも可能。武器の生成をする場合は対応する○○(武器種)作成スキルが必要となる。

これ最初鍛冶スキル+○○作成スキルが必須なのかと思ってたんですが違うようで。(作者のプログレ一巻の記憶が正しければ)上記の仕様でいいハズ。そもそも鍛冶スキルというスキル自体がsaoに存在しないっぽい? 一応本作は今後鍛冶スキルは作成スキルの総称という形で扱わせていただきます。

 次回更新は未定です。一ヶ月くらいで投稿できる出来にはしたいとは考えてる(するとは言っていない)。
 
 最後にはなりますが、本日4/1ででとうとう初投稿から3年が経過しました。これもここまで読んでくださった皆様のおかげです。この場を借りてお礼を申し上げます。いつになったらこの作品の評価バーに色がつき、感想がもらえるのだろうか
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