ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
汝■■を欲するか?
どうやら作業場で鍛冶台が浮遊しているらしい。
ある日の早朝、技マシン20が俺、マクラギに伝達してきた。
「いやなんて?」
「ですから、鍛冶台が空をふわふわ漂っているんですって」
「なる……ほど?」
疑問形で返す。確かにこの世界であればやろうと思えば鍛冶台どころか人だって浮かせるだろう。ただ、俺にはそんな無意味な機能を付けた鍛冶台を作った記憶はなかったし、今の生産部のメンバーで生産部の部隊長こと俺に内緒で鍛冶台を作れるだけの材料を用意できる人物はいないだろう。
「皆怖がって作業場に入ろうとしないんですよ」
今の生産部はコルを出して黒鉄宮内部にあるとある一室を借りている。技マシン20がいう作業場とはその部屋のことだろう。
「分かった。行こう。歩きながら経緯を説明してくれ」
技マシン20の話を要約するとこうだ。
彼が作業場に入ろうとしたときに、なにやら音が聞こえたらしい。不思議に思った彼が慎重に作業場の扉を開けた所、鍛冶台が浮遊していたそうだ。
鍛冶台に近づく勇気はなくどうするかと迷っている最中に、続々と人が集まって来たものの、誰一人として近づいて調べる勇気のあるものは居らず、仕方なしに俺を呼びだしたらしい。
「え、誰も居なかったの?」
「はい、誰も。だって怖いじゃないですか、空飛ぶ鍛冶台だなんて!」
体を震わす技マシン20。
別に仮想世界なんだから現実ではかけ離れたものがあってもおかしくないと思うのだが。この人をカオス極まる開発中のアインクラッドにでもぶち込めば大変愉しい反応を返してくれそうである。
「それに、もし敵性モンスターでもいたら下手な人が様子を見ると死人が出ます」
続く言葉に納得した。黒鉄宮は圏外でありモンスターは出現しない。だが、技マシン20はそのことを疑っているのだろう。事実、選択は任意だが黒鉄宮にはいくつか戦闘前提のクエストが存在する。未だに発見されていないだけで、強制戦闘になるクエストもあるのかもしれないと彼は考えているのかもしれない。実際そんな意地の悪いクエストはないのだが。
「マクラギ部隊長さんおはようございます。話聞きました?」
俺の姿をみるなり話しかけてきたのは犬耳青年ことリョウケン。現在彼はここで鍛冶屋として働いてくれている。最近の趣味は料理スキルらしい。
「おはようございます。皆さん。浮遊する鍛冶台の話は聞きました。今どうなってます?」
「さっきまで工事現場みたいに凄い音出てたけど今は収まってる。」
ナナが答える。一応今の彼女は副隊長という肩書を背負っているが、正直名前だけの役割であり、ポーション生産に勤しんでいる。
「分かった。ちょっと行ってくる。ワザマと一緒に」
「私ぃ?!」
驚いたような声を出すが、なぜ逃れることができると思ったのだろうか。仮にも俺の次くらいにはレベルも高いのに。
「まって下さい心の準備が!」
「OK。10秒間で支度して」
10......9.....8....7...6..5.40!
「よし行こう!」
そのまま俺は作業部屋に突入した。
「まだ4秒くらいしかたってないんですが?!」
後ろで技マシン20が叫ぶ。
10数えるのに3,2,1なんて飾りです。技マシン20にはそれが分からんのです。
目の前で鍛冶台ver.2が浮遊していた。
あの鍛冶台は俺の2層からの相棒だ。インゴットを頑張って集めて作成して愛着のある品ではあるが、浮遊機能を持たせた記憶はない。
「ホントに鍛冶台が飛んでる!」
俺の内心とリンクするように叫んだのはファンラ。彼は生産部の一員であり、マッドの称号を与えたい鍛冶屋兼ポーション作成士である。
彼は入団してからあまり日は立っていないが、もう既に素材無駄にした率が生産部ナンバーワンであると言えば、そのヤバさが伝わるだろう。実験だと本人は言っているが、頼むから最初に基礎をしっかりとした上で発展に取り組んでほしい。本人なりの学びはあるみたいだけれども。
個人的には技マシン20とは違う意味で開発中のアインクラッドに送り込んだらどんな(負の方向の)化学反応が起こるか気になる男である。実現したら泡吹いてぶっ倒れる自信があるが。
「どんな方法を使って飛ばしてるんだ。火薬にしては滞空時間が長いし、風にだと.......まさか天井に糸、流石にそんな古典的な方法は使わないか.......なら......しかし______」
なにやらぶつくさと言いいながら方法を推察するファンラ。……こいつに火薬使わせたことあったか? 現時点では火薬は貴重品。軍経由でしか生産部では手に入らない代物であるハズであり、限られた数名にしか渡していない筈だが。
鍛冶台は丁度俺の目の高さで1mほど上下している。恐る恐る近づくと5歩開けたところで浮いたまま静止した。
『それ以上寄る事を禁ずる』
そのまま近づこうとしたときに金属質な声が響く。
「誰だ?」
この声、姿は見えないがNPCか?
「喋る鍛冶台だ!」と目を輝かせてこちらを見るファンラ。期待しているところ悪いが、俺は喋る機能を搭載した記憶もない。
先走(しって興味本位で鍛冶台ごと分解す)ることがないようにファンラを手で制する。
『我が姿を望むか。ならばそれなりの勇を示してもらおう』
『
Black Iron Knight からデュエルを申し込まれました
目の前に決闘の誘いが現れる。敵の名前は直訳すると黒鉄騎士? この施設の名前は黒鉄宮。なにか繋がりがあるのか。そう考えて思い出した。
初期案だとここはやりこみダンジョンであったのだ。その後紆余曲折あってβテストではリスボーン位置に、そして正式サービス開始以降は墓地になったのだが。ちなみにやりこみタンジョンは地下に移動した。
Black Iron Knight、この名前はダンジョン時代に配置されていた中ボスと同じだ。
どういった理由で騎士が現れたのかは不明だが、問題なのは未だに相手の姿が見えないということだ。
相手の姿が見えないというのはかなりのディスアドバンデージだ。相手の武器種もレベルも分からず対策のとりようがない。
ただここは第1層だ。いきなり適性レベルを大きく超えるような敵が出てくるとは思えない。仮にこの誘いを断ってもここは圏内でありHPを減らされる恐れはない。
(けどなー。八つ当たりで鍛冶台壊されると困るよな)
初代をうっかり使いつぶしてしまった分、2代目は長く使いたいのだ。特に人数が増えた以上鍛冶台はいくらあっても困ることはない。しかも少し離れた場所にはナナの調合台もある。アレまで壊されると生産部の経営が傾いてヤバい。
メニューの詳細を見てルールが半減決着であることを確認する。
デュエルには3種類のルールがある。その内半減決着はどちらかの体力の半分を消費しきった時点で決着がつくルールだ。このルール、βテストの時は利用率の少なさ故に開発陣でも存在が疑問視されていたが、今にして思えば茅場的に完全決着(どちらかの体力が全損した時点で決着)が使えない正式サービスのためのルールだったのだろう。ありがたい心遣いである。茅場は落とし穴にでも落ちて脊髄折ってくたばればいいのに。
「分かった、これ以上俺たちの備品に被害を及ぼさないというならその条件飲もう。ファンラ下がっててくれ」
Yesボタンを押した。
『素直で助かる』
浮遊する鍛冶台が映す影が揺らめく。鍛冶台が地に落ち、影が消えたのと同時に騎士が現れた。
名前は当然"Black Iron Knight"。武装は盾と曲剣。黒鉄の鎧をまとっており顔は見れない。肝心のカーソルの色は薄くも濃くもない赤。レベルは高いが適性レベルから逸脱はしてなさそうだ。
デュエル準備時間の60秒のカウントダウンが始まり、静寂が───
「今、影から出てきた! 技術なのか!技術なら教えてくれ!」
満ちなかった。ファンラが興奮した様子で黒鉄騎士に話しかける。圏内で自身のHPが削られないことをいいことに質問攻めにしている......いや、こいつなら例え圏外で自身のHPの保護がなくとも同じ行動に走っただろう。
話しかけられてる黒鉄騎士は無言だが、絶対に困惑してる。俺だって困惑してる。
「ワザマ、ファンラ下がらせて」
「ほら邪魔だから下がりますよ」
「嫌だ嫌だ!目の前の知らない技術を前に逃げれるわけないだろ!」
駄々をこねるファンラ。誰だこの170cmの幼稚園児雇ったの……俺だ。
「なら巻き込まれるなよ」
カウントダウンは残り5秒。
0秒になるのと同時に剣が当たるように距離を詰める。
『いい踏み込みだ』
「そいつはどうも!」
剣をふるうが、相手の盾に阻まれ、硬質な音を立て愛剣がはじかれる。
今回の俺の武装は軽めの片手剣と小型のラウンドシールドだ。片手剣はともかく、今まで盾に関しては複数人守れるような大きな盾しか使ったことがないので、中々新鮮である。
『悪くない、悪くないぞ!鍛冶屋!』
「ありがとよ!」
お互いの軽口と剣を合わせる。デュエルは久々、お忍びでβテストに参加した時以来だが、力量にそこまで差がない相手なら楽しいものである。茅場や木田、如月辺りが相手だとただの蹂躙ゲーになるからな。無論俺が圧倒される側だ。
数打剣を交えた後、黒鉄騎士の曲剣が光る。ソードスキルの光だ。
「あの構えは曲剣のソードスキル、"フェル・クレセント"!」
技マシン20が叫ぶ。"フェル・クレセント"は突進攻撃だ。遠くの間合いから一気に距離を詰めてくる強力なソードスキルである。直撃すれば俺は負けるだろう。
ブーストがかからず決められた軌道のまま動くソードスキルなど俺にとっては隙同然なのだが。
盾をソードスキルの軌道上に配置し、タイミングよく突進を逸らす。
よろけ、ソードスキルの技後硬直がかせられて無抵抗になったところに、片手剣ソードスキル、"スラント"をぶつける。
『
デュエルの勝利ファンファーレが、黒鉄騎士の体力バーを半分以上削ったことを示してた。
「よし勝った!さぁ技術について色々吐け!勝ったんだから俺達にはその権利がある!」
ファンラが目を輝かせながら黒鉄騎士に迫る。ファンラが勝ったわけでもないし、そもそも備品に関してこれ以上被害を出さないことを目的としてデュエルしたのであり、技術に関して吐く義理は向こう側にはないと思うのだが。
「その理屈はおかしくないですか?」
技マシン20の冷静な突っ込み。ファンラは無視した!
黒鉄騎士は縋りつくファンラをなんとか引き離そうとするが、がっちりファンラは絡みついている。
『直ちに離れろ狂人、牢に送るぞ』
黒鉄騎士の手元に紫のウィンドウが現れる。あれは、NPCや異性に長時間接触すると発動するハラスメントコードだ。
「ファンラ離れてやれ、ハラスメント行為で牢屋の中に転移されるぞ」
「ハラスメントが怖くて、鍛冶屋が務まるかよ!」
「鍛冶屋は無法者じゃなくて、素材を集めて武器を拵える奴らの代名詞だから手をどけろ」
170cmの成人男性にドン引きする一同、特にナナ。
黒鉄騎士の手がハラスメントコードの上に置かれる。
『5、4、3......にーーーぃーーー.............いーーーー』
最後の1が伸びる伸びる。しかし、ファンラは離れる様子はない。
「もう道徳0点は牢につなぐべきだと思う」
ナナが冷たく見捨てる。どうしよう、反論の余地がない。
『分かった。分かった。話してやるから離れろ』
「よっしゃ!駄々こね最強!」
醜い。あまりにも醜い。ようやく離れてガッツポーズをしているファンラを見て俺は素直にドン引きした。こいつ本当に成人してるのか?幼稚園児が大人の体でログインしてるだけでは?
技マシン20が背後で"皆さんはああなっちゃいけませんよー"と年下に対して言い聞かせている。
『スミビト怖い』
黒鉄騎士は虚ろな独り言を微かに漏らした。
「まずはどうやって鍛冶台を浮かべていたんだ!そして影から出てきたのはなぜだ!そしてスミビトってなんだ!」
『一度に聞くなこの狂人が』
「もう一度駄々を......」
『ヤメロヤメロ。鍛冶台を浮かべてたのは技術、影から出たのは私個人の能力、そしてスミビトとは大地切断後のアインクラッドに住む人々のことだ!』
ほとんど息継ぎせずに言い切る黒鉄騎士。
「技術?!ってことは俺達にもできるのか?できるんだな!教えろ!」
『この緑黒色の粉末をモノにかけると、浮遊させることができる。これやるからどっかに行け』
そう言って黒鉄騎士はファンラに袋に入った何らかの粉を渡す。それを渡されたファンラは真っ先に鍛冶台の元に向かっていく。
「いやちょっと待て! 鍛冶台で試すな、別ので試せ!」
本当は俺も試したいが、それを渡せと言ったところでファンラが渡すはずがない。
「対照実験的な意味で他の物で試した方がいいのでは?」
「それもそうだ」
俺の言葉で止まらず、技マシン20の言葉で別の方向に行く。向かう方向にあるのは_______
「待ってファンラ。そっちは───」
ナナの調合台である。もちろんファンラが止まる様子はない。
ファンラの魔の手が調合台へと伸びていき______
「来たばかりで状況がよく分かんないけど、これはファンラからは取り上げた方がよさそうだね?」
それを阻止したのはラサキであった。既に何度か顔を合わせているが、それでも未だなれない。元カノの登場に俺の顔が固まる。幸いなことに彼女はこちらを見ることはなく、そのままファンラの手の届かない位置へと調合台ごと移動する。
「ラサキさんナイス!」
ナナが叫ぶ。
「持ってかれた……まぁいいや、他にも浮かせそうなものは沢山___「ファンラこの木箱使え」___あ、いいものだ!ありがとうございます、マクラギさん!」
ファンラがしょんぼりしながらも、部屋を物色する。下手に別の備品に手をかける前にたまたまストレージに入っていたなんの効果もない木箱を投げ渡して追い払う。
『行った、ようやくどっかに行ってくれた……』
黒鉄騎士が感無量といった様子で内心を吐露する。
「部下が迷惑かけたな」
『問題はない。ないっていったらない』
なんだろう。色々やらかしてくれた相手だが、ファンラの所業でただの不憫キャラにしか見えない。
そんな俺たちのなんとも言えない視線に気がついたのか、黒鉄騎士がゴホンゴホンとわざとらしい咳ばらいをする。
そして、黒鉄騎士に"!"マークが出現した。"!"マークの出現とはすなわち
『鍛冶屋、時に貴様は
クエストの出現である。
ラサキ:元カノ
リョウケン:犬耳青年
ファンラ:マッド,道徳0点,20歳児
ここに、マクラギ、ナナ、技マシン20、他数名のモブを加えたのが現在の生産部のメンバーです。
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それと拙作も遂に評価バーに色がつきました。これもここまで読んでくださった方々のおかげです。評価・お気に入りしてくださった方本当にありがとうございました!
......二話前と同じことにならないよね?