ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

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ドロップしたモノ 1/4

 黒鉄騎士のクエスト発生の後、それを受けるかどうかで生産部は議論になった。

 反対側は技マシン20。賛成側は俺。見物側がラサキ、ナナ、リョウケン、その他多数。我関せずだったのが木箱を浮かべて遊んでいたファンラである。

 

「流石に未知のクエストは危険すぎると考えます。情報が出そろってからの挑戦のほうが安全だとおもうんですが」

「しかし黄金って言われるとな。一介の鍛冶屋として見過ごすわけにはいかないだろ」

 

 仮にも黄金を冠するのであれば、かなり性能にも期待できるはずだ。生産職のリーダーとしては是非とも収集したい素材ではある。

 

「身の丈に合わない黄金を求めた結果の破滅。そんなおとぎ話はありふれてるけどね。正直ポーション師としては気にはなるけど

 

 ナナが警告と我欲を同時に差しこむ。

 

『熟考することが悪いこととは言わないが、こちらにも時機というものがある。7日後に同じ提案を受けれるとは考えてくれるなよ、鍛冶屋』

 

 一週間のタイムリミットつき? アインクラッドのクエストには季節イベント、例えばクリスマスやらバレンタインなどに合わせてカディコが自動製作することはある。

 当然そのシーズンが終わるとクエストが消滅するが、季節感のないこういったタイプでタイムリミットが設定されていることは大変珍しい。メタ的に推測するならば、時間経過でのなんらかの変化があるタイプだということだろうか?

 

「その黄金がなる木はどうすれば手に入れられるの?」

『詳しい説明を望むか? かなりの困難を伴い、難敵を倒すことになるとだけは言おう。そこの鍛冶屋。それと同レベルの者が4名ほどいるならば手に入れられるであろう』

 

 つまりクエストの難易度は、ボスがおり最低でもレベル10のプレーヤー4人以上が適当と。

 

「確か生産部で圏外に出てるのって、隊長さんと、ワザマさん、そして私ィだけでしたっけ?」

「一応ナナさんも戦力にはなりますよ」

「私はノーカンで」

 

 現在の生産部で戦力と言っていいメンバーは以上の4人、ラサキ、ワザマ、ナナ、そして俺。ナナのやる気をどうやって出させるのかという問題があるが、やってやれないことはないだろう。

 

 四人だけだとどうやっても安全性に欠けるが。

 

「逆に聞くが()()()()()()()()()()()()()()?」

『そうだ。だが、手に入る黄金がなる木は一本だけだ』

「なるほど、だったら______」

 

 

 

 

 

「で、俺とジョーが来たってわけ」

「タケさんとジョーさんが来てくれてホント助かります」

 

 戦力を欲した俺は、アインクラッド解放隊(ALS)(要するにギルドの攻略部隊)に協力を要請した。

 

「別に暇だったし、いいってわけよ」

「自分もジョーと似たようなもんですし」

 

 ALSから来てくれたのは、ジョーとタケの二人。生産部の発足以来タケとは打ち合わせでちょいちょい顔を合わせていたが、ジョーは"ウリエル"としてコボルト王と共に戦った時以来である。当然マクラギとしては初顔合わせだ。

 

「ってか、俺とマクラギって年同じくらい? なら、敬語なんか使わなくていいぜ」

「そうか、ならよろしく、ジョー」

「ちなみに俺もジョーとタメ」

「ならタケもよろしく」

 

 あまり"ウリエル"として話す機会がなかったジョーとは違い、タケに関しては大分くだけて話し合った仲なのであんまり敬語を崩したくはなかったのだが、仕方ない。

 

(コイツとこうやって話していた時は、純粋に何のしがらみもないプレイヤー(ウリエル)として話せてたな)

 

 首を振って懐かしさを遠ざけた。ウリエルは邪悪なデスゲームの管理者として行動してしまったのだから。

 

『そこの洞窟を下る。心構えの時間が必要なら待つが』

 

 先導していた木箱、その下にいるであろう黒鉄騎士が止まる。

 知らないダンジョンだ。今回のクエストのために自動生成されていたものが、解放されたダンジョンなのかもしれない。

 

 今回の攻略メンバーは黒鉄騎士にタケ、ジョー、俺ことマクラギ、技マシン20、そしてラサキの6人だ。

 

「全員問題ないですが」

 

 暫定的にリーダー的な立ち位置に収まっているタケが全員の顔を見る。慌てて備品を再度確認する技マシン20以外は何ら問題なさそうだ。

 

『それではいくぞ。内部には蛇や蜘蛛といった凶暴な生物が生息している。ダメージ毒を持つ敵が一定数いる。気をつけることだな』

 

 黒鉄騎士からのありがたい忠告を聞きポーチに入れているポーションを握る。ちなみにこのポーションは自称ベテランポーション師であるナナお手製。性能はレベル3までの毒ならば即座に解除できるほど強力なものだ。一層でこのポーションで解除できない毒はないだろう。

 

 内部はとても薄暗い洞窟であった。

 

「うっわ暗っら。鍛冶台の人、松明とか持ってないの?」

 

 ジョーが木箱の陰に隠れる黒鉄騎士に問いかける。

 

『そうかスミビトはこの暗さに慣れぬか。ならばこのポーションを飲むといい』

 

 ようやく木箱の陰から這い出た黒鉄騎士からポーションを人数分渡される。その木箱は鍛冶台を取り上げた代わりに貸し出したものなので、回収しておこう。

 

「どれ一杯」

 

 渡されたポーションを俺はなんの躊躇もなく飲み干す。次の瞬間視界が一気に開けた。光源が壁に引っ付いたヒカリゴケくらいしかないというのにまるで日中の往来のようにしっかりと見える。

 

「ちょっとくらい躊躇しません?」

「ここにきてまで毒なんか盛られないだろ」

「それはそうなんですが......にっが」

 

 続いてポーションを飲んだ技マシン20がまずさに死んだ目をする。他の3人も似たような反応を示している。

 

「すごいなこのポーション。黒鉄騎士、レシピとかない?」

『欲するのであればやろう。貴様らが生きて変えれればという話だが』

「よし」

 

 留守番(に固執した)ナナにいい土産ができそうだ。

 

 喜んでいる俺を見てタケがポツリと「これ実用化されたら毎度この不味いの飲む羽目になるのか」と苦い顔をして呟き、その言葉に俺と黒鉄騎士以外が頷く。個人的には無視できる程度のまずさなのだが。味に文句をつけるならあのランダム饅頭に並ぶ酷い味であってくれ。

 

「正面敵来ます」

 

 そんなことを考えていると、奥から蛇型のモンスターが一体現れる。

名前は『sulfur serpent』、体色は黄色く、卵が腐ったかのような嫌な匂いがする。大きさは50cmくらい。この世界では敵としては標準的な大きさだ。

体力ゲージの色はかなり薄い赤。このパーティならばかなり弱い部類だろう。

 

「こんな奴ら、俺なら一突きで余裕だぜ」

 

 事実ジョーのダガーであっけなく体力バーが消し飛ぶ。

 ソードスキルでさえない只の攻撃でだ。

 

「思ったよりも……」

「……弱かったですね」

 

 ラサキと技マシン20が構えた剣の振り先を失う。

 パーティを組んでいたおかげで経験値も手に入ったが、一切ダメージを与えていないとはいえ、あってないような量である。

 

『蛇は群れる生き物。蜘蛛とは違う意味で複数の相手は大変だ』

「つまりさっきは一体だけだったから余裕だったと」

 

 この後に複数体出てきたら面倒くさそうだ。匂いもきつそうだし。

 

「……蜘蛛とは違う意味ってどういうこと?」

『ああ、それは───』

 

 ラサキの問いに黒鉄騎士が説明を始めようとした時だった。

 

 パシュッ。そんな陰湿な音を立てながら、背後から耳元を掠めて何がが飛んでいく。

 

「きゃっ」

 

 背後から飛来した何かに当たったのはラサキ。飛来したのは白く1cmほどの厚さを持つ蜘蛛の糸。

 

「まずい、掴み蜘蛛だ!ラサキが持ってかれる!」

「あのクソ蜘蛛かよ!」

 掴み蜘蛛。正式名称『grasp spider』。一層の至る所に生息している(で使い回されている)厄介なモンスターだ。

 攻撃と防御は高くないが、生半可な索敵スキルには引っかからない隠密性を持ち、自慢の糸でプレイヤーをひっかけ拐かして分断してこようとする。単独で蜘蛛側に取り残されようものならそのまま総攻撃で他プレイヤーに助け出されるまでひたすら攻撃されることとなる。プレイヤーから特にヘイトを買っているモンスターの一種だ。

 

 背後を見ると三体の掴み蜘蛛がいた。一体は自身が捉えたラサキに夢中になっているが、もう二体が続いて糸を出してくる。

 

「させるか!」

 

 クイックチェンジで、ラウンドシールドから大楯に装備変更。大楯にすることで盾面積が広がったので、糸を二本とも防ぐことに成功する。

 予想以上の力で引っ張られる盾。引っ張り合いでは2体いる向こうが有利か。

 そう判断し、逆に引っ張る勢いを利用してそのまま蜘蛛との距離を詰める。

 

『クギュッツ?!』

 

 予想外。そう言いたげに鳴く蜘蛛。対応する暇を与えずにそのまま糸を発射した2体を刺殺する。防御面自体はやはり大したことはない。

 

 最後の一匹は、仲間の死にようやくラサキを解放し、こちらに敵意を向けるが、あまりに遅すぎた。ソードスキル『スラント』を使用し確実に倒す。

 

「ナイス!」

 

 ジョーの感嘆の声にサムズアップで答える。我ながら今の動きは理想的にいったものだ。

 

 珍しく自画自賛したのが良くなかったのだろうか。 

 

『足元!鍛冶屋!』

 

 黒鉄騎士の警告と共に足元でカチリというまるでスイッチを踏んだかのような音がした。 

 上手く行きすぎたことに油断していた。そのせいで足元のスイッチに気がつかなかったのだ。

 

「あっ」

 

 間抜けな声を漏らすが、もう遅い。スイッチを起点としてそこから地面に亀裂が走り、そのまま落とし穴が出現する。

 そのまま落ちていく______

 

「危ない!!」

 

 落ちきる最後の瞬間に見えたのは、こちらに駆けるラサキと、呆然とする残りの仲間達であった。

 

 

 

 

 

 

 あ───馬鹿やった。

 

 地の底で、そういって泥まみれのラサキは笑った。

 

「すみません。助けに来てもらって」

「それで間に合わずに、同じく地の底だから笑えないですけどね」

 綺麗な笑みであった。暗くて細部までは確認できないが、とっても美しい笑みだ。ポーションの効果が切れてしまったのが口惜しい。

 

「私ィも蜘蛛から助けてもらったからお互い様ってことで。とりあえずは……」

 

 そう言って彼女は天井を指さす。

 

「ここから脱出しよう」

 

 そうなのである。ここまで落ちてきた穴の側面はつるつるしていて登れそうにない。そこから脱出するのであれば、上からロープを垂らしてもらうくらいしかないが、かなり長い穴であったので、ここまで降ろせるほど長いロープは誰も持ち合わせてはいないだろう。

 

「賛成だ。ここから脱出する方法は二つ。一つ目がワザマ達がどこかからロープを調達してくる可能性にかけること。もう一つは、」

 

 後ろを振り返る。どこに行くとも分からない道が伸びていた。

 

「あの道を進むこと」

 

 密かに考えていた、ラサキをハラスメントコードで黒鉄宮に送り返し、俺自身は転移結晶を使って脱出する3つ目の案を捨てて提案した。現時点で、正規の手段で転移結晶を入手する方法はない。

 

 彼女には絶対に俺の正体を気取られたくない。

 そんな俺の本心に気がつく筈はなく、彼女は数秒悩んだ後、言った。

 

「後ろの道を進もう」

 

 

 

 30分ほど道を進む。道中出てくるモンスターを適度に対処していく。

 

「ソードスキル行きます!」 

 

 ラサキが放った曲剣のソードスキル、『リーパー』が蛇型のモンスターに命中するが僅かに残る。

 技後硬直で固まるラサキ。その隙を捉えようと蛇が牙を伸ばす。

 

「スイッチ!」

 

 そして俺はラサキを守るようにして盾を構え、ひるんだ隙に片手剣でとどめを刺し、ようやく蛇は消滅した。

 

「明らかに強くなってるな……」

「あ─やっぱり部隊長さんもそう思います?」

 

 不快感を覚える蛇の残り香を追い払う。落とし穴に落ちる前とは明らかに、体力も、攻撃力も、ついでに卵が腐ったかのような匂いもきつくなっている。

 

 それに加えて、面倒なのは毒だ。

 視界の端にあるラサキのHPの横に紫の毒のマークが出る。ダメージ毒の発症だ。

 

「ラサキさん、毒になってます。使ってください」

「ありがとうございます」

 

 どうやら床の水。これが僅かに毒性を帯びているようであり、長時間触れているとダメージ毒になっていくようだ。幸いなことにレベル1の毒なので、安いポーションでも解毒できるのだが……

 

「ポーションと毒消しの薬草、どれくらい持ちます?」

「このペースで行くと1時間しか持たない」

 

所持数が心もとないのだ。大分量を持ってきたが、消費量は俺の予想以上だ。

 

 盾を出すために、投げ捨てた松明に改めて火をつけ直した後、メニューを出し、マップを確認する。現在の階層、B3層の踏破率は全体の3割ほどだ。B2層の状態は分からないが、B1層は入口から落とし穴までには毒がなかったことを考えれば、毒の水はない可能性が高い。

 

「───にしても、隊長さんって生産職なのに強いですよね。実は元攻略組だったりするんですか?」

 

 疲れを振り払うかのようにラサキが話しかけてくる。

 

 はい、元攻略組にしてアーガス社員です! 攻略組を混乱の渦に巻き込んだ糞野郎ことウリエルとは俺のことです!

 

 と言えれば楽なのだが、もちろんそう言うわけにはいかない。

 

「いやいや、攻略組だなんてとんでもない。キバオウさん達が一層を攻略した。そんな話を聞いて、ようやくやる気を出して社会貢献をし始めたニート上がりです」

 

 用意していた偽のバックストーリーを騙る。冗談めかして言った”ニート”、という言葉にくすりと彼女は笑う。

 

「にしては普通に上手いような?」

「あー実は俺βテスターなんですよ。当時は死んでも死なないので、それで鍛えた感じですね」

「……それ言ってよかったんですか? まだキバオウさんを始めとしてβテスターガチアンチいるのに」

「まぁキバオウさんとかナナは知ってるし、バレたところで問題はないさ」

 

 えぇ……と呆れたような彼女に笑顔で答える。

 俺は知っている。彼女は口が固い。こんなデリケートな話を無作為に誰彼構わずに話すような人間ではない。

 

 前の曲がり角から蛇が出現する。

 話の辞め時だ。

 

「それより前方に蛇!」

「OK!」




長くなりすぎたため、4分割します。

次回更新は5月4日予定です。
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