ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

45 / 66
今回視点移動が有ります。ご留意ください。

<追記>
前話で5/4投稿予定と言ってましたが、うっかりミスで、投稿日一日早くなってました。申し訳ないです。


ドロップしたモノ 2/4

side 上層組

 

「つまり、この先に進めば彼らと合流できるんだな、黒鉄騎士」

 

 激情を押し殺したかのような声がタケの口から洩れる。

 

『ああ、その通りだ。彼らが落ちた穴は第三層まで続いている。彼らが死んでおらず、出口を目指していけば合流できる筈だ。ただ......』

「なんだよ、歯切りわりぃな。場所が分かってるなら早く迎えにいってやろうぜ」

 

 技マシン20もジョーと同意見であった。黒鉄騎士の話が正しいのであれば、あの二人は強敵相手に毒に侵されながら進んでいることだろう。一刻も早くに合流した方がいいのではないか。

 

 そんな技マシン20の疑問は続く言葉に吹き飛ばされる。

 

『彼らの脱出道の過程に、本来の目的であるボスがいる』

 

 タケと技マシン20の顔が真っ青になった。事前情報だと四名以上推奨のボスだ。二人で遭遇したら対処は困難だろう。

 

『心構え無しに挑むことになる可能性は考えておけ』

 

 黒鉄騎士は無情にもそう呟いた。

 

 

 

 進む、進む。出てくる蜘蛛や蛇は見敵必殺。見かけたら一撃で決める心構えでソードスキルでぶっ飛ばしていく。

 

「右か左か?」

『左だ!』

 

 黒鉄騎士の導きで地下を目指して進んでいく。

 

「スイッチ!」

 

 技マシン20が担当していた一際デカい蜘蛛をジョーが割り込んできて倒す。

 

「……ありがとう。随分腕を上げたみたいですね」

  

 正直な感想。今の場面はジョーに頼る必要はなかった。デカ蜘蛛は技マシン20のソードスキルでひるんでいたし、技マシン20の技後硬直が解けてからでもダメージなくデカ蜘蛛を倒せていたはずだ。

 

 これが一度や二度のことであるならば、技マシン20は気にしなかったことだろう。

 だが、ジョーがラストヒットを得たのはこれで5回目だ。

 

 ラストヒットの恩恵は言うまでもない。経験値量の増量、ドロップ品獲得の確率UP。

 

 ここまできたらわざとなのではないか。そんな不信感が技マシン20を襲う。

 

 技マシン20は、ジョー(とタケ)の人なりについてよく知らない。一緒に戦ったのはあのコボルト王の一戦のみ。

 その前日に飲み会もあったが、饅頭に一喜一憂するタケ、メアリー、そしてあのウリエル。彼らのテンションについていけず、正直あの時のメンバーの誰ともそこまでなじめなかった。

 

 だが、技マシン20は口を閉ざす。ひょっとしたら偶然かもしれないし、第一状況がそんなことを話している場合ではない。

 

「最近、めっちゃcoolな人に出会ってさ。その人に"色々"教えてもらってんだ。それはともかくとして、なんでワザマって攻略組降りたんだ? 今ならまだギリギリ最前線でも通用すると思うぜ?」

 

 そんな技マシン20の心情を知ってか、知らずかジョーが話しかけてくる。

 

「いまそんなことを話している余裕はない。そう思いますが」

「えー別にいいじゃん。話して減るもんじゃないんだし。ほらほら」

 

 ジョーは、仮にも仲間が二人危険な状態であることをわすれてしまったのだろうか?

 そう思うが、気の弱い技マシン20は問いを無視する。そんなことはできなかった。

 

「別に大した理由なんてないですよ。ただ......」

 

 

 技マシン20は思う。元から、あの日一人で始まりの街から出て攻略に踏み切った時から曖昧な理由しか無かったと。

 

 技マシン20はかつてはソロであった。VRの経験自体はなかったが、それなりに運動経験はあったので一人でも難なく攻略できたのだ。

 パーティを組まなかったのは、単純な話。技マシン20に勇気がなかったからだ。見知らぬ誰かに命を預ける覚悟はあったが、俺に対して命を預けてさせてくれ。そう頼みこむ勇気がなかったのだ。

 そうして、ソロのまま1層の攻略会議に参加して、人数の関係で近くにいたキバオウさん達に誘われて......

 

 ウリエルという邪悪に出会ったのだ。

 

 あの男は、変わった所はあるがただのプレイヤーだと思っていた。

 

『俺から見ればβテスターも一般プレイヤーも変わらない___ただ俺たちの手のひらで踊ってそのうち死ぬ阿呆だ』

 

 そんな言葉が飛び出た後、どんどん実力者が倒されていくその時までは。

 その場に居合わせた誰もが暴虐を止めたいと願っていた。

 その場に居た誰もがそれを止める手段を持ち合わせていなかった。

 

『ついでに管理者権限で全員倒しておくか、これ以上余計な茶々入れられても面倒だしな...』

 

 そして、おまけ感覚で攻略組という、()()()()()()()()強者の集まりが全員倒された時、技マシン20は理解した。

 

 自分がどれだけレベルをあげようが、どれだけプレイヤースキルを磨こうが、デスゲームの管理者サイドにとっては何の意味もない、ただのデータなのだと。

 

 しごく当然な現実を前にして、曖昧な理由など吹き飛んだ。

 命をかけてまで攻略に参加する意味が分からなくなった。

 

 だから技マシン20は攻略組から降りた。

 

 

 しかし、これをそのまま伝えれば今でも最前線で命を賭け続けている彼らに対して礼を欠くことにになるのではないか。その恐れから言葉を選びながら話そうとして、

 

「ほーん」

 

 ジョーが雑な相槌を打ち、運悪く話し出しの言葉を遮った。

 

「あっ、なんか話そうとしてた? わり、なんか遮って___「二人とも話してないで、こっち手伝え!」

やっべ」

 

 タケがデカデカ蜘蛛を抑えながら叱責する。とてもデカデカなので、黒鉄騎士との2人では抑えきれていない。

 

「すみません。今手伝います」

 

 そう言って技マシン20は自慢のラウンドシールを構えて突撃していった。

 この時の技マシン20にジョーを気に掛ける余裕がなかったのは幸いか。それとも不幸か。

 

 誰にも見られていないジョーの顔が醜く歪み、そこから声が漏れた。

 

 

「やっぱりワザマはつまんねぇ奴だった」

 

 

 


side 下層組

 

「しめた。安全地帯だ。少し休んでいこう」

「賛成です」

 

 落ちてからおよそ一時間が経過していた。当然、俺もラサキも歩き始めた頃の集中力は残っておらず、技の精彩は明らかに落ちていた。

 

 そんな中でのモンスターが侵入してこないエリアの存在はありがたかった。

 段差を上り、乾いた地面にレジャーシートを引いて座る。そこから更に薪を燃やしてお湯を沸かす。

 

 その様子を見て、ラサキが目をパチクリとさせた。

 

「随分と手慣れてますね」

β時代(開発時代)のたまものです」

 

 仕事がひと段落した状態で、口うるさい上司にバレない様に集まり、各自で菓子やら茶を用意して、茶会のようなことをしていたのだ。

 毎回穏やかな茶会であった……どこぞのバカがラーメンを持ってこない限りは。塩以外のラーメンを進められたら闘争以外ないのだから仕方ない。

 

 今回は残念なことに、質のいい茶葉が未だに手に入っていないので、お湯と蜂蜜である。

 

「ラサキさんも蜂蜜入りの白湯ですがよかったらどうぞ」

  

 コップにお湯と蜂蜜を一匙入れて渡す。当然未使用のコップだ。仮想世界において間接キスになんて意味はないが。

 

「わーい。いただきます」

 

 熱かったのか、受け取ったコップを、ふうふうと息を吹きかけながら飲むラサキ。人慣れしてる小動物を見ている気になる。

 

 かわいい。

 やっぱかわいい。こいつ。

 

「……なんか不埒な事考えてないですか?」

「そんなことないですよ?」

 

 ヤダナーソンナワケナイジャナイデスカヤダナハハハハハ

 コイツの勘は相変わらず侮れない。

 ラサキは首を傾げた後、なにかを取り出した。

 

「良かったらこれもどうぞ」

 

 取り出したのは、細長いパンのようなものだった。中にはクリームらしき何かが入っている。

 

「これは?」

「リョウケン君から貰ったんです。試作品ですが、良かったらって。半分おすそ分けです」

 

 リョウケン、要するに犬耳青年か。彼は今料理スキルにもチャレンジしているのだったか。現在熟練度が50ほどだと言っていたし、材料は鍛冶と調合の素材を集める過程で、いくつか手に入っているから、大分期待できるかもしれない。

 

 それはそれとして、ラサキが異性から贈り物をされたという事実は見過ごせない。後で異性関係について信頼に足る男か確かめなければ。

 

 クリームパンを一口かじる。悪くない。クリームの質感そのものは悪いが、ちゃんと甘味はあるし、嫌みのない後味だ。

 

「少し改良したら、プレイヤー相手に商売できそうな出来だな」

「ほんとほんと。この世界の食事って当たりはずれが大きすぎて。あの1コルの黒パンにOKだした茅場は一回食事を見直すべきでしたよ」

「確かに」

 

 あのランダム饅頭を産み出したアーガス社員を、茅場と一緒に荼毘に付したい。

 

 という本音はさておき、ラサキのように食生活に不満を覚えている奴らは多いのではないだろうか?

 (一般プレイヤーにとって)まともな食事は、醤油と味噌ラーメンを始めとした一握りであり、大半は食べ物とギリギリよべるモノだ。美味に飢えているプレイヤーも多いだろうし、案外先ほどなんとなしで言った『プレイヤー相手の販売』も商機があるのかもしれない。

 

 あっという間になくなってしまったパンの残り香を惜しみながら、お湯を口に含む。

 

「───アーガス社に知り合いが入社したらしいんです」

 

 むせた。

 あまりにも唐突なカミングアウトに、お湯が変なところに入った。仮想世界で水が気管に入るわけないだろうという突っ込みはするな。

 

「ラサキさん?! 言ってよかったの?!」

「もう何年も会ってないやつなんですけどね。」

「にしたって……」

 

 邪推しようと思えば、いくらでも邪推できる内容だ。

 デスゲーム運営とつながりがあった。

 ただそれだけの事実で、まともに考える脳を持たずに脳死で責任転嫁し自己保身しか考えてない浅慮極まる愚者共は、あたかもデスゲーム運営相手と同等の態度で非難するだろう。

 ヒルコ達もどこぞのウリエルとかいう馬鹿野郎の性で大分色々言われたらしいし。本当に悪かったと思ってます。

 

「その人悪い人ではなかったんですよ。むしろ、自分が正しいと思ったことに愚直に猛進していく人で。当時の私はそんな姿に好感すら覚えてた。

 でも、茅場以外のアーガス社員が攻略組相手に暴れたって聞いて

 

 もしその人が相手かもって思ったら、

 純粋に見たくないって思ったんです。そんな腐れたあの人は見たくない」

 

 彼女が思っているのとは方向性が違うとはいえ、一度堕ちた俺にとっては中々耳が痛い。

 彼女(無茨 蕾)と最後に出会った時から、俺は……大きく変わった。

 

「なんで俺にそんなことを話してくれたんですか?」

「別に大した意味はないですよ。ただ______」

 

 マクラギさんって何故か私ィと距離とってますよね?

 

「そんなことはないですよ」

 

 顔は動かさない。心は平穏。絶対に表情に出すな。気取られるな。

 仮想世界では感情と表情は直結しているが、この世界の開発者である俺ならば、偽装は可能だ。

 持てる精神力を全て費やして"すまん?どういうこと???"という顔を()()から作成する。

 

「あれ? そうなんだ。なら私ィの深読みしすぎだ。ただ、そんな隊長さんがβテスターなんて厄ネタ話してくれたのが嬉しくって、つい話しちゃいました」

「えぇ……」

 

 この人ちょろすぎ。悪い男に引っかかるなよ。俺みたいな……いやまて、人殺しの俺だと比較対象として最底辺すぎて不適切だな。比較対象を……そうだな須郷*1にしよう。

 

 そんな俺の想いを知ってか知らずか、コロコロと笑うラサキ。せめてこのことは誰にも話さないでゲームクリアまで持っていこう。

 

 それはそれとして、その"知り合い"は───

 

「ちなみにその人はウリエルって奴の可能性はありますか?」

 

(白澤直木)のことですか?

 

「秘密です」

 

 彼女は真意を悟らせない笑顔で、そう言った。

*1
白澤の大学時代の友人。優秀だが、性格がとても悪い




ワザマ・ラサキ「ウリエルの所業で攻略組からドロップした(意訳)」
マクラギ(ウリエル(白澤))「誠にごめんなさい」

 将来溢れる有望な人材のやる気を奪った罪は大きい。
 ......書けば書くほどどんどん白澤の罪が重くなっていくのなんてバグ?

 感想評価、お気に入り登録もらえると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。