ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

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今回も視点移動多めです。
ようやく投稿できた……



集う18人+管理者

ヒルコ目線

 

 僕、ヒルコはユウキと共にマナナレアの村外れに呼び出された。

 

「でも、本気なのかな。少人数でフロアボス討伐に挑むって」

「分からない。けど、アスナからのメールだ。本気で挑もうとしているんだと思う」

 

 目的地の広場に到着する。そこには既に5人のプレイヤーが居た。アスナとエギル組の4人だ。

 

「ユウキ、ヒルコ。来てくれてありがとう」

「アスナの頼みなら喜んで協力するよ。ボクにできることならなんだって」

「今回のフロアボス戦もよろしく」

「「「「よろしくな!!」」」」

 

 全員と軽く挨拶を交わしたところで、アスナの相棒が居ないことに気がついた。

 

「あれ? キリトは」

「キリト君は他のメンバー呼びに行ってる」

「なんだか珍しいね。アスナとキリトが一緒に居ないのは……なにかこうしっくりと来ない感じがする」

「……そう?」

 

 ほんのりとアスナは頬を赤らめたように見えたのは果たしてヒルコの気のせいか。

 

「シヴァタこっちか?」

「リーテンさん、こちらですか?」

 

 続いてやって来たのは、DKBカラーとALSカラーのプレイヤーが二人ずつ。広場の入り口でちょうど鉢合わせる形となった。

 

「あんたは……カウントダウン・パーティーの会議に参加してた───」

「『オコタン』です。シヴァタさんと共に、この場に来たということは、『ハフナー』さんも私と同じ目的ということですか」

「どうやらそうみたいだな……詳しい事情は、この会の首謀者が来た後で聞かせてもらうぞ」

「ALSの一員として、覚悟しております」

 

 そう言ってDKBの男、ハフナーはアスナに近づいた。

 

「で、アンタのコンビはどこだ?」

「少し離れた場所にいる仲間を迎えに行ってるわ」

「後10分以内には着くだろうゼ」

「おわっ?!」

 

 突然乱入したアルゴに、腰を抜かさんばかりに驚くハフナー。アスナも動きはないものの、微かに驚愕の表情を浮かべていた。

 

「アルゴ! 久しぶり!!」

「おう、久しぶりダナ」

「アルゴ、隣にいる人は?」

 

 情報屋のアルゴ、その横にいつの間にかもう1人プレイヤーが姿勢よく立っていた。性別・年齢は外見からは推測できない。、黒いフルアーマーに覆われているからだ。身長は190cmほどだが、小柄なアルゴの横に立つことで一層大きく見えていた。

 

「初めましてだね。俺の名前はディアボロ。情報屋だ。今回はアルゴさんの依頼でここに来た。よろしく頼むよ、ユウキ、ヒルコ」

 

 重厚な鎧を着ていることだし、さぞ重く低い声なのだろう。そう勝手に思っていたヒルコであったが、実際に聞こえた声は、驚くほど高かった。高いと言ってもALSのジョーのような嫌悪感を覚える声ではなく、とても落ち着きのある声であった。

 

「わっ、初対面なのにボク達の名前知ってるんだ」

 

 ユウキが驚き、それにディアボロと名乗った男が"情報屋だからね"と笑い返す。

 ヒルコとしても、ユウキと同じ感想を抱いたが、それと同時に一つ気になったことがあった。

 

「本当に僕達と初対面?」

「そのはずだけど、何か気になるところでもあったかい?」

「……ごめん、なんでもない」

 

 なぜかこの男と初めて会った気がしないのだ。ただ、向こうにやんわりと否定されてしまえば追求しようがない。気のせいだろうと、ヒルコはその思考を脇に置いた。

 

「すまん、遅れた。こっちが目的地か。」

「やっぱりあの道左だったか」

「リーダーがあんまりにも自信満々に言うもんですから、あっしらもつい騙されちまいましたよ」

「お前らだって結構ノリノリで賛同してたくせに……」

 

 そうこうしていると、ゴンダ、メル、ジキルの三人パーティがやって来たので、軽く挨拶をする。最近、詐欺での負債を返し終わってようやくお金に余裕ができたらしい。エリカは消息不明のままらしいけど。

 

「あーすまん。エギル、コレで全員なのか? キリトが居ないようだが」

「それともう一人がまだだ。まぁすぐ来るんじゃないか」

 

 ゴンダとエギルが話していると、広場の隅の茂みからガサゴソと音が聞こえた。どんどん近づいてきているようだ。

 

「おっ、噂をすればなんとやら。ブラッキー先生のお出ましか?」

 

 エギルの言葉に、全員の注目が茂みに向かう。

 

 

 

 そこから出てきたのは、直木兄ちゃんだった。

 なんで? 予想外なんだけど???

 


 マクラギ目線

 

 ディアボロは不親切である。

 

 一部の攻略組が集まっていることは教えてくれたが、肝心の集合場所をしっかりと知らせてくれなかったのだ。マナナレアの広場に集まっているという情報だけを与えられた形である。

 仕方ないので、全部を回る覚悟で候補地を巡った。とは言っても、流石に目的が目的なだけに人目が多い中心地にはいないだろうし、町外れの方を重点的に捜索したら3か所目で見つかった。

 

 見つかったはいいのだが……

 なんで全員コッチを見ているのだろうか。

 確かに恰好は悪い。最短距離で駆けたため、髪のあちこちに木の枝が引っかかっているし、顔にはいくつか擦過傷ができてしまっている。しかも、飛び出たところは、ちょうど広場のど真ん中だ。……これ注目引いて当然だわ。

 

「すまん。生産部のマクラギさんだよな。攻略会議の前によく鍛冶業を行ってる」

 

 恐る恐るといった風に話しかけてきたのはエギル。一応攻略会議ですれ違っていたのだが、こうして言葉を交わすのは、一層攻略会議の時以来である。要するにマクラギとしては、ほぼ初対面だということだ。

 

「その通りですよ」

「なぜここに来たのですか?」

 

 そう問いを投げかけたのは、栗色髪の少女。確か一層でヒルコ達と同じパーティで戦っていた少女だ。あの時とは違い、フードは被っていない。名前は……アスナだっけ? 正直ウリエル時代を含めてもほぼ親交がない相手だ。

 

 というか、何気にウリエル時代も含めればこの場のほぼ全員面識がある。それがないのは彼女とエギルの仲間だけだ。エギルは前述のとおり。

 ALSDKBの四人組はカウントダウン・パーティ関連で。

 ディアボロは管理者として散々利用させてもらってる。

 ゴンダ達は、ジキルの武器を拵えて以降、生産部をよく利用してくれている(ただしあまりお金は落としてくれない)。

 アルゴはウリエル時代に散々利用して正体にバレかけた。マクラギとしては全く関わりはない。

 ユウキはデスゲーム開始前から知り合いであり、俺の正体を知る稀有な相手だ。

 ヒルコは……今更説明の必要はないだろう。今は、いたずらが見つかったような子供のような顔をしている。巻き込まれてほしくはなかったんだけど、まぁ健太の意思なら仕方ないか。彼の自由意志を尊重しよう。

 

 閑話休題

 

「ここに来た理由か。俺達(ALS)の所業の尻ぬぐいをしてくれるお人よしが集まっていると風のうわさで聞いたものからだ。当事者が黙っているわけにはいかないだろう?」

「そういや、生産部って一応解放隊のメンバーだったな」

 

 思い出したかのようにゴンダが呟く。なんだ"そういや"って。生産部がALSの一部門であることは常識の範囲内だろうに。忘れないでくれ。

 

「謝罪にもなりはしないが、鍛冶屋として全面協力しに来た。添加剤・費用こっち持ちで装備のメンテナンスを請け負わせてくれないか」

 

 それを聞いて、アスナは少し考え、何故かこちらを警戒する様子を見せた。

 

「アー失礼だとは思うんだけどナ。マクラギがオイラ達の妨害をしに来たって可能性はないカ?」

 

 アルゴから思いがけない問いを投げかけられる。詰るような感じではなく、どちらかと言えば俺の回答を試すような言い方だ。

 とんでもない濡れ衣である。

 だが確かに、彼女たちからしてみたらそう捉えられても仕方ない。事実ALSの一部の幹部がこのことを知れば、似たようなことをやろうとしかねない。

 

「俺は、素材を集めて武器を拵える。そんな鍛冶屋でありたいと思っている。意図して人様の武器を壊すマネはしない。鍛冶屋としての誇りを持って言おう。信用してほしい」

「本当に?」

 

 ヒルコがこちらを探るような眼で見てくる。

 

「本当だ。こんな重要な場面で俺はウソはつかないよ、ヒルコ」

「…分かった。なら僕は信じる」

 

 そのどこか疑いを残した目を持ちながらも、ヒルコは俺に両手剣を差し出した。

 

「これは僕らの大切なものだ。お願いします」

 

 その目は裏切れない。

 


 キリト目線

 

 目的地から、金属を打つ音が断続的に聞こえる。普段聞きなれている、剣と剣が高速で打ち合うようなひりつくような音ではない。これは規則的な音だ。

 

「この音は───」

 

 微かに懐かしさを帯びた声で、隣を走るネズハが呟く。

 

 目的地にたどり着く。そこには全てのメンバーが一ヶ所に集まっていた。まるで音源を取り囲むように。

 

 音源は、鍛冶台を叩く、眼鏡をかけた二十代前半だと思われる男性だった。背中に途轍もなく大きいバックを背負っており、手には黒光りする鍛冶鎚が握られている。

 彼は汗だくになりながらも、その目はしっかりと鍛冶台に置かれた鎧に向いていた。

 

 

「遅くなって悪かった。これは一体?」

 

 少し離れたところに居たアルゴに話しかける。

 

「生産部のリーダー様が協力してくれるんだとヨ。無償で」

「はぁ?!」

 

 アルゴの言葉がにわかには信じられなかった。

 集まってくれたメンバーに目を向ける。アスナの説得スキルが上手く発動したのか、エギル率いる兄貴集団とシヴァタリーテンとその同じギルドメンバーが一人ずつ。アルゴと彼女の知り合いの情報屋と思わしきフルアーマーのプレイヤー。ゴンダパーティにヒルコとユウキ。

 そしてアスナと俺。合計18人+生産部のリーダー。

 

 生産部の名前は知っている。解放隊の生産職の集まりだ。生産職の規模としては最大級であり、よくボス攻略の前に2大ギルドが利用している。"ビーター"である俺としては大ギルドに突っ込むのは、気が引けたため、利用したことはないが。

 

 それが無償で? 18人分のメンテナンス費用を計算する。一人当たり4,000コルだと仮定して合計72,000コル。2層主街区<ウルバス>名物《トレンブル・ショートケーキ》が40個以上も食べられる計算である。いくら最大手のギルドだとしても、決して軽々しく出せる金額ではないはずだ。

 

「僕が言うのもアレですが、話が上手すぎませんか。詐欺とかそういう心配はないんですか?」

 

 強化詐欺師()()()ネズハが、あの頃と同じような、なにかに怯える陰をちらりと見せた。 

 

「全員で監視してるケド、妙な行動はとってないヨ。携行炉に強化素材を入れるときハ、特に観察してるんだけどナ」

 

 アルゴの言葉を聞いて更にネズハは縮こまった。

 そうしていると、鍛冶台の方から光が漏れる。装備のメンテナンスが終わったのだ。

  

「おい、ブラッキーさんよ」

 

 鍛冶屋への興味を失い、俺の存在に気がついたのであろう。DKBのサブリーダー格であるハフナーが、こちらに絡んでくる。

 その様子を、鍛冶屋の男はレンズを通して観察していた。

 


 マクラギ目線

 

「それはだな、リンドとキバオウが、俺とアスナが別々のギルドじゃないとギルドに入れないからとか言っているからだ」

 

 リーテンに「なぜ大ギルドに入らないのか(意訳)」と聞かれてキリトが返した返答がこれである。

 

 俺、マクラギは唐突なのろけを見てブラックコーヒーを飲みたい気分に襲われていた。今なら、砂糖やミルク無しでも大変甘く飲めるだろう。最近生産部の方で開発に成功したまともなコーヒーを水筒に入れてくればよかった。

 感想? やはり、若いカップルを見るのは楽しいものである。

 

 ヒルコがユウキの方を見て顔を赤らめているのは、アイツもなにか思う所があったのだろうか。

 

(……というか、まだアタックしてなかったのか、健太よ)

 

 ヒルコとユウキはウリエルと別れて以降、ずっとコンビで活動している。当然仲もそれなりに深まったと思うのだが、まだまだ色恋沙汰には遠そうである。ヒルコはともかく、ユウキの方からは友達としか思われていないのではないだろうか?

 

「初めましてキリト君。俺は生産部のマクラギというものだ。急に押しかけてきて悪かった。……少し話をしてもいいかい?」

「ああ別に構わないけど……」

 

 希望者の装備のメンテナンスが終わり(結局アスナとキリトを始めとした数名は武器を渡そうとしなかった) ようやく、キリトに話しかけるチャンスが巡ってきた。

 しかし、改めて見ると若い。子供から青年への転換期。声変わりがギリギリ済んでいるような歳だ。

 

(俺は、こんな子供に"ベーター"としての汚名を着せたのか)

 

 まったくもって不甲斐ない。これは管理者としての責務を怠った結果だ。

 

「まずは感謝を。ALSの愚行を止めようとしてくれていることを、深く感謝する」

「さっきも言ったけど攻略組を存続させるためだから、そんな畏まらなくていいよ」

 

 キリトは表情を変えずに言う。それは本心なのか、あるいははったりか。……分からん。

 

「礼くらい言わせてくれ。ダブスタな俺としては、君の行動はあまりに眩しすぎる」

「ダブスタ、ダブルスタンダードのことか? ……ああ、そっか生産部ってことは、アンタは当然知っててALSを送り出したのか」

 

 微かに信を失った眼で俺を見るキリト。

 

「なぁ、なんでアンタは俺達に協力してくれるんだ。メンテナンスの費用だって決して馬鹿にならないだろ?」

 

 それでもキリトは俺から目を背けることなく問いを投げかける。

 

「色々理由はあるよ。ALSの一員としての礼とか、フロアボスに挑む奴らを支援して縁を作りたかったとか……キリト君に会って見たかったとかね」

「俺?」

「そうそう、俺は君のファンだ」

「?!」

 

 心の底から驚愕した。そう言わんばかりのキリトの表情を見て俺は笑った。これは予想していなかったらしい。

 

「それってどういうことですか?」

「アスナ……さん?」

 

 なぜか、ものすっごく怖い顔を浮かべて迫ってくるアスナ、いやアスナさん。彼女、つい先ほどまで離れたところでリーテンと談笑していた気がするのだが。あれれれれ? 移動速度どうなってるの? 光の速さで動ける人なの?

 後に彼女が"閃光"と評されることなど全く知らない俺であったが、とりあえずこの時点で敵に回したらヤバいことだけは分からされた。

 とりあえず理由を説明しよう。

 

「俺はβテスター(管理者)だ。だから君が"ベーター"としてβテスターとしての恨みを一身に請け負おうとしてくれたことが、ありがたかったんだ」

 

 本当は申し訳なかった。俺は管理者で、本来はキリト君がそうする前に何らかの手を打つべき立場だった。手は打ったものの、事後で場当たり的な対処になってしまった。

 

「仮にも圏外に出たことが有る身だから知っている。キリト君があの時言っていたほどβテスターとしての知識は役に立たなかったことを」

 

 なんならβテスターとしての知識を役立たなくしたのは俺達アーガス社員の所業だ。アルゴ経由で俺が知る限りの情報提供は行ったが、それが役にたったのかと聞かれると……βテスターの死亡率の高さがその答えを示しているだろう。

 

「攻略を諦めた身としては、その姿勢が眩しく思えた。だからファンになってしまった。

 ……これだけじゃ不満かな、アスナさん」

 

 ホントはもっと謝罪をしたい。感謝をしたい。言い足りない言葉がたくさんある。

 それでもこれ以上の発言は身バレに繋がってしまう。

 生産部部隊長の立場を失えば、攻略組を支援する方法が一つ失われてしまう。その立場を失いたくはない。

 

 だからこそ、ここで話を締めくくらざるをえなかった。

 

「…どうも」

 

 俺の感謝は予想外だったのか、キリト君はなんだか複雑そうな顔をしていた。

 (ウリエル)が、キリト君の企みを意図とは違う形で帰着させてしまったせいでもあるのだろうか。本人的にはあくまで、一般プレイヤーからヘイトを集めるためにとった行動で、初対面の人から感謝されるつもりは毛頭なかったのかもしれない。

 

 微かに息を吐く。

 感謝を勝手に押し付けた俺は、身勝手なことに、ほんの少しだけ晴れやかな気分になったのであった。

 

 


ヒルコ目線

 

「分かっちゃいたけど、このメンバーDPS(ダメージテーラー)が多いんだよな……」

 

 キリトがメンバー表を見ながら呟く。

 

「DPSってアタッカーのこと?」

「そうそう、それでタンクの数が足りないんだ」

 

 今回集まったのは18人、3パーティー組める計算だ。しかしここにいるタンクは2人、シヴァタとリーテンのみ。これではタンクの手が回らない。その分をどう穴埋めするか───。そのことを、キリトは簡潔に説明した。

 

「一応、ディアボロが盾持ちだから無理やりタンクとして動いてもらうこともできるけど……ディアボロはどう思う?」

 

 話を振られた情報屋の男は、少し押し黙った後に首を横に振った。

 

「……残念なことに、オレの盾の練度はそこまで高くない。……最近理由があって持ち始めたばかりなんだ。少々荷が重いかな」

「いや、正直に答えてもらって助かるよ」

 

 メンバー表を見ながらDPSが……CCが……タンクが……とあれこれ模索するキリト。

 

「一つ提案してもいいかな?」

 

 それを見てディアボロは発言の許可を求めた。身振りで許可するキリト。

 

「いっそのこと、隊ごとに戦力を均等に分けるのではなく役割を集中させるのはどうだい? 当然タンク部隊の負担は重くなるけど……その分タゲを上手く管理できるかもしれない」

「…いい案だと思う。βの時の話だけど、5層のフロアボスは広範囲攻撃を仕掛けてこない。ただ1パーティーで残りの2パーティーを防御しきれるのかが不安なんだ」

「やっぱりタンクが不足しているのがネックになってるね」

 

 その後も、ゲーム用語を交えつつ話し合う二人。

 その様子を見て、ユウキは密かに直木兄ちゃんに近づいた。 

 

「…マクラギ、タンクに近いプレイスタイルだったけど参加できない?」ヒソヒソ

「残念ながら難しいな。もうレベルが離れすぎている。攻撃を捌ききれるか不安だ。……それにそろそろ生産部の方に戻らないと」ヒソヒソ

 

 少しうしろを振り向くような動きを見せる直樹兄ちゃん。何かうしろめたさがあるようだ。

 

「生産部と言えば、生産部のリーダーが抜けてて、カウントダウン・パーティの進行は大丈夫なの?」ヒソヒソ

「生産部の仲間に任せている。彼らならカウントダウン・パーティを滞りなく進行している筈だ」ヒソヒソ 

 

 気になっていたことだが、直木兄ちゃんは、信頼を口調ににじませて答えた。それでも不安なのか若干手汗が滲んでいる。

 そうしていると接近者が一人

 

「三人で集まって何を話しているンダ?」

「アルゴさんか。気配を隠して近づいてくるのは、心臓に悪いからやめてほしいな」

 

 アルゴが話しかけてきた。 

 

「ニャハハ。悪いナ、職業病ダ」

 

 悪びれることなく笑うアルゴ。逃げたそうな顔を一瞬見せる直木兄ちゃん。

 

「で、なに話してしてたんダ?」

「ただの世間話だよ。アルゴ」 

「そうそう、マクラギにも戦ってもらえないか聞いたところ」

 

 ヒルコは詳細を伝えずに誤魔化そうとしたが、ユウキが詳細をばらした。

 

「ホー生産部の長様は、自ら圏外に出て素材を集めるとは聞いてたケド、フロアボスに挑めるほどの実力があるとは知らなかったナ」

「オイオイ、誤解してくれるな。俺にそんな実力はないからな。餅は餅屋。生産職は攻略組には到底かなわないよ」

 

 あたふたしながら、直木兄ちゃんは答える。

 

「ほーん? この前ファンラって奴が、"マクラギは強い"って言ってたんだがナー」

「いやいや、そいつの発言は信用しないでくれ。彼は圏外知らないから、適当こいてるだけだ」

 

 かんべんしてくれよ…、そう呟く直木兄ちゃん。よっぽどファンラという人に振り回されているらしい。

 

「よしんば俺に強みがあったとしても、鍛冶ができることと、顔が知れていることくらいだ」

 

 ぼやくように言う直木兄ちゃん。

 

「なぁマクラギ。ダメ元で聞くんだけど、タンクスタイルの知り合い居たりしない? フロアボスの攻撃抑えられるくらい強い奴。」

「タンクか……そもそも経験値効率が劣悪だからな、絶対的な総数が居な……」

 

 キリトの問いに途中まで言いかけて、フリーズする直木兄ちゃん。

 

「……いるんだね、マクラギ(直木兄ちゃん)

 

 ある程度の確信をもって直木兄ちゃんの顔を覗き込む。彼の顔は見事なまでにしかめっ面だった。

 

「心当たりはある。性格も……悪くない、多分。実力は間違いなくある。しかもソロプレイヤーだ。ただ…」

「ただ?」

「親交がほとんどない。声をかけても、来てくれるかは分からない。それでも聞くだけ聞いてみるか?」

「お願いします」

 

 アスナの方を向いて頷き、直木兄ちゃんはどこかにフレンドメールを送る。

 

「ちなみにその人の名前は?」

「ああそれは───」

 

 

 

 

 直木兄ちゃんと別れて、マナナレアの広場から行進すること約20分。迷宮区の前にそびえたつ巨大迷路。その入り口に男は立っていた。

 男は独特の雰囲気を発していた。銀色の髪。前髪に一房眼前に垂らしている。どうにも油断できないというか、相対したものに、否応なしに緊張感を持たせる───そんな男であった。

 

「君がキリト君かね。マクラギ氏の要請を受けてここに来た───」

 

 直木兄ちゃんから聞いた名前を思い返す。

 

「───ヒースクリフという。よろしく頼む」

 

 荒れ地の崖。その名前に相応しい圧倒的な存在感を出しながら、その男は剣を振った。




 投稿予定より大幅に遅れてすみませんでした。
 リアルの忙しさ×難産×体調不良の三コンボに阻まれてました。見通しが甘くてマジで申し訳ないです。お察しの通りストックがないため、次回更新はいつになるか分かりません。ご容赦ください。感想もください。
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