ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

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前回のあらすじ
 DKBが爆破された。


雑談 in 6層

ヒルコ目線

 

「しっ死ぬかと思った」

 

 目の前で、洗濯したばかりの服のようにヨレヨレになっている男性。それが直木兄ちゃんであった。

 

「えっと直木兄ちゃん。一応聞いておきたいんだけど、

 

 

 爆破テロ起こしてDKBを半壊させたって……本当の話?」

 

 直木兄ちゃんは頭から崩れ落ちた。

 「違う!!」 という叫びを上げながら。

 

 

 

 第5層フロアボス<フクスク・ザ・ヴェイカントコロッサス>を討伐し、第6層を軽く見て回った後、第5層<カルルイン>に戻ってきたヒルコとユウキ。

 この両名に待ち構えていたのは"ALSがDKBを爆破した"というニュースであった。

 

 当時その場に居た全員が困惑していた。あの戦闘中、常に冷静沈着に対処していたヒースクリフさんでさえ、頭に"?"が大量に浮かんでいた。

 

 いそいで爆破(?)現場に行ってみると、大量のボロボロの木材とそれに紛れるかのように点在するDKBのメンバー。

 

 なにやら言い争っているキバオウさんとリンド…さんのところに割って入ったハフナーさんが聞き出したところによると、"生産部が用意した花火の衝撃で、当時DKBが花火を見ていた観覧席が崩れ落ちた"、"そしてその原因として生産部の長であるマクラギ(直木兄ちゃん)が黒鉄宮の監獄エリアと連行されていった"ということであった。

 

「どうしてこうなってる」

 

 誰かが発したこの一言が当時のヒルコら心境を表していたといっても過言ではないだろう。 

 

 正直経緯が全くと言っていいほど分からなかった。

 直接会いに行こうにも監獄前にはDKBとALSのメンバーが構えており、どうやっても合わせてもらえず、最終的には情報屋に頼ろうとしたのだが、流石に6層が解放されたばかりで忙しいアルゴに頼むのは気が引け、ディアボロさんには普通に断られた。

 

 そのため、今日の朝に"久々に飯でもどうだ"という直木兄ちゃんからの誘いにヒルコ達一も二もなく飛びついたのであった。

 

 

 

「さてとりあえず、弁当を開けながら誤解を解こうか」

 

 そういって直木兄ちゃんは注文した弁当を手に取る。

 木製の弁当箱であり、側面の板に遊びがある。

 

「前に飯行った時にも少し話したが、これは絡繰り弁当箱だ。注文してから15分以内に開封しないと全部消滅する」

「改めて聞くと本当に酷い設定だね」

 

 ユウキの言葉にホントホントと頷く。

 

「開封方法を知っていれば───」

 

 直木兄ちゃんの手が残像を残すほどの高速で動き、30秒もかからないうちにほっかほっかのかつ弁当が姿を現す。

 

「───こんな感じで直ぐに開けられる。さて……どうする?」

 

 探るような目線を向ける直木兄ちゃんに向ける言葉は決まっている。

 

「自分たちで挑戦させて!!」

「OK」

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに直木兄ちゃんはにやりと笑った。

 

「タイマー代わりに5分過ぎるごとに教えてやるよ。ちなみに最短8手で開けられる」

「ありがとう!!」

 

 とりあえずヒルコは弁当箱の横に意味深に付けられているレバーを下ろしてた。

 下ろした瞬間に"ギー"と音をたてて元の位置に戻るレバー。

 

「言い忘れていたが、正しい行動をしないと直ぐに最初の状態に戻る。ぼやぼやしてると直ぐに15分たつからな」

「いそがなきゃ。……分かった一手目は上から2番目の右の板を左に動かすんだ!」

「ありがとう!」

 

 ユウキと情報共有しながら開封しようと試みる。

 なかなか面白い。 “美味しいと面白い、その両方”と今考えると中々に無茶振りをしたけども、直木兄ちゃんはその期待にしっかりと応えてくれた。

 

「四手目は上から4番目の左の板を右にずらすみたい。……それで直木兄ちゃん一体何があったの?」

「…言わなきゃダメ?」

「だめ」

 

 直木兄ちゃんは喋らないと決めたことは決して話してくれない。なんなら必要とあれば虚言さえ用いる。

にもかかわらず、"話さない"ではなく"言わなきゃダメ"とお伺いを立ててきた時点で、"話したくはないけれど話さなきゃいけないだろうな─"と言っているようなものである。

 

「簡単に言うと、DKBは半壊していない。ただ瓦礫の下敷きにはなった。

 原因は、二つある。

 一つ目は生産部の一メンバーが用意した花火の火薬量が馬鹿だったこと」

「バカ?」

「……量が規定量を超えてふんだんに使用されていたってことだ」

 

 ユウキが分からなかったのか首を傾げる。直木兄ちゃんが小声で"反省"と呟く。顔には出せないが内心"生産部の一メンバー"に対してかなり怒っているようである。それこそいつも以上に口が悪くなる程度には。

 

「二つ目は、当時DKBが花火を見ていた観覧台が、予定よりも大分脆かったことだ」

「予定より?」

「そうそう、柱に使用するはずの木材が()()()消失してな。現場のメンバーが代理として別のはいz…じゃなかった、耐久値の低い木材を使用してしまったらしい」

 

 なんか聞き流せないことを口走った気がするけど……ヒルコは少し考えてスルーした。これが業界の不正というやつなのだろうか。

 

「とまぁ、そんなわけで数々の伝達ミスや怠慢に支えられて、惨事が発生したわけだが。

 当然この辺の事情は今だから分かることであってだな…当時はDKBの足止めのための策略だと思われていたらしい」

「うわぁ」

 

 割と今のALSなら"やりかねない"と思ってしまうのが酷い。

 直木兄ちゃんも同じことを思っていたのか、ため息をつく。

 

「…仕方がないことだけどね。それより手を止めてていいのか?」

 

 いいわけがない。ヒルコは慌てて正答を探す作業へと戻る。

 

「酷くない? リンドさんも容疑の段階で牢に閉じ込めるなんて」

「ユウキ、そんなことはないよ。事実確認をするために、あれは必要な行動だったと俺は今でも思ってる」

 

 直木兄ちゃんが笑いながら言う。

 

「マクラギが納得してるならいいけど…」

「それでもボクは納得いかないなー。マクラギだって悪意をもってやったわけじゃないんでしょ?」

「もちろん。でも俺が閉じ込められたおかげで、事実確認がスムーズにいったんだ。やらかしたことを考えればすぐに解決した方と思うよ」

 

(あれで……?)

 

 心の中で首を傾げるヒルコ。

 DKBとALSのメンバーが大喧嘩しながら爆発現場を調べて回っていた光景は、どう好意的に見ても効率的には見えなかったのだが。

 ユウキも少なからずそう思っていたのだろう。誰が見ても嘘だと分かる表情で「そうかもね」と呟いた。幸いなことに直木兄ちゃんは気がつかなかったようで話を続けた。

 

「という訳で、DKBの爆破に関しては人災ではあるけど事故だった。圏内で発生したから死傷者数ゼロ。色々とあって牢獄エリアに閉じ込められていたけど、ようやく事実確認がなされて解放された」

 

 そして直木兄ちゃんは"心配かけてすまなかった"と頭を下げた。

 

「色々あったけど、直木兄ちゃんが無事でよかった」

「本当だよ。心配したんだから」

 

 ありがとよ。そういって直木兄ちゃんは静かに笑った。

 

 

 

「こっちの話はこれくらいにして、第5層のボス戦はどうだった」

「びっくりするほど余裕があった」

 

 ユウキの言葉に同意するようにヒルコは大きく頷いた。

 

 恐らく第5層フロアボス<フクスク・ザ・ヴェイカントコロッサス>戦は、今までのフロアボス戦の中で最も楽なものであったと。

 

 

<2022/12/31 フロアボス部屋>

 フロアボス部屋に全員で一斉に突入してから15分が経過していた。

 削った敵のHPは6ゲージ中3本。

 攻撃方法はただ一つ。床のラインを踏み、数秒後に出てくる手足を攻撃すること。

 攻撃できる機会が限られて苦戦するかと思われたが、今回挑む19人は全て精鋭。ほぼ初見の行動を直ぐにパターン化し効率よくフロアボスを攻撃していった。

 

「このままの方針で問題なさそうだ。全員大丈夫か!」

「うん! 行ける!!」

 

 D隊のリーダーであるゴンダの言葉にユウキは大きく頷いた。

 ヒルコとしても問題はなかった。コンディションは最高だし、武器に関してもマクラギのお陰で、ちょっとやそっと雑に扱っても欠けそうにない。

 

 それでも油断はできない。第一層で死亡した騎士、ディアベルの顔は未だに脳裏にこびりついている。一歩踏み間違えれば、そうなるのはヒルコ自身か……あるいは相棒の彼女だ。

 それだけは決して……

 

 (許せない)

 

 だからこそ、ヒルコは改めて気を引き締めた。

 

 しかしながら、ヒルコのこの時の行為はある意味幸運なことに徒労で終わった。

 

 4ゲージ目及び5ゲージ目。出現したボスの顔により階段が事実上封印されて額の弱点が移動したものの、攻撃方法は変わらなかったためなんなく削り切る。

 6ゲージ目。要するに最終ゲージ。ここで遂にボスの本体が人型のゴーレム形態として分離する。多彩な攻撃手段に多少苦しめられたものの、タンクが役割を果たし続けたため大して損害は出ず、最後はキリトの片手剣ソードスキル<ホゾリンタル・スクエア>によってとどめが刺された。

 

 結局のところ、大して苦戦せずに第5層フロアボス<フクスク・ザ・ヴェイカントコロッサス>は討伐されたのであった。

 

 

 

「正直苦戦するとは思っていたけど、まさかそこまでとは」

 

 ヒルコ達の説明を聞いた後、直木兄ちゃんはぼやいた。

 

「やっぱり直木兄ちゃんとしても苦戦すると思ってたんだ」

「そりゃそうだ。フロアボス……しかも5の倍数だしな」

 

 そういった直木兄ちゃんの顔はげんなりとしつつも、ある種の信頼が見えていた。

 

「5と25の倍数のフロアは一つの区切りとしてアーガス内で扱われていた。だからこそフロアボスもそれ相応の性能だった。

 それをコンセプトと上手く噛み合っていたとは言え、よくそこまで余裕をもった討伐ができるとは……すごい事だよ」

「ホント?」

「ほんとほんと」

 

 まじめな顔して頷く直木兄ちゃんを見て、健太は嬉しさを感じた。

 

「ちなみに、開発中とはいえ俺は28人で挑んで6ゲージ目の途中で全滅した」

「え、茅場さんが参戦してても全滅したの?」

「いやいや、あの時は確かどうしても外せない取材があったとかで居なかった気がする。後で『自分も参戦したかった』と羨ましがっていたしな」

 

 そういやあの時はハズレ値連中も居なかったかと、ふと思い出したかのように直木兄ちゃんは呟いた。

 

「懐かしい?」

「懐かしいさ」

 

 きっと茅場さんの行動は畜生の野糞にさえ劣る行為だったのだとしても、直木兄ちゃんのアーガスの記憶は良いものが多かったのだろう。

 

「懐かしい……居酒屋病院、謎の巨大クラブガニヘッドホン、深夜の洋館(医務室付き)……待て、あれを懐かしいで済ませていいのか?!」

 

 その後、何かを思い出して錯乱しかけたのを見ると、さっきの言葉は撤回したほうがいいのかもしれないが。

 

「ところで後3分だが……解けそうか?」

「うん。大丈夫」

 

 そんなことを話している間にも順調に絡繰り弁当箱の開封作業は進んでいた。

 

「ユウキ、最後は上から1番目の左の板を右にずらしずつレバーを下だ」

「OK、やった!!」

 

 遂に対面したかつ丼弁当を前にして手を合わせた。

 

「「「いただきます!!!」」」

 

 

「舌が幸せ」

「もう食べられないよ」

 

 開けるのに苦労しただけあり、味は絶品だった。直木兄ちゃんは無言だがどことなく満足げな表情を浮かべている。

 

「ちなみに、デザートのリンゴもあるが食べるか?」

「うん!!」

「ユウキさっきもう食べられないって言ってなかった?」

「それは別腹‼」

 

 別腹も埋まるくらい食べてくれ。そう言いながら直木兄ちゃんは果物ナイフで丁寧に皮を剥いていく。そのまま一部の皮をあえて残した。

 

「ほい、ウサギさん」

「かわいい!」

 

 昔、まだ発病していない頃はお父さんがよくやってくれていたやつだ。

 

 ヒルコは感じた懐かしさごと、飲み込んだ。

 

 また会いたいな。皆に。

 

 

「……そうだ、マクラギに言ってないことがあった。ヒルコも言ってないよね」

「なんの…ああ、あの事か」

 

 物思いにふけっていてヒルコは、ユウキの言葉に反応が遅れた。

 

「なにかあったのか?」 

「うん、ゴンダ達とパーティを組むことにした。」

 

 直木兄ちゃんの動きが完全に止まった。

 

「…」

「……そうそう話を変えるけど」

「いやいや待て待て駄目だ。変えるな!!」

 

 ダメか。このまま流そうかと思ったのだが。

 

「まず初めに言っておく。別に否定したいわけじゃない。ヒルコとユウキの好きにするべきだ。

 その上で言わせてくれ、2人とも組む相手がゴンダ達でいいのか?」

 

 直木兄ちゃんの不安はもっともである。

 ゴンダは、かつて彼のパーティメンバーであった『エリカ』と共に詐欺行為を行っていた。今は改心したし、エリカとの縁も切られている。

 

 それでも、周囲の目は厳しい。言外にALSに難色を示され、DKBに嘲笑されて、それでも彼らは攻略組に残存し続けている。

 だからこそ──

 

「ゴンダの攻略する姿勢は嘘じゃない。そう思ってる」

 

 ユウキはそれをもってゴンダを信用したのだろう。

 

「僕も同意見」

 

 正直少しだけ嘘だ。ヒルコはいまだにゴンダとエリカの関係を疑っている。それでもユウキが───ヒルコの相棒が信じているのだ。ならば信じてみたい。ヒルコはそう強く思った。

 

「そうか。お前らならALSだろうとDKBだろうと迎え入れてくれるだろうけど───そういうあれでもないんだろうな。まぁうん仲良くやれよ」

「「はーい」」

 

 凄く微妙な顔をしていたが、結局のところ直木兄ちゃんは応援してくれた。

 

「…後で問いただすか」

 

 静かなドスの効いた声でボソッと呟いた言葉はヒルコ達に届くことはない。

 

 

 

「……それはそれとして、さっきは何を言いかけてたんだ?」

「え゛っ」

 

 沈黙に耐え切れずに適当なことを言っただけなのでヒルコはなんにも考えていなかった。

 

「もしかして、ディアボロさんのこと?」

「そうそれ」

 

 だからこそユウキの助け舟はありがたかった。ユウキが意図してたのかは分からないけど。

 

「ディアボロって、攻略メンバーに居た鎧姿の人か?」

「うんそう。ボス討伐した後でひと悶着あって……

 

 ねぇ直木兄ちゃん。ディアベルさんは死んじゃったんだよね?」

 

 それは一つの投石だった。SAOの絶対不変の法則とされるものへの疑いだった。

 直木兄ちゃんは真顔になって言った。

 

 

()()()()

 

 

 直木兄ちゃんは濁った眼をこっちに向けた。疑いを真っ向から否定する言葉だった。

 

「彼はあの時体力がゼロとなった。この世界で死んだら現実世界でも死亡する。

 ……そんなことはヒルコとユウキだって今更確認するまでもなく分かっているだろ?」

 

 直木兄ちゃんの問いに頷いた。もし仮にここでその問いを否定すれば……直木兄ちゃんは誰にとっても不本意な行動をとっただろう。

 僕を守るために。

 

「なんで二人はそんなことを疑問に思ってんだ?」

「順に話すとね……」

 

 ホワンホワン

 

「いやそんなマイルドな回想音付けなくていいから」

 

 

<2022/12/31 フロアボス部屋>

 

 消息不明になりかけていたギルドフラッグは無事に見つかり、後は6層の転移門まで向うだけ……そんなひと段落したムードに討伐メンバーは包まれていた。

 ただ一人。キリトを除いて。 

 

「どうしたのキリト君? やっぱりお腹痛いの?」

 

 アスナがそんなキリトを心配そうにのぞき込んでいた。

 

「いや……ごめん。ディアボロさん、聞きたいことがあるんだ」

「俺かい? なにかな?」

()()()()()()()()()()()

「それは───この兜を取れという事かな?」

 

 突然の言葉に困惑したかのようにディアボロは苦笑いを浮かべる。

 

「オイオイ、人のプライバシーに突っ込むのはどーナンダ。らしくないじゃナイカ、キー坊」

「アルゴだけには言われたくない」

 

 アルゴは相変わらず個人情報を大金(コル)で販売している。それが本人の許可を得ているのかと言われると───全くそんなことはないだろう。

 

「似すぎてるんだよ。ディアボロの剣筋が」

「誰に……?」

「ディアベルにだよ」

「は?」

 

 首を傾げる。周囲の人間も少なからず困惑している。

 ディアベルは第一層のボス攻略の最中に死亡してしまった男性プレイヤーだ。当然この場にいる筈がない。

 冗談か。しかしキリトの表情は真面目というか張りつめている。

 

 確かにディアベルは片手剣使いであり、ディアボロと一致はしている。してはいるが、そもそも片手剣使いなんて直木兄ちゃんなどを始めとしてアインクラッド内にごまんといる。

 

「もちろん気のせいというか偶然の一致だと思ってる。

 だから、顔を見せてくれないか」

「顔?」

「頼む。この通りだ」

 

 キリトは手を合わせて頼み込んだ。

 

「オイオイ、ブラッキー先生よ。顔をわざわざ隠している奴にそういうのはどうなんだ?」

「……エギルさん、俺は構わないよ。ほらこれでいいのかい?」

 

 黒い兜が消え、ディアボロの顔が衆目にさらされる。

 

「イケメンだな」

「…でもディアベルさんの方がイケメンだったな」

 

 DKBの二人が言葉を漏らす。

 彼らのいう通り、ディアボロの顔はディアベルとは全然別物であった。

 確かに顔立ちは整ってはいるほうだ。しかしディアベルの方はどちらかと言えば清涼系な感じで、ディアボロの方は熱血系な感じだ。

 

「なんか、昔見た悪魔系バンドのリーダーの素顔に似てる」

 

 とはユウキの感想だ。

 

「これで満足かな?」

「…!! そうだな。すまなかった。変なことを言って」

 

 キリトは呆けていたようだが、アスナに肘でつつかれて正気に戻ったようで、素直に謝罪した。

 

「別に構わないさ。少し自分語りになるけど、俺の名前とバトルスタイルはディアベルさんに憧れたものなんだ。

 有象無象のプレイヤーを今の攻略組という形にできたのは、彼のお陰だ。だからこそ俺はあの人のような偉大な人物になりたいんだ」

 

 そう言ってディアボロは兜をかぶり直した。

 

「だからこそ、ディアベルさんの剣筋に似てるって言ってもらって驚いたな。俺は着実に成長してる、そうは思わないか、キリトさん」

「……あぁ」

 

 そう言ったキリトの顔は今まで見たことがないほど、暗い顔をしていた。

 

 

 ホワンホワン

 

「以上回想終了!」 

「その音回想終了時にも言うんだな」

 

 直木兄ちゃんは真顔で言った。

 

「……でも、キリト君の推測は的外れだ。たまたまだろう」

「そうなのかな……」

 

 ヒルコは考える。

 

 直木兄ちゃんはお人好しだ。

 

 だけど、"ファン"だと言っても何の縁もないプレイヤーを管理者権限という、間違いなく回数制限があるのであろう切り札を使ってまで助けるものなのだろうか?

 

 酷い話だけど、あの場面直木兄ちゃんが助けた方が影響がデカかった。

 もし、あの時助けなくても精々βテスターとの軋轢が広まって、キリトが今以上に孤立した程度だろう。

 助けたことによって、直木兄ちゃんは”ウリエル”の名を捨てて僕らと別れざるを得なかった。

 

 最初は、精神に支障をきたしていたから、助けたんだと思った。実際それもあるだろう。

 けどそれだけじゃないとしたら? 一部攻略組によるキリトのつるし上げの際に()()管理者権限を使っていたとしたら? そしてキリトの推理が真実をついていたとしたら?

 

 わざわざあの場面で管理者権限を使ったのだとしたら、考え得る理由は一つしかないだろう。

 

 もしそうだとしたら、意識的か無意識かは分からないけど───

 

(これ以上、見殺しにしたくなかったんだ───アインクラッドでの()()を)

 

「なんだまだ疑問に思ってんのか?」

 

 直木兄ちゃんの取り繕ったようにも見える笑顔に、ヒルコはなんでもないと言い返した。

 

 結局のところ、直木兄ちゃんが僕らに話してくれないということは知らぬが仏。黙っていた方がヒルコにとって都合がいいという話なんだろう。

 

 ヒルコは言葉を飲み込んだ。……それ以前に推測が的外れなだけの可能性もあるけど。

 

 

 

 雑談がひと段落した頃、ふと直木兄ちゃんは立ち上がった。

 

「さて、そろそろ俺は行こうかな」

「もう?」

 

 まだ、再会してから2時間しか経過していないのに。口を尖らせるヒルコを見て直木兄ちゃんは苦笑した。

 

「ちょっと生産部での用事が溜まっていてな。…改めて釘を刺しておきたい奴もいるし」

「爆発はさせないでね」

「当然」

 

 直木兄ちゃんは笑っている……が、よく見ると目が笑っていない。

 

「それで次はどこにする?」

「次?」

「どこのご飯屋さんを紹介してくれるのかって話だよ」

 

 ヒルコの言葉に、ようやくユウキの言葉の意図が分かったのか、"あぁ"と得心した声を出す。

 

「希望あるか?」

「ボクは楽しいところがいいな」

「そうだな……魚介類食べたい」

 

 楽しい所と魚か……そういって直木兄ちゃんは黙り込んだ。

 

「22層は遠すぎるしな……楽しいか、そうださn…いや7層にいい所があった。あそこを紹介してやろう」

「分かった7層だね。ならそこまで頑張らないと」

「ああ、2人とも死ぬなよ」

「「もちろん」」

 

 皆で朗らかに笑った。

 

 この後何回も(最大1年ほど期間はあいたものの)直木兄ちゃんと、()()()()()()()()()()層での昼飯の約束を交わす事となる。

 

 ずっと──本当にずっと後になって直木兄ちゃんが言った。「死にたくない理由なんて多い方がいいだろ」

 

 この約束が、直木兄ちゃんが危惧した通りに活きたのはおよそ3か月後。

 A()L()S()()()()()()()()となった第25層フロアボス戦でのことであった。




<Tips>
第5層フロアボス
 アーガスからは相当苦戦すると思われていたフロアボスの一体。
 だが、様々な事情により、決してあり得ないと思われていた少人数攻略が決行されたこと。しかもその少人数の中にキリトやらユウキ、ヒースクリフなど、原作でも有数の実力者が混じっていたためほぼ苦戦することなく討伐された。ラスボスが正体を隠して参戦するのは卑怯。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
 これにて第5層の話は終わり。途中で一度大きく期間を空けてしまい大変申し訳ありませんでした。ヒルコが最後なにやら不穏なことを言っていますが、第25層はもう2~3個、生産部に関してエピソードを書いた上で投稿する予定です。
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 次回更新は未定です。多分また数ヶ月空くと思うので、気長にお待ちください。
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