ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
「という訳で、ラーメン作戦よろしゅう頼むな」
酒の席での話だったし、どうせなかったことになるだろう。そんな塩ラーメンで管理者を釣るなんてバカげた作戦。
そう思っていた次の日、キバオウさんから渡されたのは正式な書体で書かれた命令書であった。
「えっ、あれマジでやるんですか?」
「気持ちは分からんでもないが、よろしゅう頼むで」
明らかにいかれた作戦だ。……まさか!
「実はキバオウさんアーガ社員に成り代わっていたりします?」
「ひゃんでや! ひゃんでワヒの頬を引っ張ふんや!」
変装アイテム(管理者権限必須)を使ってキバオウさんに成りすましているのかと思ったが、そんなことはない。
「いや、ほら変装を見抜くには頬を引っ張ればいいっていうのがお約束じゃないですか」
「そんなんで引っ張られるのはたまったものやあれへんな」
「すみませんでした」
「……ワイも馬鹿━━━常識外れな作戦とは思うが、億が一当たったらデカい。任せたで」
それだけ言い切ると、キバオウさんはとっとと帰ってしまった。
「えぇ……」
後に残された俺は困惑するしかない。するしかないが、こんなんでもしっかりとした命令である。
「(形だけでも)やるかぁー」
現在吊り出そうとしているSAO管理者ウリエルとは俺のことである。当然作戦の意図が分かっている以上、引っかかることはない。……いや意図が分かってなくても引っかからないと思うけどね。多分、きっと、メイビー。
とりあえず、誰にやってもらうかを考えながら歩を進めるのであった。
という訳で集めたのはチビ、ノッポ、リョウケンのあの時いた3人に追加して技マシン20だ。
しかし招集したのはいいものの───
「えっ、あれマジでやるつもりなんですか」
チビの開幕のセリフがこれである。
「言いだしっぺの法則って知ってる?」
「いや、そんな酒の席での話なんて責任取れないですよ」
「とは言ってもキバオウさんの頼みだ、やろうぜチビ。
それに万一ウリエルが釣れたらお手柄だぜ!」
大困惑しているが、それでもノッポの言葉に少しはやる気が出て来たのか、前向きになるチビ。でもゴメン、そんなんで
リョウケンの犬耳が跳ねる。
「ということは、俺は塩ラーメンを作ればいいってことですか」
「まぁそういうことになるかな。でも、とりあえずウリエルを釣ることが目的なんだから見た目さえなんとかすればそれでいいよ」
「いえ、やるとなれば味までしっかりと再現します」
リョウケンならばこう言ってくれると信じていた。運が良ければ一口くらい食べられる機会があるだろう。……正体ばれが怖いので自分からは絶対にねだらないが。
「頼りにしてる。チビとノッポはリョウケンのサポートを頼む。もし圏外の素材が欲しい場合はそこのワザマに言ってくれ。必要があれば追加で人員を用意する」
「よろしくです」
ワザマが頭を下げたのをきっかけに残り3人も頭を下げた。
まぁそもそものきっかけが酒の席での冗談で、失敗することが確定している案だ。
これでいい───
「待ってくれ! 金の匂いがするぞ!!」
そんな俺の思考を押しとどめたのは、乱入者の声だった。
「なんだお前は?!」
「俺は金の匂いに強い男、お金大好きマン!!」
「いや、お前の名前はザイムだろ」
趣味の悪い紫と金の服に身を包み、星形のサングラスをかけた男性。お金の信者。生産部の経理を担当する一人。
それがザイムという男だ。
「そもそも塩ラーメンを作ったところで、どうするのだ」
「籠の下に置いておけばいいんじゃないかな。支え棒外したら籠に閉じ込められる感じで」
「管理者をスズメかなにかだと思ってます?」
だってどうせかかんないもん。
「ふふん。愚策だな」
「まぁね。で、なにかいい案でもあるのか?」
どうせ失敗することが確定している作戦だ。だったら多少なりとも別のリターンがあれば検討するのもありかもしれない。
「フェスだ。ここはじまりの街でラーメンフェスを行おう!」
「フェスゥ?」
ザイムの言葉を反芻する。まぁ悪くはないかもしれない。現在このアインクラッドに存在しているのは醤油ラーメンと味噌ラーメンだけだ。全人類が存在している以上、塩ラーメンを求める需要はあるだろう。
「しかし、そこまで大事にしなくても───」
「ちなみに先日、拠点の移転の話が出たと筈だが───予算の当てはあるのか?」
現在生産部は黒鉄宮に拠点を置いてる。しかし、生産部の規模が大きくなるにつれてだんだんと手狭になっているのだ。特にファンラなどの危険人物はなるべく一般部員がいるスペースから離れたところに配置しているのだが、最近はニアミスやそれに伴うヒヤリハットが発生し始めている。
今は何とかなっているが、今後一歩間違えれば例のDKB爆破事件と同様かそれ以上の被害が発生するかもしれない。
「前向きに検討するか!」
「ラーメンフェス開くの? 生産部主催で」
「そーそー。ナナも手伝ってくれるとありがたいんだけど」
フェスというなら人手が必要である。という訳でナナに助力を求めにやってきた。
フラスコにシソみたいな葉を入れ、ガラス棒でつつくナナ。
「……今度は当日に責任者が逃げたりしないよね?」
「しない……今度はDKBが抜け駆けして17層のフロアボスにでも挑まない限り」
「またそんなことあったら今度こそ終わるよ、攻略組。小学校の学級崩壊じゃないんだから。
次もキリトさんに頼むつもり?」
「流石にそれは避けたいかな」
幸いなことに5層以降、誰かが抜け駆けしてフロアボスに挑んだという事態は発生していない。まぁ5層が超絶レアケースだっただけで、他のフロアボスは少人数で倒せる難易度ではないのだが。
「まぁいいや。マクラギの
「助かります」
言外に"私は主導する立場にはならないからね!!"とは言っているものも、言質はとった。
「ところで、なんでラーメンなの? 別に嫌いってわけじゃないけど」
「あー」
言っていいのだろうか、コレ。正直言うと正気を疑わる気しかしないのだが。
まぁいいや。
「管理者を釣るんだってよ、塩ラーメンで」
「???」
現場猫のような顔をしたナナをしり目に次の行動を考える。
「さーて忙しくなるぞ」
「管理者は魚だった……?」
とは言っても、肝心のラーメンが完成しない限りは企画の進めようがない。精々会場候補を選択し、使える日をリストアップする程度しか。
そう思っていたのだが───
「とりあえず数種類できたので試食してください」
そんな連絡がリョウケンから来たのは、命じてから一週間後のことだった。
「えっ、もう?」
早すぎない?
「当初の目的だった塩ラーメンはあるんだよね?」
「当然です。普通の塩ラーメンの他にも、豚骨ラーメンや、ゆず塩ラーメンなどなど色々揃えてますよ」
「すっげぇ」
鍛冶屋から料理人にジョブチェンジさせて本当によかった。なんだこの有能。どうして全くノウハウがない状態から一週間程度で開発に成功してるんですか? リョウケンに限って不味いなんてことは絶対にありえないし。
こうなると残念極まりない。もしアーガスに居たら食事システムの救世主になっていただろう。
「分かった。……って言いたいけど、ちょっと俺は今立て込んでてな。悪いが数人暇そうなやつを連れて行ってくれ」
塩ラーメンは食べたい。食べたいのだが……残念ながら塩ラーメン派として、別のラーメンを食べるわけにはいかないのだ。もし食べようものなら極刑である。
……決して好物を目の前にして、ウリエルとしてボロを出す事を心配したわけではない。
「えっ、マクラギさん。試食しないんですか。せっかくですし行きましょうよ」
「ラサキさん任せた」
「……いいです。一人で行ってきますから」
ちょっと残念そうな顔をしてラサキは行ってしまった。
「マクラギさんってそんな察し悪い人でしたっけ?」
「ほっとけ」
うるせぇバーカ。
リョウケンの言葉をBGMにしつつ、大して優先度の高くない書類に集中を戻した。
ラーメンはやはり美味しかったらしい。試食会に行ったメンバーが満足気におなかをさすりながら帰ってきた。
「美味しかった! マクラギさんも来ればよかったのに」
「そうですよ。仕事しすぎは体に毒ですよ」
「分かってるって」
ラサキと技マシン20の言葉を軽く流す。技マシン20が"絶対分かってないんだよな"とぼやいたのを無視して話をふる。
「で、どうだった?」
「個人的な一押しは野菜ましましトンコツラーメンですね」
「あの野菜は美味しかったですよね。特にニンジンに似た奴」
「そーそー。味がしみ込んでて美味しかった。でも一番おいしかったのは塩ラーメンにコーンとソーセージ乗ってた奴かな」
「分かる。あのコーン美味しかった。コーンと言えばトリパイタンのやつも美味しかったよ」
「あーあの鳥ガラスープの。個人的にはあっさりしすぎてちょっと好みから外れてたかも」
「確かにラサキさん、味濃い方が好きそうですよね」
ワイワイガヤガヤと、感想を言いあうメンバー。こういうの見てると、ちょっとした疎外感を感じるのは俺だけだろうか?
「おっと、マクラギさん来なかったこと後悔してます?」
「……少しね」
全く持ってラサキの言う通りです。よくよく考えたら別の味食べたら極刑って言っても、罰を下せる塩ラーメン派なんて(多分)このアインクラッドに居なかった。
確実に居ると言えるのが醤油派の茅場だけである。唐突に土砂崩れに巻き込まれた後ゴミ箱に入れられ、そのまま生かす殺さずの温度であぶられて脱水でくたばればいいのに。
閑話休題
そんなラサキの言葉に正直答えた俺をみてナナが一言。
「すごい、マクラギが素直」
「普段俺、そんな捻くれてる?」
「うん」
ナナの即答に、俺は何も言い返すことができなかった。
「「「……」」」
誰もなにも言ってくれなかった。
「ただ、残念な点もいくつかありましたね。その最たるものは───
醤油です。」
「あー、それか」
この世界には和食の類はほぼ実装されていない。特に醤油関してはラーメン屋スガーアで提供されているため、実装されていることは確実視されているものの入手はできない状態が続いている。中にはスガーアから盗もうとした奴らも居たらしいが、謎のバカ強店主に捕まったそうだ。
そいつらがその後どうなったかは一切が謎である。
「まぁいいんじゃない? どうせあのラーメン屋で食べれるんだし」
「でもあそこ一種類ずつしかないんです。特に醤油は少しあっさりめで私好みじゃないんですよね」
「なるほど」
確かに同じ塩ラーメンと言っても好みは千差万別だ。故に醤油ラーメンでも同じことが言えるだろう。
「しかし、醤油なんて開発できるのか?」
ノッポが発した疑問は最もである。ゲーム側で提供されていない以上、それらを手に入れるために素材を組み合わせて偶発的に発見するより他はない。
「リョウケンはなんて言ってる?」
「やはり難しいとのことです。」
「そうだよな……」
リョウケンは味噌を開発したことがある。しかしそれは本人曰く"奇跡的"とのことであり狙って出せるものではないと言う。実際傍から見ていた限り、とんでもない数の実験を行っていた。アーガス社員としての立場から見ても凄まじい偉業だとは思う。
「でも、もし既に開発に成功したプレイヤーがいたとしたら?」
「な…んだと?」
リョウケン並みの偉人がまだ居たの?
このアインクラッド魔境過ぎない?
あくまで風のうわさです。と前置きをしてラサキは説明しだした。
「個人のプレイヤーが醤油を所持していた。という噂が最前線辺りで広まっているんです」
「個人?!」
リョウケンが開発に成功したのは、本人の努力ももちろんあるが、生産部のお陰で大量の素材が入手できたというのも大きい。
だというのに、個人が所持していた?
「それは……驚いたな。DKB辺りが裏に居たりしない?」
「多分違うと思いますよ。知り合いにそれとなく聞いたけど、全く心当たりなさそうでした」
「マジか」
一体全体どんなマジックを使ったのだろうか。
「分かった。他に情報あったりしない?」
「一応、教えてくれた人はこう呼んでいました」
そして、ラサキはアルファベット3文字を言った。
"ASN"と。
ASNの正体はなんのひねりもないあの人です
次回更新は一週間以内にはします。