ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
醤油を持つプレイヤーを探せ!
「それで、醤油を所持しているプレイヤーとは君のことかい?」
「あたしはただの付き添い。アスナに頼まれてね」
情報屋を雇って調べること、一日。生産部は遂に醤油を所持しているとされるプレイヤーにコンタクトを取ることに成功していた。
そこにはマクラギにとって見覚えのある栗色髪の少女と、ピンク髪の少女がいた。
ピンク髪の彼女は"リズベット"と名乗った。
リズベットにとって、事の始まりは二週間ほど前。色々とあって最近仲良くなったアスナと食事している時だった。
「最近さ、生産部のせいで、まともな素材がほんっとうに手に入らなくて」
「生産部が絞ってるってこと?」
「多分ね……本当にやになるわ」
リズベットは話の流れで自らの職業、
彼女には悩みがあった。
最近前線の素材がほとんど出回らないのだ。原因は分かり切っている。問題集団である生産部のせいだ。
生産部。ALSの一部門ではあるが、現攻略組の鍛冶屋シェア、約9割を占めている。しかしながら評判はあまり良くない。腕に関しては問題ないが、とにかく問題を起こすことで知られている。
中でも新年早々にALSのライバルギルドであるDKBを爆破したことはあまりにも有名な話だ。
「生産部に伝手とかないの?」
「なくはないけど……色々あって顔を合わせずらいのよ」
「リズが?!」
アスナが驚く。なんだかんだとリズベットは面倒見がいい。そんな彼女が顔を合わせにくいと言い出すとは相当のことである。
「その友人とは初期も初期の頃に知り合ったんだけど、ちょっと強引な方法でギルドに勧誘されて」
「ALSに?」
「そうそう。なんとか断ったんだけどねー、そこから顔を合わせにくくなっちゃってて」
なるほどと納得したような表情をアスナは浮かべた。
友人に対して酷い対応だと思うかもしれない。しかし、リズベットとしては二言三言言わせてほしい。
なんの事前説明もなくいきなりALSのトップであるキバオウ(偉そうなトゲ頭だった)とALS一番隊隊長のタケ(怖かった)に何の説明もなく引き合わされたのだ。しかもその友人は助け舟を出すどころか、逃げ道を塞ぐかのような場所に陣取っていた。
友人には悪いが、いくらなんでも流石にちょっと距離を置きたかった。
結局その後、数回メッセージをやり取りしただけで今ではすっかりと没交渉である。
「だからアスナ。なんか話通じそうな人知らない?」
「私もあんまり。一応顔を知ってる人も居なくはないけど、ないけど。
なんとなく雰囲気がリアルで一番嫌いな人と似ててね……」
言外に会いたくない。と言うアスナにリズベットは少し苦笑を浮かべた。
「実は最近色々あって、関わり合いたくなくて」
「また生産部がなにかやらかしたのね」
安定と実績(無論悪い意味で)のある集団である。最早なにをやらかしても驚かない。
「うーん。むしろ、やらかしたのはわたし側というか」
「アスナが? もしかしてALSを爆破───「してないわよ!!」」
数秒悩んだのちに、アスナは小瓶と匙を取り出した。
「口あけて」
反射的に開けた口に匙の中身が飛び込んでくる。その雫の正体を察してリズベットは大きく目を見開いた。
「この味、まさか醤油?!」
「苦節一ヶ月の修行と研鑽の結果よ」
「すごいじないアスナ。もう一口!」
まさかこの世界で醤油を味わうことができるとは思わなかった。この世界に閉じ込められてから三ヶ月ぶりの味を堪能する。
醤油は美味しい。けど醤油と生産部がどう繋がるのだろうか。リズベットの疑問を感じ取ったアスナが説明を始めた。
「ラーメンフェスの噂を知ってる?」
「生産部が今度開催するとか言ってるアレ?」
「そうそう。で、彼らはそこで醤油ラーメンを出したいらしくて、醤油を探しているの」
「なるほどね」
ならば、自分たちで開発すればいいのに───。と言いかけるリズベットだったが、思い直せばSAOの味覚再生エンジンは、鍛冶システム同様とんでもなく複雑であった。
「で、どこで聞いたのか知らないけど私に"提供してくれないカ、アーちゃん"って持ちかけられてるの」
「情報源は聞かなくても分かるわね」
二人の脳裏にニャハハハと高笑いをたてる情報屋の姿が想起される。
「でも流石に提供しろって言っても、当然の義務のような顔して"タダで寄越せ"なんて言ってないでしょ?」
「もちろん。私の苦労をそんな無礼な奴らに渡してなるもんですか。
条件はかなり盛られてるんだけどね。それでもいまいち折り合いがついていないの。
私はカリム水が欲しい」
続いてアスナが言った素材の名前にリズベットは聞き覚えがあった。
カリム水。トップクラスのポーション作りにしか作成不可能とされているアイテムだ。その作成に必要な熟練度はおよそ500と言われている。現状、この熟練度に到達しているとされているプレイヤーはただ一人。生産部副部隊長ことナナのみである。
「そりゃ交渉も難航するわ」
カリム水は作成に必要な熟練度もさることながら、作成に必要な材料も中々に鬼畜である。時間もかかる。生産部としてもあまり手放したくないはずだ。
「でもなんでカリム水を? ポーションを作るわけでもないでしょ?」
「今私はSAOの味覚再生エンジンを解析しようとしているの。それでカリム水があれば多分マヨネーズが作れる」
「マヨネーズ?! ───アスナ、アンタさいっこう!!」
ハグしようとしたら普通によけられた。
「ゴホン、ゴホン。分かった。分かった。ちゃんと作れたらあげるから。そんなにがっつかないで。
それで二日後に顔を合わせて交渉することになってさ。そこにリズも同席してほしいの」
「私が?!」
リズベットにとってそれは意外な提案だった。
「多分大丈夫だとは思うんだけど、生産部の連中に詐欺られる可能性もあるから、鑑定スキル持ちの人に同席してほしくて」
「信用ないわね。あの組織」
当然っていっちゃ当然かと呟く。
「もちろん協力するわ。場所はどこ?」
「場所は───」
答えは当然"yes"だ。リズベットはアスナから交渉の場所を聞き出し、今日この場にやって来たのであった。
「___なるほど失礼した。では改めて生産部部隊長のマクラギというものだ。本日はよろしく頼む。隣の彼女は副部隊長のナナだ」
「久しぶり─」
そう緩い声で久々に会う友人は挨拶してきた。その声には罪悪感らしきものは全くない。
とりあえずリズベットは手を振って返事を返した。
「……お二人は知り合いなんですか?」
「昔勧誘した仲」
「そうか勧誘した仲……勧誘した仲ァ?!」
無風の水面のようだったマクラギの顔が一瞬にして青ざめた。
「リズベットさん、妙なことを聞くかもしれないが、ナナになんか変な事されたこと……あったりする? 変なとげとげ頭の人に引き合わされたとか」
「───」
「大変申し訳ありませんでした!」
リズベットは何も言わなかった。しかしその反応を見てマクラギは察した。大慌てで謝罪するより他無かった。
謝罪する。ナナの話を聞いて直ぐに謝罪行脚に出なかったのは失敗だった。そのことを俺、マクラギは激しく悔いた。
なんでよりにもよってそんな相手がここに居るのだと、見当違いも甚だしい文句を言いたくもなるが我慢する。見当違いの文句をぶつけていいのは茅場晶彦だけだ。
「あのほんと、その辺でいいですから。過ぎた話なんで」
「助かります」
何度目かになる謝罪の末、ようやく彼女からの許しを得た。そうは言っても冷たい顔のままだが。
「少しでも申し訳ないって思うのなら、この後の交渉で少し気をきかせてくれると嬉しいです」
俺の笑みが固まった。これめっちゃ吹っ掛けられるやつである。
醤油のためだけにそんなに譲歩したくないのだが……まぁまぁ、二大ギルドに所属していない攻略組とソロの生産職と縁ができると思えば……ギリギリありか? ありだと思い込もう。
それはそれとしてナナ。お前も他人事のような顔してパフェ食ってないで少しは申し訳なさそうな顔をしろ。大体お前が面倒くさがって、説明をキバオウさんらに丸投げした結果の末だからな。
「OK、できる限りはそうしよう」
そんな思考は露ほども出さず、申し訳なさそうな顔をしながら笑いかけた。
もちろん、交渉は難航した。
アスナ側はカリム水を要求してきているが、それには易々と頷けない事情があった。
あれを作る素材、20層を超えないとほとんど入手できないのだ。その癖、カリム水自体の用途は非常に多い。生産部でも現状2~3本しかない貴重な素材だ。醤油とトレードだとしても損害の方がデカい………デカいよな?
バランスが悪いと言いたいところだが、そもそもナナの熟練度の方がアーガスの想定外なのだ。流石の茅場もここまでリソースを一組織に独占されるのは思ってもみなかっただろう。
「カリム水だけは勘弁して。他の素材───例えば、転移結晶とかウォンバットの時計とか。性能のいいレイピアとかもあるけど」
「いいえ、結構です。それに私のレイピアは、リズに鍛えてもらったこの子に決めていますので」
俺の言葉に頑なに拒否するアスナ。レイピアを引き合いに出したのは失敗だったかもしれない。
それはそれとしても、まだまだ貴重な転移結晶や密かに高騰中のウォンバットの時計で折れないのは予想外。将来的に入手手段が増えて、暴落が確定しているウォンバットの時計は今のうちに処分しておきたかったのだが。
「素材が欲しいならカリム水以外ならほとんどは用意できる。それでも駄目か」
「ごめんなさい。それにも乗れません」
何がなんでもカリム水が欲しい。とでも言いたげな様子だ。攻略組が何に使うんだ。隣の鍛冶屋が必要とでもしているのだろうか。
こうなったらこうするしかない。
「正直に言おう。今生産部にカリム水の素材はほぼない。
だから素材集めに協力してくれないか? もちろん報酬は別で用意しよう」
在庫がないのなら、作成する為の素材を集めればいい。
二人の反応はそこまで否定的ではなければ、肯定的でもない。ナナだけは話の展開をうっすら察したのか嫌そうな顔をしているが。
「とりあえずお話だけお伺いします」
「まぁ話だけなら」
「OK‼」
「という訳で、今回同行させてもらう事になった生産部のマクラギだ。よろしく頼むよ、キリト君」
「……こっちこそよろしく」
久々に会話したキリト君は相変わらずだった。
ここは、岩窟の砂漠。11層のフィールドである場所だ。湿度自体は高くないせいで、暑いことは暑いが、蒸し苦しさはない。
「ゴメン、キリト君」
「例のアレのためなら俺はなんでも耐えられる」
「もう食い意地張ってるんだから」
よだれを垂らして何かを夢想するキリトに、もうしょうがないなーと慈愛の表情を浮かべるアスナ。そんな様子を見ながら、俺はとびっきり苦い蒲公英茶をすすった。
「それはそれとして、マクラギさん──」
「マクラギでいいよ」
「──マクラギはどれくらいの実力なんだ?」
そんなやり取りをしていたかと思えば、真面目な顔つきでキリトはこちらを向いた。
「片手剣と盾の標準的なスタイル。レベルは大体30程度。転移結晶は所持している。
万一のことがあれば、直ぐに逃げるさ。これでも圏外には素材収集で何度か来ている」
「その言葉を疑うわけじゃないけどナー。噂の生産部のリーダーさんの実力見てみたいナー」
「噂の? いったいなん……んん?」
キリトとの会話に自然に割り込んできた存在に気がついた瞬間、俺は発作的に飛びのいていた。
胸の心臓が痛い。この感情は恋ではない。寸分の間違いもない恐怖だ。
そこに居たのは、小動物を思わせる外見に肉食動物すら凌駕する危険性を隠し持った情報屋。
「よう久しぶりダナ。オイラのこと覚えてるカ?」
「情報屋のアルゴ……さんですよね? 5層のボス戦の時にあった」
「正解ダナ」
キリト君の方を見ると、「別の用事でアルゴも同行することになったんだ」と、シンプルな回答。知っているのなら、予め説明してもらえると嬉しかったです。
「いやいや、キリト君と戦ったら私なんて一瞬で蒸発してしまいますよ」
「ハッ、ステ振り的にちょっとやそっとで死にはしないダロ」
「なんでアルゴさん、私のステ振り知ってんですか……」
アルゴは鼻で笑った。
それと同時に目の前に現れるデュエル申請のホップアップ。
「ということで、やろうぜ」
「……お手柔らかに頼むよ」
まぁお遊びにやる分にはいいか。万一クリティカルが出てもキリト君なら死にはしないだろう。
デュエルの申請に了承して、装備を考える。
ルールは初撃決着。雑に言えば、ソードスキルを先に打ち込んだ方が勝ちのルール。
ならば防御よりも素早さを重視したいところ。フィールドもさしたる障害物がない砂漠だ。
というわけで、装備するのは決まった。
ストレージから重い大楯をしまい、代わりに"フローティア・ソード"を取り出す。AGI+10の補正が乗るとても軽い剣だ。その分耐久性は下がるが、流石に一戦かました程度で破壊されたりはしないだろう。
「ちなみにキリト君はデュエルを良くしているのかい?」
「……そういうマクラギはどうなんだ?」
「二ヶ月ほど前にNPCとやったのが最後だ」
黒鉄騎士とやったデュエル。あれは楽しかった。
さて、キリト君という攻略組最高峰を相手にしてどこまでやれるのか。
「胸を借りるつもりで行かせてもらう!」
Q.アスナとリズベットの出会いって何時なの?
A.私が知りたい。
本小説においては、2023年の1月の後半辺りで知り合ったということにしています。(リズベットとキリトの面識はなし) ちなみにキリトとアスナがコンビを解消したのが(SAOの作中年表を見る限り)25層の少し前みたいなので、本話(前線17層)ではまだコンビ継続してます。
でも、原作の描写的に40層以上で知り合ってるのが自然な気がする。
実は"カリム水"自体は原作一巻で(名前だけ)出ていたりする。ゲーム版とかなら出てたりするのかな?(ゲームエアプ勢)
次回更新は、一週間後を予定しています。