ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者 作:眠猫の玉手箱
アスナたちに素材集種の依頼をしたマクラギ。しかし同行する段になって、アルゴから実力が見たいと言われてキリトとデュエルすることとなった。
様子見に放った一閃。それをかいくぐるようにしてキリト君の剣がこちらに迫る。
「ッツ!」
速い! ほぼ反射的に籠手で防いだためダメージこそない。しかし、冷や汗が止まらない。
先ほど放ったあの一閃。あれに含まれていた思考の甘さをキリト君は見抜いていた。しかしそれを見た後、咄嗟にカウンターの一撃を差し込める、その反応速度。
「速いな君は!」
「降参するか?」
キリト君がにやりと笑いながら問いかけてくる。それを俺は首を振って否定した。
確かに反応速度も素晴らしい。だが、仮にも俺はこの世界を創った管理者の内の一人だ。
「いいや、まださ」
これくらいならまだ、何度だって経験している。
先程と似たような軌跡で剣を振るう。違うのはただ一つ。
最初からカウンターに対処する気で放っていること。
「おっとと」
ただキリト君もそれを読んでいたのだろう。カウンターをギリギリの距離、俺が対処不可能な体制になるまで温存していた。
剣を交えることなく、後ろ飛びで距離を置く。
分かってはいたがやりにくい相手だ。とはいえ、木田センパイや茅場とは違いまだまだ付け入るスキは残っている。
じりじりとにじり寄る両者。
「来ないならこっちから行くぞ」
その膠着を動かしたのは、キリト君の方であった。
剣が光る。ソードスキルの前兆だ。
裂ぱくの気合と共に撃ち出されたのは片手剣ソードスキル"スラント"。単発の斜めに切り落とす技だ。
とんでもない速さで剣が眼前まで迫る。
自身の動きをソードスキルの軌道に完全に合わせて、剣を素早く振るうテクニック。通称"ブースト"を完全に使いこなしている。あわよくば避けた後に技後硬直を狙おうと画策していたのだが、そんな余裕はない。
"スラント"の軌道に盾を置く。途端に衝撃が腕を走る。なんとか盾を取り落とさずに済んだが、その間にキリト君は技後硬直から脱している。
「オオッ!」
キリト君は立ち止まることなく突っ込んでくる。ソードスキルを撃って来ないため、盾で逸らしてなんとか直撃は避けることができているが、とても有効打を差し込む余裕はない。嫌がらせ程度に剣でつつくのが精々だ。
このゲームにはスタミナは存在しない。故にキリト君はこちらが音を上げるまで剣を打ち込めるし、こちらはパリィが成立する限りは負けはない。
(というのはあまりに理想が過ぎるかな?)
実際にはいつまでもキリト君相手にパリィを成立させられるとは思えない。それだけキリト君の実力は優れている。それにキリト君はまだまだ余裕が残ってそうだし。
俺は今ワンミスで敗北に陥る所まで来ている。
この状況を打開するには、こちらからリスクを承知でソードスキルを打ち込むしかない。
だがしかし困ったことに───
(目立った隙が無い)
技後硬直を嫌ってか、ソードスキルを撃って来ない。いくらブーストを使いこなしているとはいえ、二回目ともなれば、(茅場・木田ほどでもない限り)ある程度の隙も見えるというものなのだが。
剣が頬を掠める。致命打ではなかった。
しかし今の瞬間、完全にキリト君の剣技が俺の防御を上回っていた。
もう猶予はほぼない。
盾を微妙にずらす。あたかも隙ができたのかのように。
賭けだった。これにキリト君が乗って来なければ俺の負けだ。
ソードスキルの光が溢れて剣に衝撃が走る。俺は、賭けに勝った。
キリト君はソードスキルを使用したのだ。俺が"スラント"を使用したコンマ数秒
「!!」
このままいけば先に技後硬直に陥るのは俺だ。
だが、これでいい。
ソードスキル同士がぶつかりあった。
キリト君が驚いたような顔を浮かべる。キリト君は予想していなかったはずだ。
だがしかし偶然ではない。
タイミングと打ち込んでくる場所さえ分かれば、こうするのは可能だ。
このまま守り切れれば、キリト君のソードスキルが俺に当たる前にキリト君も技後硬直する。
そして今までのデュエルの様子を見る限り、技後硬直から先に回復するのは俺だ。後は速攻で無抵抗なキリト君にソードスキルを打ち込めばいい。
(勝った!)
そして、技後硬直に陥った瞬間に俺は勝利を確信した。
とたん背中に走る悪寒。
何かを見逃している?
ソードスキルのMODである技後硬直短縮は今までの戦いを見ている限り、キリト君は俺と同じくLv1しか伸ばしていない。
故に硬直時間はほぼ一緒。俺には0.15秒ほどのボーナスタイムが与えられている。
熟考している余裕はない。直感を無視して、"スラント"を発動した。
狙いはキリト君の胴体。
疑念はありつつも、勝てるだろうと思った一撃だった。
キリト君が、にやっと笑った。
その一撃が当たるはずのないキリト君の剣に当たった。
「え゛っ?」
発動していたのだ。キリト君が、俺よりも先にソードスキルを。
先程の思考が頭をよぎる。
(
とは言えだ、技後硬直に陥っていたキリト君に許された猶予は僅か0.15秒。
その僅かな時間で彼は反応しきったのだ。
なんという反応速度だ。
既に俺はソードスキルは発動している。対応できるはずがなかった。
キリト君の"スラント"が俺の体を貫いた。
目の前に出現した"You Lose"のリザルトが、俺の敗北を証明していた。
「勝てないだろうって思ってても、いざ負けると悔しいもんだな」
「結構こっちも危ない所だったけどな。マクラギ防御硬くて中々打ち崩せなかったし」
「防御だけが良くても、ダメージを与えられなきゃ勝てないんだけどな」
やっぱつえぇな。と、大楯に装備を戻しながらぼやく。
そんな俺をしり目に、アルゴが上機嫌で鼻歌を歌っている。デュエルには負けたが実力は判断できたのだろう。
今俺達が進んでいるのは、"ジャウアーンの洞窟"というダンジョン。近くの村の目立たない場所でクエストを受注できるのだが、そのクエスト達成報酬にカリム水の素材である"ムルクの種"が手に入るのである。
が、このクエストには罠がある。
事前に得られる情報からは、いわゆる"お使いクエスト"のような印象を受けるが、実はその道中でボスとして中々の強さを誇るゴーレムが一体乱入してくるのだ。
このゴーレムが11層基準だと、攻防揃った難敵だ。しかも経験値はスズメの涙。クエストの報酬は"ムルクの種"以外は良いとは言えないし、11層当時では"ムルクの種"には使い道がなかった。
そのため情報が出回るにつれて、このクエストはゴミクエと蔑まれて敬遠されていったのだ。
とは言えだ。現在前線は17層。当然、最前線を駆け抜けている二人には今更11層の強敵なんて今更が過ぎるわけで───
「こ れ は ひ ど い」
目の前で件のゴーレムこと、"Khabith Golim"がボコボコにされていた。
いや強いんだよ。生産部のメンバーでギリギリ倒せずに撤退を選択したくらいには。
しかし、目の前でキリト君やアスナさんが剣を振るう。そのたびにゴーレムの体力バーが豆腐のように削れていく。サポートしたいが、2人の間に割って入れる隙が無い。
「これでとどめだ‼」
結局、俺は一撃すら入れることなく"Khabith Golim"は撃退されてしまった。あのゴーレムが最後に"えっ?強すぎじゃないですか、お二方?!"と驚いた顔を浮かべていたのは───気のせいだ。気のせい。うん。奴は犠牲になったのだ。圧倒的実力差という暴力のな。
「お疲れ様。手伝えなくてごめんね」
「いやいや、手を借りずに倒したのはコッチだしあんまり気にしないでくれ」
「キリト君がバンバン突っ込んでいくからだよ」
「そういうアスナだって速攻で決めるつもりだったじゃないか」
「アレは君の動きに合わせてただけでーす」
「えー」
ホントかなぁ? みたいな声を出すキリト君を横目にアスナさんがこちらを向く。
「これで後はキーアイテムを回収して、村まで届けるだけでしたよね」
「そうだね。先ほどカリム水に必要な別の素材も採掘したし」
「オイラの用事は済んだしナ」
ちなみにアルゴの用事は、このダンジョン奥地のみで入手できる植物だったらしい。
「しかし、採取目的だったら市場に出回るのを待てば良かったんじゃないか」
「そういうわけにもいかない事情があってナー。情報が出回らない内に大量に確保しておきたかったんダ」
「なるほどな」
アルゴがシダのような植物を見せびらかす。
記憶に残っていない植物だが、アルゴが集めているのだから今後何らかの需要が発生するのだろう。
一応俺も多少採取しておいたので、後でナナにでも渡しておこう。
「そーいうナラ、マクラギこそ生産部で取りに来ればよかったんじゃないカ?」
「生産部だと実力不足。ALSの攻略部隊からは経験値効率が悪いし難易度も高いと難色を受けた」
「ホー」
生産部としては残念な話だ。
とは言え、キバオウさん側の事情も理解できる。たかだが上位の回復アイテムを数点入手するためだけに、このクソクエに人手は回したくなかったのだろう。
俺としても20層以降で入手が緩和されることを(開発時の知識で)知っていたので無理に推し進めなかったし。
この件で文句を垂れていたのはナナだけである。
この時、村に帰るだけになったことに安堵した俺は、少し気が緩んでいた。
もしこのまま何事もなければ、この慢心した精神のままだっただろう。
その慢心は───
「ん?」
「?」
「ン?」
キリト君とアスナさん、そしてアルゴさんが急に足を止めたことによって、消えることとなる。
「どうかしたのか」
不審に思った俺もつられるようにして立ち止まり───
「全員、走るぞ」
「うん!」
即座に走り出したキリト君とアスナさんに置いていかれた。
なになに? なにが起こったの?!
通常ダンジョンで走る行為は厳禁とされている。なぜならば、音に反応したモンスターが一気に寄ってくるからだ。
そんな禁止事項を破るということは、緊急性の高いなにかが発生したに違いない。
モンスターにタゲられないように、反射的に気配遮断を発動させながらキリト君達の跡を追った。
幸いなことに、キリト君達が足を止めるまでモンスターとは一体しか出くわさなかった。運悪く出くわした黒色のサソリ(爆発が厄介)は、即座に撃退されていた。
アルゴが何らかのお香___恐らくモンスター避けの効果があると思われる___を使用していたのも大きいのかもしれない。
キリト君が足を止める。
その先には安全地帯があり、そこにはオレンジプレイヤーが四人いた。
「ヤバい、誰か来ちまった!」
「あれは攻略組のビーター。閃光と鼠もいるぞ!」
「オワタ」
慌てるオレンジプレイヤー達。
よくよく見れば、オレンジプレイヤーの足元に麻袋を被せられた誰かがジタバタしている。
ここにきてようやくキリト君達が突然走り出した理由が分かった。俺には聞こえなかったが、麻袋が発した悲鳴でも聞きつけたのだろう。
「なにをしているの!」
アスナさんが叱責する。それを聞いてオレンジプレイヤーは更に混沌に陥ったようだ。
「どうする?!」
「見られたからにはやるしかないだろ!?」
「馬鹿! 勝てるわけないだろ!」
「だからお前が行け! 俺は逃げるから!」
「「このクソ野郎が!」」
キリト君が手を叩く。言い争うのをやめ、おずおずとキリト君の方を向くオレンジプレイヤー。
「聞けオレンジ共。即刻武器を捨てて自首してくれ、そうすれば危害は加えないと約束する」
「逃げるナラ情報を広めてどこまでも追い詰めてやるからナ」
「ちょっと待て! 生産部が黒鉄宮を陣どっていて、牢から解放されないのは知っているんだ! やだよそんなん!」
(いやそうだけども……)
オレンジプレイヤーが言ったセリフは、たしかに事実の一端をついている。生産部が黒鉄宮を拠点にしている都合上、牢にいるプレイヤーを解放しようとしたら必ず俺達の目に留まるのだ。
当然怪しい奴が罪人を解放していたら止めざるを得ない訳で。
そんなことを繰り返していたら、今では牢の管理員のような扱いを受けている。
俺達としてはできればALSとDKBの二大ギルドに管轄してほしいのだが、両ギルドとも面倒くさがって関わり合いになろうとしてくれない。最近になってようやく、始まりの街で炊き出し等を行っている慈善団体である"ギルドMTD"が手助けしてくれているのが救いである。リーダーのシンカーさんマジ聖人。
とは言え、オレンジプレイヤーがイメージするほど環境は地獄ではない。ちゃんと(他人が)経緯説明してくれさえすれば開放するケースが多いし、開放されない間も最低限の飯を出してやってる。
それでも悪質な場合は解放するのを邪魔するんだろうって? それはそう。
「キチンと事情を話すナラ、オイラから口添えくらいはしてやるから。そうそう酷いことにはならないダロ」
「逃げ続けるのは大変だぜ。楽になっちまえよ」
「くっ、オイお前らどうするよ」
「俺は降りる!」
「もうダメだ武器を捨てるしかないんだ」
「勝手に諦めてろ! 足止めは任せた俺は逃げるから」
「「卑怯者め!」」
アルゴとキリトが迫る。それを見て堪忍したのか大多数は武器を放棄した。
しかし、どこの世界にも諦めの悪い人種というのは居るというもので。仲間から散々な言われようの男が実に美しいフォームで逃げ出す。
アルゴたちがいない方、俺が気配遮断で隠れている方へと。
「わっ」
「ぎゃああっづ?!」
こんなこともあろうかと、会話している隙に気配遮断を使用しつつ後ろに回って正解だった。
突然現れた俺に驚いている隙にナイフを刺す。麻痺毒をたっぷり塗り付けたナイフだ。装備によって最低限の麻痺耐性は用意していたのだろうが、今回使用した麻痺毒はレベル4。現状プレイヤーに用意できる最大レベルの前では無駄である。
こうして逃げ出した男は、何もできずに地に倒れ伏した。
「あの突然現れたオッサン誰か知ってるか?」
「いや分かんねぇ。なんだあのオッサン」
「不意打ちしかできないオッサンなんてどうでもいいよ。もう俺達はおしまいなんだから」
なお、無抵抗のオレンジ共からはオッサン扱いされていた。なんでや! 俺はまだ若い!
苛立ちを舌打ちにこめて振り切る。
「おみごとダナ」
「今のは麻痺毒か?」
「そーそー。レベル4だから刺し続けている限りは大丈夫だろ」
それを聞いて、キリト君はようやく麻痺したオレンジプレイヤーから目を離した。既に行動しているアルゴに習って、オレンジプレイヤーを全員縄で縛る。
「大丈夫でしたか」
アスナさんは、囚われているプレイヤーの救護へと向かった。
そして俺は、そこから出てきた意外な人物に眼を丸くすることになる。
「ぷはー。助かった。誰だか知らないけど助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。大丈夫でしたか」
「はい問題ないです!」
アスナさんの問いに顔を真っ赤にして答える男の肩を、俺はギリギリダメージにならない程度の力で叩いた。
「いてッ、誰だ……」
「君の上司だよ。随分と愉快な場所で会ったね。フ ァ ン ラ く ん?」
相手の照れ顔が一瞬で青ざめ、石像のように固まった。
何を隠そうそこに居たのは生産部随一の問題児、DKBを爆破する要因を作り生産部の評判を地まで貶めた男、ファンラであった。
壊れた玩具のような不安定な挙動で辺りを見渡す。
どうにかして活路を見出そうとしているようだ。
「くっ急に体調に問題が」
「お前さっきまで問題ないって言ってただろ」
「そもそもあなた誰ですか?」
「お前のところの上司だよ。散々迷惑かけといて知らん顔とは泣けてくるな」
「じょーし? 私ソロプレイヤーの……ファン・ラ―ですけどー」
「お前はどこの神様だ。偽名がそのまんま過ぎるだろ」
「じゃぁマクラ・ギーにします。担当は爆発の神で」
「俺の名前を騙るな」
「いいじゃねぇか。俺の知名度と栄誉が全部アンタに還元される」
「お前が得られるのは、悪名と恥辱だけだ。
というか俺の名前を知ってる時点で、お前はファンラだろ」
あっと声をたてて固まるファンラ。長々と言い訳を始めたんだから、せめて最後まで貫き通すくらいの覚悟をしろよ。
胃が痛い。仮想世界の胃に効く薬をくれ。というか茅場死んで俺達を解放してくれ。冗談抜きにそれが一番の薬だ。
「知り合い…なのか?」
「生産部のもんだいじ___もとい、一部員だ。ファンラという」
「研究職で、趣味は爆発です。よろしくお願いします!」
一応整えてやった体裁を投げ捨てて、極めて狂気的な自己紹介を(主にアスナに向けて)するファンラ。
これでもDKB吹き飛ばした後くらいは流石におとなしくしていたのだが、今ではすっかりこんな調子だ。
あー腹が立つ。
「それで、君はどうしてこんなところにいるんだ?」
「いやその、俺がどこに居ようがマクラギさんには関係ないだろ!」
本題に戻るがファンラは居直り、素直に話してくれそうにない。
「確かにな。ところでファンラ、ここにはサソリ型のモンスターが出るらしいな」
「……」
黙り込むファンラ。どうやら推測は残念ながら当たっていたようだ。
先程一蹴された黒色のサソリ、そいつの主だった攻撃手段は爆発である。そのせいなのかドロップ品に火薬が含まれている場合があるのだ。
ファンラと火薬。犠牲になったDKBの皆様方(+ラサキ)を思い返せば分かってもらえるだろう。とてつもなく聞きたくない組み合わせである。
あのDKB爆破事件以降、こいつには極めて厳格に絞られた火薬しか渡さないようにしている。備品も盗まれないようにセキュリティも見直した。
それが不満なのだろう。ちょいちょい苦言を呈されていたが全て断っていた。
きっとファンラは考えた。考えた末に、直接圏外に出向いて火薬とその他もろもろを確保することを思いついたのだろう。こいつの考えそうなことだ。
「とりあえず無事でよかった」
現在ファンラのレベルは15程度はある。しかしそれは全て生産スキルの副産物であり、実際の戦闘経験はほぼない筈だ。よくこんなダンジョンの奥地まで来れたものだ。
呆れ半分にため息をつく。
「それで、どうしてこいつらに襲われたんだ」
「ダンジョンを歩いてたら突然麻袋かけられた。どうせ襲われるならこんなありふれたやり方じゃない方が良かった」
「犯罪の手口に斬新さを求めるな、阿呆」
ピンチだったというのに暢気なものである。仮にもこれは死んだら終わりのデスゲームだってことをこいつは理解しているのだろうか?
「ありふれてない襲撃の手順ってなんなんだろうな」
「さぁ……少なくとも爆発は関わって来ないんじゃないの?」
「アスナさん、ギリギリ笑えないんでやめて」
生産部は爆発事故が多発する場所じゃないのに、パブリックイメージとは誠に恐ろしいものである。今のところ大きな爆発事故は3件くらいしか発生していないから。外部巻き込んだのもDKBとの一件だけだし。
地道な奉公で、いつかはそんなイメージを拭い去れればいいのだが。
大爆笑してる情報屋を見る限り無理だろうけど。
「で、そっちはなんでファンラをさらおうとしたんだ」
「アンタ生産部の偉い人なんだよな! 全て話す。だから俺の罪を軽くしてくれ!」
オレンジプレイヤーの内一人が騒ぐ。一人逃げ出そうとした奴だ。どうやらファンラとくだらんコントをやっているうちに麻痺が切れたらしい。縛られているので逃げる心配はないが、うるさい。
「生産部如きに罪の重さをどうこうする権限はないよ」
「なら何もしゃべらない! それだとアンタも困るだろ!」
一々癪に障るやつだ。
俺達にそんな権限あるわけがない。そりゃやろうと思えば、無実のプレイヤーをずっと閉じ込める事くらいやれるけどやらんよ。
しかし、そんな俺の純情な想いなど、卑怯なオレンジプレイヤーが拾う筈がない。
「全く──生産部をどんな組織だとと思ってんだ」
「攻略組を爆破するロックな集団」
「いや俺は攻略組に限りたくない!」
「もうやだ」
小さな愚痴に悲惨な回答を出されて更に頭を抱えた。
本来だったらアーガスで自分の夢を進められていたというのに。
なにがどう狂って仮想世界に閉じ込められて、人様から人差し指で刺され、部下がほぼ犯罪者で、犯罪者を前にして、攻略の面倒事に対処しなければなければならないんだ。
何かがプッツンと切れた───そんな気がした。
痛めつけてやろう。ファンラを。全ての元凶ではなく、多少の元凶を。
「冤罪盛られたくなきゃ少し黙ってろ」
「おっおお」
何かを察したのかオレンジプレイヤーが黙る。
しっかりと片手剣を握りしめて、俺はファンラの方を向いた。
「ファンラ、これなーんだ」
「それはドロップ率極小のレアアイテム、イスティラハの原石! 純度が高いほど性能がいいが少しの衝撃で壊れやすい。加工する職人の腕が問われる品だ! まさかくれるのか? 純度は!」
「78% かなりの良品だな」
ガラスのように透明な石をファンラに見せびらかすように振りかざす。ファンラは羨望のまなざしで手を伸ばすが当然取らせるわけがない。
「ファンラ君。もう一度聞くよ、君はどうしてこんなところにいるんだ?」
「そんなことよりそれくれよ、それ! それくれたら話すから!」
どこまでもいってもファンラらしい言葉だ。笑えてくる。
「ファンラ君はなにか勘違いをしているようだね」
イスティラハの原石を上に向かって投げる。
絶叫するファンラ。このまま地面に落ちれば砕けるのは確実だ。
しかしファンラの動きは速かった。即座に着陸地点に飛びこみイスティラハの原石を回収しようとする。インドア派というのに凄まじい反応速度だ。ストッパーのない欲望というものはこうも動きを変えるものなのか。
イスティラハの原石が落ちる。そしてファンラの手に収まる。
そうなる一瞬前に俺は剣を振るった。
当然の結果として破壊されるイスティラハの原石。-950コル。
「あああぁぁぁぁおッ」
ファンラの汚い悲鳴が響く。こいつはあらゆる素材で実験することが好きだ。例えそれで素材が無意味に消費されたとしてもそれはそれでファンラとしては満足なのだ。
だからこそ、この手はファンラには結構効く。ファンラのたぐいまれな想像力で、もし実験に使えたらを想像してしまうのだから。
「なぜイスティラハの原石は壊れたと思う」
「なぜもなにも、マクラギさんが壊したんじゃないか! この非道者!」
ファンラを嘲笑うようにふっと鼻を鳴らす。
「いいや、君のせいだ」
「なっ」
何事か言い募ろうとしたファンラの前で更に希少鉱石をぶち壊す。-630コル。
「またしてもぉおおッ!」
ファンラの汚い悲鳴が響く。
「君が理由を聞かれて、はぐらかそうとするからいけないんだ。ほい次」
「さんどめぇッ?! もうやめてぇ?!」
硬質な音をたてて希少鉱石が割れる。-430コル。
段々こっちの心もしんどくなってきた。心と書いて財布とも読む。
「どうして理由がわかったら直ぐに行動しないんだい?」
「火薬が欲しくて、なんとか入手手段を探してたら、ギルドの掲示板にこのダンジョンの情報が載ってたんで何もか考えずに突っ込んできました」
「素直でよろしい」
ようやく陥落したファンラを見て舌打ちをする。初めから素直になってれば俺の財布がしんどくなる必要もなかったというのに。
それはそれとして、ギルドの掲示板にそんな情報を載せた考えなしは一体誰だ? その手の情報を載せるのは、(一部メンバーの暴走を招くため)禁止事項にしてた気がするのだが……生産部のメンバーも最初期と比べて結構増えたからな。周知が徹底されていないのかもしれない。後で確認しなければ。
「ファンラ圏内に帰るぞ……異論はないな」
ファンラは一瞬悲し気な顔をしたが、希少鉱石を剣先でつつけば頭を縦に振った。
「ないわけが……ありませんです」
「そうか。圏内に入るまで大人しくしてろよ」
そう言ってイスティラハの原石(純度89%)を投げわたす。-1,170コル。
これでファンラは10分ほどはおとなしくしてる筈だ。
「話終わったー? なら早く俺の罪を軽くしろー」
という訳で、放置していたオレンジプレイヤーをどうにかしなければならない。
「アルゴさん。アレ任せていい?」
「冗談ダロ、生産部部隊長様?」
「……生産部の役割じゃないんだけどな」
この後、早期解放を仄めかしてに色々聞き出そうとした。
しかしはぐらかすばかりで重要なことは何も話さないので、"このもの重罪人なり。飯抜きでOK"とメモをつけて牢に送付した。
こうすれば、黒鉄宮でひとまずはワザマ辺りが何とかしてくれるだろう。
キリト目線
「悪いが先に俺は転移結晶で帰らせてもらう。ファンラを連れまわすわけにはいかないしな。報酬の話はまた後日にさせてくれ」
「かまいませんのでお気をつけて」
「助かる。日付は追って連絡するからよろしく。ほら、ファンラ」
ギリギリと音がしそうなほど、ファンラを握りしめたマクラギが転移結晶を掲げる。
「「転移はじまりのまち」」
そうしてこの場から生産部の面々が消える。後に残ったのは、キリトとアスナ。そしてアルゴだけ。
「なあアルゴ、今日はなんで突然着いてきたんだ」
「ン―?キー坊はおねーさんに会いたくなかったのカナ?」
「いやそういうわけじゃないんだけどさ」
そしてようやくキリトはアルゴに気になっていることをぶつける。すなわちアルゴは何の目的が
あったのかと。
「薬草だけじゃないですよね?」
「なんだ分かってたカ、キー坊もアーちゃんも悪い奴ダナ」
アスナもキリトと同じ感覚を抱いていたのだろう。やっぱりと呟く。
薬草程度だけならば、わざわざ彼女が足を運ぶ必要はなかった。
「ナラ話が速い───あの生産部部隊長様を見てどう思っタ?」
「マクラギか」
戦いを思い返す。久々の……ひょっとしたらβテスト以来の気楽に本気で挑めるデュエルだった。
「動きが妙な人だったな。」
「どういうこと?」
「攻撃を捨てて防御に走ったスタイル。でもどこか本人にそぐわないというかなんというか」
口を開くことに、モヤモヤとした思考が言語化される。
「このゲームで大楯持ってる人って、少なからず死にたくないから持ってる人が多いんだと思うんだよ」
「まるで軽装なプレイヤーは皆死にたがりみたいな言い方ね」
「少なくとも初めて会った時のアスナは、抗うけどいつかは死んでもいいみたいな戦い方だっただろ?」
「あの時は………そうだったかもね」
「キー坊の言う通り、確かにそういった傾向はありそうダナ」
アルゴの御墨付けを得て、再び思考をまとめる作業に移る。
「けれどあの人は余裕があった。普通のゲームに真剣に挑んでいるかのような───それこそ、死にたくないけど死んでもリカバリーができるとでも言いたげな───」
「気楽さってこと?」
「そう、その通り」
なるほどナー。と、アルゴが何かに感心したような表情を浮かべる。
「キー坊は、理由についてどう考えてンダ?」
「多分だけど、βテストの時の感覚が抜けきってないんじゃないか。それか何かしらの切り札を持ってるのか」
「案外考えなしだけなんてオチかもね」
「ニャハハハ! オイラとしてはアーちゃんの意見が一番楽しいナ」
アルゴは爆笑した。
「ちなみになんであの人のことを探ってたんだ?」
「悪いガ、それは話せないゼ、キー坊」
「そうか……ん?」
キリトの思考が止まる。相手はあのアルゴだ。自身のステータスすらコルを積まれれば売りさばく情報屋だ。そんな彼女が話せない?
確かに俺たちは、アルゴに口止めを頼んだことがある。けどあれは必死に頼み込んだ結果であって、そう簡単に頼める内容ではない。
「そんじゃオイラも帰るゾ。またな」
「アルゴ何があった。話せないって一体」
「じゃあナー」
転移結晶の音が再び響く。
キリトの問いを無視して、アルゴは行ってしまったのだ。
「どうしてアルゴさんは、マクラギのことを探ってたのかしら」
アスナが呟く。キリトはそれに対する答えを持っていなかった。
この時は。
次回更新は一週間後を予定しています
人気がなさすぎて読者層が似ている作品が本作品から消えたのが悲しい。あんまり参考になってなかったとはいえ。