ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

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ラーメンフェス

 快晴の日。紙吹雪が飛び交いラーメンフェスの開催を祝っていた。

 リョウケンによるラーメン開発は、アスナさん提供の醤油の存在により順調に続いた。開発に成功した数、およそ40種類。

 材料と予算の都合で実際に提供できるのは30種類だけだが、それでも数としては十分だろう。

 

「ザイム、売れ行きどんな感じ?」

「見てわかるだろ、最高だ。もし仮にここから一切売れなくても黒字だ」

 

 ウハウハと中々癖のある笑いを浮かべながらザイムが動き回る。一応売り上げのデータも確認するが彼の言う通りだろう。キチンと計算しなければならないが、少なくとも大規模な横領の痕跡は見つからない。

 

 しかし凄い売上だ。ザイムほどではないが、俺としても少々ホクホク顔にならざるを得ない。これならば目標金額にも届くだろう。首尾よくいけば来週から新拠点だ!

 

 とは言え油断は禁物。

 

 ザイムと別れて、VIP室に向かう。VIP室はNPCが貸し出す宿の一室だ。当然破壊不能オブジェクトのため、これならばファンラが暴走しても爆破されないだろう。爆発オチの繰り返しなんて御免だ。そもそも今回のイベントでは火薬の類は一切使用していないが。

 

 VIP室に居たのはキバオウとリョウケン。リョウケンの前には調理道具が所狭しと並んでおり、その前で忙しそうに調理を行っている。キバオウはただ食事をしているだけだ。

 こちらに気がついたキバオウが大きく手を振る。

 

「わざわざすまんな、マクラギはん」

「いえいえこちらこそ、忙しいところありがとうございます、キバオウさん」

 

 リョウケンはとても忙しそうなのであえて声はかけない。

 

「聞いとくが当初の目的、ウリエルの捕縛はどんな感じや」

「空振りですよ。少なくとも目立った行動は起こしていません」

「まぁせやろな」

 

 対して興味もなさげに呟く。元から空振りで終わるとは思っていたのだろう。落胆した様子はなかった。

 けど、作戦の提案者なのだからせめてもう少し興味を示してほしかった……というのはアレか。興味示されたら示されたで困るけど。

 

「雀取りの罠も仕掛けてありますが、引っかかった奴は居ません」

 

 フェスの会場。その入り口に、雀取りの罠を人間大のサイズでも捉えられるように改良した罠を仕掛けているのだ。ちなみにエサは塩ラーメン……を使うのはちょっと勿体無かったので、ただの色付きの水をひたすらに熱している。

 

「むしろアレ引っかかるやついるんか?」

「普通は居ないでしょうね」 

 

 居てたまるか。仮に(ウリエル)が何も知らなくても引っかからなかった出来だ。

 

「まぁ人集めのモニュメントとしては丁度いいでしょう」

「不審な目で見る奴しかおらんかったで」

「しーらない」

 

 明らかに罠にしか見えないからね。目的が分からなければ、意味が解らないだろう。というか、冤罪をかけられる可能性も考慮すれば、誰も引っかからないほどチープであればあるだけいい。

 

「一応塩ラーメンを注文したプレイヤーの名前はメモしてあります」

「むしろそっちの方が本命やろ。先に言わんかい」

「けど、量が多いのであまり役立ちそうにないです」

「"スガーア"で食べられん味やからな。そうなるやろな」 

 

 あの忌々しいラーメン屋"スガーア"では醤油ラーメンと味噌らぁめんしか食べることができない。今回のフェスでも当然用意しているが、その二つの売れ行きは他のと比べるとどうしても劣っている。それでも十分すぎる売上だが。

 

「ちなみにラーメンはどうでした?」

「うまい。"スガーア"から乗り換えることを真剣に検討するレベルや」

「恐縮です」

 

 リョウケンがわざわざこちらを覗いてくる。

 

「売り上げがいいので、俺としてもまたやりたいですね。負担がでかいので頻繁にってわけにもいかないですけど」

「せやろな」

 

 キバオウは軽く頷いて……何かを思い出したかのようなリアクションをする。

 

「せやせや、マクラギはんに言わなきゃアカン事があった」

「なんでしょうか」

「生産部の運営に私財投入するのは止めてくれんか」

「んんん?」

 

 にゃんでばりぇてるの?! おっ落ち着け。まだあわわわ。

 運営に自らのポケットマネーをつぎ込んでるのは事実だ。しかしそのことは誰にも話していないし、簡単にバレない様に帳簿やなんかは偽造している。その偽造のクオリティは、実務経験が多いザイムですら見抜けていないほどだ。

 

「そんなことない……ですよ?」

「そうか。否定するんならそれでもええ」

 

 キバオウが俺の反応を聞いて、慌てて付け足したように言う。

 

「別に責める気はないで、初期の頃はあまり予算を用立ててやれんかったしな。それでも今は違うやろ。生産部が生産職のシェア握って、余裕もある。マクラギはんがそんなことをしなくてええんや」

 

 キバオウは真摯な表情を浮かべて言った。ただ覚えといてくれ、と。

 

「ワイはマクラギはんをつぶしたいわけやない。このクソゲーを攻略すんのには、()()までアンタの助けが必要や」

 

(最後までか)

 

 一フレーズを反芻する。

()()()()の最後はどうなるかは分からない。ウリエルのように正体がばれて逃げ出す羽目になるかもしれないし、案外これ以上誰にもバレずにずっと生産部で部隊長をやり続けることができるかもしれない。

 

(最後まで出来ればいいな)

 

 これでも気に入っているのだ。半ば思い付きで始めたような鍛冶業務。それを通じて得たあの組織と仲間を。

 

「受け止めておきますよ」

 

 例え最後まで全うできなくとも、それまでは。

 

「……ちなみになんで生産部の運営に私財投入してるなんて考えたんですか?」

「マクラギはんをよく見ていてくれる奴から教えてもらったとだけはゆうとく。後は言わん」

 

 それはそれとして、誰?情報源誰なの?正直ちょっと怖いんだけど?

 

 

 

 キバオウと別れて、塩ラーメンを食べ歩きながら会場を進む。

 久々に食べた塩ラーメンは控えめに言って最高であった。

 あっさりとした海洋系の出汁。これに使われいるのは、6層の浜辺に生息している海老だ。こいつはよく煮込むと、(リョウケン曰く)まるでロブスターのような濃厚な出汁が取れるのだ。現実世界でロブスターなんて食べるどころか見たことすらないが、こんなに美味しいなら食べてみたいものだ。

 

 これらならば、生産部の圏外に出れるメンバー総出で乱獲した甲斐があった。そんな感想をこぼしながら、待ち合わせ場所へと向かう。

 

 人が少ない隅の方。そこに隠れるようにして待ち合わせ相手は居た。

 

「こっちですよ、マクラギさん」

「ありがとうございます。ラサキさん」

 

 髪を隠すように被っていた帽子を取る。それだけで普段より伸ばした髪が溢れ、彼女の印象が大きく変わる。

 

「髪…」

「またまた伸ばしてみました」

 

 彼女はよく髪型を変える。今朝ラーメンフェスの準備のために会った時はショートだったし、この前二人で刺身を食べに行った時はロングだった。なんでコロコロ変えているのかは分からないが、俺的には黒のロングが好みなんで、本当にありがとうございます。

 

「マクラギさん的にはどう思います?」

「今の髪形もいいと思いますよ。ラサキさんのような落ち着いた女性にはあってると思います」

「そうですか」

 

 ラサキがらぁめん(味噌味?)をすする。影になって俺からは表情を伺えない。……ひょっとして俺の返答きしょかった? と不安になるが、言った言葉は取り消しようがない。

 

「フェス楽しんでますか?」

「楽しんでますよ。ちなみに私の一押しは鶏ガラ濃いめのの味噌ラーメンです」

「なるほど、味噌らぁめんですか」

「変な風に訛ってません?」

「あー。いつの間にか知り合いのが移りましたね」

 

 いつも通りそんなどうでもいいことを話しあう。

 

「そういえば、キバオウさんから話されました?」

「ウリエルのことですか? 当然キバオウさんの方も成果なしです」

 

 その件ならばラサキだって分かっているだろうに。

 

「もしかして、ウリエルについて何か進展ありました?」

「あるわけないですよ」

 

 えらくバッサリと切る。(一応)罠も仕掛けているというのにだ。

 

「そんなことじゃなくて、マクラギさんの私財投入の件ですよ」

「……ほう?」

 

 ラサキの声が、急に底冷えしたかと錯覚するほど低くなる。

 俺としては、ラサキがそのことを知っているのが驚きだが、顔にはギリギリ出さずに済んだ。

 

「……どこで知ったんですか? そんなデマ情報」

「デマじゃないですよね?」

 

 そう言ってラサキがいくつか書類を取り出す。見覚えがある。あれは、ALSからの支援金について書かれた書類と生産部の帳簿(コピー)だ。

 

 なるほど、まだ慌てる時間ではない。

 俺が行っている帳簿の偽造は、確かに攻略組からの支援に紛れ込ませる形でも行っている。しかしだ、生産部に置いてある書類からでは絶対に分からない。支援金を受け取って書類を作成した時点で矛盾のないように偽造しているからだ。この工程に他人の手は介入しない。支援金に関わっているのは生産部では俺だけだ。

 

 だからこそ書類からでは絶対に分かるはずが───

 

「ちなみに支援金の書類に関してはALSの攻略部からもらってきました」

「え゛゛っ」

 

 それは無理。

 

 もちろん俺もALSから判明する可能性を考えていないわけではなかった。しかし、ALSの攻略部の担当者(大体キバオウさん)は雑だから領収書なんて書いていない。以前それとなく聞いてみた時も"めんどうや"の一言で片づけられてしまった。

 だからこそバレるとは思っていなかったのだが───

 

 支援金の書類を軽く点検する。書体は生産部のものとは違うが、金額は本来のと一致している。

 

「これは───言い逃れできないな」

「なぜこんな事をしていたか教えてもらっても?」

 

 降参を示すように、両手を挙げる。

 

「生産部の維持のために、初期からやっていた」

「生産部が大きくなった今になってでもですか?」

「止める理由が無かったからな」

 

 今の俺にとってコルはそこまで重要視していない。圏外に出ればある程度は賄えるし、いざとなれば以前管理者権限を使って引き出した結晶アイテムを売るという手もある。

 だからこそ、生産部が大きくなり収支が黒字になった今でも続けていた。

 

「マクラギさんは真面目過ぎるんですよ。生産部は大グループとは言え、ただの一グループに過ぎないんです」

「"ただの"って……」

「"ただの"です」

 

 不満げに漏らした言葉は、バッサリと両断される。

 

「ただのギルドを発展させるためだけに、マクラギさんの身を粉砕してどうするんですか」

「いや、身までは粉砕していない。精々髪の先端くらいで───」

「マクラギさんの勤務を見て、身を粉にしていないなんて言う人はいません」

 

 そう言ってラサキの口から飛び出るのは、普段の俺の勤務体制。圏外に出ない日は16時間勤務をしているとか、放置しておくと昼飯も食べようとしないだとか、夜遅くまで部屋の明かりがついているとか。

 

「いやなんで俺の部屋の明かりのこと把握してるの?」

「だってマクラギさん、黒鉄宮から徒歩30秒のところで部屋借りてるんですから。例え嫌でも目に入りますし、大体皆気がついてますよ」

 

 至極真っ当な理由だった。ちなみに職場から徒歩30秒圏内に部屋を借りている理由は、職場で寝てるとワザマやナナがうるさいからである。

 

「なんでマクラギさんはここまで……」

「この場所が気に入ってるからですよ」

 

 笑って本心を言う。

 

「だからこそ存続させ───「嘘ですよね」

 

 差し込むようにして発せられた言葉に、思わず動きを止める。

 

「いや、嘘じゃないんでしょうね。きっとアナタはそれが本心だと思っているんですよ」

 

 なぜかラサキの顔を直視できない。唯一分かったのは彼女は憐れんでいるということだ。俺を。

 

「マクラギさんは"自分自身の価値を()()()()()()()()()()()()からなんですね」

「なにを───」

 

 言っているのが分からなかった。

 

「マクラギさんはパフォーマンスさえ維持できるなら、文化的でも健康的でもない最低限の生活を送れる」

 

 その一方で。

 口を挟む間もなく、ラサキが更に話を進める。

 

「全ての人がマクラギさんと同じやり方ができるとは思っていない。だからこそ、パフォーマンス維持のために生産部はホワイトであろうとしているのでしょう?」

 

 ラサキの言う通りだ。

 アーガス社のやり方ではついていけるメンバーは少数。人材の変えがほぼ不可能なこの世界では、そのやり方ではやっていけない。

 

 俺が頷いたのを確認してから、ラサキが問う。

 

「だから自分のために使うべきリソースを、他のところに使ってしまう。なんで自分自身がそのやり方で潰れないと思っているんですか?」

「このやり方で俺は潰れたことがないから」

「潰れます。だってマクラギさんはヒトだから」

 

 確信を得た顔で彼女は言う。 

 

「えらく断定的な言い方ですね」

「実際に知ってますから。そう言いながら……仕事してて、潰れる寸前までいった人を」

 

 辛そうな顔をするラサキ。アーガス社にも居たな、そんな奴が十数人。

 

「自分の限界なら分かっています。ここには無理に働かせてくる上司はいない。自分のペースでやっていける以上、潰れるなんてことはないですよ」

 

 宮田さんが居たらちょっとヤバかったかもしれない。けどここには宮田さんも木田センパイも居ない。俺と茅場以外のアーガス社員は誰も居ない。

 

「例えマクラギさんがトップでなくとも変わらなかったと思いますよ。だってマクラギさんを突き動かしているのは強迫観念だから」

「強迫観念?」

 

 強迫症の症状で、自分の意思に反して繰り返し頭に浮かんでくる考えという意味だったか。

 

「ならラサキさんは何が俺の強迫観念だと思うんですか?」

「このゲームにおいて()()()()()()()()()()()()がある。だからこそマクラギさんは逃げられない」

 

 ほぼノータイムで返ってきた回答に、俺は納得せざるを得なかった。

 俺しか管理者としてプレイヤーのために行動できる存在は居ない。だからこそ、俺はこの世界に向かい合わなければならない。

 

「まいったな。否定できない」

 

 まるで俺が管理者であることを知っているかのような言葉に、思わず本音を漏らす。

 実際のところは、ラサキは生産部のリーダーであることについて言及しているのだろうけど。

 そうじゃなかったら怖くて夜も眠れない。

 

「一応明言しておきますけど、私ィが言っているのは()()()()()()()()()()()()()だけじゃないですからね?」

「……」

 

 徹夜確定の返答に思わず顔が引きつる。

 

「前に、詳しい話は問わないって言いましたから私ィからは聞きません。それでも今言いたいなら───」

 

 言ってもいいですよ。

 

 ラサキのその許可はまるで美酒のようでもあり、麻薬のようでもあった。それほどまでに甘露なものであった。

 言いたい。言って楽になりたい。けれども─── 

 

「言いません。言えるわけがない」

 

 それを跳ね除けるのに、俺が、どれだけの忍耐力が必要だったか!

 先のことなんて考えずに巻き込んでしまいたかった。俺のリスクを共有したかった。一緒に悩んでほしかった。

 しかしだ。しかしだ。巻き込めない。何も知らなかった彼女を危険域に置くことなんてできやしない。彼女のやさしさにつけ込むわけにはいかないのだ。

 

 そしてラサキから軽蔑の目を見られたくない。だって俺は彼女のことが───

 

 すっかり冷え切ったラーメンの汁を丸ごと口に放り込み、言いたかった言葉ごと咀嚼する。液体を嚥下するたびに冷静さを取り戻していく。

 

「そっか残念」

 

 話す気がないことを把握してくれたのか、ラサキは見逃してくれた。

 

「ごめんなさい」

「いつかその重荷が取れればいいですね」

 

 その言葉で、俺が管理者でさえなければ───そんな最低なifを妄想した。

 ほんの僅かな間のことだけである。

 

 

 

「それはまた後日にお話しするとしても、私財の投入だけはやめてください」

「アッハイ」

 

 しまったこのまま無かったことにしようと思ったのに、釘を刺されてしまった。

 

「でもマクラギさんがやるなっていって素直にやめてくれるとは思えないしな───」

 

 ラサキがいたずらを実行しようとしている子供みたいに笑って言った。

 

「うん決めた。

 生産部に投入していた分、ラーメンフェスの打ち上げに使っちゃいましょう! コルが無ければ投入したくでもできないし」

「ちょっ?!」

 

 即死級の言の葉を。

 ご丁寧に画面を俺に見えるようにして、ワザマとナナに打ち上げの連絡をするラサキ。そこには全額俺の自腹とかいう恐ろしい一文がまぎれていた。

 やめて! そんな事されたら生産部に投入しようとしていた分だけじゃなく、俺の貯金まで吹き飛んじゃう!

 

「ひょっとして───怒ってます?」

「怒ってないですよ。も、ち、ろ、ん!嘘ですけど」

 

 よくよく見たら眼だけ笑っていない。まぁあれだけ丁寧な前振りされてなにも言わなきゃそれは怒るか!

 

 はっはっは…はぁ。

 

「じゃあマクラギさん。ごちそうになります!」

「───仕方ないか。店くらいはコッチで決めさせてくださいね」

「どうぞ、どうぞ」

 

 現在の生産部の在籍メンバーは28名。これだけの人数を収容できるスペースを持つお店は少ない。

 さらに言えば、生産部のメンバーはラーメンを食べた奴もいるハズなので、あまり量が多くない店がいい。後、安いところ。

 

「つまり、始まりの街の訳アリ屋敷ってこと?」

「全品10コルで料理を提供しているヤバいお店じゃないですか。私ィは嫌です。

 やっぱり私が決めますね。叙〇苑とかどうです?」

「殺意酷くない?」

 

 死んじゃう。そんな高いところに28名も連れて行ったら俺破産して死んじゃう。

 

 でも───

 

「行きたいな。全てが終わった後でなら」

 

 その時なら、殴られようと怒鳴られようと全てを告解できる気がするから。

 

 

 

 ちなみにこの後、本当に生産部の面々をちょっとお高目のお店に連れていく羽目になった。

 しかもフェスの撤去を後回しにしていたせいで、ウリエル用の罠にクレーマーが引っかかって大変なことになった。おかげで俺だけ飯を食えなかった。

 おまけにこの騒動で、生産部がラーメンで管理者を釣ろうとしていたことがばれて、世間から嘲笑されることとなった。

 

 おのれ許すまじ……茅馬鹿晶彦ォ!!!

 

 


???目線

 

 ラーメンフェスが終わった次の日。役割を果たして外される大看板。

 少しばかしの寂寥感を抱いて彼女はその光景を見ていた。

 

「なんや、そんな面して。ラーメンフェスは成功やったんやろ」

「そうですけど、あるじゃないですか。文化祭やフェスをやり切った時の達成感の中に混ざる"これで良かったのか"って寂しさ。それです」

 

 彼女は、声をかけて来た男、キバオウに向かい合う。

 

「気持ちは分らんでもないが」

「キバオウさんだったらそう言ってくれると思ってましたよ」

「ほうかい」

 

 雑に返すキバオウに、彼女は笑って言う。

 

「だって私ィ、この世界の中でキバオウさんを一番信頼してますもの」

「えらい信用やな。ええ性格しとる」

 

 寄せられている信頼を当たり前。そう認めているキバオウはため息をつく。

 

「ワイをええようにつこた奴には見えへん」

「そんなこと、ありましたっけ?」

 

 とぼける女に呆れた目を向けつつ、キバオウは言及する。

 

「ワイを説き伏せて、()()()()()()()()()名目でラーメンフェスを開催させたのは()()()()()。アンタやった気ぃするが」

 

 ラサキこそが今回のイベントの発起人であることを。

 キバオウ自身はラーメンフェスなんて取り上げる気はほとんどなかった。そんな彼が動いたのは一重に彼女に頼まれたからである。……ワンチャンスに期待していた面もないとは言えないが。

 

「そのせいでマクラギはんから頬引っ張られてもうた」

「おかげで助かりましたよ。キバオウさんのほっぺが潰されたたかいはありました」

「そこまでやられんわ、アホ!」

 

 頬を指さすキバオウに、ラサキは笑って言う。 

 

「で、ウリエルはんの正体は掴めたんか?」

「なんのことです?」

「とぼけんなや、生産部のやり方やと候補が多すぎて絞れん。それほど馬鹿な作戦や。

 せやけどな、怪しい人物がおるとしたら話は別やろ?」

 

 十数ページある塩ラーメンの購入者リストをめくりながらキバオウは言う。

 

「ラサキはんの目的は、知り合いがウリエルであることを確信することだった───ちゃうか?」

 

 キバオウには確証があった。ラサキ(無茨 蕾)が無駄なことをするハズがないと。

 

()()()

 

 けれどもキバオウの推測は外れている。そう言いたげにラサキは首を振る。

 

「なんでや! そんなわけないやろ‼」

「キバオウさんの推測は、残念ながら外れです」

「ほなラサキはんの目的はなんやったんや」

 

 キバオウは分からなかった。目の前の彼女の行動指針が。

 

「秘密です」

「強情やな。信頼しとるやなんていった口とは思えんわ」

「信頼してますよ。ここで話したら、逆にまずいことになるってことを」

「ワイも暇やない。この後、ALSの新・攻略方針について話さへんかったらイカン。

 だから勝手にせぇ、無理せぇへん程度にな」

 

 ラサキは話すつもりがない。そうキバオウは捉え、踵を返す。トボトボと歩いていくその姿を見送ってから、ラサキが声を漏らす。

 

「キバオウさんでも、推測しようと思えばできたかもしれない。

 あるいは、気がついたけどあんまりにもあんまりな理由だったから、言及しなかったのかも?」

 

 外されて耐久値を失い、消滅するラーメンフェスの看板を見ながら、ラサキは心の中で呟く。

 

 私ィは、状況証拠から推測しない。漏らした言葉を精査しない。全てを有耶無耶なまま継続させる。

 あの人の口から明言されるまでは。

 

「だからこそ、これで良かったのかと思ってしまう。明らかに愚かな行為なんですよ」

 

 ラサキがラーメンフェスを開かせた理由。それがただ単に───

 

 好きな人に喜んでほしかっただけなんて




 基本、ぼやけ文字は読まれる前提で書いてます案外ぼやけ文字を読む手段は多いよね!
 これにてストックが切れたので週刊更新は終わりになります。
 ここまで読んでくださった皆様、誠にありがとうございました。
 感想・お気に入り登録・高評価よろしくお願いします。
 
 次回更新分は未定ですが、いよいよ第25層編となります。お楽しみに!
 
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