三ツ星カラーズ転生もの(仮)   作:紅茶タルト

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第29話

「あ、ごめん。その日は妹の世話しなきゃなんないから」

「へー、そうなんだ。……え!? ななちゃん妹居たの!?」

「うん。内緒にしてたけど居るよ」

「なんで内緒にしてたの!?」

「だって、普通に"妹が居るんだ"って言ったらへー、そうなんだ。って言われそうだからちょっと温めた方がいいかなって」

「……えっ! ごめん言っちゃった!」

 

 せっかく秘密にしといたのに、残念だなあ。

 

「何才くらいなんだ?」

「さあ……? 幼稚園に通ってるから、お年頃かな?」

「ななしぃに似てるのか?」

「んー、腹違いだからなあ。とりあえずあんまりホワイトではない」

「はらちがい?」

「お母さんが違うんだよ。妹ちゃんの名前は?」

「名前……あったかなあ。私は妹って呼んでるけど」

「どんな姉妹だ」

 

 そんなに興味無いからなあ。

 

「気になるなら連れてくるけど」

 

 

「連れてきたよ」

「はじめまして!」

 

 妹は私の背中に隠れながら、少しだけ顔を出して声を張り上げる。よしよし、挨拶は元気よくだ。

 

「さら――――」

「おっと」

 

 口を塞ぎます。このままでは琴葉に名字がばれてしまいます。結衣は同じ学校だから知ってるし、さっちゃんは家に招いた時に表札見てるけど、やるだけタダさ。ん? 祭りの時に聞かれてたかな?

 耳打ちして、開放。

 

「……うん。りんね! さんさいです!」

「わあ、かわいい!」

「照れるね」

「結衣ー。ほんとのことだけど、急に言われると照れちゃうぞー」

「さっちゃんでもななちゃんでもなくて……」

「よしよし。元気に挨拶できたね」

 

 なでなで。ちょっと乱暴なくらいに。

 

「んー♪」

 

 ぎゅーっとくっついてきます。ちょっとうざったい。

 でも、いい姉のロールプレイをしているので振り払ったりはしません。

 

「私は結衣だよ」

「琴葉」

「さっちゃんでーす!」

「よろしくおねがいします!」

 

 結衣はかがんで目の高さを合わせる。お姉さんだねえ。

 

「妹は栗毛なんだな」

「言われてみればそうだね」

 

 かなーり明るいけど。まあ、栗毛と言っていいでしょう。

 

「言われてみればって……」

「ああほら、ずっと近くに居るのに、今更髪の色なんて気にしないでしょ? それそれ」

「なんかすごいごまかされてる感じがするぞ!」

 

 さあて。

 要望があったから連れてはきたけれど、これ面白くなりようがないぞ。

 

「じゃあそろそろ家に戻そうか」

「早いよ!」

「待て。……いろいろ訊いてみよう」

 

 にやり、と琴葉は笑います。が、抜かりはありません。

 

「りんね。ななしは普段私たちのことをなんと言ってる?」

「ななし?」

「……ん、そうか。お前の姉の……あだ名だ」

「ソウルネームと言ってもいい。妹。さっきも言ったけど、私の名前をうっかり言わないようにね?」

「はい! ううん……お姉さんたちのことは、さっきはじめてききました!」

 

 このように、プライベートなデータはインプットしてない。

 

「なんだ……話してないのか」

「仕事と家庭は分けることにしてるんだ」

「会社員か」

 

 ちなみに、ここが家庭。

 

「じゃあ…………訊くことないな」

「そうだろう」

「ないのかなあ……?」

「なあなありんね! 普段のななしぃってどんななんだ!?」

 

 おや、伏兵さっちゃん。

 尋ねられた妹は、目を輝かせてる。

 

「お姉ちゃんはすごいです! なんでもしってて! お料理もじょうずで! 楽器も!」

 

 そして私がどれだけ完璧かを熱く語るのだ。

 

「どうかね、私の妹は」

「す、すごい……」

 

 しっかり教育済み。他に遊ぶ余地が無かったからね。

 

「じゃ、帰ろっか」

「だから早いってば……」

「お姉さま! 私、お姉さまの話が聞きたいです!」

「一緒にスタバでキャラメルマキアートでも飲もう」

「…………うん!」

 

 余計なデータは入れたくない。インタラプトすると少しフリーズして、命令が書き換わる。ちょろいね。インテル入ってない。

 

「じゃ」

「みなさんさようなら!」

 

 なでて、手をつなぐ。問答無用で引っ張って行きます。

 

 

 

 お財布とスターバッチョスカードを預け、買う工程は任せる。おつかいです。

 ちょっと社交性のレベル上げ。私は席に座って待つ。

 

「おかえり」

「ただいま!」

 

 私はやっぱラテにした。

 妹がお姉ちゃんと同じのにするーと言ったら私は遠慮なくエスプレッソを頼む。そんな日頃の繰り返しにより、持って来た二人分はちゃんと別のもの。妹はやっぱりキャラメルマキアート。

 自分が本当に好きなものを自分で選ばせたい。そういう教育方針。

 早めにやめてくれてよかった。このボディ、ちゃんとしたコーヒーを飲むとちょっと心臓がバクバクするから。

 

「あまいです!」

「そうだろうね。どれどれ」

 

 レシートを見る。ほほう。バニラ、キャラメル、ヘーゼルナッツ。シロップ全部か。チョコソースにキャラメルソース。やるじゃないか。

 

「キャラメルマキアートにキャラメルシロップとキャラメルソースをかけるとは、なかなかやるね」

「はちみつとシロップもかけました!」

「うんうん。帰ったら歯を磨こうね」

 

 あと今度体重も量ろう。

 

 

 

「ただいま」

「ただいまー!」

 

 手を洗って、歯を磨いて、開放。母に返して、アジトに戻ろうかと思ったけれどもうあんまり時間無いな。解散でしょう。

 ……よしギターだ!

 

 そうと決まれば奇襲だ! 部屋のギターを取っ掴み、兄の部屋へ行き、ドアを!

 とんとんとん。

 しっかりノック。ノックをするかどうかが、人間とそれ以外とを分ける。

 

 中からコンコンと何かを叩いての返事が聞こえたので入る。

 

 オーバーアクションでドアを開け放ち、ギターを構え、演奏するのはトッカータとフーガ。冒頭辺りじゃなく、少し先のちょっと忙しくなってくるところ。

 しかし指が滑った。

 

 兄、ギターを掴み、同じ曲を演奏する。

 ……くっ、完璧だ!

 背中が遠いぜ!

 

 

 演奏の熟練度が下がらないというのは教える側からすると異様な才能として受け取られるらしく、たまにおや? という顔をするティーチャーなんかも居る。無口な兄も珍しく"才能があるのに努力しないのはもったいない"などという長台詞で残念がって見せた。

 なるほどそう見えるか。まあ、そうなのかもしれない。

 でも、これからは違う。最近、勉強は区切りついちゃったのよねー。だから時間はあるから……、

 

 ……でもレベル上げもしたいな。

 

 

 

「じゃあ、りんねのことお願いね」

「任せたまえ」

 

 ある日。任された。さあてどうしてくれようか。

 どう時間を潰すか……。

 

「よし、一緒に映画を見よう」

「はい!」

 

 リビングのソファーをずらして、プロジェクターやらなんやかんや準備して、スクリーンを貼っつけている壁に投映。

 映画が始まる。

 

 恋はデジャ・ブ。

 

「私はこの映画が好きでね。何度か見たから、分からないところがあったら言いなさい。その時は一旦とめるよ」

 

 三才児には明らかに早いが、まあ、いいじゃん。

 用意しといたキャラメルポップコーンをプラスチックの器に入れて渡す。

 

「ジュースはなにがいいかな?」

「オレンジジュースが飲みたいです!」

「よしよし」

 

 アンパンマン的な映画でも私はそれほど退屈せずに見れるけど、ノーストレスとはいかないのだ。だから今回は趣味に走らせてもらった。

 

 舞台はペンシルベニア州の田舎町。天気予報士であるフィル(ビル・マーレイ)は仕事仲間のリタとラリーとともにグラウンドホッグデーという毎年二月二日に行われる古い祭事を取材しに行く。

 グラウンドホッグとはウッドチャックのことで、ウッドチャックはマーモットの一種。この大きめのリス科の動物が冬眠から目覚めた時に自分の影を見ると、冬はまだ六週間続くと言う。

 フィルがそんな退屈な行事のためになにも無い田舎町に来るのは今年で四年目。当然気の乗らない仕事だ。もともと高慢なフィルは不機嫌さも手伝ってやっつけ仕事で撮影を終わらせて、仲間にもなんだかんだ嫌がられる始末。

 当然すぐに帰りたかったフィルだったが、天候の急変で帰ることができず、前日と同じ宿に泊まることに。

 目が覚めると、その日は二月二日だった。

 

 そんな話。

 

「お姉さま」

「なんだい?」

「繰り返すのは、つらいことですか?」

「そうだねえ……。妹よ。君が、この一日を繰り返すとしたらどうだろう?」

 

 ?が浮かんでいる。

 まあ、難しいか。

 

「まず、この映画を見るのがイヤになるはずだ。私だったら映画のディスクやプロジェクターを壊す。でも、そんなことをしても容赦なく時間は過ぎて、今日がやってくる。映画を見よう。君は私にそう言われるわけだ」

 

 まだ分かってない。いいとも。理解できるまで説明しよう。

 

「当然、別のことをしたりして飽きないように工夫する。けど限界がある。いずれはやり尽くすから。でも、もうやめたいと思ってもやめられない。自分で始めたわけじゃないから。それが終わりなくずーっと続けば、いつかはつらくなるね」

「お姉さまが居ます」

「うーん……。まあ君がそうなったら、まず私に説明するだろう。一度信じさせれば、私は同じ説明をせずに済むようにパスワードを教えるだろう。次の時にそれを言えば深いことを訊かずに、なにがしたいか、なにをしてほしいか、そういう話をするだろうね」

 

 好きなマイナーゲームの名前とか。あるいはもっとシンプルにマイフォーク*1とか。そういうのを言われれば、私は従うだろう。

 

「そうなればなるべく間をもたせるけど、やっぱ限界はあると思うな。いよいよになってくるとたぶん人は……」

 

 手段を選ばず、新しい反応を得ようと。

 

「まあ、よくないことをしようとする。それは、本当はやりたくないことだ。やりたいことはやり尽くしちゃうわけだからね。やりたくないことを自分でやってしまう。それはきっとつらいよー?」

 

 考えたくもない。そこまで来ると、脱出よりも死ぬ手段を探すようになるだろう。どちらが簡単ということもないだろうし難易度が変わるわけじゃないけど、きっとそっちを選ぶだろう。

 

 おや、ちょっと悲しそうな顔になってる。分かってきたかな。

 これ以上の説明となると五億年ボタンの絵本でも描くしか思いつかなかった。けどべつにトラウマを植え付けたいわけじゃない。

 

 モノがあるとはいえ、一日は短いよ。一週間は見てくれないと屋上のアンテナも組み上がらない。*2

 

「妹も、おもちゃが一つだと飽きるでしょ?」

「はい」

「私もつらいさ。とてもね」

「でも、この映画が好きですか?」

「ハッピーエンドだからね」

 

 なんであれ、彼は救われた。あるタイムトラベラーは納得がいってなかったようだけれど。*3

 

「……もう一度見たいです」

「よかった。でも、また今度にしようよ。一緒にお勉強しよう?」

「はい!」

「よしよし、元気がいいね」

 

 

「最初にアルファベットのおさらいだよ。これは?」

「エイチ! ティー! エル!」

「そうだね。しっかり憶えたね」

 

 なでなで。

 

 日頃の努力によって妹をお勉強好きの三才児というクレイジーに仕立て上げられたことは、我ながらなかなかの成果だと思ってる。

 目標は入学までに分数の割り算を教えること。そこまで私に暇があれば。

 

「よしよし。じゃあ、今日はどんなお勉強にする?」

「さんすう! さんすうがいいです!」

「ふふふ。たしざんの続きをしようね」

 

 二桁で、三つの数の足し算。百の位に達する繰り上がりを二度越えられるかな?

 クレヨンの黒で画用紙に計算を書き込む妹。小さな声で「はちたすろくは……」と呟いたり、丸をいくつか描いたり頑張ってる。

 はてさて、どうなるかな?

 

「たして……にひゃくごじゅうにです!」

 

 おお。

 まだ答えず、じーっと目を合わせます。

 セクハラ野郎のクイズ番組みたいに、たっぷり間を置いて……、

 

「せいかーい!」

「わぅっ!?」

 

 ぎゅっ! そしてなでなでわしゃわしゃ。

 

「あはっ、あははははは! お姉ちゃ、あはははは!」

「よーしよーしよーし!」

 

 これがよくできました度"弐"。適当なところで開放してあげます。

 "陸"まで行くとぐったりするまで褒め称えるぞ。

 

「よーし。ちょっとお菓子を食べたら歯を磨いて、お散歩に行こう」

「え? でも、まだ……少しです」

「お散歩はお外の勉強さ。幼稚園でも遠足はあっただろう?」

「あ! ありました!」

「小学校でも遠足はあるし、他にも川に行って魚や虫、植物を見たり、動物園で絵を描いたり、図書館に行ったりいろいろやるんだ。こういうのを校外学習って言ってね。校外は学校の外。学習は勉強という意味だよ」

「お勉強! 私お勉強したいです!」

「ふふふ」

 

 面白い妹ができた。

 

 

 

 じー。

 

「……なんだそいつは。どこからさらって来た?」

「庭の畑から収穫した」

「野菜かよ」

 

 ああいや、畑からとれるのはソ連兵か。

 

「妹よ。あれが斎藤。おまわりさん、あるいはおさわりまんだ」

「なにをだなにをっ」

「おまわりさんだよ」

「つうかあれって…………妹っ!?」

「おいおい。私は木の股から生まれて来たような気もするけど、たぶんそんなことは無いから家族くらい居るぞ」

「するのかよ」

 

 最初は斎藤。なんだかんだでポリスマンだし、憶えさせておいた方がいいでしょう。

 手をつないで並んでるんだから妹って分かりそうなもんだけど、隠してたのがここで利いたんだろうか。

 

「もういいよ」

「はい、お姉さま!」

「お姉さまぁ!?」

 

 しばらく黙って見つめてるようにと命じておいた。

 手をつないだ少女二人が、じーっと、なにも言わずに黙って見ている、そんな作戦。

 

「どうだ斎藤。いいだろう、敬語妹」

「りんねです! よろしくおねがいします!」

「……よくできた妹さんじゃねえか。斎藤です。よろしく」

「やらんぞ。妹、斎藤はおまわりさん、警察官、ポリスマン、そういうものだから、迷ったりしたら相談するといい」

「はい!」

 

 顔見せ終了。次行こう。

 

「ではな」

「さようなら!」

「おう」

 

 

「…………なんだそいつは!」

「妹だ!」

「妹か!」

 

 終了。

 なんとなく様式美的なやりとり。

 

「居たのかよ妹……言ってくれよな。よう、ななしの妹ちゃん。俺は鯨岡大吾郎。おやじでいいぜっ」

「りんねです! よろしくおねがいします、おやじさん!」

「妹。私をななしと呼ぶのは今の所みんな友だ。本当の下の名で呼ぶのはだいたい敵だから、気をつけるように」

「はい!」

「……多いな敵! いるだろ学校に!」

 

 ちょっとだけ店を見て、次。

 ののかの店は妹には遠いから、脇に抱える。ちょうど食パンを盗んで走る時の持ち方。アニメとかでの誘拐もこんな感じのイメージ。

 

 妹を持って、小学生ばなれしたスピードで突っ走る。

 現在の私の素の全速力は時速で二十四キロくらい。普通の小二女子は十八くらい。ちなみに魔法でドーピングを入れるとボルトを抜けるぞ。やらんけど。

 まあ三才児を抱えたくらいで速度はそう落ちない。今日は軽装だけど、カメラ系フル装備の時は数十キロ入ったバックパックを担いで三人と一緒に走り回ってるのだ。

 あと、ちょっとずつ重くしてる。

 

「こわいならおんぶにするけど」

「だいじょぶです」

 

 よしよし。

 そう言われるとこわがらせたくなるけど、チンさむロードまねて死亡事故なんて例もあるし、まあそれはおいおい。

 

「ここだよ」

「ササキ、のパン」

「そうだよ。よくできました」

 

 突入。

 

「たのもー!」

「はいはーい。あ、ななしちゃん。いらっしゃい」

「たのもー!」

「返事したじゃん!」

 

 打てば響くね。

 

「あれ? その子、妹さん?」

「さっそく見つけたか、食いしん坊め」

「戸棚のおやつなの!?」

「さてここで問題です。この子は、いったい誰でしょうか?」

「え!? …………親戚の子!」

「残念妹でした」

「うー! もー! 合ってたじゃん!」

 

 ののかはかわいい。

 

「妹。このかわいいのがののか」

「りんねです! ののかさん、よろしくおねがいします!」

「うんうん。りんねちゃんだね、よろしくー」

「妹。ここは何屋さんかな?」

「パン屋さん!」

「そう。でもね、もうすぐおにぎり屋さんになるんだ」

「ならないの! ずっとパン屋なの! ちょっと待ってて。新作持って来るから!」

 

 おおっと。このまま帰っちゃおうか?

 

「地雷を踏んだか。よおし、新作パンの味見、任せよう」

「? はい」

 

 だが残念だったな。私には弾除けがある。私のところまで弾が届くことはないだろう。

 程なくして、それは現れた。バットの上に乗ったクリーチャーは二体。まあそうだろうね。

 

「さあどうぞ。今度のはねー、オレンジピールを」

「ティッシュあるから、無理そうなら吐き出していいからね」

「あ、聞いてない」

 

 ポシェットから紙ナプキンを取り出し、紙ごしに掴んで妹に渡す。

 

「はい」

「なんか上品だね」

「ありがとうございます、お姉さま」

「りんねちゃんも? あれ、お嬢様だったんだ?」

「まーね」

 

 生贄がパンを口に運ぶ姿を、二人でじっと見る。ああ、ひょっとしたら生贄とはこれでお別れかもしれないな。そんな気分で見守る。

 ぱくり。……どうかな?

 

「……んく。おいしいです」

「えっ」

「でしょっ。やたっ!」

 

 しゃあない。覚悟を決めて、私も一口。

 ……ううむ。

 

「私は嫌いじゃない」

「おおっ!」

 

 オレンジピール。いいじゃないか。他にもなんなのかよくわからないスパイスが入ってるようだけど、オレンジピールという主体を損なわないよう抑えられている。むしろこのアクセントは好み。鼻に抜けるちょっとした風味は、けっして悪くない。

 

「私はアリだと思う。これは食べ物だ」

「ありがと! ちょっと引っかかるけど、よかったよー」

「ただ……残念なことに」

「うん?」

「私は変わり者だ」

「あー」

 

 私が出したオーケーに、店としてどの程度の価値があるか。

 

「妹の反応も悪くないけど、この年頃の味覚も、大人を相手に商売をする上での参考にはならないと思う」

「そっかー。手応えあったんだけどなー……」

「ダメってわけじゃないよ。ただももかの基準的にどうなのか」

「……?」

「ももかはののかの姉。美人さんだよ」

 

 ももかとも会わせたいけど、普段なにしてるんだろう。学生さんなのかな?

 

「そっかー。でも好感触はあったし、もか姉に見せてみるよ」

「それはいいけど、ももかが手強いならもう一つくらい手札を用意しないと仕留めきれないかもよ」

「そだね。でもどんなのがいいのかなー」

「じゃ、私たちはこれで」

「急だね!?」

 

 そろそろお昼ごはんにして、お昼寝させるから。

 

 

 パンはパンでよかったけど、もうちょいちゃんとしたお昼ご飯を食べさせなければ。

 

「お寿司でいいかな?」

「はい。お寿司、好きです」

 

 好きとか嫌いとかはいい。お寿司を食べるんだ。

 

 ちょっと歩かせて、店の前。

 

「ここだよ」

「お寿司屋さん、ですか?」

「うん。書いてないけどね」

 

 外に寿司屋とか書いてないタイプの寿司屋。生意気。

 でもこれ以外にしようにも回ってない寿司屋って少ないのだ。

 

 がらがらー。

 

「こんちは」

「いらっしゃいっ」

 

 でも入ったら愛想はいいんだ。

 小生カウンター席をキボンヌ。小さな妹を連れてきてるのだから座敷席が常人の選択だが、カウンター席には緊張感がある。そしてストレスを与えて育てた野菜は与えてない野菜と比べておいしい。つまりはそういうことだ。

 

「なんにしましょ?」

 

 ニカッ、と子供が好きそうな笑顔で板さん。緊張していた妹もちょっと笑顔。

 

「あの……まぐろを」

「まぐろだね。お姉ちゃんは?」

「任せます」

 

 いいのを出してくれるでしょう。

 

 この店は何も言わなくても子ども用にぬっるいお茶を出してくれる。私は熱くてもいいけど、心遣いはありがたいので素直に受ける。

 最初来た時はオートでさび抜きだったけど、今私の前のゲタに並んだ寿司はわさび入り。そういうやり取りが一回で済むのもよし。

 実にいい店だ。あと少し握り方覚えたらもうあんまり来ないけど。

 

 来るべき戦いのために、ここにはちょっと手際のレベルアップをしに来ました。

 

 

 食い入るように見ていたらゆっくりやって見せてくれた。

 心がイケメン。

 顔濃いのに。

 

 

 

「寝てなさい」

 

 転倒効果の付いた技を使う女キャラみたいなことを言うと、妹は私の背中で寝息をたて始めた。

 だが、寝たからって素直に家に帰る私ではありません。とはいえ、子連れでできることは……ううむ。いつもどおり、公園行こうかな。

 

 ベンチ。

 比較的木陰のを選んで膝枕。

 そこそこ歩かせたので、スタミナ回復待ち。自分なら魔法石*4を使ってもいいけれど、そういうインスタントな回復が健康面でどうなのかよくわからないし、三才児にはちょっとね。

 

 さて、暇だ。

 

 一般的にはこういう時は高機能携帯電話端末(スマートフォン)に頼るのだけれど、私はそういうステロタイプに特に意味のない対抗心がある。まあ、意味はないから、読みたい本が無い今日は普通に頼るのだけれど。

 イアフォンを装備して、今期のアニメを見る。いや、前期のだ。消化できてない。

 ほんとは映画も見たい。海外ドラマも見たい。ふつーのテレビ番組にも見たいのはある。

 こういう余裕の無さがつらいはつらい。でも、前世もそんなだった気がする。

 当然と言えば当然なんだろう。時間というものはおおむね平等で、誰にとっても一日は約八万六千四百秒。

 だが、私はいつかはこれに打ち勝つ。

 

「お姉さま……」

「うん?」

 

 アイマスク代わりに目を覆っていた手をどけてみるが……閉じてる。

 一旦動画を止めて、空いた手を喉に当てて暫く待つが、唾液を飲み込む動きはない。

 なんだ寝言か。

 

 日常系アニメを二話ほど見たところで、起きる気配。いろいろしまって、お目覚めを待つ。

 

「んう……」

「おはよう」

「あ、お姉さま……」

 

 妹がゆっくりと身を起こす。

 そんなもん持ってなかったじゃねーかって思われそうだけど、冷えるとよくないのでかけておいたブランケットを見て不思議そうにしている。

 ポシェットに入れてただけだよ。魔法で小さくして。

 

「おはようございます」

「ちょっとゆっくりしたら帰るよ」

「はい……」

 

 ブランケットを受け取って、「妹、ちょっとあっち向いてて。《アイテム縮小(シュリンク・アイテム)》」という強引極まる方法でもっかい小さくしてポシェットに収める。まあなんか訊かれたら手品だと言い張ればよし。

 妹はあくびをして伸びをして、そこそこ目が覚めた様子。んじゃ、帰りましょうか。帰って歯を磨こうね。

 

「ちょっと斎藤寄っていこうか」

「斎藤さん」

「特に用はないけど、退屈してるだろうからね」

 

 実際一日中たちんぼってことはないけどね。

 

 

 見に行ったら、斎藤はすごく困っていた。うろたえる姿がとても面白かったので笑顔でじっと見守っていたら気付かれた。でも人がいて、あんまりリアクションが取れない。にやにや。

 はーやれやれ、仕方ない。

 

「《タンズ(言語会話)》」

 

 駆け寄ります。

 

『こんにちは。なにかお困りですか?』

『ああ、よかった。充電が切れてしまって、ホテルの場所が調べられなくて困ってたんだ。場所を教えてもらうか、充電させてほしい』

『なるほど。ちょっと待っててくださいね』

 

 中国人に話しかけられて困ってる、という状況でした。

 

「斎藤。充電させてやるのが無難」

「……なんで話せんだよ!」

「えー? 話者数が英語より遥かに多いんだから、中国語は優先度高いでしょ。上野は観光客多いんだし覚えとこうよ」

「このやろ……ああ、まあ充電がダメって規則はないんだが……電気代も公費だからな」

「んじゃあホテルの場所頑張って教えるしか無いね。問題はそこだってさ」

 

 まだギリ、スタバで充電ができない時代。

 妹がいなければ中国語も話せないのぷぷー。と煽るつもりだったけど、ここはクールにやって尊敬度を稼ぐ。

 

 結局斎藤と二人で協力してホテルの場所を教えました。

 問題が解決して、チャイニーズは上機嫌で陽気に手を振って去っていった。

 

「また来たら連絡していいから」

「ああ。……まあ、助かった」

「いいさ」

 

 私も去る。

 ふふ、お姉ちゃんすごい……! という視線をビンビンに感じる。

 こうした地道なポイント稼ぎによって、妹を私の好きなように育てることを可能としているのだ。育成ゲー、いいね!

 

 ちなみに本当は広東語。

 

 

 帰還。

 ほどなく母が帰ってきたので、バトンタッチ。私は部屋でごろごろする。

 無駄な時間、だとは思うが、休息も必要なのではないかと最近思って試してみている。

 要はまた新しいことを始めたわけだ。

 

 やめらんないなー。新しいこと!

 

 

 

 深夜。私の目がぱっちり開き、殺戮のカーニバルの開始を告げる。

 《自活の指輪(リング・オヴ・サステナンス)》。必要な睡眠時間がぐんと減る効果を持つマジックアイテムだ。最近どうにか作ることができ、活動時間を多く取れるようになった。

 こいつは装備してから一週間でようやく効果が発動し、今日がその日。

 更に食事の必要もなくなる。食えるは食えるけど、体が"あ、別に今いいっすよ食わなくても"と、不足している栄養がないことを伝えてくる。こういう感覚なのか。

 

「《静寂(サイレンス)》」

 

 音をたてないようにする。

 

「《不可視化(インヴィジビリティ)》」

 

 姿を消す。

 

 着替えは済ませた。ポシェットを装備し、予備の靴をはき、身一つで窓から飛び出し、痛めた足を癒やし、物陰へ。

 

「《跳躍(ジャンプ)》」

 

 身軽になる。高く跳べ、着地で足を傷めなくなる。

 

「《加速(ヘイスト)》」

 

 ボルトを超える速度を得る。

 

「《迅速な退却(エクスペディシャス・リトリート)》」

 

 更に速度を得る。

 

「《滑空(グライド)》」

 

 ゆっくり落下するようになり、空中機動が軽やかになり、万一にも足を傷めなくなる。

 

 そして、高く跳んだ。

 私は姿を消し、夜の街をおよそ時速六十キロ以上で跳ね回る。屋根の上を走るの、興奮するね。夜景も好きだ。

 《静寂(サイレンス)》は長続きしないからまた新たな怪奇現象を生みそうだけど、もういいやちょっとくらい。

 行け、不忍池!

 

 やって来ました不忍池。ふふふ。ここにはなんと、カミツキガメが生息している可能性があるのだ。ククク、私の経験値になるがいい! 最後に確認されたのはずいぶん前だが、まずいるかいないか魔法で調べるぞ!

 

 

 その魔法レンジャーのだわ。覚えてない。

 ……虫殺そう! 虫!

 

 あんまりいないなあ。

 街灯に集まる蛾、とかが全くいないわけじゃない。しかし、対象以外に被害を与えない範囲攻撃をバンバン使えるってほど私の使える魔法は万能じゃない。

 次は殺虫剤を用意しよう。

 

 今買っちゃおうかなあ。

 

「……《自己変身(オルター・セルフ)》」

 

 姿を変える。こんな深夜じゃ、大人じゃないとね。

 変身用の姿は練ってあって、なかなか美人さん。ただ、なんとなく迫力がある。雰囲気は黒幕とか、連続殺人鬼とか、そういう属性。

 ぱっと見浮かぶ言葉が、ドS。おっかない美人だ。どうしてこうなった。

 お近づきになりたくないタイプだが、自分ならよし。

 服とかもかっこいいのに変身。

 

「いらっしゃいませー」

 

 そんな気合入った姿だけど、初使用は夜中にコンビニ入るため。

 深夜のコンビニで立ち読み。久しぶりで楽しい。

 ……違った。殺虫スプレーだった。

 

 ポシェットは魔法により生えてきたコートの中。可愛らしい猫ちゃんお財布を取り出して、お会計。

 

「ありがとうございましたー」

「どーもー」

 

 袋とレシートを捨てようかと思ったが、追われてるわけでもないのに指紋が気になる。

 もし指紋が変化せずサイズが変わっただけならバーローの映画みたいに黒の組織にバレちゃうし。

 いないもんかなあ、"ナントカ機関"。

 

 こうして、お外の虫を殺して回る変態女が爆誕した。

 

 この日レベルは上がらなかった。

*1
Steins;Gateの話。

*2
CROSS†CHANNELというループものの名作の話。

*3
Steins;Gateの阿万音鈴羽。彼女の指摘通りこの映画のループはきっかけなく始まりきっかけなく終わった。

*4
そういうシステムはないので、単純に疲労回復の魔法。




スターバッチョスのカスタマイズはスターバックスの2012年のを使用
カウンター席という名称を座敷席という和風な方に合わせたくてカウンター席って日本語でなんて言うのかな、と調べたらもともと日本にカウンター席は無かったから言葉も存在しないんだそうな。
寿司屋のくだり、延々書きそうだったけどやめた。日常ものと考えればそこを伸ばすのはべつに間違っちゃいないけれど、あれ? これ二次創作だったよなと素に戻ったために急に終わった。
本作の設定は2012年であるが、スタバで充電ができなかったかははっきりわからない。
現在は上野公園のスタバとかにシティチャージとかいう太陽光発電の充電設備が。来てるね、未来。
かなり緊急とかなら交番で充電させてくれることもあるようだけど、なるべくやめとこう。現在はなにか規則があるかも。
広東語は中国語とはかなり違って、話者も五千万人くらいなので知らなくて普通。
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