三ツ星カラーズ転生もの(仮)   作:紅茶タルト

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第31話

 ぽち、ぽち、ぽち。

 さっちゃんと対戦。

 

「おや」

 

 残り一個。そして私のターン。

 運のブーストがある上、占いがある私はそうそう外れを引かない。しかし、たまたまさっちゃんも引かなければ最終的にはこうなる。

 

「……まさか、あなたが私をここまで追い詰めるとは」

「私の勝ちだ! 降参しろー!」

「それはできません」

 

 私は最後に残った歯に指を置きます。

 

「やめろぉ! もう勝負はついた。そいつを押してなんになる!」

「しめくくり、というやつですよ。私という悪が滅び、世は再び、平和というはかない幻を見る。……悪が勝利する幕切(まくぎり)なんて、私には描けそうもありませんから。……お別れです。さようなら、さっちゃん」

「ななしぃー!」

 

 ぽち。ぱちーん。

 

「ふむ」

「リアクション薄いな」

「なーんにも感じませんもの」

 

 あまりにパワー不足。省エネモードなので気にもならない。

 

「とりあえず、残り三つまでは安定してきました」

「不思議だねー」

 

 だねふしゃ。

 

「あ、抽選今日だね」

「あれーそうだっけー?」

「うん。でも夜だったな」

 

 一緒には見れないか。

 ふうむ。がらけーさっちゃんがすまーとふぉんさっちゃんに進化すればネット会議とかが可能になるけれど、どうかなあ。もしロトとかがカラーズ資金としては多すぎるくらいの当たりになってくれれば、余剰分を分け合うことができるんだけど。

 

「……あ、そうそう」

 

 私事だけど、

 

「最近レベルが上がりました」

「へー、おめでとう」

「ありがとうございます」

「それで、レベルが上がってどうなったんだ?」

「いえ。レベルが奇数になる時に新しい魔法を使えるようになるのですが、偶数になっただけなのでちょっと強くなっただけです」

「きすうってなんだー?」

「偶数は二で割り切れる数です。二、四、六、八、十、十二。こういうのですね。奇数は二で割り切れない数です。一、三、五、七、九、十一」

「へー」

「今のレベルは?」

「ソーサラーが十二。クレリックが三。もう一つソーサラーのレベルが上がれば上位のテレポートを覚えられるので、その時は奇跡の大脱出をお見せしましょう」

「急に規模がでかくなったな」

 

 クミロミ様のおかげでちょっとだけレベル上げがやりやすくなったし。

 

 

 

「たっだいまー」

 

 元気かね、愛しのネズミちゃんたち。

 衣装ケースの中にはネズミがいっぱい。でもオスは少ないんだ。

 オスとメスを頑張って分けて、つんつんつついても噛みつかない大人しい子だけを繁殖に回して、悪い子には転校してもらったよ。

 だいたいどのネズミもそうだけど、このハツカネズミちゃんたちは妊娠から二十日間で子供を産むんだ。私はそれに目をつけて経験値用に繁殖を始めたわけだけれど、フルスピードで繁殖させちゃうとコノハズクによる処理速度が追いつかないのがネックだったんだ。

 でも、最近それが解決した。

 

「《殺戮の雲(クラウドキル)》」

『ぢゅっ』

 

 転校したオスと、年とってそうなメスを計三匹ご招待。

 

 裏庭。

 小さなバケツから、まず二匹ネズミを取り出します。それはいつもどおり処理して戻して、残り一匹を取り出して祭壇に置きます。てきとーなポーズで祈ります。ネズミが消えます。

 このように、クミロミ様は動物の死骸を捧げ物として受け入れてくれるのです。

 

 クミロミ様、信じていいんですか。思ってたよりあれっすよ。供物。

 

 

 最近は庭をそこそこ真面目に管理している。主に錬金術の素材を栽培するためだ。プランターもある。こっちはドM植物用。海水をかけてある厳しい環境だ。

 よく使うヘイストに甘草の根が必要で、こいつがどうもきつい環境の方がよく育つようで。まあ、そんな高いもんじゃないから買っていいんだけど。ちなみに本来収穫まで四年かかる。

 

「ん?」

 

 ミミズコンポストから、芽が。

 

「ふうむ。どなた?」

 

 返事はない。そりゃそうだ。

 心当たりなし。

 

 ま、いいや。

 移植ゴテでちょちょいと拾い上げて、とりあえず使ってない鉢植えに移す。

 

「歓迎します」

 

 とりあえず――枯れるまで生きろ。

 

 

 萎れてきたトマト。

 野菜室の奥で干からびたにんにく。

 半分だけ使って放置した玉ねぎ。

 にんじんのヘタ。

 スイカ、カボチャ、ブドウ、ピーマンの種。

 

 クミロミ様は野菜や種ならなんでも喜んで受け取ってくれる。

 ただチョロさにも限度があるらしく、好感度にキャップがある感じ。それが日に日にちまちま上がっていく。

 上限の時は捧げ物をすると、ああ、今はこれ以上は上がらないんだな、と感覚的に理解できる。

 好感度が高まるにつれ多少自分が強化されてる感じがして、クミロミ様のお力はすばらしいものだと私は確信するものです。温厚すぎて、怒ったらと思うと信仰したのは早まったかなーと思うほどこわいけど。

 まあまあ、うまくやっていけるでしょう。ちょっと怒らせるようなことがあっても、砂漠を森にしてしまえばニッコリでしょ。どうせ。

 

 

「どーぞコノハちゃん」

 

 ちょきんと真っ二つにしたのを口元に運ぶと、勢いよく食べる。かわいいなあ。

 

「そのうちお話ししようね」

 

 ……ところで動物って、会話できる知能あるのかな。魔法あっても。

 

 

 今日はちょっと早めに帰ってきて、お料理。

 こねこね。牛と豚のデート*1肉と、玉ねぎとかそんなん。ハンバーグですね。私はここに豆腐をぶちこみます。かさ増しとしての活躍はもちろん、豆腐の栄養面での優秀さは強い。おからでもよし。

 ハンバーグをこねる時は使い捨てのビニール手袋がイケメン。素手でやって肉が手につくのも手作り感あっていいけれど、しっかり洗わないとだし、冷蔵庫から出したばかりの材料だと冷たいし。すりこぎで潰すという派閥もあるね。体温が移らなくていいのだとか。今度やってみよう。

 

「あら、こんなところに牛肉が」

 

 これも出そう。よーし、カットステーキにしよう。

 

 

 じゅー。冷めない鉄のお皿で出します。付け合せのにんじんは茹でてから炒めた。ソースも手作り。私特製ステーキソースVer1.21だ。

 更に、ハンバーグの下には飴色になるまで炒めた玉ねぎが。ンンー、パーフェクトじゃないか!

 ただここまでやるとみんな腹ペコ。皆様のご家庭のマザーが手を抜くのにはそれなりに理由があるわけである。

 

 手作りのパンも含め、当然の好評。うむうむ。

 でももうちょっとレベルアップしたいな。そうだ、次の機会までに溶岩を仕入れておこう。溶岩ステーキだ! もちろんロース。*2

 

 今度はオムライスとかもこだわってみたいな。

 あと粘土で包んで焼く料理とかも楽しそうだ。

 

 最近料理が楽しい。

 

 

 

 そんな楽しい料理はさておき、抽選発表。ベッドに可愛くごろんで公式サイトにアクセスすると、もう結果は出てた。生配信もあったようだけれど、そこまではね。

 さて、結果は?

 

 

 五、九、十六、四十三、十五……四十二。

 

 ボーナス数字も外れ。三等か。

 ま、予定通りだ。

 ふふ。

 

 左手が勝手に"やったぜ"と握りこぶしになってるけど、いやいや当然の戦果。騒ぐほどのことでも。

 

『らららーら ららららら らららーらら らららららー』

 

 おや。

 なになに?

 

 >あたたたったぞ

 

 ホワタァー! CC(一斉送信)ですね。結衣とさっちゃんはどう動くか。ひとまず私は(ケン)にまわる。

 

 >なにー!? 何等だー!

 >すごい! ほんとに三等!

 

 今回の三等は三十一万円か。お伝えしとこう。

 

 >当せん金がくは三十一万円です。五十万円以下なので本人かくにん等は必要ありませんが、五万円以上なのでみずほ銀行でのかん金になります。

 >おー! なんに使おう?

 >武器だな

 >非常食はー?

 

 ふーむ。まあなにがあってもカラーズだけは生き残らなければならないが、かと言ってプレッパーになるには心もとない金額。

 とりあえず食料は魔法でなんとかなるから、地下作りたいよね。

 

 >琴葉の強化にはスリングショットをおすすめします。パチンコのくんれんは続けてますか?

 >やってる

 

 ううむ。

 特に使い道考えてなかったぞ。

 なにせ目標が三等だったからな……。

 一千万、とかならどーしよなにしよ、ってなるけど約三十万。しかもカラーズとしての資金。個人的な夢は膨らみようもないし、現状のカラーズに不足も感じない。まあ一緒に旅行に行きたいな、とかはあるけどね。温泉とか。いろいろ見れるし。スキンシップしたいし。

 でもそれにも微妙に足りてない感がある。旅行資金としては十分だけど、みんなにとっては装備の充実が優先だろう。その後でどのくらい残るのかなあという心配がある額。

 

 うーむ。うーむ。

 まあ、会ぎで決めましょう。

 

 >会ぎまでに使い道を考えておきます。

 >そうだね。みんな、どう使うか考えておいて! それじゃ、おつカラーズ!

 >おつカラーズ

 >おつカラーズ!!!

 >おつカラーズ。

 

 

 さて、と。

 

 

 ……ふふ、ふふふ。

 

「ふはははは」

 

 ククク…!

 カカカ…!

 キキキ…!

 コォコォコォ…!

 ケケケ……!

 

 ……本当に効いた。

 効いたぞ……!

 確率への干渉を、この規模で。

 遠隔で。

 

「……ふう」

 

 なんとなく、一線を越えた気分。

 

 ……まあ、メインだと思ってた魔法じゃなく、主に錬金術によるものってのがちょっと引っかかるけど。魔法使いです! って思ってたのにそれはサポートジョブだった。

 それはそれでショックだったよ。

 ドラえもんがひみつ道具でのび太を助けるように。

 ハットリくんが忍術で困りごとを解決するように。

 レイプマンがレイプで揉め事を収めるように。

 この三つの藤子不二雄作品のように、私は魔法使いとして魔法を使ってなんやかんややってくんだろう。漠然とそう思っていた。

 でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。だってそう思ってただけだし。

 ただ。……ただ、なんだかこの一件で私は、レベルではないなにか……そう、一段階、なにかコマを進めたような手応えを感じていた。

 だからと言って記念に特殊能力を開放とかされても困るけれど、なんとなく充足感。

 今ようやく、この世界に立派な異物として根を張れた気がする。

 

 よーし、今晩はこの勢いでレベル上げに行こう。

 

 

 

 最近は、虫を虐殺しながらコンビニに行って、立ち読みして、ちょっと飲み物を買って全力ダッシュで海に行くのがトレンド。

 もちろん、目的は釣り。猫とかが許す限り、釣りまくる。

 もしクミロミ様が魚も受け取ってくれるんなら全部解決じゃね? と思ったけれど、魚はNGなようです。

 

「ギュッ」

「こんばんは」

 

 アオサギ。人間は暗いのが苦手、というのが分かるのかどうか、鳴いてアピールしてきた。控えめに。

 私は魔法で見えるから大丈夫だよ。視界白黒だけど。

 

「ほれ」

 

 パクッと咥えてひと呑み。サカナはのどごし! って感じ。いい呑みっぷりだ。

 満腹になるまで釣るからお友達も呼んでいただきたいが、たぶんソロ活動な鳥なんだろう。

 しばらくエサをやると、飛んでいった。

 

 交代でやって来たのは猫。のそのそと。

 

「召し上がれ」

 

 ポイポイ投げ渡す。

 今日の第一野良猫は深夜の釣り人が珍しいのかちょっと警戒していたが、素早く一匹咥えて離れていった。

 釣っているうちに少しずつ魚は消えていき、また私が足し、猫が夜行性ってのもあってかしばらく膠着状態が続いたが、結局は私の勝ちに終わった。どうだ食い切れまい。

 ふふふんと勝った気でいると、しばらく後に猫がどんどんやって来て、積み重ねた魚は消えた。

 

 

 猫一個師団くらい来てくんないもんかなあ。

 私の背後で引き取り先のあてのない魚が三匹ほど転がっている。当然だろう。寿限無でも海砂利水魚のあとに陸猫とは続かない。数で戦えば結果は見えている。

 大量の鳥とかが来てくれるんなら、一日中だって釣りをしていたいのになあ。

 

 さて。三匹残ったけれど、このくらいならもし腐ってもカラスが処理してくれるでしょう。

 釣り竿を上げ――

 

「《軍備の強化(リインフォース・アーマメンツ)》ッ!」

 

 重い感触。一瞬にしてこの特にこだわりもなく買った竿が折れる映像が思い浮かび、即強化魔法。

 ちょっとだけ格闘はするが、姿が見えたら《念動力(テレキネシス)》で上げちゃえばいいのでそう苦労はしない。

 ざばーっと上がったその大物。それは……、

 

「誰だお前」

 

 

 

「ななちゃん、今日はからあげなんだね」

「いえす。あいあむあからあげ。結衣、食べてみて。レタスもあるよ」

「うん、ありがと。……あ、おいしい。おいしいけど、これ……鳥じゃない?」

「サメだよ」

「サメ!?」

 

 テレポで帰って早速調べてみたらドチザメ。そんなに大きいのじゃないけれど、それでも三キロあった。

 釣りたてでまだ生きているが、死んだサメにはアンモニア臭が忍び寄る。ジャンジャンジャンジャンジョーズのテーマで。

 その時午前二時半。朝までの時間を考えると……。

 すぐ血抜きをして調理するべきか、とりあえず放置して帰ってきてから殺すべきか。ほっといても死なんだろ。たぶん。

 なにが正解かはわからないが、なんだかんだ考えた末こうしてからあげになっている。

 からあげ、かまぼこ、できる限りやったけれどまだ肉は残っていてどうしたものか。

 まあ、いざとなれば発酵食品にすればいいさ。アンモニアって菌に対しても毒だから、腐らず熟成させられるはず。臭いけど。ホンオフェが有名。

 

「このかまぼこもどうぞ。口の中でタイやヒラメにサメの舞い踊りですよ」

「龍宮城だね。あ、柔らかい」

 

 木製のキッチン用品などがあればそれを魔法一つでかまぼこ板にできるという辺りが、一番魔法の便利さを感じる瞬間です。

 

 

 

 昼休みの後の掃除が死ぬほど面倒。

 でもあんまりあからさまにサボると、

 

「ちょっと男子! 真面目にやりなさいよ!」

 

 こんなのが。ああ、男子が絡まれてる。ちゃんと掃除してるふりしようぜ。

 たぶん、ああいう子はクラス分けの時にどのクラスにも一人は行き渡るように振り分けてるのだと思う。なんでだか知らないが。

 魔法ありなら《見えざる従者(アンシーン・サーヴァント)》で従者を作ってそいつにさせればいいんだけど、こういう子ってケチ付けられればそれでいいから、ちゃんと自分でやりなさいよ! とか自分ルールを追加してくるに決まっているんだ。それで術に頼るかザコどもが! ってカウンター攻撃を入れてくるんだ。

 とりあえず、サボってるように見えないように工夫はする。私はべつに絡まれてもいいけど、一緒にいる結衣が楽しくないだろうから。

 あとカウンター攻撃がこわいから。パワーを活かして机の運搬とかに専念します。

 ……こうして見ると、この時点で掃除してるふりしてる子多いなあ。

 

 

 算数の時間。

 念の為教科書を確認するが、メインは中高の参考書(チャート式)とドリル。

 なんでもかんでも詰め込むにはランドセルは小さいから、追加のは教科二つ分くらい。

 

 高校の分が終わったら、どうしようか。

 

 

 

 あの小学生すげー速いな、という速度をキープして家に帰り、装備を替えてアジトへ。途中斎藤のところに行って、目の前でかっこいいポーズを七秒ほどとって、リアクションが来る前に脱出。

 アジトへ一番乗りして、動物型のリュックからタブレットを取り出し、作業を始めます。なんの動物かは、よくわからない。

 

 最近、少しだけ今まで思い出せなかった歌を思い出せることがある。

 気のせいかもしれないが、クミロミ様の御利益だろうか。

 基本的には農耕の神様だと思うんだけど、今の所むしろそっちの影響の実感がない。

 ……まあ、やろうと思えば栄養剤でぱぱっと成長させられちゃうんだから、手を加える暇もないかな。

 

 歌って録音。さっき思い出せた、好きだったアニソン。

 涙が出そう。

 

 中二病でも恋がしたい!

 キャラソン含め全部ZAQが面倒見てた。手厚い。

 作品に合ったいい曲ばかりだった。こっちでこの曲を自分で使うとなるとこっちのZAQがどんな曲出してるか確認しなきゃだけど、ただ今は普通に歌う。

 

 うろ覚えで歌う、というのは慣れないと照れが勝ってしまうが、そもそも仲間にならちょっと恥ずかしい姿を見られても構わない。元気に楽しく声を上げて行こう。

 

「ふう、名曲」

「自画自賛か」

「ご静聴ありがとう」

 

 琴葉が最初とは珍しい。

 いや、私の次だけど。さてさて、歌詞で検索しよう。

 

「似た曲は……なさそうだ。よかったよかった。こうしてこの世界にまた一つ名曲が生まれた」

「よく作るな」

「ビビッと来るんだよ。生まれたいと願っている曲たちが私に電波を送るんだ」

 

 私は、前世の曲をこっちに持ち込むつもりだし、それによって利益も得るつもりだ。

 けど、それは"私の曲だぜー凄いだろー"ってやりたいわけじゃあ……それほどない。

 

「ただ、私の声じゃ満足しない曲も山程あるんだ。だから、琴葉にもそのうち手伝ってもらうね」

 

 私が聴きたいからだ。できるだけ、相応しい声で。

 

「……練習しとく」

 

 カラオケとかも行きたいな。一緒にふつーに遊びたい。好きな曲知りたい。

 カラーズ活動も楽しいけど、もっと公園で遊ぼうよ。

 

「おーっす!」

「あ、さっちゃん」

「あとは結衣だけか」

 

 結衣はたまに遅い。なんでだろうなーとは思うが、突き止めるつもりはない。

 

「ごめんお待たせっ!」

「遅いぞリーダー!」

「うー、ごめんね」

「結衣」

 

 くいくいと結衣の袖を引く琴葉。

 

「なあに、琴葉ー?」

「さっちゃんも今来た」

「えー」

「あはははは!」

「もー」

 

 結衣が手に持っていた例の袋をテーブルに置きます。

 みんなの視線が一点に集まります。

 

 ……。

 

「実感無いね」

「そうだな」

 

 いまいちピンとこないらしい。

 

「じゃあ銀行で替えてもらおうか」

 

 現金にしてから考えよう。

 

 

 

 そんなわけで、三十一万円。と、少し。袋に入れてくれた。

 今は銀行の前で、それを眺めているところです。

 

「ちょっと重いよ!」

「分厚い!」

「ななしぃ、その背中のってラッコかー?」

「たぶん」

「今する話か」

 

 ラッコかカワウソ。

 

「どうする?」

「斎藤に見せに行こう!」

「お、それは面白そうだ」

「しかし斎藤は汚いぞ。なにか言いがかりを付けて奪おうとしてくるかもしれん」

「大丈夫。小型カメラあるから」

 

 胸ポケットのペンを見せます。

 

「おおー!」

「わあ、かっこいい!」

「やるな!」

 

 あ、ウケがいい。

 そうか、スパイっぽいガジェットがいいのか。

 

「これなら斎藤が悪人って証拠を掴めるな! よし行こう!」

 

 

 

「お前ら……今日はなんだ」

「これを見ろー! ……ななしぃ」

「うん」

 

 琴葉の頭から帽子を拝借。今日はハンチングです。

 裏表をしっかり見せて、私の両手も裏表見せてなにもないことを確認させます。今日の私の服装は袖も短く、これでトリックを仕込めるのは凄腕のマジシャンだけでしょう。

 帽子に手を入れて、ちょっともったいぶってから魔法、四次元ポケットを使って紙幣袋を取り出します。これは魔法の空間にものを出し入れする魔法。夢の中でチャージされるしかないタイプなので乱用はしないけれど、こういうのもある。使うとちょっと疲れる。

 

「おおっ……」

「さあ、さっちゃん」

「おう!」

 

 帽子を返しつつパスすると、さっちゃんは紙幣袋から勢いよくお札を取り出します。

 

「これを見ろー!」

「なん、うおっ!? お前らどっからかっぱらって来た!」

「銀行だ!」

「お前らとうとう……」

「ロトだよ」

 

 袋からこぼれた小銭を三人で拾って、私と琴葉は確認中なので結衣が説明します。

 

「みんなでロト買ったの!」

「それが当たったのか……」

「斎藤。お前の給料と勝負だ」

「イヤだ」

「ふふん。なんだ、負けるのがこわいのか」

「お前らに自分の給与額は言わん」

 

 検索。

 

「えーと、巡査の基本給は約二十二万で」

「おい」

「ということは……」

 

 目を合わせ。

 

「カラーズの勝利だー!」

 

 声を揃えて勝どきを上げました。

 

 

 アジト。

 

「それで……どうする?」

「どうしよっかー?」

 

 みんな考えますが、とても小学生の手に負える額ではありません。あれでもないこれでもないとお困りの様子。

 ふふふ。ならば、ここで元大人な私がパーフェクトな名案を出せたらいいなあ。いいのになあ。

 みんなが悩んでるのを見るのが楽しいから、あんまり案を考える気になれなくって。

 

「ななちゃんはどう思う?」

「ななし、なんで黙ってみてる」

「楽しそうだから」

「ななしぃは見てるの好きだよなー」

「うん」

 

 でも、ちょっと思いついた。

 

「CD作る費用にするってのはどう?」

「CD?」

「いいなー!」

「分かってないだろさっちゃん。ななし、なんのCDなんだ?」

「決まってるじゃないか」

 

 私の目的その一つ。

 

「もちろん、私がプロデュースするアイドルグループ、三ツ星カラーズのデビュー作さ」

 

 なに言ってんだこいつ。

 !?

 あはははは!

 

 そんな感じの顔。

 顔って言うか、さっちゃんは実際に笑ってるけど。

 

「ななちゃん。なんなの? それー」

「私が曲を作り、みんなが歌って踊る。まあ、演奏の練習もしてるわけだし、バンドと言ってもいいかな」

「うーん……」

 

 さーてどこから突っ込めばいいのかな、という表情。

 ななちゃんって時々面倒くさいからなー、みたいな。

 そんな、困った子を見るような目で……ああ、もっと! やめないで!

 

「琴葉ー、任せていい?」

「……分かった」

 

 あれ、そのバトンタッチはなにかな?

 

「よし、ななし。なにがしたい?」

「プロデュース」

 

 そう言って、私はラッコ(仮)から取り出したカンテレをぽろろんと鳴らします。パンパンだったラッコが萎れてますね。

 

 おや、結衣と琴葉は目を見合わせている。どうしたんだろう。

 

「……結衣。ななしは作った曲を自分以外にも歌わせたいみたいだ」

「そうなの?」

「うん」

 

 要約するとそういうことかも。

 

「へー。……アイドルかぁ」

 

 完全無欠の説明不足でぶつけたけれど、やはりと言うかその反応は悪いものじゃない。表情はキラキラ。

 さっちゃんは、

 

「しょーがないなーやってやるかー」

 

 とか言ってるけど明らかに乗り気。

 ふつーの女の子ってアイドル好きだよね。

 そして琴葉は結衣とさっちゃんがやると言えばやります。

 

 まあまだ本当にアイドル路線にするか方針は決まってないけど、いずれCDは出したい。カラーズパワーにおまかせろ!

 

「でも最初は千枚くらいでいいだろうし、業者に頼んでも四万円くらいかな」

「そっかあ。だいぶ余るね」

「なんに使おうかねー。あ、ガントレット人数分揃える?」

「いらないよぉ……」

 

 さっちゃん辺り、アイデア出せそうなもんだけど。

 

「あー、でもこれ母ちゃんにもあげたいなー」

「む? まあ、材料はあるから一個くらい作れるけど、なぜでwhy?」

「だって母ちゃんいっつも重いもの持ってるもん」

 

 ……。

 ガントレットを装備した腕で、果物のつまった箱を持ち上げる果物屋さん。

 そこにさっちゃんが帰ってきて、ガントレットな母子が揃う。

 

 やっべ面白そう。

 名物。Ingressのポータルができそうだ。まだないけど。*3

 

「腰はもう大丈夫そうなんだけどなー」

「メンテしてるからね。グキッと行ったら医者より先に私を呼びなよ」

「おう!」

 

 気分は博士とサイボーグ。

 

「それ、本当にななしが作ってたのか」

「む? そだよ」

 

 そういやあんま説明してなかった気がする。

 ただ錬金術はなあ……。

 材料をぶち込んでかき混ぜていると、鍋の中からコンニチハしてくるガントレット。

 ちょっと、説明しにくい。

 

「でも琴葉には似合わなそう」

「いらない」

 

 琴葉にもアドオン付けたいなあ。

 ただ、さっちゃんはあれだからいいとして、装備効果で自分の能力が上がったら琴葉は普通に驚きそう。な、ななし。お前……ほんとに錬金術師だったのか!

 避けたい展開。同じ理由でさっちゃんママも、どうかなあ。

 案として考えてるのはある。たとえば占いとかは、実際に当たろうとも占いというジャンルは真偽はさておき存在自体はすでに受け入れられている。多くの人は半信半疑――――といっても七割がた興味ないだろうが、残りの三割を分け合うくらいの信はある。それだけの下地があるなら、実際に目の当たりにしたところで本当だったのかーと思う程度で済む。

 だけどこれは結衣の方が似合う。

 

 琴葉にはもっと技巧的なのが似合うと思うんだ。たとえば、メカニック。普通のバンを即席の装甲車に仕立て上げたり。ベッドの部品からクロスボウを作ったり。ボイラーとガスボンベで火炎放射器を作ったり。でも、飛行機だけは勘弁な!

 今んとこ据え置き機の配線も父君に任せてそうだけど。

 あとは、スーパーハカー。ピッと操作するだけで近くの信号なんかを操作できたりする海外ドラマみたいな端末を錬金術で、作れたらいいなあ……。

 私の力、たぶんSFはカバーしていない。

 

「琴葉はなにか身につけたいスキルとかない?」

「スキル?」

「例えば、プログラミングができるとか、ボルダリングができるとか。…………プログラミングはパソコンで、ソフトを作ることで、ボルダリングは岩や、掴める部分をつけた壁を登るやつ。こういう習い事はカラーズの強化に繋がるから、カラーズ資金を使える。よね?」

「あ、うん」

 

 ……おっ?

 思いつきをそのまま口に出しただけだったけど……、わるくない。

 むしろいい。最高だ。

 三十一万のあぶく銭。この対処に悩んでいたが、このルートはパーフェクト。私はかわいい。

 なにが問題って、親御さん。急に大金を手に入れた子どもを心配しないはずがない。一人のお金じゃないし、四人で割れば七万五千円にスケールダウンするけれど、そこまで冷静に考えられるほど大人は賢いものじゃないんだ。

 急に大金を得たことによる影響。金遣いが荒い子になったら……。子供を信じられる親は私の偏見によると少ないもの。すっからかんになって学ぶものもあるさ、と思える人はかっこよくて偉大だけどそんな人はたぶん結婚には不向きだろうし。

 翻って、宝くじで得た大金を習い事のために使う……これは感涙ですわ。

 

「あれ、ななちゃん。またテンション上がってる?」

「あはは。ななしぃはときどき一人でにやにやしてるよなー」

 

 そんなふうに思われてたのか。

 

「おっ?」

 

 ぎゅっと、さっちゃんが後ろからひっついて来ました。幸せ度七十五。

 

「今度はなに考えてたんだー? 教えろー!」

 

 そう言って、さっちゃんは私のわきをくすぐり始めました。

 

「く、ふふ。どーしよっかなー。ふふ」

 

 幸せ度九十五。

 気持ちいい。

 しばらく続けてほしかったが、そう長くは続かず攻勢がゆるむ。や、やめろ! やめないでくれ!

 まあサービスタイムは限られているもの。観念して吐くことにした。

 

「いやー。たださっちゃんとちゅーしたいなってねー」

「んー?」

 

 いつも思ってるから、嘘は言ってない。

 さっちゃんはそれを聞いていつもどおりのかわいい顔でちょっと考えていた様子だったが、程なくして、その、かわいい顔が、わた、しの、かおにちか、づき。

 

 ちゅ。

 

 

 

 

 

 

 

 "天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず"と言えり(言われている)。つまり、天は人を生み出すにあたり、人を位で分けず、生まれに貴賎を設けず、この世の様々なものを利用できるようにし、それによって衣食住の用を満たし、互いに他者を妨げる必要もなく、自由に、そして安楽に過ごせるようにデザインしてくれているということだ。

 しかし今、実際のこの世界には賢いもの、愚かなもの、貧するものに富めるもの、地位の高いもの低いもの、さっちゃんとちゅーできるものとできないものがいる。

 

 学問のすすめによれば、賢さも懐具合も社会的地位も、天が定めたわけではなくだいたいは勉強したかどうか。そう一万円札は書いている。

 だが世の中の不平等は目を見開けば見開くだけ際限なく広がってゆく。そりゃ、学べる者はいい。しかし学校のない場所に生まれたもの。親が貧しくて学べないものは今も世に溢れ、世界的にも富める国であるはずの日本においてすら、貧富の差により勉強の質や打ち込める時間の差が現実としてある。べつに万札がそれを見落としただとかいう痛々しいことは思わない。単純に、その本の趣旨として関係ない上に、そこまで拾っていけば本が書き上がらないからだろう。

 ただ世の中には大勢いるんだ。その手で自分の未来を掴み取ることすら許されていない人たちが。仮に学んだところで活かせる環境でない人たちが。さっちゃんとちゅーができない人たちが。

 

 ……悲しすぎるだろ。そんなの……なんのために生まれて来たんだ?

 

 私は思う。私は恵まれたものとして、この力を使い……多くのものが、せめて学べるようにしよう。

 それは富めるものの責務だとかいうくだらないものではなく、あんまりにも憐れで憐れで、せめてそれくらいできるようにしてやりたいんだ。本質的にはなんら変わらないまでも、せめて……せめて価値のある人生であると、錯覚することができるように。

 

「答えは得た。道の果てにどのようなオチが待っていようと、私は頑張れる」

 

 さっちゃんに抱きついてすりすり。体育があったのか、ほんのり汗の匂い。最高だね。

 わけわかんないことを言っている自覚はありますが、まあ流してくれるでしょう。

 

「みんなも習い事をしてみたらどうだろう?」

 

 しばらく抱きついて、さっちゃんになでなでしてもらってから顔をあげると、なんとなく狙い通り流れていた感じだったので、話題を戻してみた。

 

「プログラミングに、ボルダリングか」

「他にはどんなのがあるのさー?」

「定番のだと手芸とかそろばん、踊りだけど、カラーズの強化だと……武術とか?」

 

 あんまり詳しくはないので、タブレットで調べてみる。

 

「手話、心理学、水泳、楽器習うのもいいね」

 

 参考、ケイコとマナブ。

 

「あっ、お菓子講座」

 

 カラーズの強化、というテーマを用意してはいたが、実際そこは別にいいので特に突っ込まない。二人から物言いがあっても口八丁でOKにする。いや、先手を打とう。

 

「やっぱその辺りが人気みたいだね。習い事に慣れるのにいいんじゃないかな」

 

 年齢の縛りもないだろうし、お手頃。

 ところでお菓子講座ってなにを教えるんだろう。クックパッド見てその通りに作ればいいだけじゃないんだろうか。

 謎。

 

「槍とかないのか」

「そういうのは道場かな。……あ、槍術道場はあるみたい」

 

 板橋区。斧術も込みか。

 ……あるのか斧術。

 

「でも、槍術覚えてもあんまり槍使う機会ないんじゃない? ほら、刃物ってあんまり持ち歩けないし」

「む、そうだな。刃物以外か……」

 

 気違いに刃物、という言葉とはまったく関係ないけれど、琴葉に武術ってこわい。特に意外性もなく順当に事件起こしそうだ。

 でもま、元気ならいいさ! 警察は任せろ!

 

「さっちゃんは?」

「んー」

 

 さっちゃん、タブレットの操作は覚えてるので、自分で探してる。

 小さい指が画面上で踊って程なく、さっちゃんはなにかを見つけたようで目と手が止まる。

 

「……。」

 

 おや。

*1
あいびき

*2
気泡の少ない溶岩をロースと言うそう。これ書いた時の記憶が薄いが、肉もロースでダブルミーニングだったのだろうと思う。

*3
これを書いてる時点では流行ってたアプリ。




実際のロトの高額当選、銀行に直行でいいのかよくわからない。youtubeではまず売り場に行ってる。明細みたいなのもらって、それを銀行へ。「これ持ってくと早く済みます」的なこと言ってるので必須ではなさそう。
琴葉の口調、もうちょい見直したい。
ちゅーの瞬間の幸せ度はわqljmfかj
「……。」のように「」の中が……だけの時は例外的に。を付けるが、特に意味のないこだわり。

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