三ツ星カラーズ転生もの(仮)   作:紅茶タルト

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第32話

「更科! 次の体育、勝負だ!」

「いいですよ。さんを付けろ」

 

 教室にて。後ろの方の席の男子が急にイベントを発生させてきた。とくに断る理由もない。応じる理由もないが、今の私はアグレッシブなななしちゃん。売られた勝負は安けりゃ買うぜ!

 

「今日は五十メートル走の計測をします。まだだいぶ先だけど、秋の運動会の前にも計測してリレーの選手を決めるので、その練習だと思ってください」

 

 訳:ルール無用のデスマッチ。金的目潰し上等! 勝敗はバカでもわかるほどシンプル! 生きてた方の勝ちだ!

 

「では出席番号順で、最初は赤松さん、お願いね」

「は、はい!」

 

 だいたいの学校では出席番号順=あいうえお順。相沢の存在しないこのクラスにおいて、赤松結衣は最速の女だ。

 足自体も、普段みんなと走り回っているだけあって平均より速い。ただ必然的に短距離のビルドではなく主に持久力に経験値が振られているため、超速いということはない。

 

「十秒二。速いですね。では戻ってください。次は――」

 

 近くに平井さんと田所さんもいるが、最初なので速かったね的な話題はない。

 去年どのくらいだっけとかそんな感じ。で、わかんないねーと返す。会話ってこんなもんだよね。

 

「更科さん」

「はーい」

「ななちゃん、頑張って!」

 

 たらたら立ち上がっていると、結衣がそんなことを。……ふむ。

 

「それは、つまり……本気を出せと……?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ。

 ジョジョの音が出るような迫力を醸し出している……つもり。結衣に伝わったかしら?

 

「う、ううん。ほどほどで」

「そうする。じゃ、ちょっと行ってくるね」

 

 この学校では、電子式のスターターピストルを使用している。高いけど火薬を使わなくていい分長期的にはお得、というパターンでしょう。

 それほど違和感はないながら、やはり本物ではないその音にも慣れ、申し分ないスタートを切って走り出すことができた。

 しかし全力だとなんらかのスカウトが来ちゃうので、いくらか抑えて走ってゴール。

 

「八秒八五!?」

 

 だがもちろん、丁度いい加減なんてできない。

 

「ななちゃん速い!」

「更科さんすごい!」

「フ……。やりすぎた」

 

 薄々自覚していたことではあるが、私は加減が甘い。

 私の身体能力は小二女子としてはありえないものの、高学年男子も含めた一つ一つはギリ、まったくナシではないくらい。だからセーブの練習まではしてなかった。必要になる状況も少ないと見てたし。

 高校に通うサイヤ人くらいの差があれば頑張ってどうにかするけど……。

 

 幸い気を使ってか教師は大きな反応もせず、次の生徒を指名した。

 

 

 

「琴葉って学校でもゲームするん?」

「……ん?」

 

 私の質問に、画面から顔を上げる琴葉。

 質問する前はなにかそれなりに理由があって訊こうとしていたはずなのだが、なんだかもう思い出せない。こういうことって、あるよね!

 小学生でも、あるよね? 大丈夫だよね。

 

「さすがに私も学校ではそんなにしない」

「やっぱするんだ」

「フッ」

 

 ニヤリ。くぅー、この顔のために生きてるね。

 

「昼休み、体育用具倉庫裏が狙い目だ」

「おお!」

「電子音は響くから音は出さない。イヤホンも耳が塞がるからだめだ」

「やはりプロか」

「しかも、あの辺りは砂利で足音が響く。好都合……!」

 

 琴葉、期待に応える女。

 学校だから、と日和るような無様な生き様はしていないと信じていた。

 リスキーだからやめといたらとも思うけどさ。

 

「よーし。バレてトラブったら私に言ってくれ。そういうの得意だから」

「うん」

 

 丁度いい暗示魔法があるから。

 クラス替え対策魔法《催眠術(ヒプノティズム)》。対象を大きく友好的にした状態で命令、お願いを一つ植え付ける。

 この魔法のいいところは、魔法の効果が終了した後も指示に関してだけは変化した友好度の影響を与え続けることと、対象に魔法にかけられた自覚を与えないこと。

 なにより最高なのは、この魔法なら指示以外に関しては普段どおりだし、強制力が弱いぶん対象の周囲の人間が違和感を抱きにくいこと。

 ものっすごく使い勝手がいい。間違いなく、この魔法さえあれば社会というゲームはクリアできる。

 

 この魔法が今ならなんとレベル一から使えます。

 

「パチンコは上達した?」

「練習はしてる」

「よかった」

 

 琴葉に関しては二つばかりプランがあるのだ。でも、それをどんどんぶつけるのはよろしくないと思う。一つ一つコツコツだ。普通の子は。

 

「なにかあるのか?」

「む、うん。んー……まあ」

 

 歯切れ悪く答えるのは、自分から言うつもりはなかったがそう訊かれてみると言うか言わないかが五分五分だったから。

 ふむ、……まあいいか。

 

「こんなのがあるんだけど」

「……?」

 

 服のポケットから出したように偽装しつつ四次元ポケットの魔法から取り出して、テーブルの上へ。

 琴葉はその、複数の金属の棒を手にとってしばらく観察して、驚いたことに答えに至る。

 

「鍵開けか!」

「そう!」

 

 手の中に隠していた中身が見える南京錠を追加でテーブルへ。

 これぞ鍵開け練習セット。これもAmazon。

 

「おおおぉぉ!」

 

 こ、これは。テンション上がってる。遅れたけどカメラスイッチオン!

 

「にしても、それだけでよくわかったね」

「やりたかったからな! これが……!」

 

 琴葉に一通り説明します。

 

「これがテンションレンチで、こう、力を加えつつピックでこう」

「なるほど……」

「ほら、透明だから簡単。これで感覚がつかめれば普通の鍵は開けられるようになる……んじゃないかな」

 

 説明できるようにちょっと試したけど、私は鍵くらい魔法で開けられるからそこはほどほど。

 

「琴葉に似合うかなと思って。喜んでもらえてよかった」

「ありがとう、ななし」

 

 あら、イケメンスマイル。キュンとくる。交尾したい。

 そうか、これが貢ぐ女が存在する理由か。

 

「あ、今日もさっちゃんが最後?」

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

「え、うん。ごきげんよう。……お嬢様?」

「最近さっちゃん遅いよね。まったくどこでなにをしてるのやら」

「ドラムだろ」

 

 というわけで、さっちゃんはドラム教室に通い始めました。

 結衣も鍵開けをちょっとやってみます。結衣にも簡単な鍵なら開けられるようになって欲しいですね。リーダーだし、オールマイティ路線がいいと思います。

 そこにあとなにか一つ、リーダーっぽい能力があるのが理想。

 

「おーっす!」

「あ、さっちゃん」

「ごきげんよう」

「おっす」

 

 ドラムスティックを両手に掲げ、舞うように入場して来たさっちゃん。相変わらず、その片腕にはガントレットが装着されている。

 装備したまま練習してるんだろうか? いやどっちでもいいか。

 

「たったったー」

 

 ちゃんちゃかちゃんちゃか、テーブルを叩くさっちゃん。ハマってる。

 

「うるさい」

「琴ちゃんはどうさー? 練習してる?」

「ベースか。あれはまだわからん」

「CD聴いてる?」

「うん。……あの、ビートルズとかいうのは、確かにちょっと、いいな」

「おお」

 

 かっこつけじゃなく本当に洋楽がわかる小学生。かっこいい。

 残念ながら私も世代じゃなく、それほどビートルズを知らなかったが、どーにもこちらのは私が辛うじて知っている曲がなかったり、見覚えのないアルバムがあったり前との差異が大きい。

 どっちかと言うと体感、前の世界よりもビッグな感じ。それにまだ四人存命。一人か二人死んでた気がするんだけど。

 世代的に実感を持って知っているわけではないが、彼らは向こうでも巨頭だった。それがさらにとなると、でっかいバタフライ効果が……たぶんあるんだろうけど、私には計りきれない。もともと音楽詳しくなかったし。

 

「ロックな曲なら私にも用意があるから、いつかみんなで演奏できるといいな」

 

 特に、Smoke on the Waterがないからその再現。

 ……ロックって、(イコール)この曲じゃないのか。

 

 ショパンの名曲の一つに、幻想即興曲というものがある。しかしこの曲は生前に公開されたものではなく、彼が友人のフォンタナに死後に処分するよう託した楽譜であった。諸説あるが、フォンタナにとってもこの名曲は葬るに惜しかったのだろう。わかる。

 しかし彼、なんか出版時にこっそり自分のアレンジを加えたようなのだ。なんでかなー、って思ってたけど、なるほど。ちょっとやりたいな! それ!

 

 ドラムのさっちゃんはやる気。琴葉もこのまま行けばベーシストになってくれそう。

 さあて、問題は結衣だ。他のメンバーだったら、みんながやってりゃそれに倣う。さっちゃんは楽しそうだから。琴葉は寂しがりやだから。

 でも、結衣はちょっと芯が強いとこがある。

 横にならえ、じゃないからそのうち他のメンバーと差が開いて、その時から慌ててやる感じになるかもしれん。

 きっと見てるぶんには楽しいけど、それだと結衣が楽しくない。ふうむ……。

 

 どうにかする策はあるけれど、問題もある。

 OP曲を出せば確実にそれが目標となってブーストできるけど……私は、歌詞をいじってヨツボシにする気はない。

 だからその点は確実に突っ込まれる。自発的に自分を仲間外れにする私に、そっかーと納得するようなみんなではない。特に結衣。

 その場しのぎでごまかすのは得意だけど、それでもいけるかどうか半々くらいと思う。タイミングを見計らいたい。

 

「結衣はどう? ギター」

「うーん……」

 

 ピンと来てない、と。

 ううむ、他の手は……。

 

 

 

「聴いてくれ! Red Fraction!」

 

 準備をして後日、結衣を家に呼んだ。

 部屋にはいい感じのスピーカー。私はギターを持ち、PCを操作する。すると、聴こえてくるのはギター無しの曲だ!

 この準備が大変だった。

 

 アニソン。英語歌詞。そんな曲。ギリ、魔法で記憶を引っ張り出せた。

 私の素の英語力は低いので魔法で喋れるようにするという、ちょっと避けてた裏技を使ってまでかっこよく弾き語った。

 

「……こういうのをやりたい」

「無理!」

 

 全力で拒絶された。

 

 

「じゃあキーボードで、ドレミファロンド」

 

 ボカロの名曲。

 演奏の難度が低く、歌詞のアレンジもしやすい。

 まだ演奏技術が未熟な私にとっては救荒作物のような頼れる存在。

 

「わあ……!」

 

 しかも子供向けと来た。完璧かよ。

 フフフ。私ならこの曲の力を万全に使いこなせない。

 

「これならどう?」

「うん。これなら……できるかも!」

 

 

 ――と、いうわけで。

 いま、私は結衣の後ろから、抱きつくような感じでピアノ(エレクトーン)を教えています。

 多少強く密着しても、女の子どうしなのでなんの問題もありません。多少よこしまな気持ちがあったとしても、女の子どうしだから問題ないのです。でも、できれば問題を起こしたい。

 気持ち的にはそんなですが、実際にはソフトタッチ。適度なスキンシップで結衣も笑顔です。

 

「ドレミの場所はわかる?」

「うん。ここがドだよね」

「そうそう。ほら、かーえーるーのーうーたーがー」

「おおー」

 

 あーしあわせ。

 

 この日はかるーくレッスンしました。

 

 

 

「お菓子が減ってきたな」

 

 と、琴葉様がおっしゃいました。アジトに備蓄していたお菓子が――あ、備蓄というのはビーチクとは別のものです。みんなで食べる用に用意していたお菓子が、もうすぐ底をつきそうなのです。

 さて。このお菓子ですが、出所はどこでしょうか? カラーズがまとまった量のお菓子を入手するルートはいくつかありますが、大きく分けて一つ。誰かからもらう。それが基本です。

 そこから更に分けると、お菓子屋さんから期限間近のを譲り受けるのと、たまーにカラーズ活動の報酬としてもらえるのの二つになります。

 ただ、私達の活動の大半はあんまり感謝される感じのものではないので、本当にまれなパターンです。

 他にも親戚のお土産が流れてくる、というのもありますが、臨時的なものなのでなんとなくはぶくとその二つなわけであります。

 

 しかし。

 このお菓子はそのいずれでもない。

 

 単純に、買った。ロトマネーで。

 

 習い事に使うことで親からは文句が出ませんが、親はそれで黙っても黙らない三人がいますね。

 当然多かれ少なかれお菓子を買うことにはなるのですが、なんとかかんとか、私が珍しくブレーキを踏んで少なかれの方に着陸させた。

 ちょちょいと時計の針を戻しまして……ハイッ!

 

 

 

 駄菓子屋。

 まあ、なんと言うか。

 そうだよね、とりあえず。

 そんな選択。

 

「買うぞー!」

「大人買いだな!」

「大人じゃないけどね!」

 

 そう。子供の夢、大人買いである。

 通常、子供が駄菓子屋に行こうと思っても、その予算は多くてせいぜいゲイツの資産の二兆分の一程度。たいていは、それ以下。

 だが、我々には金がある!

 今日は買おう。だって誰かも言ってたじゃないか。贅沢ってやつはさ、小出しはダメなんだ。やる時はきっちりやった方がいい。

 そしてその言葉を受けた彼はなんだかんだで二日続けて豪遊。その後も節制できず、借金地獄へ。

 

 ――ちょっとみんな、集合。

 

 

 ……そう。子供の夢、大人買いである。

 今回の予算は四千円と少しある。ちょっと端数が出てたから、それをお菓子に充てようと……いう感じに、頑張った。

 自分のお金を好きに使う、というのは自立心とかを養うためにとても大事なことだけど、限度がないのはよくない。

 虫歯になるよ。太ったら可愛くないよ。自制できる人ってかっこいいよね。

 ほどほどでお願いします!

 そうして私は四千円ちょいという制限を勝ち取った。

 

 

 私たちは今、二木の菓子に来ております。今風の駄菓子屋ですね。

 クラシックスタイルの駄菓子屋は少し薄暗いものですが、こちらは店内が煌々と照らされ、駄菓子屋と言うより駄菓子が置いてある店という感じ。

 まあ暗いとねえ。万引きとかねえ。

 

「イカだろー!」

「えー? ちっちゃいチョコじゃない? プリン味の」

「ラムネ」

 

 議題、駄菓子屋と言えば。

 三人は他の駄菓子屋知らないから、二木の菓子と言えば。

 

「私はくじだと思う」

「あっ、チョコのくじだ!」

 

 ちっちゃいチョコの、金券付きのやつ。定番だね。麺系の方が一般的かな。

 まあそれもいいんだけど、ほらそこのスーパーボールとかさ。

 今の私なら、でっかいの当てられるんじゃないかってワクワクなんだよね。

 

「じゃあくじで勝負だ!」

「あっ」

 

 

 

「うがー!」

 

 こうなるか。

 

「琴ちゃんくじ運ないからなー」

「そうなんだ……」

「やっぱなあ」

 

 何の根拠もなく確信してた。だってなさそうだもん。

 なおイタイワニは一回噛まれて以来不参加。

 

「大きいねー」

「小さな夢が叶いました」

 

 いっちばーん。おっきいのゲットだ。結衣は中くらいの。さっちゃんは小さいけどキラキラしたやつ。琴葉は素のやつ。素ーパーボール。

 一日一回だけ使える運を上げる特殊能力(詳細不明)を使って、強引に当たりくじを引き寄せた。その代償のように琴葉が死んだけど、頭を抱える姿がかわいかったからいいじゃない。

 

 二木の菓子って、普通のお菓子も売ってるんだよね。駄菓子だけ売るには広すぎるし。

 でも、三人ともどれがいわゆる駄菓子かなんとなくわかってるようで不思議。ほぼここにしかないのが駄菓子、という感じだろうか? でも酢だこさん三郎とかって駄菓子だけどスーパーで売ってるよね。駄菓子の具体的な定義なんてないだろうけど、現代っ子はどう認識してるんだろうか。

 

 各々、小さなかごに好き放題駄菓子を放り込みます。チョコ、麺、パチパチする飴、キャベツ次郎、粉ジュース、ゼリー。

 やはりと言うか、どのかごの中にもあんず棒やさくら大根、すもも漬けの姿はありません。以前もその時代の人じゃなかったので、私も好きじゃありません。

 以前試しに食べたらビミョーな味。昔はこれらが駄菓子の定番だったというのだから、不思議なもの。

 

「あっ、ラムネビンだ。ななちゃん好きなの?」

「うん」

 

 ラムネビン。ビンの形のモナカの中に、粉ラムネ。それを付属のストローを使って吸うやつ。本来はビンラムネって名前だったかな?

 初めてこれを食べる人の多くはビンのトップをかじるなどして開け、そのにストローを差し込むのではないだろうか。しかし、パッケージのうさぎを見ればわかるように、底に突き刺すのがオフィシャルスタイル。細いトップに粉ラムネが集まって吸いやすく、確かに理にかなっている。

 

「でも、それむせちゃわない?」

「そう? そうでもないけどなあ」

 

 あー、そういうのもあるのね。琴葉とか苦手そう。さっちゃんはどうだろう。

 何個も買うし、あとでちょっと試してみよう。

 

 注目のお会計!

 

「あれ!?」

「なんでだ!?」

「おかしい……」

 

 驚きの声をあげる三人。店の人は多すぎたのかな? 減らす? と慣れた様子で気を使っていますが、そういうわけじゃありません。

 

「欲しいもの全部買ったのに、四百四十円!?」

「私は六百二十円」

「五百六十円!」

 

 ここへはみんな、全力で欲しいものを買う。そんな意気込みで来ました。

 

「千円行かない!」

 

 しかしその気持ちは、予想外の駄菓子のリーズナブルさに打ち負かされました。別に勝ち負けじゃないですが、自分の全力がこの程度、というのはなんとなく負けた気分なのでしょう。

 

 お前の欲望はそんなものだ。

 

 そう突きつけられた。その程度で満足してしまう安いやつらなのかと。

 ……我慢ならん! カラーズは無駄にプライドが高いのだ!

 

 とがりコーン。ポテチ。アポロ。チョコベビー! 明らかに反則だが、みんななんとなく設けていた駄菓子の縛りを解いた。キットカットなどのみんなで食べる用のラインナップも加え――――ついにたどり着いた。

 

「合計三千二百円だけど……大丈夫?」

「はい!」

 

 結衣がお金を払います。

 

「そんだけでいいのかよ、ななしぃ?」

「食に関心が薄いもので」

 

 四百円。

 《自活の指輪(リング・オヴ・サステナンス)》のおかげでブドウ糖が常に過不足なく供給されるいま、生き急ぐ私が店で買ったお菓子を食べる理由はない。

 ただ、なくても食べる時は食べる。それが人間性(四百円)

 

 

 

「このポテトフライというのは実にうまい。けど、駄菓子としてはけっこう高いんだよ。原材料が高騰したようでね、類似商品であるポテトスナックは販売を終了してしまったようだ。だからたぶんもとはもう少し安かったんだろうね。実際駄菓子の値上がりは近年よくあることで」

「うーん、ななちゃん駄菓子好きなんだね」

「おうとも! ……なんでだろ」

 

 特にきっかけとかないけど、まあ好きに理由なんてないか。

 

「ほらさっちゃん」

「あ! うんこだ!」

「もーさっちゃん……あ! うんちだ!?」

 

 うんちくんグミ。いや、名前は違うけど。うんちっちグミと書いてある。

 

「こんなのがあったとは……不覚だ!」

「金券くじ付きだ。二つ買っといた。さっちゃん、勝負だ」

「ふふ。……受けて立つ!」

 

 二つのグミをテーブルに置く。さあ、ドローしたまえ。

 

「……こっちだ!」

「よろしい。では私はこっちをいただこう」

 

 では……オープン!

 

「五十円」

「はずれだー!」

 

 勝った。

 

「結衣はいちごショートチョコ、琴葉はモンブランチョコが多いね」

「だってかわいいよー」

「……。」

 

 静かに味わってる。

 

 ちなみに私はさっきのうんちくんグミやおとくでっせなどの金券付きや当たりが出たらもう一個系を狙った。錬金アイテムでの運の上昇がどういうものなのか、まだよくわかってないから検証を。

 結果。全体的になんとなく、当たりやすい感じ。

 

「ほら銀のエンゼル」

「うわー」

「わー!」

「おおー!?」

 

 

 

 というわけで、そんなお菓子。

 

「だいぶ寂しくなったなー。祭りも終わりか」

「だねー」

 

 なくなったからおかわり、というのを警戒していたけど、幸いみんなしっかりしてる。

 なんと言いましょうか。……意外。

 

 ちょっと失礼かなと思わなくもないが、三人ともちゃんと子供だから欲望には正直なはずなんだけど。

 んー。まだちょっと、ズレがあるんだよね。せっかく子供なんだから、私も子供として生きたいという気持ちはあるんだけど、天然モノじゃないからなー。

 仕方ないから理屈で考えてみよう。基本的に高プライオリティに位置するはずの甘味。それを我慢する……ということは、……どういうことだろう。

 習い事がさっちゃん以外も楽しいんだろうか。……うーん。

 

 まあいいや。

 

「でも、みんなで食べるの楽しかったねー」

「そうだなー。ポッキーとか!」

 

 この場所にポッキーが登場した時、どうにか琴葉と結衣がポッキーゲームをするように仕向けられないかな、と思ったけどそれはちょっとガチすぎるかなあとそこは引いた。この後あるであろうビンラムネによる間接キスは勝ち取ったからおとなしく引けた。プチ回想!

 

「結衣はこれむせるんだっけ?」

「うん。前試したんだけどね」

「琴葉は?」

「なんだそれは?」

「モナカの中に粉ラムネが入ってて、ストローで吸うの。むせる人もいる」

「フ。私はそういうの平気だ」

「さすが琴葉!」

「じゃあ、はい」

 

 すー。

 

「ガホッ! ガハッ!」

「むせてる……」

「あはははは!」

「じゃあ次は結衣ね」

「えー」

「いいからいいから」

「うーん」

 

 ……す。

 

「えほっ。やっぱ無理!」

「よーしさっちゃんパス!」

「よしきたー!」

 

 ずぞぞぞぞぞぞ!

 

「すごい! さっちゃんすごい!」

 

 

 ――――と、ほとんど残ってなかったけど、ストローは手に入った。

 よかったです。

 

 

「琴葉は習い事どんな感じ?」

「……ん」

 

 とりあえず習い事で攻める。

 

「まだ、だな」

「ふーん」

 

 結局なにを始めたのか、琴葉はまだ秘密にしている。

 まあ、そのうちわかるでしょう。いまの所本当に予想できない。

 序盤に話した武術系は好感触だったけどあれからだらだらとスイミングスクールや体操、絵画教室にまで話を広げたからもう読めない。

 超気になるけど、ちょっと上手くなってから披露したいって気持ちはわかるから我慢我慢。

 

「私はねー、うーん。もうちょっとかな!」

「へえ。結衣はなんの教室に通ってるのかな」

「えへへー。内緒!」

 

 と、結衣も隠してはいるが、

 

 パンだろうな。

 パンだな。

 パンダ。

 にゃー。

 

 てな感じに、みんな気づいているのが表情でわかる。だって、最近明らかにパン臭してるもの。パン教室だわ。

 結衣がこねたパン、早く食べたいなー。

 

 

「ななちゃんは?」

「え、私? 私は前からピアノにヴァイオリン、ボイストレーニング行ってるから新規はないよ」

「じゃなくてー」

「新兵器はどうなったんだよー!?」

「……あっ」

 

 カラーズ新兵器。予算下りてるんだった。

 担当しました。流れで。

 

「……忘れてたな」

「んー。現実的な範囲ではいろいろ制限があって、ねえ」

 

 まず、法的な問題がないこと。おおっぴらに使えないとあんまり意味がない。

 予算内であること。基本的には。

 威力がありすぎないこと。でもそこそこにはあること。

 

 となれば銃。

 いろいろ考えたその中でいけそうなのはガウスガン、コイルガン、パイルバンカー。

 ガウスガン、と言うとかっこいいが、簡易なものなので強い磁石でパチンコ玉を飛ばすだけ。

 コイルガンはレールガンの子分みたいなもの。できるかできないかで言えばギリ可能。ただ難しいし、電気が必要となるため持ち運びとかは厳しい。その分ガウスガンよりも威力が上がるはずなので、軽犯罪法とかでちょいあれ。なにも遵法精神的な話ではなく、おそらくそんなに隠しては使わないであろうカラーズのおもちゃとしてはそういう隙を作りたくない。

 パイルバンカーは杭を打ち出す架空兵器。杭打機などが元なので杭が本体から離れないのが本来の姿。すなわち、近接の、一撃必殺技。

 ――――実用性皆無!

 当たりにくく、重くてでかくて扱いにくい、ロマン以外のメリットが特に見当たらない代物。平たく言うとでっかい銛だ。

 ガスガンなどの方式でなんとか作れそうだけど、毎回コストかかるのに肝心要のロマンが理解されなければ産廃。

 

 てなわけでガウスガンを作ることにとりあえず決めた。

 なにもバカ正直に自分で開発することはなく、探せばふつーにちょっとした武器くらい買えそうなもんだけど、なんというか。工作にも興味あるのよね、私。

 

「まあ材料は取り寄せてるから、届いたら着手するよ」

「じゃあなに作るか決めたんだ」

「まあねー」

「あ、言わない顔だ」

 

 まーね!

 

 

 

 若くなった時あるある。可能性が多すぎて絞れない。

 工作について調べているうちに、戦車とか作れないかなーとか思ったくらい。

 車長、結衣。砲手、さっちゃん。操縦手、琴葉。そして装填手はもちろん高橋大僧正。これは唐突に新キャラを出すというボケです。

 ちっちゃいのとかを自作してる人はちょっといるから、魔法の助けのある私なら原寸大いけると思う。金属の形を変えたり、重いものでも浮かせたりとなにかと楽ができる。

 そう魔法。魔法だ! 若さは可能性を与えてくれたが、それを本当に手の届くものにしてくれたのは魔法だ。

 だから私にとって魔法というものはとても特別なものなんだ。私は魔法が好きだ。恋している。みんなの次くらいに!

 

「なのにこのっ、錬金術めっ!」

 

 裏庭。怒りをぶつけるように、木べらで大きめの鍋の中をかき回す。

 もうちょっとこう、専用の混ぜる道具や鍋があるとは思うのだけれど、まだそのへんは不明。錬金術の情報はじわじわ開放されるのだ。

 あ、こないだかまど作りました。魔法で。

 

 できあがり。

 しゅぽん、と音が鳴って、鍋の中を満たしていた液体がなんの理屈もなさそうな唐突さで消え失せる。するとそこにはなんと、例のガントレット(大人サイズ)が!

 さっちゃんママのぶん、用意するだけしておこうかと。

 

 ところでこのガントレット、メインの効果は力の強化みたいだけど、これで重いものを持った時の腰の負担ってどうなんだろうか。そういうのは耐久力みたいなのの担当なんだろうか。

 わからん。

 このゲーム一人で攻略しなきゃならないの、なんとかならんか。

 

 

 

「ふふふーふ、ふふーふふー」

 

 キテレツガイジン。今日はコロッケ。いっぱい作るよ!

 コロッケって美味しいよね。でも、多く作るには大量の芋が必要となる。皮……。単純作業に時間を使うの、私には苦痛だ。

 

 そこでこの魔法、《見えざる従者(アンシーン・サーヴァント)》ッ!!

 

 圧力鍋で蒸した芋が一つずつ空中に浮き上がり、どんどん剥かれてゆく。これが見えざる従者、アンシーン・サーヴァントの力!

 戦闘はできないが、炊事洗濯掃除裁縫とたいていのお手伝いはやってくれる。私が料理してる間に調理器具を洗ってくれたりするから、お菓子作りの時とかに大活躍する魔法。

 三回使ったからいまは三体もいるぞ!

 

「次は……そうそう」

 

 熱さをものともしない彼らの活躍により芋はスピーディーに剥き終わり、静かにテンションを上げた私が指示する前に彼らは勝手に芋を潰す工程へ移る。コロッケ、と言っておけばあんまり細かい指示の必要ない有能な従者。これがレベル一の魔法だ!

 小麦粉、たまごに、パン粉をまぶして、アゲアゲです。えい! えい! キャベツはスライサーで細かくして、できあがり。

 

 

「おねえちゃんのコロッケだいすき!」

「ふふ。こっちが普通の。これが野菜入れたの。こっちがカボチャ。これがクリームだよ」

「……多いね!」

 

 よしやりすぎたぞ。

 

 コロッケはフランス料理のcroquetteが元で、それがいろんな国に広まったものなんだ。小洒落たお店じゃメニューにクロケットって書いてあることもあるんだよ。

 

 てな感じに、妹に豆知識を仕込むのが私の数多い趣味の一つ。上記は前回使用したもの。

 今回は別のがある。

 

「コロッケがフランス料理というのは前に話したね。クロケットは日本以外にもいろんな国に広まっていて、国や地方で少し形が変わるんだ。一般的な日本の家庭で作られるコロッケは多くが小判型のようだよ。今日のは、クリームだけ小さい俵型だね。中身が柔らかいのはこうした方が割れにくいんだよ」

 

 復習も加えつつ、新しいのも追加。これが有能なやりかたよ。

 アマゾン川で、まででポロロッカと答えられる、そんな子に育て。

 

 三種が十個。小さいクリームのが二十個。多いけど、まあ兄とかコロッケ好きだし置いときゃなくなるでしょう。

 

 次はなに作ろっかなー。

 

 

 

 

「みんなはどんな食べ物が好き? 私はね! 特にない」

「私はね」

「ないのかよ!」

 

 将来舌を鍛えるかもしんないけど、いまは重きを置かない。

 

「やっぱりケーキかな」

「肉!」

「……チョコ」

 

 カラーズのみんなに好きなものを訊くことで、次のメニューの参考にする。

 料理はクックパッドとか見ればできるけど、なにを作るかという発想、すなわち私自身のレパートリーはそう多くない。したがって外から新しい風を入れないと、我が家の食卓ではずっとコロッケやカレーがヘビーローテーションで舞い踊ることになる。私は別にいいけど、思うに常人にはいまいちだろう。

 それに料理上手くなりたいしー。

 

「そっか。じゃあ今度みんなのために肉ケーキを作るからチョコレートフォンデュで食べよう」

「足すな」

 

 やっぱ甘い物に寄るねえ。

 

「肉ってどんな感じ? ローストビーフ? それとも生ハムをオリーブオイルをかけたベビーリーフと一緒に食べる感じ?」

「さっちゃんがそんなおしゃれなわけないでしょ!」

「おいリーダー」

 

 ツッコミが炸裂! 破片がさっちゃんに突き刺さる。

 

「そだなー。……やっぱ…………肉だな!」

「心でわかった」

 

 そこそこ美味しいのをいっぱい食べたい感じね。

 

「二人は……晩ごはんとかではどんなの?」

「うーん。コロッケとか……」

「それ以外で」

「なんで?」

「昨日作ったから」

 

 結衣の顔に疑問符が浮かびます。かわいい。

 

「うちでは私の気分次第で私が晩ごはんを作るんだけど、次はなにを作ろうかなーって」

「へー。……うーん、オムライスとかは?」

「んー……、おお。いいかも。こう、外側が軽く固まっていて、中がトロっとした卵をチキンライスの上にのせて、ナイフでひっかく。すると、皮が破れて中身がぺろんと出て、表面を半熟な卵が覆うんだ」

 

 ゴクリ。結衣の喉がなる。

 

「全体を卵で覆うのもいいね」

 

 言ってて気づいたけど、家庭料理では普通やんないな。一人前に卵二つ三つ使う主婦はそういない。

 私が変なデータを入れたせいでみんなのママ上を困らせないといいんだけど……。

 

「琴葉は?」

「エビフライ」

「あ、私も! エビおいしいよね」

「タルタルソース!」

 

 元気な声でタルタル派を宣言するさっちゃんを、琴葉が無言で見つめます。それに気づいたさっちゃんが同じく無言で見つめ返します。

 わかりあったような表情。そうか琴葉もか。タルタルおいしいからなあ。ただエビフライに勝ってしまうくらい存在感があるのが難。良いタルタルソースの前ではエビフライなんてタルタルソースを食べるための棒だ。

 結衣はAny(なんらかの)ソースかな? 醤油派の可能性もある。

 

「ところでみんな、エビフライの尻尾っていると思う?」

「あれは邪魔だ」

 

 即答した琴葉の他、結衣もさっちゃんも同じ意見。まあ実を取る子らだからなあ。

 

「尻尾の先っておおまかに三つにわかれてるけど、このサイドの二つを取ると中身をスポっと抜けるんよ。背わた取るときについでにやればそんなに手間ってほどじゃないんだけど、まあ飾りなんでしょうな」

 

 それがまさにこの子らにはいらないもの。料理には見た目も重要ではあるけど。

 なおたまになんか抜けないこともある。

 

「――もちろん私は尻尾のないエビフライを作る」

「いいなーそれ」

「こんどみんなで作ってみる? 簡単だよ」

「料理かー。いいな!」

「で、動画にしてさー、YouTubeにアップするの。カラーズお料理教室」

「おー?」

「カラーズキッチンの方がいいかな? これからはYouTubeの時代だよ!」

「うーん……?」

 

 ――おっと。飛ばしすぎたか。

 

「んーとね……」

 

 いろいろと考える。んー……よし。

 

「カラーズを有名にしよう」

「しよう!」

「しよう!」

「する」

 

 考えた結果、小細工なし。

 

「カラーズの活動とかを動画にするんだ。それが有名になって動画の再生回数が増えればお金が入ってきて、それを資金にまた面白いことをやって動画にして、ってやっていけばずーっと楽しいことをし続けられる」

 

 わりとずっと考えていた。

 私一人なら、全ては思いのままだ。宇宙規模とかは難しいにしても、地球規模のことなら……まあ、たぶんまあまあなんとかなるはず。

 とりあえず多くの人が求める金地位名誉異性同性なんかはどうにでもなる。特に金なんかはちょっとレベルを上げて連邦準備銀行をダイ・ハード3してしまえばいいのだから。金塊をどう換金するかとか知らんが。

 換金の手間を省きたいなら現金輸送車でもいい。ただ、マネーロンダリングとか考えると実行しようとは思えないが。

 まあ金は遵法で稼ぐとして。カジノとか。そうすれば、好き放題生きることに何の支障も無いだろう。とりあえずカジノが潰れるまで。

 たっかい服着てたっかい物食ってたっかい家に住んで、やりたいことをやりまくるそんな日々。飽きそう。

 できるできないで言えばそれはできる。だが私はそんなものに魅力は感じない。そこにみんながいなければ。

 私は十年後も二十年後もみんなと一緒に遊んで過ごしたいが、現実というものはクソなのでなにかと理由を求める。お金はあるからみんな一緒に遊んで暮らそうぜ! なんて言ってもみんなは私のヒモにはなってくれないだろう。まあ一人くらいはこんなダメな私を哀れんで一緒になってくれる子もいるかもしれないし、それはそれでいいけどやっぱりみんな一緒がいい。そのために……YouTuberになろうぜ!

 各々やりたい職業とかもあるかもしれないが、副業としてでもやれば一緒にあれこれする理由ができる。わちゃわちゃするのが仕事になれば、天国じゃないか。

 そうなるとさらなる広告収入のためにいちゃいちゃするのも致し方ないこと。百合営業だから! これは百合営業だから!

 避妊するから!

 

 夢が広がる。

 

「そんなので稼げるのか」

「これからの時代はね。数年後には"あこがれの職業"って感じになると思うよ」

 

 前の世界と変化がなければこれは事実だ。現在の様子を見る限り、こちらでもそうなるだろう。

 

「あー。コーコクシューニューってやつかー」

「こうこくしゅうにゅう?」

「さっちゃん難しいこと知ってるね」

「おう! クラスの男子が話してた!」

「へー」

 

 小学生が……? ハッ! さては他の転生者!

 なるほどな。だとしたら…………スルーで。

 

「お料理教室は例えばの話だけど、教育番組以外ではたぶんないから珍しいんじゃないかな? いけると思うよー」

 

 さーて。未来ではちょっとやってみようかなでは入りにくい程度の実績が必要になって弱小YouTuberが悲鳴をあげてたYouTube広告収入ですが、現在はどんなもんでしょうか? これがですね、総再生数一万必要なんですね。

 この世界での未来がどうなるかはわからないけど、今んとここうなってます。

 

「一万かー。すごいなー」

「ねー」

 

 まだ広告報酬がYouTubeからのスカウトオンリーから一般開放に変更して一年ちょいだから、広くは知られてないシステムだけどよくその子知ってたねぇ。

 

「広告ビジネス自体はどでかい市場だから、将来性は大きい。興味あるならいまからやれば数年後あたり大儲けの可能性もあるよ」

「おお! どんくらいだよ!」

「憧れの職業、って感じになるくらいには」

 

 泣いてないよ、と言いそうになったけど通じる可能性が見当たらなかった。*1

 

 実際いまからならビッグネームになれる可能性は高くあるけど、企画を考え続け実行し続けるというのは……私オンリーじゃ厳しい。

 そんなわけで人生プランに入れてなかったが、どういう意味かは知らないが三人寄ればもんじゃ焼きとか言うし、とりあえずルートは開ける。

 私としては自分で選ぶほどではないけどやるんなら特に不満もないし紹介してみた。みんなでワイワイ動画投稿、ってのをずっと続けるのは楽しそうだ。

 

「動画を作るだけでお金になるの?」

「そういう時代がね、もうすぐ来るのさ」

「ほう……!」

 

 興味あるかい? 琴葉は……なんかコンスタントに炎上してる未来が見える。ソロはやめとこうね。

 

「まあそういうこともできるよ、てだけだよ。実際本気でやろうとしたら大変だし」

 

 今動かなければ数年後あたりに盛り上がり始めたYouTuberを見て、出遅れた! やるぞー! という感じになるだろう。そういう想定があるから、その時には遅いかもしれないけどとりあえずちまちまと動画を作って温めておこうかと。

 

「ただ、大きなモノになるということだけは言っておくよ。数年後、私の先見の明に震えるがいい」

 

 琴葉は半信半疑くらいの表情で私を見ている。結衣は六信四疑くらいかな。まあ私のゴイスーなトコはこれまでになんども見せてるけど、さすがに数年後の話はピンと来ないんだろう。そも、年齢が数年。

 私も実際七信三疑と言ったところ。私だって、こちらでは数年モノの新参だ。これまでの感じだと特に向こうの世界の因果を持ち込んだりはしてないようだし、未確定ではある。

 ただ同時に確実でもあるから、自信はある。誰かが試みるのは確実なのだから。

 三疑は、それがいつになるのか、ウケ具合とか、規模はどうかとか、そちら。

 

「よし、やるぞ!」

「うん?」

 

 ……あれ?

 

「あれ、やるの?」

「おうともさ! 面白そうなことは全部やる。それがカラーズだ! ななしぃ! それに必要なものはなんだ!」

 

 おおっとお。

 ……十信ゼロ疑がおったか!

 

「……フ。まあ意思があるなら止める理由はないな。必要なものはいろいろあるが、なによりも欠かしてならないものは行動力、そして度胸。言うまでもなく、カラーズが持ち合わせているそれそのものだ」

「よーし! ……で、なにするんだ?」

「どうしようか」

 

 あんまり具体性のある話してなかったもんね。なのにさっちゃんはやると決めたんだね。そっかぁ。

 

「もー。さっちゃん、なにやるかも聞いてないのに……」

「なにを言うリーダー! いまやれば、カラーズが一番最初だぞ! カラーズが歴史に名を残すんだ!」

「残るかな……?」

 

 そう言って目を向けてくる結衣。うーん……。

 

「wikipediaでよかったら、残るだろうねぇ」

 

 歴史に名を残す、の定義がいまいちわからないけど、落とし所じゃないでしょうか。戦争でもあってそこで活躍しない限り本当に歴史に登場するのは難しい感じがするし。

 ところで琴葉のゲームの手が止まったんだけど。もしかしてwikipediaに載る、ってのに興味あるんだろうか。

 

「ウィキペディアかぁ……」

 

 結衣はあんまりネットやんないとのことなので、やはりピンと来てない。存在は知っているようですが。

 あと、なんだ? どういうのがステータスなんだろうか。ううむ。自分と、カラーズと、関係者。興味ある対象が限られる私にとって、世間的な評価は重要なものではなく……。

 

「若い人はみんな知ってる、というくらいなら確実にできるよ」

 

 なにがウケるか、というデータのアドバンテージがある私がやれば二つの意味でチーターになれる。スタミナ(ネタ)が切れると終わりの魔法だ。

 キャラクター性もJS四人組なら完璧。あとは私が企画して、撮影して、編集して、アップロードして。おや? 私の負担重くね?

 

「そんなにうまくいくかなぁ?」

「例えば……バーナーで千度に熱した鉄の玉を氷の上に乗せたらどうなるか、という実験の動画をアップロードしたとする。その人がどんな人かは関係なく、その実験は見てみたいでしょ?」

「……み、みたい!」

「そんな感じで興味を引き続ければ、この人は面白いことをする人だと有名になっていく。頑張れば頑張っただけどんどんね。カラーズの名を広めたいなら、もっともスマートな方法かも」

 

 カラーズの活動目的はフワッフワだから有名にしたいという思いがあったのかどうか私は知らず、その路線で考えたこともなかったけど、そうしたいんならこれが正解と言ってもいいと思う。既にある枠組みはたいてい狭き門で、そこを攻略していくというのはできなくないが……準備段階で年をとってしまう。

 たとえば媒体にテレビを選んだりしたら、養成所とか行く流れになるだろうし。

 

「そういう動画を作るのか?」

「うん」

「バーナー……」

「危ないのはおやじに任せればいい」

「ああ、それならいけるな」

 

 そう言って、ゲームに戻る琴葉。ちょっと開いて、ポーズしたのかまた顔を上げて、

 

「他には?」

「他人の家にピザ窯を作ってみた」

「あれも企画だったのか!?」

「いや、あれはただの日常の一コマだけど」

 

 完璧な前フリみたいになってるけど、特になんの狙いもなかった。

 

「まあ既にやったことでも動画にして紹介すれば私が最高にクレイジーな小学生って証明になるだろうし、十分面白いんじゃないかな」

「クレイジーでいいんだ」

 

 あれなら軽いジャブ、名刺代わりとして丁度いい。あれをかましておけば正気だと思われずに済む。

 

「それに、難しく考えなくても大丈夫だよ。釣りに行く、とか動物園に行く、とかそういう普通のでも需要あるし」

 

 琴葉は企画力の心配をしてるんだろうけど、四人いるんだから四色で攻めればいい。それに、いまだって私の脳裏にはあれをやろうこれをやろうという発想が湯水の如く湧いて出てるのだから――――

 ああ……これって、変わったことをしたい私がみんなを巻き込む最高の口実じゃないか。

 待っていろ、カラーズ。お前たちを待ち受けているものは果てしない混沌だ。

 

「じゃあ、やるってことでいい? 私は特に否やはないし」

「うーん。面白そうだけど……まだよくわかんない。琴葉はどう?」

「私もわからん。だが、釣りをして稼げるというのは……いいな!」

 

 そう言うとなんだか、新しい時代が来た感があるよね。まあ、来てるんだけど。

 ネット、スマートフォン。どっちもかなり最近生まれたものだ。どちらももたらした影響は果てしない。若い子は知らないだろうけど、江戸時代はwi-fiなかったんだぞ。

 車が空を飛んでないだけで、もう未来。だからいまの子は、新しい生き方をしてもいいのさ。

 そんなわけで私は挑戦を推奨する。その選択を称賛し、全力でサポートしよう。

 とは思うのだけど……。

 

 まあ、この子たちが飽きるまでかな。

 

*1
どんくらい=Don't cry




ストロー、どうしたのだろうか。間接キス? それとも下半身で使ったのだろうか。
なんの習い事してるか、とかはメモしてなかったので私にも不明。
小学校に関する足りないデータは黒門小学生をモデルに埋めようとするが、制服があるタイプの小学校。子供は私服の方がかわいいと思うので都合の悪い部分はスルー。この小学校の運動会は秋。この作品では春にしようと思っていたがもうだいたい六月くらいになっていて夏休みも待ち構えていて過密。その辺りはふわっとしていていいんだけど。
主人公の全速力だと7.5秒。小六男子の平均が8.8くらいで、7.5だとたぶん上位5%くらいの速さ。女子としてはほとんどありえない。小二女子の8.85も十分ありえない。しかも加減した上で。小二男子が平均10.5くらいで、9.4でかなり速い。小二女子平均は11くらい。
カラーズはアウトローなとこがあるので、お菓子のゴミは平気でコンビニのゴミ箱にぶちこむと思う。
むかーし月姫(Fateシリーズの前の作品、エロゲ)やった時、シエル先輩の武器としてパイルバンカーが出てきたけど特にどんな武器か説明がなくて困った。
エビの尻尾を食べる人は三割か四割か、けっこういるっぽい。食べて大丈夫かどうかは説がわかれるようだが、少なくともそんなに栄養があるわけでもない。
話が逸れた結果たどり着いたYouTuberの話。やるとどうなるかという細かい話をしないことによって、みんながこのルートをスルー。という想定だったけど話の終わらせ方が難しく困っていたらさっちゃんが勝手に動いた。なんか、することになった。カメラとかでフラグは立ってたけど、偶然。
釣り好き、ということになったのは結衣の"どう?"に対する返事を考える段階。釣り回で琴葉を燃え上がらせて帳尻を合わせなければならなくなった。常にギリギリの話作り。
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