三ツ星カラーズ転生もの(仮)   作:紅茶タルト

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第6話

「当たりますように」

「《小さな幸運(リトルハピネス)》」

「? なあに? ななちゃん」

「当たるようにおまじない」

「そっか。ありがと!」

「なにを応募したの、結衣」

「モノクロ大佐のエサ皿だよー。エサ皿がないんですよねー、大佐ー」

「にゃあん」

 

 白状するとレベルが低くて大した魔法は使えない。

 今使った運を上げるのも、使いようによっては強いけどここ一戦で頼りになるほどの影響は無い微妙魔法。

 ただ、頑張ったけど運悪く、というのに対抗できる最強の気休め魔法。

 考えようによってはものすごくずるい。

 

「結衣! 琴ちゃん! ななしぃ! 大変だー!」

「さっちゃん、どうしたの?」

「うんこだー!!」

「またうんこか」

「元気だね」

「さっちゃんばっちいよ」

「あはははは! 間違えた。うんこじゃなくてきんこな。わざとだけど!」

 

 子供がうんこを好きな理由には諸説あるけど、排泄が快感だからというのと大人が否定的に扱うため興味を惹かれるというのはなるほどという感じがする。

 分析してしまうと印象変わってしまう。

 

「金庫があるんだよ。開かずの金庫!」

「開かずの金庫ー!? 中身はなんだろう。宝石かな? 財宝かな!」

「小指かも」

「こわいよ琴葉。事件だよそれ」

「琴葉ってたぶん河原に冷蔵庫とか落ちてたら死体が入ってないか確かめるよね。私もだけど」

「うん」

「開けるの!?」

「だって結衣。もし開けなかったらどうなる?」

「どうって……?」

「冷蔵庫があったけど、中は確認しなかった。久しぶりにその道を通ったらもう冷蔵庫は無かった。……そしてある日、こう思うんだ。あの冷蔵庫の中には、なにが入っていたんだろう? って。死体が入ってたんじゃないか。あるいはお金が入ってたんじゃないか。って気になってももう確認することはできないんだ」

「う……」

「やじゃない? 出そうで出ないうんこみたいで」

「もー。ななちゃんまでうんちなの?」

「まあ大抵は空っぽなんだけど」

「そう。あとちょっと生ゴミ」

「防虫剤もね」

 

 不法投棄冷蔵庫と言えば、悪名高きみなみけ二期を思い浮かべる人は多いだろう。

 なんとかこじ開けた冷蔵庫の中には石がびっしり。そしてその後に続く、冷蔵庫の中同様に誰かの悪意が充填されたハルカ姉さまが理不尽にキレるシーン。なお同じ監督の作品があの空鍋。

 

 関係ないけどね。*1

 

「死体だといいな、金庫!」

「いいのか」

 

 

 

「うーん。ちょっと小さいんじゃないかー? 死体は入らないだろーこれー」

「頭くらいなら入る」

「なに言ってんだお前ら……」

 

 小さい金庫。私が思うに、とても、硬い。

 わざわざ斎藤のところに用意したのって、総当たりを誘ってたのかな。

 

「おやじのお店の金庫なの?」

「ああ。商品として置いてた金庫なんだが、誰の仕業かこのとおり」

 

 ガチャガチャ。

 

「開かない」

「……わざわざ商店街からねえ」

「ということはおやじ! これは事件だなー!」

「待てクソガキ。てめぇらになにができるってんだ」

「私たちはカラーズ! この街の平和を守る!」

「はいはい……」

 

 ポーズなんて決めてないから、その場しのぎのポーズをとっておきます。

 ところで姑息ってその場しのぎって意味らしいけど、こういう場合に使うんで合ってるんだろうか。姑息なポーズ?

 おやじがポッケから暗号の紙を出します。小学生なので、ポケットのことをポッケと言います。

 

「じゃあ、これを渡しておく。犯人からの暗号だ。もし暗号を解くことができたら、そのお宝ってやつはやるぜ」

「お宝ー!?」

「ほんとかおやじー?」

「おう!」

「行くぞー! ん? ななしー?」

「ああ、先に行ってて」

「わかった! パン屋ー!」

 

 三人が走り出しました。

 

「うん? ななしは行かないのか?」

「ちょっとね。……《下位(レッサー)・真実の目(トゥルー・シーイング)》」

 

 金庫の番号までは思い出せず、事前にメモもできませんでしたが、ちょっと裏技を試してみる。

 視力が良くなるだけの魔法。

 

「ゼロ……ナナ……ロク……ニ」

「うおっ!?」

「……開かないか」

「おおい……なんでわかったんだ? かなり近いぞ」

「こういうタイプの金庫を使うなら、指紋は拭いといた方がいい」

「……盲点だったぜ」

 

 走って三人を追いかける。

 行き先はわかってるから、急げば大丈夫だろう。

 

 

 アンデルセン(パン屋)まで来ると、さっちゃんが入っていくところでした。

 

 真面目に怒られて出て来ました。

 そんでまた自動ドアを開けて、

 

「バーカ!」

 

 パン屋の平和はいいのかカラーズ。

 

 ちょっとでも心の平和を回復してあげようと、代わりにガラス越しに頭を下げておきます。このくらいが平和。もし中に入って「すみません。あの子アホなんです」なんて言って、「ほんとにねえ」なんて返されようものならこの店員は失踪することになる。マジカル失踪である。

 しかしそうして多少溜飲を下げたところでストレスは残る。結果誰も得しない。

 罪があれば殺すけど、その罪をわざわざ作りに行くのは違うだろう。枝が伸びて見えない標識に違反するのを隠れて待つパトカーとか。枝切れ。

 

 

 

 皆の思いがたくさんつまっているのに食べられないパンはな~んだ?

 ※ヒント 下から見ろ

 

「パンダはその気になれば食べれる」

 

 どうだろう。

 ワシントン条約という障害はでかい。

 ギリギリ不可能では無いかもしれないが、机上の空論とも言う。

 ただ私ならできるか。動物園はガードが固いからまず中国に行って……。

 

「下から見るパン……そうか、わかった!」

「うん?」

「結衣のパンツ」

「バカッ!」

「ごわっ!」

 

 仰向けに寝転がって堂々とパンツを覗いたさっちゃんでしたが、驚いた結衣に踏みつけられます。

 

「ひどいよ結衣……」

「あ、ごめんね。でもパンツは……」

「わたしもやりたい」

「えっダメ琴葉!」

「いいぞー琴ちゃん! やってやれー!」

 

 踏み。

 

「こっちか!」

 

 見たいな。

 

「どうしたの? ななちゃん」

「見たい」

「えっ!?」

 

 熱視線に気づかれてしまいました。

 ここは正直に答えましょう。

 

「結衣のパンツ、見たい」

「ええー……?」

「見たいな」

「うう……」

「あはは! いいじゃん見せてやれよーリーダー」

「でもー」

 

 このタイミングで、置いといたカメラを別の方向に向けハードルを一つ下げる。

 

「さっちゃんには見せたのになー」

「見せてはないってば」

「見たいなー」

「もー……」

 

 渋る結衣。

 だが、結衣は優しいからお願いすれば見せてくれると思う。

 

「……はいっ」

 

 ちらり。

 

 うむ。

 

「琴葉」

「なんだ?」

「結衣がパンツ見せてくれた」

「そうか。良かったな」

「うん。良かった」

「うー……」

 

 思うところはあるようですが、私の幸せそうな表情になにも言えないのでしょう。

 心が満たされました。恥ずかしいのに見せてくれる、という気持ちが嬉しい。性的なあれこれでなく、友情こそが嬉しいのです。

 よーするに愛です。

 

「もー。皆の思いがつまってるんだから、パンツは関係ないでしょ」

「それに素材によっては食べられるもんね。ただ化学繊維、あれは良くない。あれは手術になる」

「実体験みたいに言うな」

 

 結衣のだったらなんとか頑張れると思う。綿か絹なら。

 

「む、思いがつまって……? そうか」

「琴葉、もしかして」

 

 カメラ構え。

 

「ゲームクリヤー」

 

 

 

「なるほど。皆の思いってのは手紙のことで、それがつまってるのがパンダのポストか」

「暗証番号が貼ってあった」

 

 ゼロナナフタナナ。

 これはアニメと漫画、どっちの番号だっけ。連載開始の日なんだよね。原作は間違えちゃってるけど。

 

 ……む、ロク無かったな。

 

「そりゃ良かったな」

「一から入力した哀れな斎藤」

「バカな斎藤」

「うっせえ。それに、一からじゃねえよ」

「なんだ、おやじがヒントでも出したか」

「おやじさんじゃなくて、そいつな」

 

 視線をドヤ顔で受け止めます。

 

「ななしが?」

「金庫に残った指紋から、ある程度の番号を見抜いたんだとよ」

「えー!?」

「おー! ななしぃ目ーいいなー!」

「……ななし。気づいたなら言え」

「ネタバレかなって。そうだ、琴葉が今やってるゲームだけど、ボスの弱点は」

「言うなあ!」

「ほら」

 

 犯人は美樹本さん。

 ブルース・ウィリスは幽霊。

 真ん中で倒れてる死体が実は生きてて犯人。

 あとそこは地球。

 

 ネタバレ注意。

 

「でも見えないよ?」

「俺もよく見たが……さっぱりわからん」

「へー? じゃ、開けるね」

 

 結衣がポチポチやって開けます。

 

「あいた!」

「中身は?」

「あ、これって……」

「死体じゃないのか」

「琴葉的には宝って死体でいいのか」

「なんだこれー?」

「手紙も入ってる! ……カラーズへ。解錠おめでとう、おやじだよ」

「おやじぃ!?」

「結衣ちゃんご希望の、モノクロ大佐のエサ皿を届けます。なお、もし斎藤が先に解錠してしまった場合は黙って閉じておくように。はい!」

「ん、ああ」

 

 結衣に渡された手紙を、斎藤は苦い顔で見ています。

 金庫返却してくれって書いてるんだよね。なんてえ嫌がらせだ。

 

「うわーいエサ皿だー!」

「ああ、そういえばこの前、おやじの店で探してたなー」

「お宝おたからー!」

「いやちょっと待て。よく見ると、お宝と言うほどのものでもないぞ?」

「宝石ついてないね」

「おやじにやり直しさせよう」

「……お前ら、クズにも程があるな」

 

 さすがにちょっと混ざれないノリ。

 

 

 

 しばらくあと。

 

「みんなー!」

「なんだ!? うんこか!?」

「じゃなくて、ほらこれ!」

 

 結衣が持って来たのは、エサ皿でした。

 

「当たった!」

 

 かぶった。

*1
この主人公は知らないが、この監督はアウトブレイク・カンパニーで禊を済ませている。「監督がダメなんです!」


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